― 君と歩く帰り道は「小さな幸せ」 ―

学パロ


 ――たんぽぽも可愛いけどどっちかって言うと菜の花かな。
 そう言った子は何を想って、そしてどんな顔をしていたんだろう。
 俺はそれだけがずっと気になっていた。

* * *

「我妻って春生まれじゃないの?」
「俺は秋生まれだよ。は! もしかして俺、春の陽だまりみたいにぽかぽかしてるってこと?」
「いや、別に。その頭髪から花粉飛ばしそうだなって」
「なんか汚い感じに言うのやめて! それに秋だって花粉飛びますけど!」

 なんの巡り合わせか俺は平和な世の中に生を受けて、なんの因果か100年くらい前の記憶を持っていた。
 それは俺だけじゃなくて、少し周りを見れば見知った顔が見知った体で俺とまた人間関係を構築している。
 ケタケタと笑いながら「でも秋生まれは意外」なんて言う俺の前を歩く女の子も同じ鬼殺隊――だった。
 よく任務で一緒になってそれなりに話す仲だったけれど、この子はそれを覚えていない。
 まあ覚えている方が異常だと思うんだけどね俺は!
 そんな元仲間と出会って三年、同じクラスで風紀委員という地獄の委員会で苦楽を共にしてきた。
 そんな委員会も去年の夏にはとっくにおさらばしていたけど、卒業式を目前に後輩たちによるお見送り会をしてもらった帰り道。

「我妻ってよくその髪型でたんぽぽっぽいって言われてるじゃん。たんぽぽの花言葉は“愛の信託”でしょ。我妻っぽくなくて笑っちゃうっていつも思ってた」
「ねえもうすぐ卒業なのにどうしてここでディスられるの!? 普通は三年間の思い出とかさ! 実は私我妻のこと〜とかになるんじゃないの!?」
「ほら、頭の中花畑で花粉飛ばしてくるじゃん」
「はいはいはいはい!!! どうせ俺は年中花が咲いてますよ! 頑張れば花粉も飛ばせるかもしれないですね! 誰も受粉してくれないけど!」
「受粉って……下ネタ言わないでよ。それにまあ、そんなことないんじゃない?」
「貶めてるの!? フォローしてるのどっちなのさ!? 同情なんか要らないから! もういいよ! 俺は卒業式に禰豆子ちゃんからの愛の告白が貰えればそれでいい!」
「……変わらないね」
「成長してないって言いたいんですか!? 酷くない? 三年で背も伸びたし、女の子ともそれなりに仲良くなれるようになったのに流石に傷付くよ?」
「もー、キンキン煩い。耳痛い」

 三年間こんなやりとりをずっとしてきた。女の子相手に下ネタなんて俺のポリシーに反するけれど、たまに勢いで言ってしまっても笑って受け流して時折怒られて。
 俺の中で極極稀に禰豆子ちゃんより存在が大きくなる。この子の中で俺の存在はどれだけ大きいんだろうと考える日もあった。

「……」

 急に黙った俺を気にすることもなく、ゆっくりした歩幅で歩く女の子。

「春眠暁を覚えずって言うじゃん? 寝ると強くなるし、雷の呼吸の使い手だし、春の雷って寝ていた虫を起こすんだって。髪も黄色いし、だから春生まれだと思ってた」
「ねえ虫を起こすとか髪の色とかそれ春となんの関係があるの!? あと俺は別に寝てないから! 極限状態になるとちょっと意識が遠のくだけ! ……って、え? 今なんて――」

 入学式に対面したときは確かに「初めまして」って言ったのに。なんで俺の戦闘スタイルの話をするんだ?

「入学式のとき我妻を見たとき雷に打たれた。ずっと眠ってた大事な記憶を呼び起こされたよ」

 俺の疑問に答えるように、打ち明けるようにそのまま喋り続ける子に、耳を傾けて聞き逃さないようにする。

「あのときはちょっと混乱して“初めまして”って言っちゃったけどね」

 今頃カミングアウトとかある? じゃあこの三年ずっと黙ってたの? 他にも記憶持ちいるのに?
 色々言いたいことはあったけど、驚きが勝って言葉が出ない。
 春一番はとっくに吹き終わっているのに風が強くて、なびく髪を押さえながら相変わらず俺の前を歩く子は何かを見つけて足を止めた。目線の先には誰かが植えたのか、道角に密集して風に揺れている菜の花。

「うん、善逸はたんぽぽも似合うけど菜の花のイメージの方が近いな」
「ねえ、俺の名前……。それに――」

 任務の帰りに言われた同じような言葉に、今度こそその真意を聞きたいと思った。
 あのときは任務続きで疲れ切っていて、話半分でしか聞けなくて。でもそれが最後の会話だって分かっていたら俺だって――。

「春は善逸の季節だね!」

 名前を呼ばれて俺が雷に打たれた。
 人生で二度雷に打たれるって凄くない? いや、一度目は前世で二度目はただの比喩だけどさ。
 ずっと見たいと思っていた表情をやっと俺に向ける女の子。

 ――頬を桃色に染めるあんたの方がよっぽど春が似合うよ。

 俺の言葉は春特有の時折強く吹く風に持っていかれて、代わりに目の前の子のスカートを翻した。

* * *

「ちょっと! 今絶対見たでしょ!」
「見てない! 淡いピンクにちょっとのレースが背伸びしてる感じがしていいなんて思ってないから!」
「ガン見かよ!」

初出:2022/03/06 kmtwebオンリー「悠久と君2」内企画参加