約束のネックレス
●●●の術式が成功したらカカシに会うというご褒美は消え失せた。
あの予知夢のせい。
カカシにはきっと恋人がいる。
あれから●●●は何度か守鶴鎮静の術式を使った。
荒業ではあるがそのお陰で、着実に●●●のチャクラ量は増えていった。
我愛羅の睡眠時間8時間程度ならもう普通の兵糧丸で足りるほどだ。
「じゃ、我愛羅くんやるよ」
我愛羅はベッドに横になり、コクンと頷いた。
●●●は何度目かの術式を行う。
初期段階が成功し、チャクラを送り込んでいるところに、ふらふらしながら玄師がやって来た。
「よお、順調だな」
湯気の出るコーヒーカップを手に持っている。
「俺ぁ一昨日から寝てなくてな…フラフラだ」
この歳で2日睡眠なしはキツイ、と笑っている。
術式に集中したいのに、師がいると集中できない。
はやく帰って寝ろ!と思っていると、
フラついた師のマグカップから、熱々のコーヒーが我愛羅の顔面めがけて降ってきた。
いま守鶴を抑えてるから、砂の盾も発動しない。
我愛羅くんが火傷してしまう!
師はフラついて頼りにならないし、●●●も術発動中なので動けない。
もう、間に合わない………と目を瞑って思った時、動かないと思っていた砂の盾が動き、熱々のコーヒーが盾に染み込んだ。
「あ…れ?」
守鶴を抑え込んでるはずなのに…砂が動いた?
守鶴も我愛羅くんも寝てるのに…術者は他にいるの?
そんな●●●の疑問を他所に我愛羅は気持ち良さそうに眠っている。
師は限界が来たのか、部屋の隅で倒れるようにぐうぐう寝ていた。
術を終えて●●●が疲れ果てて眠る時、術式が解けて 起きたばかりの我愛羅も決まって●●●のベッドに潜り込む。
そうすると、●●●は寝ぼけ眼で我愛羅を抱きしめる。
我愛羅はいわゆる抱き枕のような役目。
眠るわけでもなく、ただ抱き枕として●●●に抱きしめられる。
●●●の体温と優しい匂いに包まれる時間。
その時間が我愛羅には嬉しかった。
我愛羅は毎日、●●●のいる研究所を訪れるようになっていた。
●●●の修行を傍で見守ったり、時には絵本や●●●から貰ったボールを持ち込んだり、玄師と将棋で遊んだりしていた。
最初は煙たがっていた玄師も、我愛羅にかまうようになっていた。
とある日のお昼過ぎの研究所内、
我愛羅と玄師が将棋崩しで対決していた。
カチッと音が鳴らないように、将棋の駒を自分の陣地まで人差し指のみでそっと移動させる遊びだ。
音を聞き逃さないよう、お互い耳をすませて相手の動きを見る。
●●●は1人、昼食の買い物に出かけている。
「ねえ、玄師様」
「なんだ。待ったはナシな」
玄師は例え子供との遊びだとしても全力でする。
玄師の取った駒は我愛羅より明らかに多い。
「僕と●●●が家族になるにはどうすればいいの?」
我愛羅は将棋の駒を見つめ照れながら呟いた。
玄師は『ほほう』と興味深そうに我愛羅を見る。
「1番手っ取り早いのは、結婚だろ。あとは…養子縁組になるんじゃねぇか」
「……結婚…」
玄師はタバコに火を付ける。
「結婚てぇのは…簡単に言えば一生を共にする男女の契約みたいなもんだな」
「契約…約束ってこと?」
玄師はコクリと頷いた。
「一般的にはお互いが好き合ってする契約だな……まあ、約束な」
「約束破ったらどうなるの?」
「…………そうなぁ…破ったら…」
玄師はニヤリと我愛羅を見た。
「ただいま戻りました」
玄師が我愛羅に耳打ちしていると
●●●がビニール袋片手に戻ってきた。
「おかえり、●●●!」
我愛羅は嬉しそうに●●●に駆け寄る。
「我愛羅くんの好きな砂肝買ってきたよ」
笑顔の我愛羅と●●●を見つめる玄師はふう、とタバコの煙を吐き出す。
「さて、あいつは木ノ葉に男がいるようだが…あのガキはどうすんのかね」
「師!食べましょ」
「おー」
我愛羅は最近よく眠れるのか調子が良さそうだ。
それでも、術式は毎日使えるものではないので平均的な子供の睡眠時間には到底及ばない。
砂隠れの外れにある、砂丘。
目の前には見渡す限り砂漠が広がっており、そのずっと先に木ノ葉の里がある。
昼間でも人が来ないこの場所に●●●と我愛羅は座っていた。
「……●●●」
「?」と●●●は首を傾げて隣に座る我愛羅を見たが、すぐにギョッとした表情に変わる。
我愛羅の顔が真っ赤だったのだ。
「どっ、……熱?我愛羅くん!」
我愛羅は「え?」とまるで自覚がないようだ。
●●●は慌てて我愛羅の額に手を当てる。
思ったより熱くはない…よかった…。
「●●●は……僕のこと…好き?」
そう問う我愛羅の顔はみるみる赤くなっていく。
りんごみたいなほっぺになった。
可愛いそのほっぺをつつきたくなる。
いつも会うと小さな身体で抱きついてきてくれる、我が子のような弟のような我愛羅。
「だい好きだよ」
●●●が微笑みながら答えると、我愛羅もパッと笑顔になった。
「じゃ、じゃあ…約束…」
「なんの約束?」
「僕も、●●●がだいすきだから」
「嬉しい!」
●●●は我愛羅を胸にギュッと抱きしめた。
胸に顔をうずめていた我愛羅はふと●●●の首元にネックレスを見つけた。
今までは気付かなかったけど、
細い金色のチェーンに透き通るような色の小さな宝石がついたネックレスがある。
「これ、綺麗だね…」
「あ…ネックレス?」
●●●はネックレスを指で撫でる。
「私の母の物なんだ……綺麗だから貰っちゃった」
我愛羅はネックレスを興味深そうにじっと見つめた。
「両親が結婚するとき父が母にプレゼントしたものらしいの…」
「……●●●の父様と母様はずっと一緒に居た?」
「一緒にいたよ、うちの両親は仲良しな方だったと思うなぁ。…亡くなるときも…一緒だった」
●●●は悲しげに微笑んだ。
我愛羅はその顔をじっと見つめる。
「僕が大きくなったら…●●●にプレゼントするね」
「何くれるの?楽しみだな」
「まだないしょ」
我愛羅はへへ、と笑う。
我愛羅は●●●といるこの時間が1日の中で1番落ち着ける時間になっていた。
ずっとずっと続けば良いのに。
我愛羅と●●●が共に過ごせた時間は、
カカシよりも玄師よりもずっと短い時間だった。