本殿の裏に1本の赤く不気味な花が咲いた。普通の人間にはわからない彼岸花のような形をした髑髏彼岸を楓花はきつく睨んだ(西洋妖怪共がまた鬼界島いる…)向こうの総大将とも言っていいバックベアードにはきっと大禍の力を把握しているだろう。きっと過去に起こった争いよりも激化する…、12年前、地獄からの依頼もあり楓花はその時鬼太郎達とは別に天音達と西洋妖怪の主戦力にバレないようひっそりと島民を守り戦ってきた。その前も、その前も。(今回も幾つのも命が消えたのね…)子供だろうが女だろうが年寄りだろうが彼等は見境なく人を襲いその命を喰らってきた。(別に鬼太郎達のように正義感があって守るわけじゃないわ…ただ、)目の前で親や子を無くし咽び泣くことしか出来ない人間に無力な自分を重ねてしまうのだ。
楓花はその花に背を向けると静かにそして冷たく本殿の中へと消えていった。
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今回もきっと前回同様自分たちの元へ閻魔大王から依頼の手紙を貰うはずね。楓花は天音と手合わせしながらそんな事を頭で考える、雛稀は2人の風のように早い動きを目で追いどちらが勝つのかと予想を立てていた時だった。普通の妖怪なら慣れるはずのない妖気に瞬時に立ち上がる。それは天音と楓花も同様で3人とも同じ場所を見上げる。「五官王…」雲などひとつもない空から大きな雷が目の前に落ちそこから閻魔大王の右腕にあたる五官王が姿を現した。
彼の口から出た言葉はやはり楓花が想定していたものであり今回、五官王と楓花は鬼太郎達と同行し協力して西洋妖怪を倒すという。「そして、今回はいつもよりあの力を隠す事に徹底するんだ」「…それは何か理由が?」あの力…大禍の力だ。それをいつもより隠せ?元よりそんなこと言われなくても地獄を、この世界を簡単に滅ぼすことできるそれを楓花達は毎回隠してきた。あの九尾と天狐の揚力が混ざった狐の面で。それをわざわざ言うだなんてどういう事なのかと天音が聞けば五官王は彼女を見下ろすように答える「…数年前何処からかこの力の情報が漏れただのおとぎ話ではなくなり1部の妖怪共がそれを血眼になって探しているのは知っているな」「えぇ…」「その妖怪の1匹が西洋妖怪と共に鬼界島にいるという情報を得た」「ちょっと待って!それってつまり…」「…西洋妖怪も大禍の力を狙ってる」
五官王からの忠告通り楓花はいつもより袖の中に札をしまい込み面を付ける。その目はとても鋭く、天音達に留守を任せ五官王と共に鬼太郎達のいる横丁へと向かった。
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妖怪横丁の中心に突如雷がけたたましい音を経てて落ちる。その光と音に何事かと駆け寄って行けば、そこに居たのは五官王といつものように狐の目を被り表情の読み取ることの出来ない楓花の姿だった。五官王だけでも驚くというのに何故楓花を島に行くのか、と鬼太郎が問えば彼女はいつもよりも静かに「閻魔大王からの依頼よ」と嘘では無いが全てが正しいという訳では無いもので答えた。
場所は変わり楓花達は鬼界島に行くため帆に妖と大きくかかれた筏に乗り、残された妖怪横丁の妖怪と別れの挨拶をしていた。しかしそこに猫娘の姿はなく楓花は鬼太郎と喧嘩でもしたのかしらと筏が動くその時まで動かず、話さずその場に立っていた。「鬼太郎、子泣きじじい、砂かけばばあ、一反木綿にぬりかべ、そして楓花と五官王殿、日本妖怪の精鋭チームじゃ」さらにもう1人援軍を用意していると得意げに話す目玉親父だがその肝心の青坊主が何処にもいない(あいつと現地集合は無理に決まってるでしょ…)妖怪の封印の地を回る彼とは昔から何回も会っていてその度に道を案内していた楓花は密かにため息をこぼす。
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気を取り直し鬼太郎が最後に妖怪達に向かって「行ってくる」と挨拶を言い筏は灯火の力に撚って進んでいく。その途中猫娘が筏と並走するように走り鬼太郎に向かって風呂敷に包まれた何かを投げ渡した。海へと出た時鬼太郎がその風呂敷を開くと中に入っていたのは霊界符という幽霊族の旅の守りだった。それを鬼太郎が一つ一つ仲間に配っていく「はい、楓花ちゃんも」「…ありがとう」明るい黄緑色をしたそれを貰いそっと懐へと隠す。そして最後に五官王へと残った緑の霊界符を持ち彼を見上げる。五官王は渋々とでも言いたげな顔で自分の手よりも小さいそれを受け取った。
そのまま筏に乗っていれば目の前に鬼界島が見えてきた。いつにも増して禍々しいその島に楓花は思わず顔を歪める、するとその島から1匹のコウモリが姿を現したかと思うとそれはライトのような役目で光ある一点をともした。そこに居たのは楓花も初めて見る吸血鬼、そして魔女と狼男と不死身のフランケンシュタイン、そしてミウという少女を小脇に抱えたエジプトの妖怪バルモンドだった。(…バルモンドが大禍の力を欲しがってる妖怪?おかしい、だったら地獄の鍵を持っているミウって子にここまで固執しないはず…)あぁ、ダメだ、今は目の前の西洋妖怪に集中しなければ。鬼太郎達のいる上を優雅に飛び挑発する魔女とその手下に目掛け砂かけばばあが砂を投げる。それに魔女は当たることは無かったが手下数匹が焼かれ、それが先頭の合図となった。上陸した楓花達は数千といる敵の中へと向かっていくその途中、楓花は鬼太郎の元へ行き「この辺の敵は私達でどうにかするからあんたはあのミウって子を助けに行きなさい」「…大丈夫かい?」「あら、私をか弱いただの巫女だと思ってるの?そんなわけないじゃない」袖の中から数枚の札を取りだし敵の方へと投げつける。それは大きな爆発を起こし鬼太郎の通り道をつくりあげる「ほら、行きなさい」「楓花ちゃん…ありがとう!」そこで2人は別れそれぞれ別の目的を果たしに向かっていく。五官王達も楓花に負けず劣らず手下の妖怪をどんどんと倒していく
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その途中楓花は最初に姿を現した吸血鬼と退治することになった。手下の吸血コウモリを交わし、倒し、手に持った大幣を振りかぶり吸血鬼へと振り下ろす。が、それはするりと交わされてしまう。「君のような女性との戦いだなんて気が進まないが…今僕の機嫌は悪いんだ、その意味のわからない仮面を壊し君の素顔を見ながら血を吸い尽くしてあげよう」「出来るものならやってみなさい。その前にあんたを地面に寝かせてあげるわ」その減らず口もついでに治してあげるわよ。そのまま吸血鬼との交戦が続いていた時だった鬼太郎とバルモンドがいる所から大きな爆発が聞こえてきた、何かあったのか、その一瞬をつかれ吸血鬼は楓花にその鋭い爪を突き立てる。(っ、)すぐそれに気づき避けようとしたがその爪は彼女の左腕の袖の1部ごと割きその細い腕に赤い線を引く。楓花は瞬時にその部分を右手で隠したが吸血鬼が目ざとくある事に気づいた(私らしくない…いやそれよりもコレを見られた…)「へぇ、なかなか洒落たタトゥーをしてるじゃないか。僕好みではないがな」「……」(…気づいてはない、みたいだけどまずいわね…)これ以上この腕を晒すことも同じ失態を犯すことも出来ない。この状況をどう切り抜けてるか考えていれば、島中に大きな銃声音が聞こえた。その音に楓花も吸血鬼も他の妖怪も何事だと動きが止まる。(鬼太郎…)鬼太郎の放った指鉄砲はバルモンドの腹を貫く。そして鬼太郎はよろよろと立ち上がると両手で周囲の敵を倒すように指鉄砲を放っていく、けれどそれは無差別に等しく油断していればこちらにも被害が出るようなものであった。
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鬼太郎の指鉄砲に吸血鬼は自分の手下コウモリを使い防いでいくがこのままではまともに動けないと思ったのか楓花を1度みると名残惜しそうにそのままフランケンシュタインと共に海岸の方へと移動していく。自身の周りに結界を張った楓花が後を追おうとした瞬間、彼女の耳に不気味な笑い声が聞こえた「見ちゃった…見ちゃったわぁ」「!…誰」ぽぽ…ぽぽぽという独特な笑い方に楓花はその声の主の方を見る、森の中に1人白いワンピースを着た周りに立つ木よりも高い身長の女。その笑い声と姿に見覚えがあった「あんた八尺様ね」「あら、私の事わかるの?嬉しいわぁ…でも男の子だったらもっと嬉しかったのにぃ」以前ぽぽぽと笑う彼女に楓花は自分の腕を抑えていた手を話瞬時に札を投げる。しかしそれは意図も簡単に八尺様によけられてしまう。楓花の後ろでは力尽きた鬼太郎が海に落ち、ミウがそれを追っていった。そして砂浜では砂かけばばあと一反木綿の技で大きな砂嵐が現れ、西洋妖怪は一旦その場から消えていった。そんな事が起きているのは彼女も勿論知っているが今はそれどころでは無い。(こいつは大禍の刻印を知っていた…ということはこいつが例の妖怪って事ね、絶対に、逃がしはしない)「貴女にはい*っぱい聞きたいことも話したい事もあるのよ」「あら、奇遇ね私もあんたに聞きたいことが山ほどあるのよ!」
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八尺様の技で面の一部が割れあの時よりも傷だらけの状態で楓花は立っていた。しかし右手で抑えられた左は大幣をもしそれを動けない八尺様の首元へと宛てがわれている。「ぽぽ…ぽぽぽ、流石態々引き入れただけあるわねぇ…やっぱり強いわぁ」「引き入れた?それはどういう事」八尺様の言葉に引っかかり問えば彼女は自分の置かれている立場など無視してまるで恋の話をする女のようにうっとりとした目で話す「あの世界であの人は貴女の他の人間とは違う妖力の高さに目をつけていた。そして自分が生まれ落ちたこの世界に貴女を引き入れ、入れ物にした…大禍の力のね」八尺様の話に楓花はどこからか沸きあがる怒りと殺意と憎悪に大幣を握る力を強め、彼女の首にあてがう強さも上がる。このまま殺してしまいたい、けれどまだこいつには聞かなければいけないことが沢山あるのだ。それを堪えながら楓花は口を開き聞いた「あの人」とは誰の事なのか。「本当は教えるなって言われてるのよぉ、私。でも貴女のこと気に入っちゃったから教えてあげるわぁ」次に彼女の口から出た名前に楓花は聞き覚えがあった「物部天獄」けれどその人物はただの悪趣味な宗教家でありもうとっくの昔に死んだ人間だ「ちょっと待ちなさい…だってその人間は…」混乱する頭で八尺様にもっと詳しく聞こうとしたが彼女は1度笑みを深めると自分の腕で自分の心臓を貫いた。「ぽ、ぽぽ…もうおしまい。私の役目は終わったから消えるとするわ…」「役目?」「ぽぽ、貴女の存在を、あの人に、天獄様に知らせる役目……もうどこに逃げても、無駄よ……そうだ…最後に一つだけ…貴女の中に埋められた大禍の力はもうすぐ貴女すらも飲み込む……それほど強大な力よ……せいぜい足掻いてちょうだい…あぁ天獄様…今から、貴女のそばに…」「ッ、待ちなさい!」けれど楓花の声は虚しく森の中へと消えていき残ったのは彼女だけであった。
八尺様、物部天獄、そして大禍の力楓花は自分の理解できない情報の多さと現実の無慈悲差にその場に立ちすくむ。けれど今の現状ずっとそういう訳にも行かず彼女は袖の中にしまっていた紐を取り出すとそれを器用に左腕へと巻き付け、大禍の刻印を見えないように隠した。(…面の方は、まだ大丈夫そうね)面に込められた妖気がまだあると分かると彼女は急いで五官王の妖力を辿った
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後から追いついた楓花の姿と面の割れた一部から見える焦燥しきった目に五官王は何かあったのかと彼女に聞く「残念ですが色々と…」そう答える彼女にすぐさま大禍の力が何者かに知られたのだと察知した。天音の言っていた「嫌な予感」というのがここで当たるとはと舌打ちをするが今は地獄の鍵のほうが先だった。今回の事、後で報告しろという五官王に楓花はひとつ頷くだけだった。
そのまま楓花は五官王と共に島の地下にある空間へとたどり着く、そこに居たのはバルモンドと西洋妖怪達、そして囚われたミウ。「そこまでだ」という五官王の声がその場に響く。楓花は五官王とミウでとある話が付けられていたことを知っていた。そして今回五官王がそれに対し何をしようとしているのかを。剣を抜きミウを貫こうと動く五官王に合わせ楓花も動き、そして五官王はバルモンドを刺し楓花はミウを拘束していた包帯を切り落としそのままミウを抱え飛び降りる。五官王は閻魔大王の言った鬼太郎が生きている限り鬼太郎の為に動けという指示を守ったのだ。バルモンドは五官王に貫かれてもなお立ち上がり、地獄の鍵を開く方法はミウが知っていると確信を持つ。五官王はミウの前に立つと命をかけて戦うと言い放ち戦う意思を宣言した。
それを見てバルモンドは鬼太郎の弔い合戦のつもりかと嘲笑うが楓花は分かっていた。まだ彼は生きていることに。
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目玉親父が羽織っていたちゃんちゃんこが洞穴へと戻っていく、その中に楓花が感じたとおり鬼太郎はボロボロになりなも生きていた。ふらつき膝をつく鬼太郎にミウは駆け寄る、この姿ではあの指鉄砲も撃つことは出来ない。それが分かったバルモンドはここで始末を付けようと自らの体を巨大化させる。彼が巨大化したことにより道具に溜まった水が勢いよくこちらへ流れてくる。楓花は自分と鬼太郎達のいる方へ結界を貼りその水の勢いから身を守った。水が引きバルモンドは鬼太郎にミウを渡すよう言うが鬼太郎はそれをすぐに断わりリモコン下駄を飛ばす。けれどバルモンドの包帯にそれは弾け飛ばされ、むしろ鬼太郎がその包帯の餌食となり壁に強打させられた。渡さないのならばミウを殺して鍵を手にしてしまおうとするバルモンドの包帯を鬼太郎はどうにか弾き、立ち上がる。そして、「お前だけば絶対に許さない!」鬼太郎がそう叫んだ瞬間彼の服の上から地獄の鍵が姿を現した。地獄の鍵はミウから鬼太郎へと移っていたのだ。バルモンドはすぐさまその鍵を鬼太郎から奪いさろうと手を伸ばした時駆けつけた青坊主がその頭を蹴り飛ばした。(今回はたどり着けたみたいね…)
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青坊主も加わり勢力が増した楓花達はバルモンドが召喚した手下を倒しにかかる「おう!久しぶりだな楓花!」「…そろそろその方向音痴をどうにかしなさいよね」言葉を交わしながらミイラのような敵をどんどん倒していく、そして楓花は敵の攻撃を防ぎながら鬼太郎と五官王の話を聞いていく。「鍵を開き地獄の業火を呼べ」と叫んだ五官王に鬼太郎はふらりと立ち上がる、そして地獄の鍵を開けた。
鬼太郎の髪は地獄の業火と一体となり当たりを赤く激しく点していく。その威力は手下の妖怪を簡単に燃やし尽くすほどの力であった、しかしその威力はこの洞窟を壊すほどでもあり楓花は「あんた達は早く避難しなさい!」と叫ぶと、鬼太郎を心配し逃げることを戸惑うみうの方へと飛ぶ「ここに居ては危ない…逃げるんじゃミウ」「でも、鬼太郎さんが」「鬼太郎は大丈夫じゃ」「それに私が何とかするわ。だから逃げなさい」ミウの背中を押し、一瞬だけ五官王と視線を交わすと1人落ちてくる瓦礫を結界ではじき飛ばしながら鬼太郎がバルモンドを業火でやき尽くすその様を見届ける。そしてバルモンドも消え、鬼太郎が地獄の鍵で霊力を使い果たし倒れそうになったところを楓花は受け止める「…お疲れ様」意識のない鬼太郎にそう一言だけ告げ彼女は急いで地上へと逃れた。
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鬼太郎があれから眠ったままだった。そのため彼に無理をさせないようこの島を出るのは彼の目が覚めた後である。
その中で楓花は五官王に今回起きた事を説明した、そして物部天獄という名が出た時彼の目は大きく見開かれる。何かあったのかと聞けば物部天獄は自らの命を絶ったあと地獄へ落とされるはずが彼がつくりあげたリョウメンスクナという呪われたミイラによって不完全な堕神と妖怪狭間の化け物へと生まれ変わったらしい。そこまで聞いて楓花はある事に気がつく「…では、物部天獄が大禍の力を欲しがる理由というのは、」「完全なる神になるためだろう。無論そんな力を手に入れても奴の描く神とやらには慣れるはずがないがな」とにかくと、五官王は立ち上がる「今回の事は俺から閻魔様に伝えておく」「…お願いします」楓花は頭を下げ、地獄へと戻る五官王を見送った。そして1人になると彼女は自身の左手の掌を見つめる。自分の知りたいものがしれたというのに結果残ったのは…(憎悪と絶望だけ)あの時、鬼太郎が命をかけて獄炎乱舞でバルモンドを葬った時楓花はその炎を見て鬼太郎ならもしかしたら大禍の力ごと私を消してくれるかもしれない、そう思ってしまったのだ。(なんてひどい人間…)開けていた掌を今度は血が滲むほどの力に握りしめた。
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混乱でいつものような察知の良さが発揮できていなかった楓花は今やっと自分の後ろに立つ妖気に反応する「…見てないで出てきたらどうなの青坊主」手を開き自身の爪の後から血が出てくる光景を見ながらそう問いかければ後ろから草木を掻き分ける音が聞こえそのまま彼女の隣へと腰を下ろす。「やっぱりバレてたのか」「残念、今気づいたのよ」楓花にしては珍しいこともあるもんだな、と冗談交じりに話す青坊主に楓花は目だけを彼に向け他に聞きたいことがあるんじゃないの?そう聞くと青坊主は先程の笑顔から真剣な表情へと顔を変えた「わりぃな途中から2人の話を盗み聞きしちまった」「だと思ったわ」「…あの刻印はどこまで進んでるんだ?」青坊主の問に楓花は自分の来ていた巫女装束の襟元を崩し左肩を出す。黒くまるで文字のような刻印は最初は手首を囲うように浮き出ていただけだった、けれど時間が経つにつれ生きているかのようにそれは楓花のからだを侵食していく。青坊主も前回見た時よりも広がっている刻印に顔を顰める、楓花は襟元を直しながらこの刻印が自分を侵食するペースが上がってきていることをぽつりと洩らした。「おい、それは想像以上にやべーじゃねぇか」「そうね、でもその理由もこれを抑える方法も未だわかることはないわ」この世界で無駄に時間を過ごしてきた訳では無い。天音や雛稀と大禍の力、大禍の刻印についてこの世の誰よりも調べたつもりだ。けれど元を辿ればただの夢物語でしか無かったそれを詳細に書いているものなどなく書かれていたとしてもそれは皆バラバラで有力な手がかりは掴めなかった。「唯一分かったのは全ての元凶は物部天獄っていう死に損ないだけよ」「物部天獄、俺が知ってる彼奴の最後は楓花が知ってたところまでだな。…リョウメンスクナの前で首を切って自害しその自分の血で「日本滅ブベシ」と書き綴り朽ち果てた。それがまさかしぶとく生きてるとはな……なぁ、この事を鬼太郎達には」「言ってないわ…言うつもりもない」「…確かに大禍の力はあまり周りに教えるもんでもねぇけどよ、彼奴らなら」「そうじゃない」青坊主の言葉に被せるように楓花は鬼太郎達にこの事を知られることを酷く拒絶する。「ただ、巻き込みたくないだけよ。特に鬼太郎は。あいつは優しいから…この事を知ればどうにかしようと、私を助けようと手を伸ばす。自分の事なんて気にせずに…それが嫌なの」「……お前、鬼太郎の事が好きなのか?」鬼太郎が好き?誰が?私が?鬼太郎を?藍坊主の言葉に一瞬思考は止まるがすぐに回復し一体こいつは何を言っているのだと楓花は思わず藍坊主の横っ腹を自身の肘で殴る。殴られた部分を痛そうに摩する藍坊主を睨みながら口を開く「…どうしてそういう思考にたどり着くのよ」「だってよ楓花の話を聞くと、お前は鬼太郎のことを大切に思っていて、だからこそ心配して欲しくないし巻き込みたくない。俺はそう聞こえたぜ」と話す藍坊主に楓花は他人事のようにどこか納得する。「…もしかしたら間違っては無いのかも知れないわね。でも、これはきっとそんな優しいものじゃない」楓花はひとつ小さくため息を吐くとどこか遠くを見つめる「人ってね、自分の記憶から誰かを忘れる時、その忘れる順番ってものがあるの。最初は声、次に顔、そして最後に思い出。…私さ、こっちに来てからずっと自分の夢に縋ってきたの」「夢?」「そう。現実ではもう二度と会えなくても夢の中だけは家族や親友に会えて、父と話せて、母と触れ合えて、あの子に手を引かれて一緒に歩く夢。その夢が私の中で唯一の希望で光だった」そう言えば夢の話は未だ誰にも話したことがなかったな…うっすらと覚えている幸せな夢の内容に楓花は笑みを浮かべそうになる「でも、月日が経ち時代が変わっていくにつれて声も、顔も、あの人達がどんな風に話すのかも、どんな体温だったのかも分からなくなった。今だってもう父と母がどんな風に笑うのかも、あの子と過ごした日々も分からなくなった…」いつもより多く話す楓花に藍坊主は昔天音が言っていたことを思い出す。「あの子の心は壊れているから」それが一体彼女の何を見てそう感じたのか理解出来ずにいたが今、それがわかった気がした。一体自分はいつから彼女が口数の少なく冷めた少女だと勘違いしていたのだろうか。きっと彼女はこんな性格ではなかったのだ、もっと鬼太郎や猫娘のように年相応のような無邪気さがあり感情の浮き沈みだって大きかったはずなのだ。けれど周りに知らないものしか存在しないこの世界が彼女の何もかもを変えてしまった。「そんな時、たまたま鬼太郎と会った。あいつのまっすぐな目も凛とした後ろ姿もどこかあの子と被ってしかながない…」「だからそのあの子に似た鬼太郎を自分の事で危険に晒したくないと」「そういうこと。それに…」どこかへと向けていた視線はまた藍坊主の元へと戻る。その目は何もかも諦めて自身の終焉を望んでいるようで、けれどそれは瞬きをすればまたいつもの様に戻る。まるで気のせいだと思わせるように。一体どれ程の痛みと孤独を抱えているのか、藍坊主は思わず顔を顰める。「あんたと違ってあいつが私を殺せるとは思えないから」「おいおい、それだと俺が残忍な妖怪みたいじゃねぇか。俺だってお前を殺したくなんざねーよ」「でももしもの時は、この国も世界も地獄も鬼太郎達も滅ぼそうとした時はやってくれるでしょ?」自分を必ず殺してくれる。それをわかっている楓花はどこか子供のように安心した笑顔を藍坊主に見せる。「……」「そこがあんたと鬼太郎の違いよ藍坊主。…だから私はあんたを信用出来る」さて、そろそろ戻りましょう。と楓花はいつもの様に話立ち上がると鬼太郎達がいる村の方向へと歩き出す。その背中は触れれば全てが崩れそうなほど脆く不安定である。(こんな信用は要らねぇんだよな)藍坊主はただ妹のように楓花を想いどうか彼女が鬼太郎達と幸せに暮らしてくれればと願いたい。けれどそれが出来ない事を藍坊主は知っている、そしてその願いが楓花を苦しめ心を壊していくことも。だからせめて「…早く決着をつけねぇとな」どうか彼女が救われるように。
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5日も眠っていた鬼太郎が目を覚まし、楓花達は行きに乗っていた筏に乗りながら島を離れる。島民に手を振り別れる鬼太郎達の後ろで楓花は帆に隠れるような形でオレンジに染る海を見る。(あの方は素直じゃないからね…)鬼太郎達の話を聞きたがらもうとっくのとうに地獄へと戻った五官王を思い出す。
地獄の鍵が鬼太郎へと移ったのを知った彼はしばらく鬼太郎に預けるといった、ただし地獄の許可なしに開けてはならないとも。
今回の戦いは自分達が勝ったの言えるのか、そう心配する鬼太郎に目玉親父は島民も救え、西洋妖怪妖怪も追い払うことが出来た。自分達の勝利だと鬼太郎を励ました。(私だけは完全勝利とは行かなかったわね…)自分の失態に彼女は刻印のある左腕に手を添え強く握る。「痛むのか?」そんな彼女に気づいた藍坊主は周りに気づかれぬよう小声で問う「違うわ、気にしないで 」そういい左腕から手を離す楓花に藍坊主はあまり無理はすんなよ、と心配の言葉をかけるが彼女にその心配など届いていない。「無理をしなきゃやってらんないわよ」未だ視線を海からそらすことの無い彼女に藍坊主はそれ以上の言葉は出ずただ彼女の横にたっていることしか出来なかった。その会話を鬼太郎が聞いているとも知らずに。