話の流れ12


あの戦いから数週間後、怪我は勿論街もギルドも元通りになってまたいつもの日常に戻った。お酒も入ってどんちゃん騒ぎになっているギルドからこっそり外に出て声をかけてくる人に手を振り返して声をかけ返して街から外れると人の代わりに木が増える。(たまにはのんびりとね…)日差しから逃げるように木陰の下をゆったりと歩き、この穏やかに進む時間にアクノロギアやゼレフとの戦いがずっと昔のように感じながら囀る2匹小鳥に目を向ける。人であるフウカから見ても仲睦まじい姿にいいなぁというなんとも言えない羨ましさを感じてしまう。(いやいやいや…!)小鳥に対して何を思ってるんだ私は…!早足でその場を離れて自分の頭を落ち着かせるように倒木へと腰をかける。最近、厳密に言えば1年前。ラクサスに向ける感情を自覚してから実は何回か恋バナ大好き鯖達と女子会という名の恋愛下手くそ初心者であるフウカの相談会を実施していた。1回目2回目と重ねて言って今が第何回目か忘れたものの推しがかっこよくてしんどいと話していた時ついにメイヴから「そろそろ告っちゃいなさいよ」と呆れを浮かばせながら言われてしまったのだ。告白?推しに?私が?無理に決まってんでしょJK。(それに…私は見てるだけで、仲間としてそばに入れるだけで、)モブAの自分が推しに認識されて仲間として接してくれているだけでも凄いことなのだ。だから告白なんて恐れ多い事なんて出来ないし、推しが幸せなら彼女ができたって心からお祝いできる。少しだけ泣くかもしれないけれど。…ん?なら推しにかのピッピができるまでは貢ぐなりなんなりオタクとしてある程度好きなようにしてもいいのでは…?ならラクサスがフリーな間の時間は、「大切にしないとなぁ……」「何を大切にするんだ」「何って…………」あれ、あれ、おかしい、ここには私しかいないのに…いなかったはずなのに!意味もなく地面を見ていた視線を慌てて声のした方へ向ければいまさっきまで浮かべていた姿そのもので、フウカは驚きのあまり声すら喉から消え失せる。ラクサスは自分を見て分かりやすいほど動きが固まるフウカに少し笑みをこぼして、そのまま空いていた隣へと座った。「それで何を大切にするんだ?フウカチャンは」「え……平和な時間、とか…?」「なんで疑問系になんだよ」「だって、あの………秘密」貴方の事を考えてました!なんて言えるはずも無く苦しげに誤魔化せば「そうかよ」とそれ以上は聞いてこず向こうも誤魔化された振りをしてくれる。あぁそういう優しい所も好きだな、推しがすること全てが推し過ぎてそういう所も好きだと感じてしまうほど重症な頭。そんな頭で今ラクサスがここにいることに対して思考が切り替わる。そういえばなんでラクサスがここに?だって今日最後に見た彼は雷神衆と一緒に盛り上がりの中に入っていた姿でフウカは誰にも言わずにここに来たのだ。「ねぇラクサス、なんでここに…」「…来ちゃ悪いかよ」「いやいやいや!そういう事じゃなくて…!」「冗談だ、そんな慌てんな。…お前途中で1人抜けてっただろ」「……もしかして心配して、とか」「さぁな」足を組むとその目はフウカを見ず緩やかな風で揺れる木の葉を追う。そんなラクサスにフウカは否定しないのはずるすぎる。とこの距離とラクサスの言葉に心臓が慌ただしく動く。「で、でも良くここが分かったね結構森の奥まで歩いたと思うんだけど」「滅竜魔導士は鼻が良いからなお前が森にいようがどこにいようが何となく辿れる」「お、おぉ」「…なんだよ」「いや…だって、なんか、」変な声が出て、木陰の下にいるはずなのに体が熱くなって手の平に汗が浮かぶ。だってそれはつまりフウカがどこに居ても探し出せると言うわけで…、それをするための匂いを覚えていて…。自分にとって良い方向にしか回らない思考を否定して欲しくていつもなら絶対に言わない冗談を呟く。「…私の事好きみたいじゃん」フウカを見る目を見開くラクサスにやっぱり言わなきゃ良かったと今更の後悔と羞恥心が水のように湧き出てくる。これ相手からすれば自分大好き人間の言葉じゃん!すぐに取り消そうとなんてね!と口を開こうとするがそこから出てくる言葉は笑みを作るラクサスの言葉に消え失せる「なんだ今頃気づいたのかよ」「え…っ?!」「これでもガキの時から結構一途に想ってたんだけどな」あれあれあれ…?子供の時?それって一体何年前から…どんどん自分の都合がいい方向へと転がっていく流れにこれは夢なのではないかと感じるが、無意識に握りしめた手の震えとクラクラするほどの顔の熱さが嫌という程これが現実だと思い知らせる。「ぁ……ぇ…それは、その…なかまとして…」「この流れでそんな事言うかよ。まぁそれもだが…1人の女としてもだな」「えぁ……!?」「で?フウカ、お前はどうなんだよ」ずいっと顔を近づけられ思わず上半身をそらす。うっ、うっ、顔がいい……。視線をラクサスから外せばこっちを向けと強制のような言葉をかけられ、もう一度元に戻せばまた焦げ茶の瞳と合う。その中で映される1人の女の姿は酷く滑稽だ。言ってもいいのだろうか、私が。この私が。誰にも言えない秘密をこれからも隠しとおそうとする私が、面倒な心を抱える私が。もだもだとそんな事を考える、けれどフウカを捉える瞳がそんな思いすら包み込むように揺らいでいて…。上手く動かない口を開かせる「わたし……」「………」「わ、…わたし、も……すき、」です。と言う頃には尻すぼみで消える。あぁついに言ってしまった。数刻前まで1仲間としてラクサスに彼女ができた時は心から祝おうとさえ考えていたはずなのに。けれど、やはり目の前で見せられるもしもという希望が具現化したものを前に手を伸ばすことを止められなかった。だってフウカはそこまで綺麗な人間ではないから。言っちゃった言っちゃった…木苺のように真っ赤な顔をするフウカにラクサスはゆるりと笑みを深める。その姿が愛おしくてしょうがない、そんな気持ちを伝えるように口端にキスをする。お、推しにチューされた!?!?「〜〜〜!?」「ならこの先手放す気はさらさらねぇから覚悟しとけよ」声にならない声を上げ、先程よりも顔を赤くしているフウカに笑みを深める。ずっと、ずっと想い続けてきた。恋を自覚して、隠してきて、傷つけて…今に至るまでその決して淡いものではなく重く綺麗とは言い難い感情は消えることは無くむしろ時間が進む度にどんどんと体積を増やす。好きだ、好きなんだ…本当ならこんな自分勝手に傷つける最低な野郎なんかでは無く彼女をきちんと幸せにしてくれるような人間がいいのかもしれない、けれど今更愛しい彼女を見知らぬ誰かに渡したくないという独占欲に勝つことは出来なかった。だから今こうしてフウカが自分のものになって、その欲が調子に乗る。ラクサスはフウカが自分に対して何か隠しているのを知っていた、その抱える秘密がどんなものだとしてもこの先何があっても手放すことは出来そうにない。手放される気なら毛頭ないのだが。未だに混乱したままなフウカに手を伸ばして抱き寄せる。びくりと体を震わせながらも少し経ってゆるゆると腕を上げて軽く指を服に引っ掛けるようにして握るその姿にラクサスはどうしようもない愛おしさが溢れて回した腕に力を込めた。

その後2人でギルドに戻っていつもみたいに雷神衆とわちゃわちゃしたりエルザ達と話すフウカ。でも内心はあれが自分の都合のいいもうそうなんじゃないかって考えちゃったりするんだけど外が薄暗くなってそろそろ帰るか〜って思ってラクサスに帰るねって声をかけたらお酒飲んでる途中なのに「送る」なんて言って腰をあげるからもしかして妄想じゃない…?ってちょっと照れて頷くフウカ。その姿に雷神衆はおやおやおや〜???って前とちょっと違う雰囲気に察するし明日詳しく聞いてやろと思いながら見送る。んでギルドを出てちょこちょこと話してたらたまたまお互いの手が触れ合って急にまた意識し始めちゃうフウカ。そんなフウカを見てラクサスは口元をゆるりと上げると触れた右手でフウカの左手の小指を捕まえるとそのまま移動してお互いの指を絡める。こ、これってあの恋人繋ぎでは…!!!私が!推しと!恋人繋ぎ…!!上がる体温をそのままにラクサスの顔を見れば向こうは面白そうに顔をゆがめてフウカを見ていた。けれどその目の奥はゆるゆると慈しむような感情が漂っていて、やっぱりあの時の事は夢でも妄想でも厳格でもなかったと気付かされる。「どうした?」「手…なんで…」「なんでって、恋人なら普通だろうが。これぐらいで何照れてんだよ」先程よりもニタリと笑みを深めるラクサス。悪い笑みを浮かべる推しも好き!!!オタクとしても女としてもいい意味で心臓がバクバクと忙しく動くがこのままやられるのも少し悔しくて握られた手で角張った手を握り返す。残念ながら今のフウカにはこれで精一杯だった。けれどそれはラクサスに対してなかなかのダメージを与える。自分よりも小さくて細くて柔らかい手が少し震えながら握り返すその動作に、赤い顔を隠すように俯くその表情に…。また調子に乗りそうな自身の欲に悪態着きながらラクサスはこれ以上の接触を何とか抑えつつフウカを家まで送った。次の日雷神衆から問い詰められるとも知らずに。

ゼレフとアクノロギアとの戦いから1年後、ルーシィーが主に主役のケム・ザレオン文学賞のパーティーに招待され慣れない正装を着てギルドの人達と共に参加していた。ギルドにいる時とほぼ変わらずどんちゃん騒ぎをしているナツ達に周りの目が呆然としているのが分かりフウカは1人ごめんなさい…ごめんなさい…と心の中で謝る。さすがにテーブルに乗るのはやめようよ…。そんな申し訳なさを感じつつ盛り上がる周りを見ていればレビィはガジルと仲良く話してるしグレイはカナに飲まされてべろんべろんに酔っ払って服を脱ごうとするジュビアを落ち着かせるために裏へ引っ張っていくし、エバは勿論エルフマンと仲良く夫婦喧嘩()をしている。なんか…男女どうし仲が深くなった人が多いような…。自分もその中の一人なのだがそれを今は棚にあげて、ちらりとナツに注意しているエルザに目を向ける。エルザもあのジェラールが王妃となったヒスイ姫の言葉によって自由の身となった事を知った辺りからかあまり興味がなかった髪の手入れなんて始めるし、服も良く私と一緒に可愛いものを見に行ったりする。恋する乙女は可愛いな〜と思いつつそんなきらきらした光景にわ、私だって…と今でも夢のような幻覚のようなふわふわした気分ではあるもののとんでもない奇跡で御付き合いするという立場に立たせてくれたラクサスを探す。その背はバーカウンターに座っていたものの直ぐに見つかって声を掛けようかとするが、その隣には先にミラが居て何か楽しそうに話している。(ラクサスの表情は相変わらず仏頂面であるものの)。そんな2人に自分が入ってもいいのだろうか…?という気持ちと美男美女とか絵になりすぎて見るのが尊いというオタク心から声をかけるのは後でいいかと声をかけるタイミングを計る。けれど運悪くとでも言うべきかミラの後はリサーナがその後はカナがラクサスを飲みに誘い、その時は来る様子は全くない。ラクサスが女の子にモテるのは昔から知っていたし、あの3人はラクサスに対してそういう感情を持ってないということは知っているのだが少し、ほんの少しだけもやもやとしたものが胸の中にできる。フウカとラクサスが付き合っているというのはもう結構前からギルドのほとんどの人に知られていたことだけれども何せ相手は色男、街の噂話が好きな人達や付き合っていることを知らない人達はラクサスは○○と付き合っているんじゃないかという話を多く聞いた。そんな事もあり嫉妬の様なものがフウカの中で浮き出て来るのだが、フウカ自身それに気づいた上でそんなもののために楽しそうにしている推しの邪魔をしたくないと恋心よりオタク心を優先してしまったため会場の端っこでちびちびと1人お酒を飲んでいた。そんなフウカに酒が入り少し気が大きくなったのか、それとも面白半分でか声をかける男2人。「1人で飲んでないでさ、良かったら俺らと一緒に飲まない?」「君可愛いしお酌とかしてくれたら嬉しいなー!」「…えっと…」まさかこんな所で人生初のナンパもどきが…!前世でもあまり、というか全くナンパや絡み等をされたことがなかったフウカは今の状況に少し焦る。声をかける人を間違えているのではないか…なんて思うがどうやらそうでは無いらしい。その目に映る下心のような物を察知し断ろうと口を開くが、なんとも断りずらい空気を出す2人の話にどう返そうかと悩みに悩んでいた時突然後ろから太い腕が回ってきたかと思えばそれはフウカの腰を掴み自身の方へと引き寄せる。「悪ぃがコイツは俺の女だ、誘うなら他のやつを誘いな」すぐ耳元で聞こえた声に目だけを動かして顔を見ればすぐ側に造形の整った顔がありフウカの中で脳内葬式が始まる。推しが今日もかっこいい…。しかし相手側からしてみればその目は牽制すると共にこれ以上彼女にちょっかいを出したら殺すとでも言いたげなそれで男達は酔いが冷めると同時にそそくさとその場を離れた。残ったのはラクサスとフウカだけでフウカは直ぐに脳内葬式を終わらせるとなんでラクサスがここに居るのかと先程まで一緒に飲んでいたであろうカナの方を見れば彼女はまた別の人に絡みに行っている。けれどもその近くにあるグラスはラクサスが持っていたもので飲みかけの酒が入ったそれはただただテーブルの上にちょこんと置かれたままだった。「ラクサス…?」もしかして彼は私が絡まれていたからわざわざ助けに来てくれたのだろうか…返事の返ってこないラクサスの方へ顔をあげると向こうはずっとフウカを見ていたらしくバチりと目が合う。そしてラクサスはフウカの腰に回していない方の手で彼女の顎を優しく掴むと背中を丸めて唇にキスを一つ落とした。触れるだけで離れたラクサスの唇にはうっすらとフウカがつけていたグロスが光る。突然の事に驚きフウカは2度3度目をパチリパチリと瞬きしたあと火がつくように瞬時に顔を赤く染める。その顔にラクサスは笑みを浮かべた、それはいつもフウカに見せるような優しいものではなく加虐が混ざったものだった。「お前はもう少し危機感を持った方がいいな」「だ、だからって…!誰かに見られたらどうするの…!」「誰も見てねぇよ。それに見られた所でどうもならねぇだろ」「私がなるの…!」恥ずかしい恥ずかしいと酒とは別に上ってくる熱にやられた頬に思わず手を添えて周りを見れば皆別の事や自分の事に気を取られていてこちらを向いてない。それに安心したのもつかの間…少し離れたところで自分と同じように顔を赤くさせながらこちらを見ているルーシィとウェンディが人と人の間から一瞬だけ見えてしまった。あぁ…あぁ…見られた…あれ絶対見られた…。次会う時どんな顔して会えばいいんだ…とまたもや襲って来た羞恥心にフウカはラクサスの影に隠れると化粧がつかないようにしながら鍛え抜かれた胸元に額をつける。もうこれ以上はキャパオーバーだ。もう…もう…、そううわ言のように呟くフウカにラクサスは腰に回していた手を背中に移動させる。フウカは怒っているようだがラクサスはそれさえも面白いと、愛おしいとでも言いたげに気持ちのこもっていない謝罪を形だけ送った。「絶対悪いと思ってないでしょ…」「さぁな」「うぅぅ…でもかっこいいから許す…」「…お前少し酔ってるだろ」心の中で思っていても恥ずかしさからかあまり口に出さない言葉を今は何故かするりと出したためラクサスは直ぐに酔いが回り始めていると気づく。前回これよりももっとべろんべろんに酔っ払った時は今よりももっと酷かったため酒はほどほどにしとけと注意したのだが、今はそれはそれでなんだか面白く感じる。もしかしたら自分も酒が回ってきているのかもしれない。しばらくしてフウカはゆるゆると顔をあげてラクサスから少し離れる、頬は未だに赤いものの酒のせいにしてしまえばそれまでだ。もうこれ以上飲むなよと注意を口にすれば「は〜い」と気の抜けた返事が返ってきたかと思えばラクサスの横に移動し珍しくフウカから手を繋がれる。そんな意外な行為にフウカへ目を移せば彼女は中心で盛り上がりを見せるナツ達に目を向け、そして静かにラクサスへと顔を向けた。その目が微かに揺れているのは光のせいか、張られた水の膜のせいか、それとも…「ねぇ、ずっと私の傍に居てね…」「あぁ…当たり前だろ」離れろなんて言われても離れてやるものか。握られた小さい手を傷つけない程度の力でそれでも強く握り返す。その言葉と力にフウカはゆるりと恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑う。その笑顔にもう一度キスをしても許されるだろうか…そんな考えが頭に浮かぶと同時にラクサスはフウカにまた小さくキスを送った。