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リンカもナツがあれほど大事にしていた卵の行方に気になりながら輪の外で話を聞いているが未だに知っている人は現れない。するとミラが面白半分で「自分が食っちゃったんじゃないか」とからかうように言えば当然その言葉に噛みつくようにナツが掴みかかり喧嘩勃発、更にはそれに巻き込まれるかのようにグレイも参戦してしまった。

今はこんなことしてる場合ではないのにと思うが周りの大人を見てもまたか、とあきれるように見ているだけだし、マスターであるマカロフも笑って特にそれを止めることはないし、彼女に視線に気づいたかと思うとGOサインのようにうなづくだけだった。そしてリンカの後ろの彼は「くだんね」ともはや関わろうとしない。

(私が止めにいくのか)

最近なぜか子供たちの喧嘩を止める役割となりつつあったリンカはしぶしぶと腰を上げナツ達の間に割って入っていく

「はいはい、喧嘩はいいけど今はやめようね。大事な卵を探してるんでしょ?まずはそれを見つけないと」
「リンカ…」
「リンカの言う通りだ!喧嘩はやめろ!」

彼女と同じように止めに入ってくれたエルザに感謝しつつ喧嘩を鎮める。すると誰の手にも付けられないほどの凶暴さだったものがすぐに収まった。それもピタリ、という音がつくほど。その理由は簡単、ここにいる子供たちはみんなリンカのことを姉のように慕われ、好かれていた。だからこそ彼女の言う事だけはよく聞いた。無論それを本人が気づくのはもう少し後のことだが。

「俺の卵…どいったんだよ…」
「泣くなよナツ…かわいいなぁ」
「泣いてねえよ!!!」
「その辺にしろミラ!ほら…ナツも泣くんじゃない!」
「泣いてねえよ!!!」

少し言い合いはしているがこれももう日常の一つのためリンカは輪の中から外れるそして一人、卵…と泣きそうになっているリサーナを慰めるように撫でれば服を握り返してきた。ナツのようにみんなの前で泣かないように我慢しているのだ。その健気な姿に励ましの言葉を送り続ける。

「ナツ…リサーナ…ごめん」
「!」
「盗んだわけじゃねーんだ」
「卵!!」
「エルフマン!?」

ギルドの奥から出てきたのはあの大きな卵を抱えたエルフマンだった。無論これは彼が悪意を持って盗んだのではなく、夜はとても冷えるから、二人だけじゃお世話は大変だからという善意の気持ちでこっそりと世話をしていたのだった。撫でていた手を放しリサーナに「行っておいで」というと先程の表情とは打って変わってキラキラとした笑顔で「うん!」とうなずき卵のほうに駆けて行った。

これで一件落着…とリンカがラクサスの隣に座ったその時、ピシリという音を立てて大きな卵に小さなひびが入ったのだ。それはどんどん卵を包む層に全体に入っていく、ついにこの卵の主が生まれるのだ。何が生まれるのか、その光景に周りの人達も集まった行く。彼女の隣で興味ないと言っていたラクサスもこれから生まれてくる生き物がやはり少し気になっているようで目だけを向けて見つめる。無論リンカ自身も初めて見たあの不思議な模様が施してある大きな卵から一体どんな生物が生まれてくるのかと興味津々に見ていた。

そして勢いよく卵から飛び出してきたものは―――――元の世界ではまったく見かけることなんてなかった何とも奇妙な翼の生えた青い子猫だった。その創造の七重上を言った生物にリンカは驚きすぎて声が出ない。猫は哺乳類だから卵から生まれないはずだ…もしかしたらこの世界では私が知らないだけでこういう猫もいるのかもしれない。とまで思ったが周りの反応を見る限りこの世界でもこんな珍妙な生物は初めて見たようだった。しかいこの子猫がどんなに特殊でも可愛いという事には変わりないらしくその小さな口から出た「あい」という独特な返事が色んな人間の心に刺さっていた。もちろんリンカにも。

「ドラゴンじゃなかったけどなんだかかわいい子が出てきたね」
「猫に翼が生えてるけどな」
「でもやっぱり見た目ネコだから可愛い」
「そーかよ」

もう興味がなくなったかのようにラクサスはまた音楽に集中してしまった。そんな彼に苦笑いをしているとどうやら向こうではあの猫の名前が決まったようだった。「ハッピー」安直だが面白いほどにピタリとあてはまる名前だ、そんなハッピーたちを中心にみんなが笑いあっている光景を見てリンカの心は少し暖かくなる。しかしそれと同時に少し息苦しく感じた。


『リンカさん…』
『…どうしたの?』
『……』
『ジャンヌちゃん?』
『……大丈夫ですよ』
『え?』
『貴女には私たちがいます。例えまた貴女が一人ぼっちになっても私たちはずっと御側にいます。だから大丈夫ですよ』
『…うん、ありがとう…』

いいえと言った金髪の聖女はリンカには見えていないが綺麗な笑みを浮かべていた。これでせめて彼女の心にある小さなしこりだけでも消えていてほしい、そんな願いを秘めながらジャンヌはコンパスというシステムの中で静かに祈り続けた。