― 雪見化粧 ―
こんな風にゆるりと過ごす静かな夜が早く訪れますように
藤の花の家紋の家、雪見障子の硝子から音も立てずに落ちゆく雪を一人眺めていた。積もり始めた雪は外の音を悉く吸い込み、火鉢の中で炭の爆ぜる音だけが時折聞こえる。
無心で外を眺めていると、煉獄さんが屋敷の方から借りてきたであろう綿の詰まった半纏を私に掛けてくれた。
「わざわざありがとうございます」
「問題ない。これからまだ冷えそうだからな」
「このまま朝まで降りそうですね」
「積もった雪を見てはしゃぐかと思ったが……」
「そんなに子どもじゃないですよ」
視線を外に戻し、雪の反射で明るく見える外は夜じゃないみたい。
鬼なんていないと錯覚する程の白を朱で穢したら綺麗だろうか。自分の朱で白を染める様をぼんやり想像していたら半纏とは違う温もりに包まれる。布団を被った煉獄さんは私を後ろから包み、腕を胸元に回してきた。
「煉獄さんっ!?」
「俺が幼い頃はこうやって父上や母上に暖を貰っていた。それに俺とナマエの間柄ならば問題ないだろう?」
大きな布団は私たちをすっぽりと覆って、雪に隠された地面みたいだなんて思ってしまう。
「……静かですね」
「そうだな」
任務地に向かう筈が雪による足止めで、思いがけず訪れた束の間の休息。ほんの少し前まで感じた寒さは包まれる熱に溶けて、白を朱で染める想像を止めた。
「……明日は朝早くから移動だ。もう寝よう」
「そうですね……。でも、もう少しだけ」
もう少しだけ――雪を見る事へなのか、それとも背中から包まれる大きな温もりに対してなのか。胸元に回る煉獄さんの腕に触れ、指をゆるりと絡めると私の背中と彼の胸の隙間がなくなる。
肩に乗る煉獄さんの顔に少しだけ自分の頭を傾け、二人何も言わずに降る雪を眺めた。
「……静かだな」
「そうですね」
「温かいな」
「生きてますから」
「……ああ」
ぱち、と小さく炭が爆ぜる。
未だ止む気配を見せない雪は、溶けたくないと主張するようにくっつき、淡雪から大きな牡丹雪に変わっていた。
2023/01/25:初出