春の再会*.
カカシは部下の下忍たちとの任務を終えて
読書をしに顔岩へ登ったものの、自分にとってはよくない思い出が蘇りそうだったので里の方へ引き返した。
まだまだ日が高かった事もあって朝も行った慰霊碑の方へ歩いていた。
1日に2回も慰霊碑に行く事なんてそうそう無いが、この日はなぜか行かなくてはいけないような気がした。
急いでいるわけでもないので本を片手に、人混みをぬって歩いていく。
慰霊碑の近くまで来て、たまには花でも供えるかーと道端に咲いていた綺麗なたんぽぽを摘む。
もう春だねぇ、と内心呟く。
慰霊碑の前に
さっき摘んだたんぽぽを供える。
地持ちのいい風が吹き抜ける。
日差しも文句なしに暖かい。
しばらく慰霊碑を見つめてから、ふと遠くを見る。
視界の隅に、木にもたれかかって座る人物が見える。
こんな所で何を…と顔を向ける。
見慣れないマントを身につけていた。
深みのある髪の色はなんだか見覚えがあるが、指通りの良さそうな長い髪の毛にはまったく見覚えがない。
髪の長い男もいるし顔も見えないので性別はまだ分からない。
少しだけ近づいて様子を見る。
マントの下に怪我を負って休んでいるのか?
はたまた誰かの罠か、なんて考えが浮かぶが 周りにそんな気配はまるでない。
「んー…」
木にもたれかかって座る人物が寝言のような声を上げる。
声で女だろうと確信した。
俯いてるので顔は確認できないが…。
昼寝なら邪魔しちゃ悪いし帰ろうかと、背を向けるようにくるりと体の向きを変えて、愛読書を開いたそのとき、
「…ふあー…っと、よく寝た」
背中越しに聞くその声に胸がぞくりとする。
ずっと聞きたかった声によく似ていた。
思わず俺は動きを止めた。
背中の気配で彼女が立ち上がったのを感じる。
だが木のそばを動こうとしない。
どうかしたのか、と彼女を振り返る。
俺の心臓が大きく跳ねた。
目が無意識に大きく開いていく。
大きな瞳で真っ直ぐ俺を見る彼女。
●●●…
顔を見ればすぐに分かった。
面影は小さい頃のまま、
幼さが少し残った大人の女性の顔をしてる。
記憶の中の●●●より、ずっとずっと綺麗になっていた。
深い色の髪の毛も長くなり、より女性を感じさせる。
しばらくお互いに黙って目を合わせたままでいた。
2人の間に風が吹き抜ける。
この風が●●●を自分のところへ運んできてくれたのかもしれない。
はっとして先に口を開いたのは●●●だった。
「す、すみません!ジロジロと…」
焦って謝ってくる●●●に、俺はニコリと微笑んだ。
「………………………いえいえ」
俺が笑ったのを見ると●●●は地面に落ちた市女笠を手に取る。
「…それ、この辺では見かけない服ですね」
「あ、岩の里から今日帰ってきたばかりで、岩の里の服のままなんです」
珍しい服ですよね、とマントをつまんでみせる●●●。
俺がカカシだと気付いていないのか?
まあ、俺片目しか出てないし…。
10年以上経っているから出で立ちも変わっているだろう。
俺以外に口布をしているヤツも沢山いる。
手に持っていた愛読書をパタンと閉じてポーチにしまう。
「岩の里へは任務か何かで?」
「いえ、個人的な理由です」
「と、言いますと?」
「…医療忍術を学んでいまして」
ああ、やっぱり●●●だ。
●●●はやはり目の前の男がカカシだと気付かない。
少しさみしい気もするが、
これはこれで楽しんでやろうとカカシは微笑む。
俺はまた●●●にじっと見つめられていることに気付いた。
「………なにか?」
「あ…すみません、なんだか昔の知り合いに似ていまして」
●●●は俺に向かって微笑みながら頭を下げる。
長くて綺麗な髪が揺れる。
「……どんな奴です?」
「……………………」
●●●は考え込んでしまった。
ま、俺の印象は●●●の中で最悪なままだろうね。
分かってはいたけど、ショックだ。
「……あなたと同じ髪の色でした」
懐かしそうに●●●が目を細めながら話し出した。
口角がゆるく上がって微笑んでいるようだ。
「…アイツは、あなたと違ってとっても無愛想なんですよ。笑った顔なんて見たことあったかなってくらい」
「…………そうですか」
俺は苦笑いを浮かべた。
●●●から見た俺はそんな顔してたのか。
「それにあなたと同じような口布をいつもしてました。…やっぱり似てます」
にっこりと●●●が笑う。
女性の顔になった●●●が自分に笑いかけると、心臓が再びどきりと鳴る。
胸があったかくなった。
「あ!私、火影様のところに行かないと……では、これで失礼します!」
市女笠を頭に乗せた●●●が走り出そうとする。
その手を掴んでぐっと引き寄せた。
ぐらつく●●●の体を抱きとめれば優しい香りがする。
幼い頃と違い女性らしい柔らかな体。
また胸が熱くなる。
「……あの?」
腕に抱きとめられた●●●が俺の腕の中から俺を見上げる。
俺は●●●を解放した。
「すみません、いきなり引っ張っちゃって。今日火影様は執務室にはいない筈ですがね」
「そうでしたか。いつ戻られるかご存知ですか?」
「……そこまではちょっと」
「そうですか。ではまた明日にでも伺うことにします」
ご親切にどうも、と●●●が走り出す。
引き止めるのは失敗してしまった。
こういうのは慣れないね、どーも…。
俺は気配を消して後をつける。
遠くの屋根の上から●●●を見ていた。
●●●は山中花店で花を買って、サクモと●●●の両親が眠る墓地に向かっていた。
まずは両親の墓石に花を供え、手を合わせてる。
「ただいま戻りました」
●●●は墓石を見つめてそう言った。
次に●●●は、俺の父サクモの墓の前に花を供えた。
手を合わせ、小さな声で何か言っているようだが後をつけている俺のところまではよく聞こえない。
次に●●●は里の繁華街を歩いていた。
生活用品を買い込んでいるようだ。
荷物がどんどん増えていく。
両手いっぱいになった頃に偶然を装って
荷物を持ってやろーか、なんて考えていたとき。
「オイ!●●●じゃないか!!」
よく知った声がする。
まさか
「あ、ガイだ!リーくんも!」
●●●は笑顔で全身緑タイツの2人組に大きく手を振り駆け寄った。
「すごい荷物ですね!お持ちします!」
「行け、リー!!逆立ち荷物持ちだ!」
「押忍!!」
リーは●●●の荷物を足で持ち、逆立ちをはじめた。
おいおいおい…。
●●●はリーに笑顔でありがとうと言う。
ていうか、何で●●●はリー君の事を知ってるんだ?
●●●が里を去ったのは俺が上忍になってすぐの頃で、それから今日まで帰ってきてないはずなのに…?
色々考えていると、さっきまで見ていた気配がすぐ後ろに現れた。
「ん?カカシ!?お前そこで何をしている!」
●●●を見つめる気配に気付いたガイが、気配の主…つまり俺を逆探知したらしい。
やっかいなのに見つかってしまった…。
「…ガイ、声が大きいよ」
「おいカカシ!お前●●●を見ていたな!?」
「………………いや」
「3年ぶりだろう!会いに行ってやれ!!」
俺は耳を疑った。
3年?
3年前一度木の葉に帰ってきたのか?
ガイは3年前●●●に会ったのか?
それなら●●●がリーくんを知ってるのも頷ける。
ガイには会えて俺に会えない理由。
そんなの思い当たるのはひとつしかない。
あの夜だ。
20180306