きみの呼吸で世界が変わる


「じゃあ●●●、また後で!場所は分かるかい?」
「分かります。提灯屋に集合ですね」
「……………」


任務が終わってテンゾウは嬉しそうに先に帰って行く。その笑顔から●●●と飲みに行くのがどんなに楽しみなのか伝わってくる。……やっぱりテンゾウは●●●が好きなんだ。アイツ俺に好きだろうなんて聞いてきたくせに……。

心を落ち着かせるため、風に当たろうと腕を組んで窓際にもたれ掛かかる。無意識のうちに自分の口から大きなため息が出た。

誰が誰を好きになろうといいだろ、俺には関係ない。うん、ないない、ないよ。

優しい風が俺の髪をサラサラと撫でてくれる。朝降っていた雨も霧もすっかり晴れてる。

しばらくカカシがそのまま風に当たっていると、帰り仕度を済ませた●●●がカカシを振り返る。

「先輩も行きますよね、一回帰らないんですか?」
「………え」

カカシは驚いて●●●を見た。猫面から覗く青い目が宝石のようにキラリと光を映していた。
カカシは自分は行かないと思っていた飲み会に参加する事になっていることに驚いた。ポカンとして固まるカカシに●●●は続ける。

「一刻後に提灯屋集合ですよ」
「……あ、ああ……分かったよ」

カカシの返事を聞いて●●●は素早く帰って行った。

沈んでいた気分が風にさらわれて一気に晴れた気がする。風のせいか?いや、違うな。

なんだ、俺は●●●と飲みに行きたかったのか?……一瞬で軽くなったこの気持ちはなんだ。

カカシはハハ、と力無く笑った。

「疲れてんのかね」


カカシは素早く帰り仕度を整え、家に帰った。

暗部の格好ではなく中忍になった時に支給された緑色のベストを着る。

普段着で行くべきか?
うーん。ま、いっか。デートでもないし。



提灯屋の近くまで行くとテンゾウと●●●の後ろ姿が見えた。


「あ、先輩」
「えぇ!カカシ先輩!?」

テンゾウは驚いた様子でカカシを見た。

「……なによテンゾウ。お邪魔だった?」
「いえ!カカシ先輩乗り気じゃなかったから来ないのかなーと思っていたんですけど!フフフ、やっぱり……」
「………今日はテンゾウの奢りね」
「いいですね、是非」
「えええ!●●●まで!ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!!」


わあわあと叫ぶテンゾウを置いてカカシと●●●は提灯屋に入る。
いつものことだけど、●●●は猫面をつけたままだ。食事をすれば遅かれ早かれ面の下を見せることになるのに。


「先輩の素顔初めて見ました」
「あれ、そうだっけ……ずっと付けてるとね、日焼けの跡とかが気になって外せなくなっちゃうのよ」

だから、●●●のその猫面も取れるうちに取った方がいい。

カカシは軟骨唐揚げを口に運ぶ。コリコリと軟骨の砕ける音がする。
テーブルには3人分の酒と数々のつまみがずらりと並んでいる。それなのに●●●はまだ酒にもつまみにも手を出そうとしない。任務後だしお腹はぺこぺこの筈だ。

なぜ食べないんだ。
やはり猫面を取るのが嫌なのか?
でも飲み食いする気がないならこんなとこ誘われても来ないよな。

「●●●も食べなよ」

カカシとテンゾウは微動だにしない無表情の猫面をじっと見つめる。

「では、いただきます」

●●●の手が動き、猫面の前に移動した。

ついに、取るのか!

カカシとテンゾウの酒を飲む手が止まり、喉がゴクリと鳴る。

謎に包まれた青い目の猫の正体はどんな顔をしてるのだろう。


●●●の手は面の前で印を組み、●●●の身体がボフンと煙に包まれた。


「…………」
「…………」
「では、いただきます!」

煙が消えて現れた●●●はテンゾウの姿になっていた。●●●は変化の術で目の前のテンゾウに変化したのだ。テンゾウの姿になった●●●は待ちわびたお酒をそれは美味しそうに飲みはじめる。
面を取るとばかり思っていたカカシとテンゾウはいきなりの出来事にしばらく動けなかった。


「……ってえぇ!?ちょっと●●●!そりゃないよ!」
「え?なんでですか?」

テンゾウが●●●に物申すと
自分と同じ顔をした●●●がイカゲソを食べながら首を傾げた。うう、なんか変な感じ。

「なにが楽しくて自分とお酒飲まなきゃいけないのさ!それに女っ気がないじゃないか」
「ご飯食べるのに女っ気なんていらないですよ。ね、先輩」
「女っ気はともかく……目の前にテンゾウの顔が二つもあるのは嫌だな」
「酷いですよ先輩!」

他から見れば双子の様に瓜二つの男性が同じテーブルにいる不思議な光景だ。現に他の客はこちらを物珍しそうに見てる。●●●はそこまでしてでも素顔を見られたくないらしい。

「これおいしい!先輩もどうですか?」
「……いただこうかな」
「では、あーん……」
「…ん、うまいね」
「ちょ、ちょっと待ってよ、お二人さん!いまのそれなんか客観的に見たくない絵面!」

テンゾウの目の前には、自分の姿をした●●●がカカシの口に笑顔であーんしている姿があった。自分がカカシ先輩にあーんしてるみたいだ。

「ってカカシ先輩は嫌じゃないんですか!」
「ヤダよ。でもま、中身は●●●だから……」
「まあまあ、テンゾウ先輩もどうですか」

●●●はテンゾウの顔でにっこり笑い、あーんを迫る。

「待って待って●●●!自分で食べますって!」

さすがに頬を染めて笑顔な自分からあーんはないだろ。さすがにさ。


それから3人で食べ進め、あっという間にお酒もつまみも無くなった。は意外と大食いだ。

「お腹いっぱい。ご馳走様ですテンゾウ先輩」
「悪いね、テンゾウ」
「いやいや、ほんとに僕の奢りですか!?」






つづく。
次は●●●姫が水の国について聞き出します。