― こどもははんぶん、大人は多分… ―

「はんぶんこしよ!」
「はんぶんこ?」
「そう。はんぶんずつならたべられるでしょ」
「っ! うん!」

* * *


 懐かしい――確かあれはまだ小学生になる前、お互い幼稚園くらいのときの夢を見た。
 夕食のあと、こたつの上に置かれたみかんを食べたいけれど小さい私たちの胃には一つ食べきるだけの容量はもう空いていなくて、それでも諦めきれずにみかんを見つめ続ける杏寿郎に閃いた私が解決策を提案したんだよね。
 千寿郎が産まれてからはそれが三等分に変わって、幼い頭でどうしたらうまく分けられるか杏寿郎と知恵を絞り合っていたっけ。
 年が同じ私と杏寿郎は分ける頻度が千寿郎に比べて高かった。
 分ける、とはちょっと違うけど体育の時間に他の子にジャージを借りてたらちょっと拗ねていたこともあったな。
 それ以来学校で忘れ物をしたら最初に頼るのは杏寿郎になる。
 そうやって食べ物に限らず学校や塾の帰りでも、思い出とか色んなものを分け合いながら私たちは高校生になった。

* * *


 放課後、課題を家でやりたくないから一人教室でやっつけていると幼馴染の杏寿郎が高校に入ってから仲良くなったっていう宇髄くんとやって来る。
 宇髄くんと私は杏寿郎経由でのお友達。

「ナマエ、やっぱりまだいたな。課題やっているのか?」
「うん。だって家でダラダラしたいんだもん」
「そう言うだろうと思ってほら」
「ん? あ、同じプリント」
「前半はもう終わっているんだろう? 後半部分だけやっておいた」
「やった! ありがとう。そうしたら残りは家で写させてもらっていい?」
「そのためにやっておいたんだ。一緒に帰るぞ」
「りょーかい!」

 杏寿郎が持っているプリントは私が今日授業で出された課題のプリントと同じだった。
 授業が被っているのを見越して半分やっている杏寿郎に感謝しながら帰り支度をして私と杏寿郎、そして宇髄くんの三人で学校を出る。
 お腹が空いたと言い出す宇髄くんに連れられてコンビニに寄ると私は紙パックジュース、杏寿郎は肉まんを一つだけ買った。

「熱いから気をつけるんだぞ」
「ありがと。今日紅茶にしちゃったけど良かった?」
「期間限定のだろう? 俺も飲みたかった」

 杏寿郎から半分に割った肉まんを貰って、私はストローを刺した紙パックの紅茶を少しだけ飲んで渡す。

「杏寿郎には甘すぎるかも?」
「だな。でもナマエは好きそうだから売っている間はこれでいい」
「やっさしー。ありがと」
「……っはー、お前ら相変わらずだな」
「む?」
「んん?」
「課題のプリントも半分、肉まんも紅茶も全部半分ずつかよ」
「これが俺たちの買い方だしな」
「昔からこうだよ。肉まん一つ食べちゃうと夕食の楽しみ減るし」

 杏寿郎から返された紅茶を飲んでいたら目を細めた宇髄くんに呆れた口調で言われた。
 私たちの当たり前を宇髄くんは何度も見ているのに今更じゃない?
 紅茶をまた一口飲んで、これもいいけど次はやっぱり杏寿郎も好きな味のやつにしようかななんて考えていたら杏寿郎が顔を寄せてくる。
 飲ませろって仕草にストローだけ杏寿郎に向けたけど安定しないストローが中々杏寿郎の口に収まらなくて笑っちゃった。

「あはは、頑張れ頑張れ」
「こらナマエ、笑って揺らすんじゃない」
「なあお前ら本当に付き合ってねーの?」
「どうだろうね?」
「どうだろうな?」

 理由なんて特にないけど聞かれるとなんとなく誤魔化し続けている杏寿郎と私の関係。
 紙パックを持つ私の手に杏寿郎は自分の手を重ねてストローを固定すると、これ以上その話はしないというように紅茶を飲み始める。

「まあどっちでもいいけどよ。なあ煉獄、その紅茶俺も飲みたいって言ったらくれんの?」
「駄目に決まっているだろう」

 誤魔化してはいるものの隠すつもりもないから宇髄くんの言葉に杏寿郎は強い拒否を示す。
 本当にあげるつもりのない杏寿郎が一気に紅茶を飲み干していく様子に宇髄くんは派手にため息をつくから私はまた笑ってしまった。

* * *

「千寿郎は塾?」
「ああ、夕食前くらいには帰ってくるはずだ」

 駅前で宇髄くんと別れ、課題を写すべくそのまま杏寿郎の家にお邪魔する。
 部屋に入ると杏寿郎は床に座ってベッドにもたれると大きなあくびをした。
 このまま夕食の時間まで寝ちゃいそう。
 部屋の隅に置いてあるブランケットを杏寿郎に掛けながら今日見た夢のせいかまた昔を思い出す。
 小さい頃に買ってもらった柄違いでお揃いのブランケットは並んで寝られるようにと結構大きい。
 杏寿郎と千寿郎は虎のイラスト。私はキリンのイラスト。本当は私も虎にしたかったけどお母さんにもっとかわいいのにしたらって言われて同じ黄色の動物を選んだ記憶。
 ジュースも溢したし旅行先に持っていったりもした。このブランケットじゃないと昼寝しないなんてワガママも言ったような気がする。
 そんな思い出がたくさん詰まっていて、今もちゃんと活躍しているブランケットを掛けられた杏寿郎は体をズラしてスペースを作ると私を見上げてきた。 
 何も言わなくても、言われなくても無言のまま私だけに許されている特等席に潜り込むと杏寿郎は私の肩にこてんと頭を預けてくる。

「ふふ、はんぶんこだね」
「ん?」
「さっき宇髄くんにも言われたじゃん。お前らなんでも半分だなって」
「ずっとそうしてきたからな。千寿郎もいれば三等分だ。だが……」
「ん? ぁ――」

 肩に預けていた顔をゆっくり近付けてくる杏寿郎に、目を閉じて触れる唇を受け入れた。

「流石にこれは千寿郎と分けるわけにはいかないがな」
「分けようって言われたら困っちゃう」
「だがナマエは千寿郎にキスしてって言われたらしそうだな」
「可愛い弟のお願いは叶えてあげたいけどちゃんと断るよ」
「そうしてくれ」

 自分で言って少し機嫌の悪くなっている杏寿郎に私から触れるだけのキスをする。
 唇を離して目を開けるとくっつく身体の熱がブランケットに潜り込んだときよりも伝わってきた。

「寝るんじゃないの?」
「どうだろうな?」
「ん……」

 さっきコンビニの前でも言った誤魔化しの言葉を繰り返す杏寿郎はもう眠気なんてなさそう。
 少しずつ唇が触れる時間が長くなって、唇を食まれて薄く開くとにちゅりと水音が頭の中に響く。

 もう幼いだけの私たちじゃない。

 半分じゃ足りない、全部欲しいなんて言うのもきっともう時間の問題だ。

2023/06/05:Twitter初出
2023/06/22:サイト用に修正