『木槿』……ムクゲ(梅雨に咲く比較的丈夫な花)
朝起きて着替えて面を付ける。
フードを深く被り外へ出た。
今日は雨だ。
雨と同時に霧も出ている。こんな日に任務とはついてない。
「…おはようございます」
「ああ…」
「おはよう、●●●」
今日任務が一緒の2人に挨拶する。
テンゾウ先輩はニッコリと笑ってくれたがもう1人…狐面のカカシ先輩は表情が見えないせいか不機嫌そうな声で返事をくれた。
「ちょっと●●●に聞きたいことがあるんだけど…任務が終わったら飲みに行かない?」
「今ここで聞いて下さい。なんでしょうか」
「…つれないなー。先輩も行きたいでしょう?●●●と飲みに!」
テンゾウはカカシを見る。
狐面は分かりやすくはあ…とため息をついた。
「テンゾウ…あんまりしつこいと嫌われるよ」
「じゃっ、●●●!僕と2人で飲みに行こうよ」
待てよ……そういえば、この2人は水の国の任務に携わっていた。依頼主のことやその時の実際の状況など聞き出すチャンスではないか。
「いいですよ」
●●●の返答に狐面のカカシは驚いたように顔を上げて●●●を見た。
「よし!じゃあとっとと任務を片付けましょうか」
カカシとは真逆に笑顔のテンゾウはさっさとフードと面をかぶり外に出て行く。
*
「●●●ってカカシ先輩のこと『先輩』って呼びますよね。僕のことは『テンゾウ先輩』なのに。なんででしょう」
朝テンゾウと2人で●●●を待っている間、テンゾウの口からそんな言葉が出た。知らないよ、と面を被ったけどテンゾウの事は名前を付けて呼ぶのに俺の名前は呼んでくれないのかと内心モヤモヤした。
●●●が現れて挨拶をくれてもモヤは晴れず、不機嫌な声が出てしまった。しかもテンゾウと2人での食事なら行くと言う。なんでだ。
しかも今日は雨で服は濡れるし視界は悪い。小さなイライラが募っていく。今日は厄日だな。
任務の途中、休憩をとっていると視界の片隅に猫面…●●●の姿が見えた。綺麗な色の花を1人静かに眺めている。表情は面のせいで読み取れないが…何か思い入れがあるように感じる。
花を見つめる●●●にテンゾウが駆け寄って行き何やら2人で話しはじめた。テンゾウは花を摘み、●●●の綺麗な髪に差し込んだ。
●●●はテンゾウに向かってぺこりとおじぎをし、髪の花を撫でた。
テンゾウのヤツ…俺に●●●が好きでしょう?なんて聞いてきたくせに本当はお前が●●●を好きなんじゃないの…?
カカシの中のモヤモヤはまた一段と膨れ上がる。
*
任務の途中…みんなで休憩を挟む。
●●●は皆んなから少し離れた場所で見張りをしていた。ふと近くを見ると綺麗な花が咲いていた。
花はいろんな季節を教えてくれる。
思いや気持ちを閉じ込めて萎れ、また季節が巡ってくると思い出となって咲き誇る。
前にこの花が咲いていた時は…私は木ノ葉の演習場で…
「●●●」
「テンゾウ先輩………もう行きますか?」
「いや、まだ大丈夫だよ……花を見ていたの?」
「……ハイ」
「花が好きなのかい?」
「…………」
昔は好きだったが今は、花と共に思い出す風景や思い出を想っているだけ。儚すぎる花は朽ちゆく自身の国を見るようで嫌だ。
そんなことを考えているとテンゾウ先輩が野花を摘み、私の髪に髪飾りのように差し込んでくれた。
「この任務ももう一踏ん張り……がんばろうか!」
「ハイ」
*
●●●はカカシ先輩と僕、それに他の暗部たちにもまだ警戒している。
暗部に配属されてまだ日が浅いからっていうのと、暗部はお互い面を付けてて表情が読み取れないっていうのもあると思う。
だけど、暗部も忍。チームワークが大切だ。お互いに信頼し合わなければならない。それに●●●の水遁と僕の木遁は何故か相性がいい。ぜひ仲良くなっておきたい。
テンゾウは自身の面を外し、1人花を見つめる●●●に歩み寄る。名前を呼ぶと猫面から●●●の海色の目がテンゾウを捉えた。
「テンゾウ先輩…もう行きますか?」
●●●が眺めていたのはピンク色の木槿という花。昔から自生している丈夫な花だ。僕は花のことはそんなに詳しくないけれど花のくせに『木』って漢字を使うこの花は覚えてた。
花言葉は『信念』
そういえば●●●からは何らかの信念を感じるよ。
木槿は木に咲く花……木は僕で花は……
テンゾウはプチッと花を摘み●●●の耳の上の髪に差し込んだ。
●●●の水遁が僕の木遁に新たな可能性を切り開いてくれるかもしれない。
それにしても●●●は花がよく似合うなぁ。