再び砂へ





「おう、早かったな」


「……………」


夜明けと同時に●●●とふーマンは砂の里へ帰って来た。
一昨日と同じ、研究所の屋根の上に降り立った。

師は返事がないので、ふーマンの背中を覗き込む。
そこにはうつ伏せになり、気持ち悪そうにうなる●●●。


「返事がねぇから途中で振り落とされたかと思ったぞ」


「……気持ち悪くて…う…」

●●●は酒を飲んでふーマンに乗ったので酔いがかなりまわった様子だ。
自分が酒を飲むと酔いが後から来る体質だと気付いたのもこの時……いや、揺られたせいか。


「おら、これ飲め」

師は●●●の口に錠剤を押し込む。

「これは…?」

「血中のアルコールを即分解する劇薬だ」

劇薬と聞いて一瞬躊躇うが、気持ち悪いままも嫌なのでグッと飲み込んだ。

●●●がふーマンから降りると、ふーマンは煙と共に消えた。


「覚悟できたか」

「はい。……絶対死ねない覚悟が」

師はキョトンとした。
そのまま考え込むように顎に手をつける。


「…そういう覚悟もありか?」


師はくくく、と笑った後、真剣な顔で●●●に向き直る。

「本日夕刻より、守鶴鎮静の術式を執行する」


いよいよ今日か。
死ねない覚悟をしたものの…やはり怖い。

「はい」

「俺も準備がある…お前は少し寝ておけよ」


薄暗かった明け方の空もすっかり日が昇り明るくなった。

「そういえば……昨日守鶴のガキがここへ来たぞ」

「えっ…我愛羅くんが?」

「●●●いるかって聞かれたな」

そう言い残すと師は『木の葉まんじゅう』を持って研究所へと戻って行った。



●●●は疲れた体を引きずって帰路につく。

我愛羅くんが.私を…。
ずっと会っていなかったもんなあ

帰路を進んで、我愛羅と出会った街灯の下に来た。
一昨日の夜、ふーマンの背中から見た我愛羅を思い出す。
すこし頬を染め微笑んでいたように見えた我愛羅。

今日は我愛羅くんのためにがんばらなければ。


自宅に着くと、着替えもせずベッドに倒れ込む。
服にはナルトと遊んでついた砂がついているのに…。
さっきまで木の葉にいたんだな…。
私が、カカシの傷を治したんだ…。

やっと、カカシを救えた気がした。


「カカシ…頑張るからね…」

●●●はそう呟くと同時に眠りについた。




朝、カカシは病室で目を覚ました。
身体が軽いし、痛みもない。
心もやけにスッキリしてる。

しばらくすると、ノックと共に
朝食が運ばれてきた。
かなりお腹が空いていたので病院食でも美味いと感じる。
朝食を食べ終わって、身体を動かしていると次は看護師が入って来た。

「はたけさん、もうすっかり良いみたいね」

「はい。ありがとうございます」


看護師は傷の様子を確認する。


「うん。全く問題ないわね」

気絶する前に見た痛々しい傷が全く綺麗になっている。
俺はどのくらい寝てたのだろう…。
筋肉が落ちていないか心配だ。

「何時に退院する?午前中でいい?」

「はい、午前中で」


いきなり退院?…できるのか?
早く退院出来るならありがたいので何も言わないが…。

でも何か大事な事を忘れてる気がする。
何を……。

カカシは頭を抱えた。
思い出そうとすると頭の芯が痺れる感じがする。
なんだこれは…。

思い出そうとしなければ痺れは治った。
カカシは思い出すことを諦めた。


服を着替えて少ない荷物をまとめ、病院を出る。
久し振りに浴びた太陽が気持ちよかった。


「カカシー!」

カーンと頭に響いたかん高い声。
この声は苦手だ…。

前方から女子がカカシの方へ走ってくる。


「ケガっ、治ってよかった!私頑張ったの」

「は?何を?」

女子は忘却術がちゃんとかかっているか分からなかったので慎重に話し出す。

「カカシの傷…誰が治したと思う?」

この質問に『はたけ●●●』の名前が出れば忘却術失敗。
出なければ、成功。デートに誘える!

「……普通に医者でしょ…」

カカシはめんどくさそうにため息をついた。
女子はニヤリとする。
忘却術、成功!

「私、毎日カカシのお見舞いに通って……チャクラを送り込んで…治していたの」

「お前が?」

「そう!だから、お礼にデートしてよ」

私頑張ったんだよっと女子は言う。


カカシは大きなため息をついた。
それが本当なら大きな借りだし、
断って付きまとわれても面倒だ。

「わかったよ」

女子はデートの約束をとりつけて帰って行った。





カカシは病院から自宅までの道中を歩いていた。
帰っても広い家に1人か、と思うと●●●の存在の大きさを思い知る。


入院していた為、長いこと慰霊碑に行ってなかったと思い出したので山中花店で花を買い、慰霊碑に向かう。


拓けたその場所はいつも通り静まり返っていた。
風と、風で揺れる木の音だけが響く。


「オビト……久しぶりだな」

返ってくるわけないが、名前を呼び話しかける。

買った花を慰霊碑に供えた。


「お前のくれた目のおかげで…なんでも見えるよ」


カカシは慰霊碑に手を合わせた。


「人の心…以外はな」


慰霊碑に背を向け、自宅へと歩く。


俺は、父さんとオビトとリン…先生も失った。


●●●に、会いたい。


●●●、おまえは今、何してる?


この目でお前の心が見えれば、
どれだけ楽だろう。


拒絶されないと分かったら、今すぐにでも会いに行くのに。