― 2が並ぶ日の戯れ ―
特別な日でもないからゆるゆる過ごす日常
2人ベッドに潜り込んだものの、なんだか杏寿郎が寝かせてくれない。
明日も仕事だから早く寝たいのに、寝ようとすると自分のスマホを確認しながら何かと理由を付けて私を寝かさないようにしてくる。なんだかんだお喋りをしていれば時間は夜中の2時を過ぎていた。
「杏寿郎スマホ見てどうしたの? 眠れない?」
「いや、すまない……。大丈夫だ」
「もうそろそろ寝ようー。じゃないと明日キツイ」
杏寿郎も早く眠くなりますように、なんて杏寿郎の頭をぽんぽんと撫でながら隠すことなく大きく口を開けて欠伸をする。そんな私を気にすることもなく、杏寿郎はスマホを両手で持っていじり始めると顔をスマホ画面に照らされながら満足そうに頷いた。
「よし!」
「んー? どうし――」
――ブー、ブブ
撫でられたのが嬉しかったのかスマホでいい記事でも見つけたのか分からなくて、何に対しての「よし」なのか聞こうとしたら、ヘッドボードに置いてある私のスマホがバイブで揺れる。
誰だよこんな夜中にメッセージ送ってくるのは。普段こんな時間に鳴らないから夜中は通知オフにするの忘れてた。
「ナマエのスマホ鳴っているぞ?」
「えー、いい――……」
――ブー、ブブ
無視していると間髪入れずにもう1度、何か届いたとスマホがまた全身で知らせてくる。
どうせマッチングがどうとかの読まなくてもいいやつだろうと放っていたら杏寿郎が体を離して私を覗き込んでくる。
「スマホ見ないのか?」
「たぶん迷惑メールとかだからいいよ。明日確認する」
「見たほうがいい。急な用事かもしれない」
いや、この時間に緊急だったらメッセージじゃなくて電話でしょ。それでも杏寿郎の言うことも一理あるし、手だけ動かしてスマホを手繰り寄せた。
「……え? 杏寿郎?」
メッセージの送り主は2通とも杏寿郎からだ。1通目は杏寿郎の大好きなさつまいものイラストがモノグラムされている壁紙のスクショ。2通目はニャーと鳴いている猫のスタンプだけ。
「なにこれ?」
「時間を見てくれ」
「んん?」
1通目のスクショをもう1度見てようやくこの時間まで起きている理由が分かった。
2月22日
2時22分
「もしかしてこれ送るために起きてたの?」
「起きてから見たらつまらないだろう?」
「まあそうだけどさー。夜中だよ」
一生懸命私を寝かさないようにしてたのはこのためなのか。ご丁寧によく見る可愛いネコのスタンプまで送ってきちゃって。
「このスタンプ杏寿郎から送られてくるの初めてじゃない?」
「買ってみた」
「わざわざ?」
「折角だしな!」
平日の夜中に何を急にこんな可愛いことしちゃうんだ私の恋人は。寝たいのを邪魔された理由に怒る気も失せてしまう。
スマホを置いて杏寿郎をギューッと抱き締めてさっきより強めに頭を撫でる。
「私の恋人ネコちゃん可愛い!」
「俺は恋人だが猫ではないぞ?」
真面目に的外れな事を言う杏寿郎だけど満更でもないらしい。嬉しいのかもっとと頭だけではなく体を擦り寄せながら、それでも相当眠いのを我慢していたのか欠伸をしているのが体越しに伝わってきた。
「うんうん、明日たくさん遊んであげるから今日は寝よう」
「ん……おやすみ」
「うん、おやすみ」
あっという間に意識を沈めた杏寿郎に小さく笑って私も夢へと落ちていく。
おやすみ3秒また明日――。
あれから12時間後、ソファで寛いでいる杏寿郎に後ろから近づいて抱き着きながら顔を頭に埋める。さっきお風呂から上がったばっかりの杏寿郎の髪からはいい匂いがして、そしてちょっとだけまだ湿っていた。
「隣に座らないのか?」
「……」
「どうした?」
「んー……」
いつもよりふわふわ度の低い髪の毛に、更に顔を埋めてぐりぐりとしているとぽんぽんと頭を撫でられる。
わざと大きく鼻で息を吸って、後ろから抱き着いたままスマホを確認するとお目当ての時間が近くなっていた。
「……今日は猫の日でしょ?」
「ん?」
「猫を吸うと癒やされるって猫を飼っている友達に聞いたの」
「ふむ?」
「だからうちの可愛い恋人ネコちゃん吸ってた」
「俺は猫ではないんだがな」
半日ぐらい前にも聞いた言葉を聞き流して、杏寿郎にも見えるように日付と時間が入るようにスクショを1枚撮る。
2月22日
22時22分
「よ、っと」
撮れたスクショが大丈夫そうなのを確認してメッセージ画面を開く。送信相手はもちろん今私が後ろから抱き着いている杏寿郎。
画面上部のステータスバーをトリミングしようと思ったけど時間が勿体ないから止めた。
スクショだけ貼ったメッセージを送信したのに私の耳には着信音も何も聞こえてこない。
「あれ? 杏寿郎のスマホここにないの?」
「寝室だ」
「マジかあー……」
ここにないなら仕方ない。既読の付かないメッセージ画面からスタンプ一覧に移動する。
「ねえねえ、送るスタンプどれがいいかな?」
「俺が選んでいいのか?」
「どんなの貰ったら嬉しいか知りたい」
「それならこれだな!」
杏寿郎は迷うことなく大きなハートを持ったネコのスタンプを選ぶと送信ボタンをタップした。
「選ぶのも送るのも早っ!」
相変わらず杏寿郎のスマホが私のメッセージを受信した合図は聞こえてこないし既読にもならない。
スクショの送信した時間は22時22分だけど、スタンプの送信時間は惜しくも23分になっている。
既読にならないのを分かっていながらもスマホを見ていると杏寿郎が身じろいだ。
「俺のスマホを持ってこようか」
「だーめ。まだ杏寿郎を吸い終わってないから後で」
スマホの画面を消して杏寿郎の横にぽいと投げて顔を頭に埋める。ちょっとだけ背伸びをして埋まる顔を深くすると杏寿郎が微笑った。
「俺の恋人は今日は随分構ってもらいたがりだ」
「そうでもないよ?」
「そうか?」
「……うそ。遊んで」
「はは、随分気まぐれじゃないか」
「猫の日だし?」
「ネコなのは俺ではなくナマエだな」
杏寿郎は私が顔を上げるように誘導すると顎を指で撫でてくる。くすぐったいのと気持ちいいが同時にやってきて、目が細まったタイミングで小さく欠伸が出た。
「やはり寝室に行こう。昨日は遅くまで起きていたし眠いだろう」
「眠くない」
「ほら、ベッドで沢山撫でてやるから」
「私が撫でる」
「じゃあお互い撫で合うか?」
「ん……」
杏寿郎に促されて寝室に行く途中でまた欠伸が出る。
猫は1日の大半を睡眠に費やすって聞くし、多分私も杏寿郎もすぐ寝ちゃうんだろうな。
今日も今日とておやすみ3秒また明日――だね。
2023/02/22:初出(Twitter)
2023/02/25:サイト用に微修正