守鶴鎮静術開始





昼過ぎに●●●は目を覚ました。
昨日から木の葉に行ったりと忙しく濃い1日だった。
師のくれた劇薬のお陰か、二日酔いの症状もなくスッキリしている。

木の葉の砂がついた服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
いよいよ…か。

死ぬかも、などと思いたくないがやはり怖い。

いつもの服に着替え、師の元に向かう。
念入りに術式の準備と最終確認をしておこう。



昼過ぎの砂隠れの繁華街も木の葉に負けず賑わっている。
繁華街の中を歩いていると、いつかの砂肝屋からいい匂いがしていた。
お昼ご飯は砂肝にしよう と自分の分と、ついでに師の分の砂肝を買った。

「どうも!またごひいきに」

砂肝屋のおばちゃんの笑顔は毎回●●●に元気をくれる。


砂肝が冷める前に、と急ぎ足で師の元に向かう。

●●●が研究所まで来ると、
研究所の入り口に何やら人影が見える。

何事かと、物陰に隠れながらおそるおそる覗くと気配を感じたのか、人影が振り向いて●●●を見る。


「あ…●●●さん」

そこに居たのは夜叉丸だった。
その声にすぐ反応して、小さな人影が夜叉丸の陰からひょこっと顔を出した。

「●●●!」

「我愛羅くん!」

我愛羅は物陰に●●●を見つけると、それは嬉しそうに駆け寄った。
まるでずっと会えなかったご主人に飛びつく子犬のよう。
●●●は駆け寄って来た我愛羅を胸にギュッと抱きしめた。
我愛羅は●●●の体温と優しい匂いに包まれる。


その様子を見て、入り口で我愛羅と夜叉丸の対応をしていた師が煙草をふかす。

「ったく、昨日も今日も来やがって…こっちは暇じゃねーんだよ」

「すみません、玄師様…我愛羅様がどうしてもと…」
夜叉丸が申し訳なさそうに頭を掻く。

「●●●、お前は夕方までそいつのお守りでもしてろ」

師は我愛羅を指さして研究所の入り口の扉をピシャリと閉めた。

ポカーンとしている●●●に夜叉丸が駆け寄って来た。

「すみません、●●●さん…」

「い、いえいえ…」

術式の最終確認をしようと思っていたけど…。
我愛羅は●●●に抱き付いて離れない。

夜叉丸はその様子を目を細めて見ていた。
玄師様はきっと、我愛羅様のために…


「夜叉丸さん…師をご存知なんですね」

「ええ。砂忍で玄師様を知らぬ者はいませんよ」

そ…そうだったのか…。
いつも研究所に籠っているから外部との接触がないのかと心配したこともあったのに。
名前は玄師と言うのか…初めて知った。

「我愛羅くん、また砂肝食べる?」

「……うん」

「…では我愛羅様、また迎えに来ますね」

「…ありがと、夜叉丸」

「●●●さん、我愛羅様をお願いします」

そう言って夜叉丸は姿を消した。


●●●と我愛羅は手を繋いで公園に向かう。


「あらー、姉弟?かわいいわねぇ」

公園までの道のりを歩いていると、年配の女性に声をかけられた。
我愛羅は照れたように頬を染める。

「姉弟みたいだって」

●●●は弟が出来たみたいで嬉しくなった。
カカシは弟というより、家族のような存在だったし、他人を弟みたいと思ったのは初めてだ。
ん?待てよ…

「……弟も家族か」

我愛羅くんが弟なら、カカシは…何だろう。
黙って考えていると、我愛羅は●●●を心配そうに見上げた。

「……●●●?どうしたの?」

「…我愛羅くんが弟だったら、私たち家族だなあって思ってたの」

「家族……」

我愛羅は真剣な表情をした。

公園について、ベンチに座り砂肝を食べる。
もうすっかり冷めてしまった。

「はい、あーん」

我愛羅は口を大きく開いてくれた。
カカシにあーんなんてしたらどうなるかな。
『恥ずかしいんだけど』…とか言われそう。
やっぱり…弟ではないな。
兄?ちがう。父?ちがう。夫?主人?旦那?

「ちっ、ちがう!」

●●●は真っ赤な顔をぶんぶんと振る。
熱くなった頬を冷えた両手で包む。
夫ってことは結婚してるってことだ…カカシとは結婚してないし!

「●●●、さっきから変だよ」

そんな●●●を見てケラケラと笑う我愛羅。
●●●は久しぶりに我愛羅の笑い声を聞いた気がした。

2人は砂肝を食べ終えて話しはじめる。

「●●●は…父様や母様はいるの?」

「……我愛羅くんぐらいの時に…2人とも任務で死んじゃったんだ」

「そう……」

「我愛羅くんの家族は…?」

「……僕は夜叉丸がいる…あと、●●●も」

我愛羅はまた頬を染めている。
●●●は、我愛羅が『家族』という枠組みに自分を入れてくれた事が嬉しくなって我愛羅の頭を撫でた。
我愛羅は●●●をじっと見つめる。

「いつか……本当の家族になれる…?」

●●●はそんな我愛羅に微笑んだ。

「なれるかもね」

●●●がそう言うと、我愛羅は嬉しそうにパッと笑った。
なぜこの子が守鶴なのかな…。
他の子と何ら変わらない我愛羅くんが…。
我愛羅の事を考えていると、木の葉で出会った少年を思い出した。


●●●は1人、ベンチから立ち上がる。


「我愛羅くん、玉蹴りしようよ。私木ノ葉で練習したんだ」

●●●は近くの売店で、ボールを買った。
我愛羅の瞳のような綺麗な色のボール。

「僕、やったことない…」

「こっちに蹴ってみて!思いっきり」

我愛羅はおそるおそるボールを蹴る。
最初は何度もあらぬ方向へ飛んで行ったが、すぐに狙い通りの場所に蹴れるようになってきた。


「●●●、木の葉で球蹴りしていたの?」

「そう。ナルトくんっていう玉蹴りの先生がいてね…」

「僕も会ってみたいな…」


我愛羅と●●●は夕方までずっと玉蹴りで遊んでいた。
服に砂がついても、転んでも。
我愛羅は、人と遊んでこんなに汗をかいたのは初めてだった。


●●●は買ったボールを我愛羅に渡した。

「このボール我愛羅くんにあげる。次玉蹴りするときまでとっといてね」

「うん!」

我愛羅は嬉しそうにボールを抱きしめた。






「おっせーーよ」

夕方、我愛羅と2人で研究所に戻ると、タバコをくわえて仁王立ちする師の姿。
側には夜叉丸の姿もある。

「●●●、術式の準備しておけ」

「は、はい」

●●●は服の砂を払って、玄師と研究所の中に消えていく。
立ち尽くす我愛羅に夜叉丸が寄り添う。

「我愛羅様、先日説明した通りです。今日はぐっすり眠れますよ」

「……●●●が、側にいてくれるから?」

「●●●さんが、眠りの手助けをしてくれるのですよ」

我愛羅は夜叉丸と手を繋いで研究所に入っていく。
見たことがないものが所狭し並べられている研究所は我愛羅にとって居心地のいいものではなかった。

我愛羅と夜叉丸は研究所の二階の一室に入る。

その部屋の真ん中には1人用のベッド。
そのベッドから伸びるように、床には何重にも血の術式が書かれていた。

我愛羅は硬い表情でおそるおそるベッドに横になる。


手と心臓の位置に術式を書き終えた●●●が、横になる我愛羅に歩み寄る。

「我愛羅くん…今日はゆっくり眠ってね」

「●●●…」

我愛羅は●●●を見て安心したようだ。
硬かった表情は解れていく。


師と夜叉丸が見守る中、●●●は術式を開始するべく位置につく。

絶対に、死なない。
絶対やりきってみせる。

そしたら、面と向かってカカシに会いに行く。


「いきます!」









「まて」


肩透かしを食らった●●●は師を睨む。

「お前…そのまま術式やったら本当に死ぬぞ」

師は●●●に粒状の薬を手渡す。

「俺様特製、最高峰の兵糧丸だ」

少し大きなその粒は見たこともない色をしていた。

「そいつは材料費が最高に高くてな…お前が死んだら大赤字だ。絶対に死ぬな、心してかかれ」

「師……」

●●●は泣きそうになるのを我慢して兵糧丸を飲み込んだ。

飲んだ瞬間、疲れが嘘のように消し飛び、体が軽くなる。
力も漲ってきて、今なら何でもできる気がする。


「やれ!●●●!」


「はい!」



術式を発動すると、床に書かれた術式が我愛羅の身体に集まっていく。

我愛羅はコテンと眠りについた。

●●●は術式で覆われた我愛羅の腹部に手をかざし、絶えずチャクラを流し込む。
我愛羅が目覚めるまで、絶えずチャクラを送り込んでおかなければ、我愛羅を乗っ取ろうとする守鶴を抑え込むことは出来ない。
あと、8時間ほどか。


「……ここまでは成功だな。あとはチャクラの持久力!…兵糧丸、ヤバくなったら飲めよ」

師は●●●の側に特製兵糧丸を3粒置いて、夜叉丸と共に部屋を出た。
我愛羅くんが目覚めたら、師にきちんとお礼を言いに行こう。

●●●は我愛羅の顔を見た。
ぐっすり無邪気に眠るその顔はとても気持ちよさそうだ。


頑張るからね、我愛羅くん。
今日くらいは、何も気にせず眠ってね。









「●●●さんは…大丈夫なのですか?」

玄師と夜叉丸は2人を置いて一階に降りて行く。

「あいつは医療忍者としてはピカイチ。チャクラコントロールも言うことなしだが…チャクラ量がまだ不安だ」

「…………」

「兵糧丸3つで足りるかどうか……」

「●●●さん……」

夜叉丸は拳を握り締め、二階へ続く階段を見つめた。

「俺が以前、この術式を使ったときはチャクラ使い過ぎで三日三晩目覚めなかった。●●●には死ぬ覚悟でやれと言ったが…あの兵糧丸があれば…死ぬことはねぇだろう」

「それはよかった…。玄師様の術式の相手は、我愛羅様の1つ前の人柱力ですね……」

「結局、守鶴抜かれて死んじまったがな」

玄師と夜叉丸は沈んでいく太陽を眺めていた。