#9
25日は予定通り朝からみんなで美術館に入って、設営作業を始める。
途中、展示物を吊るす器具の強度不足が発覚すれば搬入業者の人に強度の高め方を助言してもらった。
展示物の印刷が違うハプニングが起きればパソコンで修正して大至急手配する。
チームメンバーだけでは出来なかったことを現場に居る人たちの知恵でどうにか乗り切り、設営が終わったのは陽も落ちて世間はそろそろ夕食を始めるの時間帯だった。
「終わっ……た……?」
「……おわった」
あー、とかうーとか呻き声とともにみんなその場に座り込む。
疲れた。ほぼ一日立ちっぱなしの体力勝負は普段デスクワークしている身としては辛い。
「はいはい、お疲れさま! 設営終わったから次は撤収だよ。もうひと踏ん張り頑張ってー」
チームリーダーが手を叩きながらみんなを鼓舞するけどもうちょっと休ませてほしい。
「ちょっと余韻に浸らせてくださいよー」
「早く撤収しないとうちのチビ共が寝ちゃうの! お前らも早く打ち上げしたいでしょ」
「打ち上げやるんすか?」
「クリスマスなのに?」
「折角仕事が終わったんだから飲みたいやつもいるでしょ。明日休みだし。俺は帰るけど」
チームリーダーは節々に“帰りたい”の言葉を混ぜてきて私たちを急かす。
「リーダーのお子さんまだ小さいすもんね。そろそろ家族の認識から外れるんじゃないですか?」
「今日が“パパ”の瀬戸際なんだ! ホント早く帰りたい!」
チームリーダーの悲痛な叫びにみんな笑いながら撤収作業を始めた。
* * *
「本当に終わったー」
「明日から開催でしょ」
「プレもやらずに一般公開とか怖っ」
「とりま行けるやつで飲みに行こうぜ。腹減った。刺し身食いたい」
「今日はチキンじゃないの?」
「それはカップルや家族が食べるやつだ」
みんな思い思いの言葉を口にしながらホテルのロビーに出る。
私もお腹空いたな。あと最近飲めていないお酒が飲みたい。
だけど――。
「駅前の居酒屋行くけどお前はどうする?」
「んー、今日はやめておきます。なんと私、今日はここのホテルに泊まるんです!」
飲みの誘いを断って、ドヤ顔で今日はここに泊まる宣言をする。
「いーなー、私も部屋取れば良かった」
「シングル一部屋くらいなら空いてるんじゃない?」
「クリスマスの夜に女一人チェックインとか寂しいしかないから嫌です!」
「はいはい、愚痴は酒飲みながらな。じゃあ、彼氏と仲良くねー」
「はーい、お疲れさまです!」
わいわいと出ていくみんなをホテルの入口で見送る。
彼氏と泊まるつもりだったけど、クリスマスの夜に女一人でチェックインしまーす。
結局部屋はキャンセルできるけど、キャンセル料が宿泊費100%だったから勿体ないし泊まることにした。
いつもより広い風呂にお湯を張って足を伸ばそう。
ダブルベッドの上をゴロゴロ転がって余すことなく使おう。
そんな風に考えながらチェックインの手続きをして、エレベータホールに向かうと庭園に続く扉が見えた。
庭園……、そういえばまだ行ったことないな。
あの日――杏寿郎さんのお見合いの日に行こうとしたけど結局行かなかったんだ。
庭園に出ればクリスマスのライトアップがされていて、綺麗に整えられた植木の真ん中にはクリスマスツリーが飾られていた。
場を盛り上げるためか控えめだけどクリスマスソングもBGMとして流れていて、なんとなくツリーの下に来てぼんやり眺める。
仕事も無事に終わったし、本当は杏寿郎さんに連絡するべきなんだろう。
でももしお見合い相手と会っている最中だったら?
クリスマスに失恋確定だけは流石に避けたいなあ。
決定的な言葉がないからまだ恋人関係が続いてると思っている私は、未練がましくクリスマスプレゼントを持ってきている。
仕事が終わった途端に考えるのは杏寿郎さんのことなんて、私ってば杏寿郎さんのこと大好きじゃん。
朝の寝ぼけ顔、繋いだ手の大きさ、ホテルの予約を取ったときとか、プレゼント買ったときのこととかを思い出したらもう駄目だった。
スマホを取り出して履歴を遡る。
あの日、私から連絡するって言ったまま最後のメッセージの履歴は二週間も前。
もう愛想を尽かされてしまったかもしれないと、震える指先で通話ボタンをタップすると、杏寿郎さんは直ぐに出てくれた。
『もしもし?』
「杏寿郎さん……」
『仕事、終わったか?』
「杏寿郎さん」
『うん?』
「きょうじゅろ、さ……」
『うん』
ずっと連絡をしていなかったのに、杏寿郎さんの声がすごく優しくて名前しか呼べない。
「……たい。杏寿郎さんに逢いたいっ」
たった一言。言いたくて飲み込み続けた言葉がやっと音になった。
次の日があるからとかを言い訳に我慢していた言葉。
『連絡をくれたら直ぐに行くと言っただろう。下ばかり見てないで顔を上げてみるといい』
電話の向こうから聞こえる声に混ざってクリスマスのBGMが聞こえる。
それは今私が此処で聴いているのと同じ曲で――。
クリスマスツリーのほんの少しだけ向こうに見える人。
見間違えることなんて絶対ない。
鮮黄色の髪の毛、力強い眉に長いまつ毛、口元は安心を与えるようにいつだって口角が上向いている。
私の大好きな人。
仕事の解放感もあったのかもしれない。感情が抑えられなくて泣くのも止められなくて、たった一つで一番言いたいことを言う。
「杏寿郎さん……好――」
言い終わる前に温もりに包まれた。ずっと欲しかった温もり。
「結婚しよう」
大きい体にすっぽり包まれる幸せを知っているから、手放さないように腕を回したら埋まってしまうほど強く抱き締められる。
「ナマエを俺の人生に巻き込ませてくれ。この先を共に歩みたい」
私は泣くばかりで何も答えられていないけど、杏寿郎さんは私の心に染み込むように言葉を紡いだ。
杏寿郎さんの言葉はすごく嬉しい。でもやっぱり怖くてグズってしまう。
付き合うときもこうやってグズって杏寿郎さんを困らせて、全然成長してない。
「杏寿郎さん、は煉獄家、の嫡男で……。わ、たし……家柄、とか……何もない」
「煉獄家の名が枷になるなら俺が婿入りする。家の繋がりを気にするというならうちには千寿郎もいるし問題ない」
私がこの人の人生を変えてしまっていいの?
私の迷いを表すように緩む腕を、許さないとばかりに抱き締められている腕に力が入った。
「この先ナマエには俺よりもっといい相手が現れるかもしれない。けど駄目なんだ。俺がナマエじゃないと駄目なんだ。ナマエの気持ちが聞きたい。聞かせてくれっ」
私から巻き込めって言って、それに応えようとしてくれる杏寿郎さんにまた涙が溢れてくる。
気持ちなんて決まっている。体裁とかじゃなくて私の素の気持ち。
これ以上ないほどの力を込めて杏寿郎さんのコートを強く握った。
「……する。杏寿郎さんと結婚したい。私、も……杏寿郎さんを私の人生に巻き込みたい」
少し身体が離れて顔が見れる距離になる。
杏寿郎さんもちょっとだけ涙目だ。不安だったのは私だけじゃなかった。
「……ありがとう」
お礼なんて必要ないのに。むしろ私の方がありがとうって言いたい。
「ナマエに不安や心配をかけたくなくて、俺の言葉が足りずに結果不安にさせて本末転倒だった」
「私こそ、何も言わずにごめんなさい」
杏寿郎さんは指で私の涙を拭ってくれるけど、止まることを知らない涙にふっと笑った。
「泣いている今の状況で信用がないかもしれないが、ナマエの心も身体も守る」
「守られてばかりじゃ、嫌ですからね」
「む?」
鼻をずずっと啜って言いたいことを言う。
「……好きなだけじゃどうにもならないことって沢山あると思うんです」
「ああ、そうだな」
「でも好きだからどうにかしたいって思うんです」
「ああ」
「巻き込んでくれなきゃ一緒に戦えないです」
一体何と戦うんだと言われそうだけど、杏寿郎さんはその言葉に真っ直ぐに、ちゃんと答えてくれた。
「――そうだな、これからは沢山巻き込むから一緒に戦おうか」
「負けないように頑張ります」
「ナマエが好きだ。それこそ母上に負けないくらいにな! だから、何かあっても二人でどうにかしていこう」
急に出てきた瑠火さんの名前に涙が止まる。
「あの! 誤解してほしくないんですけど、私、瑠火さんの娘になりたくて杏寿郎さんと結婚したいって言っているわけじゃないですからね」
「知っている! ナマエが俺のことを大好きなのは充分に感じているからな!」
さっきまでの雰囲気はもうどこかに行ってしまって、いつものやり取りになっていく。
それは杏寿郎さんも感じたみたいで二人で笑った。
「さて、こんな時間だが何か食べに行こうか。と思ったが電車がもうなくなるから先に宿を探すか」
杏寿郎さんは私の荷物をひょいと拾うと腰に手を回してきたのでストップをかける。
「あああああのっ」
「ん? トイレか?」
「違っ! ここのホテル、部屋を取っているんです……ダ、ダブルで」
「っ、いつ、取ったんだ?」
「前に、クリスマスは一緒に過ごそうかって話をしたときくらいに……」
完全に浮かれて宿泊予約しましたって言っていて恥ずかしい。
「それは、俺と泊まるつもりでか?」
ああ、ちょっと意地悪で言わせたがり聞きたがりの声と顔をしている。
杏寿郎さんの望みの行動を起こすまで解放されないやつ。
恥ずかしくて目を瞑りながらこくりと頷く。
「……職場からのクリスマスプレゼントで、今回の案件のメンバー全員、明日休みなんです」
だから明日の朝も、なんなら夜まで一緒に居られると遠回しに言えば首元に杏寿郎さんの顔が埋まった。
「今の俺はだいぶ浮かれているかもしれない」
「へ?」
「今日はナマエとずっとくっついていたい」
杏寿郎さんは埋めた顔を上げると、指をゆっくり絡めながら口元へ持っていって手の甲に口付ける。
そこにかかる息と、私を見る瞳が熱を放って身体の奥を熱くした。
「私も……、今日はずっとくっついたいです」
「よし! そうと決まれば部屋に行こう! ご飯はルームサービスにしよう!」
さあさあ、と庭園からホテル内へ誘導する杏寿郎さんの足取りが軽い。
「その前に、一人でチェックイン手続きしちゃったので二人に変更しなきゃですね」
まあ、私たちのやり取りは庭園のツリーの下だったため、他のお客さんはじめフロントの人にも丸見えで。
なんなら仕事で関わった美術館の人にも見られていたりして、チェックイン手続きはそれはもう羞恥だった。
「本当に終わったー」
「明日から開催でしょ」
「プレもやらずに一般公開とか怖っ」
「とりま行けるやつで飲みに行こうぜ。腹減った。刺し身食いたい」
「今日はチキンじゃないの?」
「それはカップルや家族が食べるやつだ」
みんな思い思いの言葉を口にしながらホテルのロビーに出る。
私もお腹空いたな。あと最近飲めていないお酒が飲みたい。
だけど――。
「駅前の居酒屋行くけどお前はどうする?」
「んー、今日はやめておきます。なんと私、今日はここのホテルに泊まるんです!」
飲みの誘いを断って、ドヤ顔で今日はここに泊まる宣言をする。
「いーなー、私も部屋取れば良かった」
「シングル一部屋くらいなら空いてるんじゃない?」
「クリスマスの夜に女一人チェックインとか寂しいしかないから嫌です!」
「はいはい、愚痴は酒飲みながらな。じゃあ、彼氏と仲良くねー」
「はーい、お疲れさまです!」
わいわいと出ていくみんなをホテルの入口で見送る。
彼氏と泊まるつもりだったけど、クリスマスの夜に女一人でチェックインしまーす。
結局部屋はキャンセルできるけど、キャンセル料が宿泊費100%だったから勿体ないし泊まることにした。
いつもより広い風呂にお湯を張って足を伸ばそう。
ダブルベッドの上をゴロゴロ転がって余すことなく使おう。
そんな風に考えながらチェックインの手続きをして、エレベータホールに向かうと庭園に続く扉が見えた。
庭園……、そういえばまだ行ったことないな。
あの日――杏寿郎さんのお見合いの日に行こうとしたけど結局行かなかったんだ。
庭園に出ればクリスマスのライトアップがされていて、綺麗に整えられた植木の真ん中にはクリスマスツリーが飾られていた。
場を盛り上げるためか控えめだけどクリスマスソングもBGMとして流れていて、なんとなくツリーの下に来てぼんやり眺める。
仕事も無事に終わったし、本当は杏寿郎さんに連絡するべきなんだろう。
でももしお見合い相手と会っている最中だったら?
クリスマスに失恋確定だけは流石に避けたいなあ。
決定的な言葉がないからまだ恋人関係が続いてると思っている私は、未練がましくクリスマスプレゼントを持ってきている。
仕事が終わった途端に考えるのは杏寿郎さんのことなんて、私ってば杏寿郎さんのこと大好きじゃん。
朝の寝ぼけ顔、繋いだ手の大きさ、ホテルの予約を取ったときとか、プレゼント買ったときのこととかを思い出したらもう駄目だった。
スマホを取り出して履歴を遡る。
あの日、私から連絡するって言ったまま最後のメッセージの履歴は二週間も前。
もう愛想を尽かされてしまったかもしれないと、震える指先で通話ボタンをタップすると、杏寿郎さんは直ぐに出てくれた。
『もしもし?』
「杏寿郎さん……」
『仕事、終わったか?』
「杏寿郎さん」
『うん?』
「きょうじゅろ、さ……」
『うん』
ずっと連絡をしていなかったのに、杏寿郎さんの声がすごく優しくて名前しか呼べない。
「……たい。杏寿郎さんに逢いたいっ」
たった一言。言いたくて飲み込み続けた言葉がやっと音になった。
次の日があるからとかを言い訳に我慢していた言葉。
『連絡をくれたら直ぐに行くと言っただろう。下ばかり見てないで顔を上げてみるといい』
電話の向こうから聞こえる声に混ざってクリスマスのBGMが聞こえる。
それは今私が此処で聴いているのと同じ曲で――。
クリスマスツリーのほんの少しだけ向こうに見える人。
見間違えることなんて絶対ない。
鮮黄色の髪の毛、力強い眉に長いまつ毛、口元は安心を与えるようにいつだって口角が上向いている。
私の大好きな人。
仕事の解放感もあったのかもしれない。感情が抑えられなくて泣くのも止められなくて、たった一つで一番言いたいことを言う。
「杏寿郎さん……好――」
言い終わる前に温もりに包まれた。ずっと欲しかった温もり。
「結婚しよう」
大きい体にすっぽり包まれる幸せを知っているから、手放さないように腕を回したら埋まってしまうほど強く抱き締められる。
「ナマエを俺の人生に巻き込ませてくれ。この先を共に歩みたい」
私は泣くばかりで何も答えられていないけど、杏寿郎さんは私の心に染み込むように言葉を紡いだ。
杏寿郎さんの言葉はすごく嬉しい。でもやっぱり怖くてグズってしまう。
付き合うときもこうやってグズって杏寿郎さんを困らせて、全然成長してない。
「杏寿郎さん、は煉獄家、の嫡男で……。わ、たし……家柄、とか……何もない」
「煉獄家の名が枷になるなら俺が婿入りする。家の繋がりを気にするというならうちには千寿郎もいるし問題ない」
私がこの人の人生を変えてしまっていいの?
私の迷いを表すように緩む腕を、許さないとばかりに抱き締められている腕に力が入った。
「この先ナマエには俺よりもっといい相手が現れるかもしれない。けど駄目なんだ。俺がナマエじゃないと駄目なんだ。ナマエの気持ちが聞きたい。聞かせてくれっ」
私から巻き込めって言って、それに応えようとしてくれる杏寿郎さんにまた涙が溢れてくる。
気持ちなんて決まっている。体裁とかじゃなくて私の素の気持ち。
これ以上ないほどの力を込めて杏寿郎さんのコートを強く握った。
「……する。杏寿郎さんと結婚したい。私、も……杏寿郎さんを私の人生に巻き込みたい」
少し身体が離れて顔が見れる距離になる。
杏寿郎さんもちょっとだけ涙目だ。不安だったのは私だけじゃなかった。
「……ありがとう」
お礼なんて必要ないのに。むしろ私の方がありがとうって言いたい。
「ナマエに不安や心配をかけたくなくて、俺の言葉が足りずに結果不安にさせて本末転倒だった」
「私こそ、何も言わずにごめんなさい」
杏寿郎さんは指で私の涙を拭ってくれるけど、止まることを知らない涙にふっと笑った。
「泣いている今の状況で信用がないかもしれないが、ナマエの心も身体も守る」
「守られてばかりじゃ、嫌ですからね」
「む?」
鼻をずずっと啜って言いたいことを言う。
「……好きなだけじゃどうにもならないことって沢山あると思うんです」
「ああ、そうだな」
「でも好きだからどうにかしたいって思うんです」
「ああ」
「巻き込んでくれなきゃ一緒に戦えないです」
一体何と戦うんだと言われそうだけど、杏寿郎さんはその言葉に真っ直ぐに、ちゃんと答えてくれた。
「――そうだな、これからは沢山巻き込むから一緒に戦おうか」
「負けないように頑張ります」
「ナマエが好きだ。それこそ母上に負けないくらいにな! だから、何かあっても二人でどうにかしていこう」
急に出てきた瑠火さんの名前に涙が止まる。
「あの! 誤解してほしくないんですけど、私、瑠火さんの娘になりたくて杏寿郎さんと結婚したいって言っているわけじゃないですからね」
「知っている! ナマエが俺のことを大好きなのは充分に感じているからな!」
さっきまでの雰囲気はもうどこかに行ってしまって、いつものやり取りになっていく。
それは杏寿郎さんも感じたみたいで二人で笑った。
「さて、こんな時間だが何か食べに行こうか。と思ったが電車がもうなくなるから先に宿を探すか」
杏寿郎さんは私の荷物をひょいと拾うと腰に手を回してきたのでストップをかける。
「あああああのっ」
「ん? トイレか?」
「違っ! ここのホテル、部屋を取っているんです……ダ、ダブルで」
「っ、いつ、取ったんだ?」
「前に、クリスマスは一緒に過ごそうかって話をしたときくらいに……」
完全に浮かれて宿泊予約しましたって言っていて恥ずかしい。
「それは、俺と泊まるつもりでか?」
ああ、ちょっと意地悪で言わせたがり聞きたがりの声と顔をしている。
杏寿郎さんの望みの行動を起こすまで解放されないやつ。
恥ずかしくて目を瞑りながらこくりと頷く。
「……職場からのクリスマスプレゼントで、今回の案件のメンバー全員、明日休みなんです」
だから明日の朝も、なんなら夜まで一緒に居られると遠回しに言えば首元に杏寿郎さんの顔が埋まった。
「今の俺はだいぶ浮かれているかもしれない」
「へ?」
「今日はナマエとずっとくっついていたい」
杏寿郎さんは埋めた顔を上げると、指をゆっくり絡めながら口元へ持っていって手の甲に口付ける。
そこにかかる息と、私を見る瞳が熱を放って身体の奥を熱くした。
「私も……、今日はずっとくっついたいです」
「よし! そうと決まれば部屋に行こう! ご飯はルームサービスにしよう!」
さあさあ、と庭園からホテル内へ誘導する杏寿郎さんの足取りが軽い。
「その前に、一人でチェックイン手続きしちゃったので二人に変更しなきゃですね」
まあ、私たちのやり取りは庭園のツリーの下だったため、他のお客さんはじめフロントの人にも丸見えで。
なんなら仕事で関わった美術館の人にも見られていたりして、チェックイン手続きはそれはもう羞恥だった。
* * *
「そういえば、杏寿郎さんなんでこのホテルに居たんですか?」
「む? ナマエが以前、今日仕事の納品日だって言っていたからな」
チェックインも終わって部屋に向かう廊下で素朴な疑問が浮かぶ。
「最初はナマエの部屋に向かったんだが、今日が納品日なら現場にいる可能性のほうが高いと思ったんだ」
正解だったなって笑う杏寿郎さんだけど、時間的に結構待っていたんじゃないかな。
鼻もちょっと赤かったし。
繋がっている手に力を入れて杏寿郎さんの視線を自分に向ける。
「どうした?」
「現金ですけど、単純に嬉しいなって思って。来てくれてありがとうございます」
「うむ!」
にっこり笑う杏寿郎さんの手にも力が入って手同士の隙間がなくなった。
“ずっとくっついていたい”がもう実行されているんだと思ったら面映ゆくなる。
「ふふ」
「どうした?」
「なんでもないです」
「? そうか?」
本当に単純だと思うけど、嬉しいのだから仕方ない。
そんな小さな嬉しさを噛み締めながら絨毯敷きの廊下を二人で歩いた。
「そういえば、杏寿郎さんなんでこのホテルに居たんですか?」
「む? ナマエが以前、今日仕事の納品日だって言っていたからな」
チェックインも終わって部屋に向かう廊下で素朴な疑問が浮かぶ。
「最初はナマエの部屋に向かったんだが、今日が納品日なら現場にいる可能性のほうが高いと思ったんだ」
正解だったなって笑う杏寿郎さんだけど、時間的に結構待っていたんじゃないかな。
鼻もちょっと赤かったし。
繋がっている手に力を入れて杏寿郎さんの視線を自分に向ける。
「どうした?」
「現金ですけど、単純に嬉しいなって思って。来てくれてありがとうございます」
「うむ!」
にっこり笑う杏寿郎さんの手にも力が入って手同士の隙間がなくなった。
“ずっとくっついていたい”がもう実行されているんだと思ったら面映ゆくなる。
「ふふ」
「どうした?」
「なんでもないです」
「? そうか?」
本当に単純だと思うけど、嬉しいのだから仕方ない。
そんな小さな嬉しさを噛み締めながら絨毯敷きの廊下を二人で歩いた。