流氷原の別れ

樺太の玄関口の大泊から約600km。私達、樺太先遣隊はついに亜港へと辿り着いた。あの、網走監獄に潜入した新月の日から、もう2ヶ月半が経つ。まだアシリパ達が大陸に渡ってないのは幸いだった。きっと徒歩だろうし、道中に色んなハプニングがあったんだろう。私達と違って完全な密入国だから危険も多そうだ。

早く会いたい。元気な顔を見て安心したい。早る気持ちを抑えながら、高台で亜港監獄の場所を確認していたその時、低くて鈍い、地面が揺れる音が響いた。

…ドォォォン…

「爆発したぞ!」

遠くからでも煙が上がっているのがわかる。私と月島はすぐに双眼鏡を手にとった。4キロほど先の建物から出たもののようだ。双眼鏡のツマミを回し、倍率を上げるとはっきりと姿が見えてくる。

「あれは…亜港監獄です…!!」

「…キロランケが、仲間を逃す為に何か起こしてるのかもしれません。急ぎましょう。」

私と月島が鯉登に報告し、すぐに犬橇に乗り直した。騒ぎのどさくさに紛れてアシリパ達を逃すなんてことはあってはならない。私は背後から強く杉元を抱きしめた。

「杉元さん、全速力でお願いします。」

「…わかってる。谷垣もチカパシも振り落とされんなよ!」

トートートーと皆で叫ぶと、リュウと樺太犬達がすごい勢いで走り出した。一刻を争うことを察知しているんだろう。目にも止まらない速さで、亜港監獄への道を突き進んだ。

…ドゴォォンッ!!

犬橇で向かう中、亜港監獄に再び爆発音が響いた。いくつもの銃声も聞こえる。しかし、肉眼で見える距離になった頃には、音もおさまり、黒い煙がモクモクと監獄を包んでいるだけだった。看守達は町へと囚人を追ったのだらう。周りにいるのはニヴフの漁師達だけで、このあたりは静かだ。

「キロランケが爆破して囚人を逃したんだ。」

「一歩遅かったが、奴らは近いぞ。」

谷垣と月島が破壊された壁を見ながらそう呟く。工兵ならではの手口だ。逃げたであろう町のほうを双眼鏡で探していると、杉元がリュウにアシリパのマキリの匂いを嗅がせた。リュウは町ではなく流氷のほうを向いている。

「おいおい…流氷の上を逃げたと言うんじゃなかろうな?」

「あり得なくはないでしょう。リュウは銃に残った微かな匂いだけで小樽から釧路まで追ってきた名犬です。」

信じられないと目を見開く鯉登。私が説明しても半信半疑のようだ。

「リュウがあっちというなら信じるぜ。行こう、流氷へ。」

迷っている時間が勿体ない、と杉元が舵を切る。私達は目を合わせて頷き合った。そして、流氷の上を歩こうと一歩踏みだしたその時、背後でチカパシとエノノカが叫んだ。

「どうしたんだお前たち……うわぁ!!」

谷垣の驚いた声に振り返ると、壊れた外壁から虎が顔を覗かせていた。

「トラ!?」

「樺太にはいない筈じゃ!?」

月島、谷垣と共に銃を構えた。三八式の月島、村田銃の谷垣、モシンナガンの私と、それぞれ違う銃に弾を込め、撃発する。

ドォォォン、ドォォォン、ドォォォォーー…ン…

尻尾に掠った程度で当たらなかったが、監獄の中に逃げていってくれたので良しとしよう。

「流氷で大陸から渡ってきたアムールトラでしょうか。」

「そうだろうな。キロランケ達も流氷で大陸を目指しているのかもしれん。…なんて豪胆な奴らだ。」

ウイルタ族の人が教えてくれた話を思い出す。滅多にないと言っていたが、こんな時に虎に遭遇するとは思わなかった。流氷が大陸と繋がるのを待っていたとしたら、計画的な犯行だろうと鯉登が感心している。

「信憑性が増してなによりだよ。ほら、ちんたらしてないで急げ。」

杉元が鯉登をせっつく。犬橇に乗り直し、私達は流氷原を進み出した。

ーーー

しばらく流氷原を走ると、空が雲に覆われて、吹雪いてきた。でこぼこですぐに流氷の段差に突っかかるので橇を持ち上げながら走るのだが、なかなか進みが悪い。徒歩の方がマシなぐらいだ。橇をヘンケと持ち上げる月島が、これ以上進むのは苦労するとコチラに叫んでくる。

「天候も悪くなりそうだ!このまま追うのは危険かもしれん!」

谷垣も引き返そうと杉元に声をかけた。以前、猛吹雪で遭難し、死ぬ一歩手前だったから納得できる。

「…だけど、アシリパさん達が大陸に渡ってしまったら、救出がもっと困難になるんじゃないですか?どこかに幽閉されるかもしれませんし、手がかりがなくなります。」

パルチザンが暗号を聞き出す為にアシリパを拷問したり、最悪、殺しでもしたら目も当てられない。大陸はあまりにも広すぎる。今、ここで捕まえれなかったら、もう彼女に会えない様な気がした。

「そうだ!さっきの爆破を見ただろ?すぐ近くにいるはずなんだよ!」

杉元が頷きながら谷垣達に叫んだ。そのまま持っていたナイフでリュウの橇に繋いでいた紐を切る。

「リュウもビンビン反応してるぜ!今なら追いつける!」

杉元はリュウに引っ張られて、走り出してしまった。私も銃を担ぎながらその後を追う。

「ちょ…待てよ!杉元ッ!結城ッ!」

谷垣の静止する声も聞かず、リュウだけを頼りに私達は白銀の流氷の世界へと飛び込んだ。顔に当たる細かい雪が、痛かったが、そんなものどうでも良かった。だって、アシリパがすぐそこにいるのだから。

リュウと一緒にすごい勢いで前を走る杉元。全力疾走の杉元について行けるはずもなく、距離が少しずつ開いてくる。杉元が心配そうにコチラに振り返った。

「足跡を追うので大丈夫です!先に行ってください!」

「…っ……ありがとうッ!結城さん!」

足手纏いにはなりたくない。杉元の背中を押すと、彼は決心した様に前を向いて、ペースを上げて走っていった。一瞬で姿が見えなくなるを全力だと思っていたのすら、遠慮しながら走ってくれていたみたいだ。

「…はぁ…体力の化け物だなぁ…。焦らずに走ろう…。」

一人になった私は杉元の足跡を辿りながら、着実に前へと歩みを進めた。

パァ…ン

どこかで銃声が鳴った。戦いが始まってるんだ。急いで合流しなければ。双眼鏡であたりを見渡すと、人影が二つ浮かんでいた。その人影の一つは小さく、4尺ほどに見える。

「…っ!!アシリパだ!!」

横にいるのは誰かわからない。白石か、キロランケか、尾形か、それともパルチザンか。私は雪と風に身を隠しながら、急いで人影を追いかける。

視界が悪いのでモシンナガンは背中に抱えて、唯一、捨てなかったG19の拳銃を手に持った。近接戦には、ライフルよりも拳銃のほうが小回りがきくから。

「……あれは…尾形…さん…っ。」

距離を詰めながら顔を見ようと再び双眼鏡を覗くとと、二人の顔がはっきりと見えた。アシリパと、その腕を引っ張る尾形がいた。険しい顔をしながら何やら話している。

こちらに気づいていない。私は気配を消しながら、急いで距離を詰めた。近づくたびに、吹雪はどんどん激しくなる。身体は凍えておかしくないのに、私の心臓は激しく拍動し、指先まで熱くなっている。

あと、数メートル先にまでやっと近づいた時、アシリパが転がったかと思うと矢を尾形に向けた。

「……やれ…。俺…殺し…みろ。清い人間…この世にい……ない。自分…に殺す道理……罪悪感……苦し…ない…。」

尾形の声がかすかに聞こえてくる。尾形はアシリパしか見えていない。一歩、一歩、音を立てない様に彼らに接近した。

「お前の父親を殺したのは俺だ。」

尾形の言葉にアシリパの顔が固まった。アシリパは弓を張り、歯を強く食い縛っている。いつ、その弓を引いてもおかしくない。

「…やれよ…お前も出来る…お前だって俺と同じはずだ。」

「…っ……フゥ……私は殺さない…。」

憎しみに飲まれず、弓を下げたアシリパを確認した私は、拳銃を尾形の頭に向けながら尾形の右側に立った。

「……何がしたいんですか。そんなに死にたいなら私が殺して上げますよ。アシリパさんに殺しをさせて何を証明したいんです?」

「…っ!!結城!!生きていたのか…っ!」

アシリパが私を見て目を輝かせた。目頭が潤んでいる。今すぐにでも駆け寄って抱きしめたいが、それよりも尾形だ。第七師団も土方達も裏切り、アチャを殺し、キロランケと組んで樺太にまで来ておいて、アシリパから殺されようとする理由が見えない。

「…フン、賭けは破る女のくせに、こんなとこまで追いかけて来たか。肩じゃなくて頭を撃つべきだったなあ?」

「裏切った男に律儀に着いていく女が何処にいるんですか。アシリパさんは返して貰います。」

銃口を尾形に向けたまま、アシリパのもとに一歩寄ろうとすると、尾形が三八式をアシリパに向けた。

「結城、ここで俺を殺さないのがお前の甘いところだ。」

尾形が動いても引き金を引けなかった私に、尾形が蔑むように笑った。だって、だって、と頭の中で反芻する。何もわからないまま、殺したくはない。共に過ごした日々がある。情がある。理由もわからないまま、簡単に撃てるわけないじゃないか。キロランケだって、尾形だって、許せないけど死んでほしくはない。

「脅しはやめて、すぐに銃口を下げてください。アシリパさんを傷つけるつもりなら容赦はしません。私も躊躇なく引き金を引きます。」

それでも、杉元やアシリパの為なら戦うと決めた以上、これ以上迷っている暇はない。何も引き出せないままなのは悔しいが、従ってくれないのなら殺す。アシリパの為に生きると、遭難したあの日に覚悟を決めたのだ。はっきりとした意思で私がそう断言すると、尾形の眉間がグッと皺を寄せた。

「…お前達のような奴らがいて良い筈がないんだ。」

声と目で分かった。脅しではなく本気でアシリパを殺そうとしている。三八式の引き金に指をかける尾形を見て、私は唾を飲み込んだ。

もう、無理だ。目の前でアシリパが殺される前に、私の手で尾形を終わらせよう。諦めるように私も拳銃の引き金に人差し指をひこうとした。

「尾形ァ!!!」

すると背後から飛んできたのは杉元の怒声。予期せぬ大声にアシリパの身体がビクッと跳ね、張り詰めていた弓矢が放たれてしまった。

(駄目だ。当たれば死ぬ。)

私は思わず飛び出して、尾形を守ろうとした。伸ばした手は間に合わずに小指を掠る。

(…止めれなかった。尾形さんは、どうなった?)
 
振り向くと、右目に毒矢が刺さり、笑う尾形がいた。

(嫌だ。尾形さんが死ぬ。)

尾形の身体がガクッと傾いた。アシリパの心に深い傷を負わせ、一人で死ぬなんて卑怯だ。何も語らず、自己満足に浸らせたまま、死なせてなどやるものか。

(嫌だ。私の手以外で死ぬな。)

尾形の矢を抜こうと手を伸ばす。ただ、その手は止められ、駆け寄ってきた杉元が倒れる尾形の頭を髪の毛ごと掴んだ。

「俺がやる。結城さんは自分の毒を。」

杉元はさっと小刀を取り出して尾形の目を抉る。それを見て私もすぐさまナイフを出して、毒矢に掠った左手の小指を手袋ごと切り落とした。

「…ッ!」

痛すぎて泣く。それでも、猛毒が全身にまわって死ぬよりマシだ。持っていた小瓶のウォッカをかけ、
溢れ出す血を無理やり圧迫しながら、布をキツく巻いて止める。

ジュー…ブーッ…ジュー…ブーッ

自分の処置が終わって振り返ると、尾形の毒を出そうと目の血を吸い、吐く杉元がいた。手慣れた様子で外套を引き裂き、布で止血していく。

「この流れでは死なさねぇぞ。あの子を人殺しにさせねぇ。お前の『死』にこれっぽっちも関わらせるもんかよ!」

杉元がそう叫んだ。私も尾形の顔の横に腰を下ろして、彼に囁く。

「目的も思惑も、全部吐いて貰いますからね。そう簡単に死ねると思わないで下さい。」

尾形の手がピクリと動いて、私のコートの裾を掴んだ。荷物の中にあった、残り少ない解熱剤、鎮痛剤を尾形の口に入れようと、頭を持ち上げる。嚥下出来るか水を飲ませてみたが、その力はない様で尾形の口から水が溢れた。さっき、私の裾を掴んだ手も既にうなだれている。

ガリッ…

私はロキソニン、カロナール、フロモックスを噛み砕くと、水を口に含んで、尾形の口内へと押し込んだ。尾形の口から漏れない様に、嚥下が起きるのを待つ。

(ちゃんと飲み込め。最後に必要なのは自分の力だから。)

尾形には聞きたいことが山のようにある。何故裏切る前にキスしてきたのか。何があっても合流しろと命令しておきながら何故私を撃ったのか。頭を狙えたのに、何故肩を撃ち抜いたのか。裏切った癖に何故アシリパに殺されようとしたのか。ちゃんとその口から吐いて貰わなければ気が済まない。だから、どうか、飲み込んで。

ゴクン…ッ

尾形の口を私の口で塞ぎ、砕いた錠剤と水を流し込んで、数秒後、やっと尾形の喉が鳴った。無事に嚥下出来たのを確認した私は、唇をそっと離す。顔を上げると距離をとって目を隠しながら、こちらを伺う白石がいた。

「…あ、ごめん、見ちゃいけないものの様な気がして。」

「何ですか、それ。ただの医療行為ですよ。」

顔を赤くする白石に呆れながら杉元の方を振り返ると、アシリパと感動の再会からの抱擁をしていた。思わず笑みが溢れた。涙目の二人が、自分のことの様に嬉しい。邪魔しちゃ駄目だな、とズリズリと尾形を引きずる。白石も、リュウが邪魔しないようにリードを引っ張っていた。

尾形の隣に腰掛け、二人を眺めながら私も薬を飲む。小指を切り落とした出血で貧血気味なので、レバーの干し肉も咥えた。

「片目を失って、狙撃手として終わりですね。今後は、どうやって生きていきます?」

尾形から返事はない。毒と出血と痛みで気を失っているだろうから、もともと返事は求めていなかった。干し肉を噛みながら、尾形の三八式を鹵獲し、弾を抜く。三八式を背負って立ちあがると、白石が杉元に呼ばれて、杉元とアシリパに放尿していた。

「…いや、なんでそんな事になってるんですか…。」

オシッコを顔にかけられた二人にドン引きしながらも、持っていた残りの水と手拭いを持って三人の元へと歩み寄る。抱き締めあった時に、アシリパの瞼がコートのボタンにくっついてしまったらしい。急いで尿まみれのアシリパの顔を水で流し、凍らない様に手拭いで拭った。

「ぅぅ…結城……。お前も生きていたんだな…っ!!」

せっかく顔を拭ったのに、また涙を溢すアシリパ。白石も涙を流しながら抱きついてこようとするので、両手で止めた。また金具がくっついて放尿なんて嫌すぎる。せめて、宿に戻ってからお願いしたい。私は杉元の荷物を白石に持たせて微笑む。

「無事に再会できて、とても嬉しいです。ただ、話は足を動かしながらしましょうか。」

うんうん、と頷く二人の背中を叩きながら、私達はキロランケの方へと走り出した。

ーーーー

網走であった事、キロランケの事を話しながら、走っていると、双眼鏡にキロランケの姿が映った。鯉登と揉み合っている。

「アシリパさん!あっちです!」

尾形を背負って杉元と、荷物を持つ白石の代わりに私が前を走る。嫌な予感が身体中を駆け巡って、再び双眼鏡を覗くと、銃を構える谷垣と月島の姿が見えた。

「谷垣さんが月島さんがキロランケさんを撃とうとしてます!話を引き出す前に止めないと!!」

叫びながら、全力で走る。目で捉えた時には、既に遅く、谷垣と月島が銃弾を放っていた。やめて!と叫ぶが、こちらの声は届かない。倒れたキロランケが爆弾を投げる姿が見える。あと、もう少し、もう少しなのに。全員が爆死なんて、最悪だ。走りながら、ぐっと顔を顰めた。

ドシュゥ……

爆発音は響く事なく、不発音に終わる。鯉登がサーベルで爆弾を切り落としたのだ。

「…ははっ…流石…薩摩隼人…。」

鯉登の美しい剣技に笑みが溢れてしまう。だが、そんな気が緩んだのも束の間、月島の声が響いた。

「谷垣撃て!」

「待って!!!」

なんとか間に合った。アシリパがキロランケに駆け寄り、谷垣を止めにかかる。すぐに谷垣は武装を解いたが、月島は銃を構えたままだ。

「月島さんも銃を下ろしてください!」

「どけッ七瀬!そいつは手負いの猛獣だ!!」

私が月島の前に立っても、彼は銃を下ろそうとしない。首から血を流しながら、トドメを刺そうとしている。

「離れてッ!殺したら分からなくなる!」

アシリパが悲痛な声で叫んだ。満身創痍の月島なら止めれる。私は月島の銃を右手で回転させるように奪い、無効化させた。月島が鋭い目で睨んできたので、私は彼に頼む様に告げる。

「…もう、キロランケさんは助かりません。少しだけでも話をさせてあげて欲しいんです。不審な動きをすればこの手で止めますから。」

「………。」

黙り込む月島。彼の良心を信じて、月島の小銃は彼の手に返した。アシリパとキロランケは何やら話している。私は拳銃を持ちながら、二人に寄り添った。

「結城……。カントコロカムイの使い…どうか、樺太をアムールを、北海道を…俺たちの未来を守ってくれ…!」

私に気付いたキロランケが血に塗れながら、私に縋ってきた。もちろん、神様の使いなんかじゃない。でも、死に際に彼の想いを否定したくもない。私は何も言わずに、ただキロランケの手を握った。

「あとは頼んだぞアシリパ…!!『俺たち』のために…ソフィアと…。」

キロランケはアシリパをもう一度見つめるが、声が段々と小さくなっていく。

「ソフィア…!」

目の光が消える前に、とアシリパが聞きたかった事をキロランケにぶつけた。

「キロランケニシパがアチャを殺したというのは本当か?」

しかし、返事はなかった。目の瞳孔が開き、呼吸も止まっている。心臓に耳を当てるが、何の音もしなかった。

「キロランケニシパ…キロランケニシパ…。」

キロランケの身体を揺らし、名前を呼ぶアシリパの声が流氷原の風に乗って消えていく。強く、低く、優しいキロランケの声はどれほど待っても返ってこない。

吹雪が去り、雲間から太陽の光が地上に降り注いでいる。天使の梯子とも言われる光芒が、キロランケを連れ去っていってしまった。

息を引き取った彼を前に、私とアシリパは肩を寄せ合い涙を零した。キロランケの顔に落ちた雫は、悲しいほどキラキラと輝いていた。


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