台風一過*.
うっすら明るくなった空。
雨はあがったようだ。
横になってぼーっとしている間に朝がきた。
今日は上忍に昇格する日だ。
●●●の家のベッドでなく自宅のベッドにいる自分。
窓から●●●の家を見る。
人の気配がない。
カカシはベッドから飛び出して
支度もそこそこにドアを勢いよく開ける。
今日里を去ると言っていた●●●。
カカシは砂の里に1番近い門に急ぐ。
屋根の上をものすごい速さで移動していく…。
嫌な予感がする。
もう二度と会えないのでは、そんな気さえした。
門に着いたカカシは周りを見渡す。
●●●の気配は、ない…。
カカシはそれを確認すると●●●の担任の家に向かって走り出した。
まだかなり早い時間にも関わらず、カカシは担任の家の窓をドンドンと叩く。
何事だ、と担任が顔を出した。
「おい、なんだカカシか…こんな朝早くに何の用だ?」
担任はあくびをしながら窓を開ける。
「●●●が、いないんです」
「あ?アイツならもう出たぞ」
嫌な予感が的中した。
全身から血の気が引いていく。
「移動商人たちがな、夜明け前の方が動きやすいとかって」
心臓が昨日からうるさい。
昨日の夜の事を何も知らない担任はつらつら喋る。
「俺と火影様で門まで見送りに行ったんだがな、カカシは見送りに来ないのかって聞いたら任務で忙しいみたい、っつってたけど」
カカシの顔が歪む。
口布のお陰で担任は気付かない。
「なんだ、お前聞いてなかったのか?」
胸が痛い。
手が汗でにじむ。
「…今日行くとは聞いてたんですが時間までは」
「そうか。お前ももう上忍だ。忙しいってのは●●●もわかってたんだろ」
だから時間も伝えなかったんだろうな、と担任は勝手に結論づけた。
「カカシ、コーヒーでも…あれ?」
担任がカカシのいた窓を見るとそこにもうカカシの姿はなかった。
「…なんだ、もう帰っちまったのか」
カカシは●●●の家のドアを叩いた。
いつものように●●●が笑顔でドアを開けてくれる様な気がしたのに、いくら叩いても、誰も出てこない。
誰の気配もない●●●の家。
あぁ、本当にもういないのか…
心にぽっかり穴が空いたような喪失感。
これは、現実なのか…。
俺たちの数年は、たった一夜で
なかったことになってしまうのか?
カカシは昨日の自分の行動を酷く後悔した。
ずっと抱きしめたかった愛しい女。
カカシの中では、●●●はとっくに女だった。
家族であり、友であり、理解者でもあり
想いを寄せる女。
そんな相手と同じ家で同じベットで眠りにつける幸せと安心感。
そして手も繋げない物足りなさ。
●●●から明日里を出ると聞いたとき
まるで死刑宣告をされた様な気分になった。
里を出て、いつ帰るかもわからない。
真剣にそんなことを言われればいてもたってもいられなくなった。
冗談なんかじゃないんだろうな。
俺の知らないところで、そこらへんの男に●●●を取られるかもと思うと嫉妬と怒りが身体を支配する。
自分のものにしたい。
そう思うと抑えが利かなくなった。
気付いたら●●●の唇を塞ぐ自分と●●●の顔が目の前に見える。
●●●は嫌がっているだろうか。
でもとめられない。
お前を…●●●を抱きたい。
明日からは感じられない温もりだと思うと余計に恋しくなる。
明日の今頃はきっと、●●●はもういないんだ…。
一筋の涙がカカシの目から流れた。
●●●に見られる前に、服の袖で拭う。
このまま何処かへ連れ去れればどれだけ楽だろうな。
もっと、●●●に触れたい
●●●の全てを俺で塗りつぶしたい。
そう思うと自然と●●●の胸に手が伸びた
●●●がビクりと震える。
自分の手に愛しい女が反応してくれていると思うと体が熱くなった。
●●●の制止する声なんてどこ吹く風
右から左に抜けていく。
こんなにも愛しい
故に、悲しい。
全てを俺に捧げてほしい。
この感情を●●●にぶつける。
彼女は受け止めてくれるだろうと勝手に思う。
ドン、と大きな音が窓の外から聞こえた。
いつのまにか雨が降っていて雷も鳴っているのか、と窓の外に目をやる。
さっきの音は落雷でもしたのか、なんて考えているとベッドか揺れ、●●●が真っ直ぐドアに走っていくのが見えた。
同い年とはいえ、最近まで忍者学校にいたヤツにスピードで負けるはずはなく、
素早く印を結び、一瞬で●●●の向かうドアにもう1人の自分を移動させる。
逃げ出す●●●を見て、頭はやけに冷静になった。
ああ、●●●は俺のものにはなってくれないのか。
●●●は、俺がいなくても平気なんだ。
自分はこんなにグチャグチャなのに…●●●は違うのか?
イライラする。
●●●もグチャグチャにしてやりたい。
カカシは怒りを含んだ目を彼女に向けた。
●●●をグチャグチャにする…。
それなら1人より、2人だ。
影分身の記憶も術をとけば俺に戻るから
なんの問題もない。
影分身のおかげで●●●を押さえつけるのも、なんと容易い。
「…だいっ嫌い…」
ふいに●●●の口から発せられた言葉に手が止まる。
術を保っていられずもう1人の自分が音を立てて消える。
想像以上にダメージが大きい。
●●●の口から1番聞きたくなかった言葉が耳に届いた。
それを言わせたのは、他でもない…自分だ。
そう思うと今までの昂りが一気に散った。
この女の一言で、自分の感情がぐるぐる変わって忙しい。
かろうじて、一言謝ると泣いている彼女に背を向けて玄関から外に出る。
まだザーザーと強い雨が降っている。
ドアの向こうから彼女の鳴咽が聞こえた。
悲しさと情けなさで、涙が溢れて無意識に肩が揺れる。
自分の行動をここまで後悔したのは
後にも先にもこの夜だけ。