四 彼は誰時


 鬼殺隊士の少年達はひさごを見て非常に戸惑っていた。
 この大正において、鬼殺隊関係者でない者が帯刀している姿は非常に珍しかった。単純に帯刀が犯罪とされているからだ。つまり、少年達の眼の前にいる女はただただ得体の知れない犯罪者だった。

 目元を隠すように笠を被っているのが何よりも怪しい。おまけに着ている着物や羽織はボロボロで、特に羽織などは裾や袖が擦り切れて繊維の縫い目が露わになってしまっている。茶色く傷んだ髪を無造作に後ろで束ねて、ぼんやりとこちらを見ている女。なにか包みを片手に抱えているようだ。
 村田という青年は、鬼とは違う異端な雰囲気を感じ取った。日が昇っている以上、この人間は鬼ではないと分かっているのに、思わず無意識に刀の柄へ手が伸びてしまった。
 女が口を開いた。

「あなたがた……、みんな刀を持ってますね。此処に何の用でした?」

 思った以上に声色は柔らかく、覇気が無い。先頭に立つ村田はどきりと僅かに身を強張らせた。
 鬼を知らない一般人相手に「鬼を殺す組織なんです」とは流石に言えない。

「ぼ、…僕たちは鬼殺隊という組織の者です。ここには任務で来ました」
「…鬼殺隊……、鬼を狩りに? もう日の出はとっくに過ぎてますけど」

 わざとぼかして答えた筈が、それを勿論知っていたひさごははっきりと眉を顰めて怪訝な表情を作った。
 村田の背後にいた少女、尾崎が「知ってるんですか」と目を見開いて驚く。

「あなたがた、ここに鬼が出ると聞いてやってきたんでしょうけれど、着くのが遅すぎますよ。日が明けたら鬼は人に見つからない場所へ逃げることはご存知ですよね?」
「し……知ってます。だから、今は日が暮れるまでに鬼の塒の場所を突き止めておこうと思って」
「……ここにいる鬼というのは一人だけですか? 私が見かけたのは一人だけだったので、一応確認しますが」
「鬼に会ったんですか?!」
「会いましたよ」

 あっけらかんと女が表情を変えずに言うものだから、村田達はかっと目を見開いて女のもとへ駆け寄った。もしかして鬼から逃げ惑っているうちに夜が明けたのかもしれない。いや、というよりこの女性はもしかしたら育手の一人なのかもしれない。こんなにも堂々とした態度で帯刀しているのだから、むしろ鬼殺隊の関係者であってもおかしくない。

「怪我はしていませんか!?」
「してませんよ。かなり弱っていたので。鬼の数はいくつですか?」
「あ、ええと……一体だけだと鎹烏が報告していました」
「……カラス? まあいいや、じゃあこれ。もし親御さんが生きてたら渡してあげてください」

 女は片手に持っていた紺色の風呂敷包みを村田に渡した。受け取った村田と同期の少年たちはちらりと目を見合わせる。鬼に食われた被害者の遺品かもしれない。結び目を開いてみると、血と泥にまみれた女物の上着と学生証、髪飾りなどがそこにあった。なんと痛ましい。今夜、絶対に鬼を倒さなければ……。

「鬼が身につけていたものなんですが、どうやら東京の女学校に通っていたそうです。私が追い回しているうちに随分着物が汚れてしまったんですけど、洗えばきっと綺麗になるはずなので」
「は?」「えっ?」「え?」
「すみません、もう、眠くて。手短に会話しましょう。もう一つ聞きたいんですが、鬼殺隊に入隊するにはどうしたらいいですか? 放浪しながら鬼を殺しているので、最低限の実力的には申し分ないと思うんですが」
「あなた鬼殺隊じゃないんですか!?」

 女は、昨夜鬼と戦っていたらしい。なにの変哲もない、腰に提げているただの日本刀で。
 あくびを零しながら平然と語る女に村田たちは愕然としつつも、湧き上がる疑問を抑えきれなかった。

「どうやって…倒したんですか?」
「鬼って、朝日にあたると灰になって消えるじゃないですか」
「消えます…ね」
「だから夜のうちから戦って、朝日に当てて殺してます」

 知っている。そんなこと、知っているとも。
 だが、そんな作戦が毎回通用するなら鬼殺隊の殉職率はもっともっと低いはずだ。鬼だって太陽に当たりたくないのだから、死ぬ気で逃げるなり相手を殺して逃げるなりする。そもそも、無理やり夜明けまで戦いを続けるのだって体力がもたない。
 あれ?この人、もしかして毎回そうやって鬼を殺してきたのか? いや、だってそれしかないだろう。ただの刀で戦うなら、鬼を殺すには太陽しかない。いや、分かってるけど、いや……

「それで毎回殺せるなら俺たちも苦労はしないんですけどぉ!?」

 自問自答による負荷が脳のキャパシティを突破したようだ。
 村田は山一体に響き渡る雄叫びを上げた。