9月12日、日曜日。その日が初戦だと聞いていたから夜に結果を教えてもらえるかなと期待していたけれど、倉持くんは来なかった。
当たり前に報告してもらえると思っていたなんて恥ずかしい。勝手に友だちのように思って期待して、失敗してきたというのに。
おかしくなっている思考を取り戻すように空を見上げた。明るい星が少ない秋の空に土星が一際目立っている。望遠鏡があれば環まで見えるのにな。もうないものを願っても仕方ないんだけど。
次に倉持くんが来たのは数日経ってから。ずいぶん遅い時間に現れた彼は珍しくバットも持たず、すぐに隣に座った。
「何だそれ」
「これ?お団子です」
「いや、まあ団子だろうな」
「今日は十五夜ですよ。お月見の日です」
レジャーシートの横に簡易的なテーブルをおいて、ドラッグストアで売っていたお団子の串が3本入ったパックを3つ並べていた。
こしあん、つぶあん、みたらし。どれが食べたいかわからなくて全部買ってきたのだ。とはいえまだ1本も食べていない。
「十五夜に団子って、マジでやるのかよ」
「え、やりません?私子どもの頃は家でお母さんと丸めましたよ」
「やったことねぇな」
今日だって夜ご飯は月見そばだった。うさぎの置物とすすきを玄関のところに飾って、偽物のお団子もおいて、きっと今頃お父さんとお母さんも窓から月を見ているだろう。
今日は一緒に行こうかな、と言っていたお母さんを置いてここに来た。倉持くんが来るんじゃないか、ってまだ期待してしまっていた。来てくれて嬉しい、なんていうこの気持ち、絶対後悔するんだろうってわかっているのに消せないでいる。
「つーか今日は17日じゃね?」
「はい、十五夜の15は、旧暦の8月15日のことです」
「あー・・・?」
「秋はどんどん空気が澄んでいって月が綺麗に見えるから、この時期の満月を眺めながら農作物の収穫に感謝するっていう習慣が昔から続いているみたいです」
収穫への感謝、という気持ちはいつも忘れてしまう。ただ夜の空気が涼しくなって、霧がかっていた夏の夜空がどんどんクリアになっていって、それが嬉しいから十五夜は好きだった。明るい星は少ない秋の空でも、遠くまでいろんな星が見えるような気がする。
今日だってこんな明るい月の出た空で、土星もフォーマルハウトもくっきり見えた。
「食べますか?お団子」
「え、いーの?」
「一緒に食べましょ」
バットは持っていないけれど今日も遅くまで練習していたであろうことはわかる。満月の下、倉持くんの顔はいつもより疲れて見えた。
倉持くんがみたらしを選ぶから、私も一緒になってみたらし団子を食べた。静かな夜、自分の咀嚼音がやけに響いて感じられる。
「こういうイベント、ちゃんとやりたい派?」
「やりたい派・・・というか、やるのが当たり前だった派ですかね」
「あれか、親がサンタやってくれる家か」
「うん、やってくれました。倉持くんちは?」
「うちはプレゼント買う余裕ねぇからなー、ケーキは買ってくれたけど」
私がひと玉食べる間に倉持くんは一串食べ終わってしまったらしい。他のパックも見ているからどうぞと手を向けると、嬉しそうにこしあんを開けた。
お団子を取る手の小指の付け根あたりに大きな絆創膏が貼ってある。
「甘いもの、好きですか?」
「普通、でも団子って久しぶりでうまいわ」
初戦がどうだったのか気になったけれど、彼が言わないのであれば聞かないほうがいいのだろうと思った。おいしそうにお団子を食べる倉持くんが楽しそうだから、それでいい。