腕相撲
私の名前は●●●。木の葉の上忍である。
先程任務が終わり、行きつけの酒屋に向かっているところ。
今日は久しぶりにカカシ先輩も一緒だ。
カカシと●●●は独身同士、お互いの任務が早く終われば一緒に飲みに出る仲。
●●●よりいくつか年上のカカシは●●●にとって、頼りになる先輩でもある。
行きつけの居酒屋は常連じゃないと入り口がわからないような作りになっているので、店内にいる人は殆どが顔見知り。
ドアを開けると同時に鈴がカラカラと鳴る。
「おや、●●●ちゃん!カカシくん!いらっしゃい」
「どうも」
「マスター!こんばんは!」
「今日はなに飲む?」
「今日は強めの飲みたいな」
店内のテーブルのあちこちで●●●の名前を呼ぶ声がする。
「●●●ちゃん、今日もやるべ!」
「うん、後でね!」
●●●は自分を呼ぶ声にひらひらと手を振るとカカシとカウンターに座りお酒を頼む。
「…お前俺がいないときも結構飲みに来てるの?」
「来てますよ!ここのお酒美味しくて、つい!…カカシ先輩、今日も任務お疲れ様ですー!」
「おつかれさん」
出てきたお酒を持ちカカシと●●●とで乾杯。
カチンとグラスがぶつかる。
飲みやすく冷たいお酒が喉を通っていく。
●●●は一気にグラスの酒を飲み干した。
「っくぅー!」
腹の底から出るこの声をすこしも抑えることなく吐き出す。
我ながら女らしさがないと思うけど我慢なんてしてられない。
美味しいお酒を飲んでクゥーと叫ぶ…●●●にとってこれほどのストレス発散法は他にない。
あとは…あれだ。運動!
「カカシ先輩…今日は私が奢りますよ」
「…なんで?どういう風の吹きまわし?」
「いいから!少し待ってて下さい」
そういうと●●●は空になったグラスを片手にテーブルで飲む客たちの方へ入って行った。
カカシはマスターと話をしながら酒を飲んでいた。
マスターは薬学に長けた元忍で
ここで出すお酒は殆どマスターの独自ブレンド。いくら飲んでも二日酔いが残らないのだ。
企業秘密で教えてくれないが、何やら特別な薬草が入っているらしい。
「カカシくん明日も任務かい?」
「ええ……マスターみたいに転職しちゃう人が多いから人手不足なんですよ」
「ハハ…カカシくんは手厳しいなぁ」
カカシがマスターと話していると、テーブル席の方から大きな歓声が上がる。
よく見ると一つのテーブルに人集りができていた。
「あー!また負けた!」
「次は俺だ!!」
「参加費はこのグラスに入れろよ!」
「いけ!いけ!やれ!やれ!」
「次は俺だ!あとがつかえてるぞ!はやくやれ!」
客の男たちの歓声や落胆した声が聞こえる。
「……あれはなにやってんですか?」
カカシが人集りを指差しながらマスターにたずねると、マスターはふふふと笑う。
「●●●ちゃんがまたやってくれとるな」
「…なにを?」
「腕相撲の勝負だね」
「へえ…」
カカシはふらりと立ち上がり、人集りの近くまで行きその中心を覗き込む。
中心には●●●の座るテーブル。
そのテーブルの上にはお金の沢山入ったグラスが置いてある。
どうやら参加者がお金を賭けて●●●と腕相撲の勝負をしているようだ。
人集りは応援や参加者たちで出来上がっていた。
「勝ったら、●●●ちゃんが一発ヤラせてくれるんだってよ」
カカシの近くにいた酔っ払いが大声で言う。
「おい本当か!俺も参加する!」
次々と男たちが入れ替わり●●●と勝負する。
●●●は女とはいえ木の葉の上忍だ。
その辺の酒が入った男なんて相手にならない。
●●●もそれが分かっててそんなルールを決めたんだろう。
「はい、次!」
●●●はどんどん男たちを制していく。
「また負けたー!!」
「●●●ちゃん、つえぇ!」
「ふっふっふー!」
●●●の目の前のグラスにはお金がたっぷり入ってる。
今日の分の酒代くらいは稼げただろうか。
まだまだ●●●は負ける気がしない。
「さあ!次は誰がやるっ?」
●●●が周りを見渡しながら叫ぶ。
「じゃ、俺がやる」
そう言って●●●の対面に座ったのは、さっきまで一緒に飲んでたカカシ。
カカシは賭けのお金をグラスにチャリンと入れた。
「ちょっ、え!カカシ先輩!?あなたには勝てませんよ!」
●●●は勢いよく椅子から立ち上がる。
「おいおいおい、●●●ちゃん!それはズルいだろぉ!」
「そうだー!逃げるなー!」
人集りを作っていた酔っ払いの男たちが●●●の肩を押して再び椅子に座らせる。
「銀髪の兄ちゃん!俺らの仇取ってくれ!」
「そうだー!いけいけー!やれー!」
無念にも●●●に負けた男たちが、カカシの応援を始める。
「ま、待って待って!みんなこの人の強さ知らないでしょう!勝てるわけないって!」
「逃げるなよー!卑怯だ卑怯だ!」
「…●●●、忍は敵前逃亡するべからず…でしょ」
カカシは静かにヒジをテーブルにつけて腕相撲の体制をとる。
やる気満々だ。
「…………ぐぅ…」
●●●も大人しくヒジをテーブルにつけて、カカシの手を握る。
上忍同士の腕相撲に人集りは一層の盛り上がりを見せる。
「どっちが勝つかかけるぞ!」
「俺は銀髪の兄ちゃん!」
「俺も!」
「俺も!」
「俺も!」
「まて、賭けになんねぇ!」
ダハハハと大きな笑い声がそこら中で上がっている。
「●●●、俺が勝ったら一発ヤらせてくれるんでしょ?」
「もちろんだー!!羨ましいぜ、兄ちゃん!」
●●●の代わりに酔っ払いが口を挟む。
●●●は慌てて訂正しようとする。
「い、いや、ヤラせるとかそういうのは!」
「俺にだけルール変えるわけ?ズルいよ」
「銀髪の兄ちゃん!勝ってくれ!俺らの仇を!」
「仇を!」
「俺らの無念を!」
「無念をー!」
●●●に敗れた酔っ払いが即席の応援歌を歌い始める。
「待って待って!この人に勝てる人なんて本当ひと握りなんだから!」
「…じゃ、●●●が俺に勝てたら言う事なんでも聞いてあげるよ」
「……本当ですか!!」
それを聞いて●●●は俄然やる気が出た。
カカシに勝って、マスクの下の素顔を見せてもらおうと思っていたのだ。
そして、写真でも撮ってどこぞに売り込む気だ。
カカシと●●●の握られた手に審判の手が重なる。
「用意はいいかー!みんな!今日1番の注目勝負だ!」
●●●がカカシを握る手に力をいれる。
いつになく真剣な表情だ。
「レディー…GO!」
ガンッ
●●●の手の甲が机に勢いよく叩きつけられた。
瞬殺である。
「勝者、銀髪!」
審判がカカシの手を取り上に掲げる。
「先輩!少しは手加減して下さいよ!」
●●●が涙目で自分の手の甲をさする。
「●●●…まだまだ修行が足りないね」
「いーなあー兄ちゃん…●●●ちゃんとヤレんのかあ…」
「感想教えてくれな!」
「ああ…いいですよ」
カカシはニッコリと微笑み、●●●の腕を掴んで店の出口へ向かう。
「あれっ…!?カカシ先輩…どこに…?」
「…一発ヤラせてくれるんでしょ?」
「ちょ、ちょっと先輩、それ本気ですか!?」
「そういうルールでしょーが」
「ちょっとみんな!助けてよ!」
●●●は酔っ払いの男どもに助けを求める。
「銀髪の兄ちゃんがんばれー!」
「いいなー!!」
「やさしくしてやれよおー!」
「じゃ、俺んち行こっか」
「あのあのあのあのー!!」
●●●はカカシに引きずられるようにして店を出て行った。