― 死神 ―
ハロウィンと重なった高校最後のキメツ学園文化祭。
3年生は進路で忙しい子もいるから出店や発表含め参加自由。
私も進路のことを考えなくちゃいけないんだけど気分転換は大切だって力説されて友達とのんびり各クラスを回っている。
どのクラスもハロウィンに合わせた出店を友達と見て回りながら、校舎の端にある教室で先生たちがやっている出店を覗いてみた。
教室の中は奥に畳くらいの大きさのパーティションが5枚、急遽手書きで書きました的な番号が貼られている。
あわよくば煉獄先生と思い出つくりたいなんて思ったけど受付にいるのは伊黒先生一人。
「ねー伊黒っち、入り口の看板に“フォーチュン オア トリート”って書いてあったけど何?」
「見ての通りだ。占いか菓子を選べ」
「なんで占いかお菓子なの?」
「ハロウィンをもじっただけだ」
「いたずらじゃなくて占いなんだ。なんの占い?」
「リアルタロットカードだ」
「リアル?」
「カードはアレだ」
アレ、と言って指差した先は番号の書かれたパーティション。
「枚数少なくない?」
「細かいことは気にするな」
「お客さん誰もいないしウケる」
「この場所が端っこすぎるんじゃない? ここまで来るのちょっと面倒くさかったし」
「文化祭は生徒が主役なんだからここでいい。それに客はお前らが心配せずとも来ている。たまたまだ」
私たちの自由な言葉を適当にいなしつつ答えていく伊黒先生はさっさと進行を始める。
「どっちにするんだ。菓子だったらそこの箱に入っている菓子を1つ持っていけ」
「伊黒っち相当やる気ないじゃん。まあいーや。じゃあ私は占い! この前買った宝くじが当たるかと、当たらないなら追加で買った方がいいかどうか!」
「そんなのばっかりだな。そんなもの神棚にでも飾っておけばいいだろう……で、どのカードだ?」
「一等当たりますように、の一番!」
友達の占って欲しいことにチクチク言いながら伊黒先生は一番と書かれたパーティションを裏返して、そこに描かれていたのは――。
「オォ、俺だァ」
「「え!?」」
絵が描かれていると思っていたパーティションの裏からヒラヒラフリフリのドレスを着た不死川先生が出てきて私と友達の言葉がハモる。
「見て分かんだろぉ。タロットカードの女帝だァ」
全然分からない。
リアルタロットカードって。女帝って。先生たちがそのカードになってるの? 仮装して? リアルってそういうこと?
不死川先生が着てるドレス、量販店とかじゃなくて今日のためにしっかりしたレンタル衣装じゃん。
写真を撮ろうと移動したら背中のファスナーが上がりきらなかったのか背中がぱっくり開いていた。
「いや背中閉めきれてないし!」
だめ、無理。お腹痛い。女装だけでも面白いのに畳み掛けるように仕掛けてくる不死川先生に笑いが止まらなくなる。本人にそのつもりがないから余計に面白い。
「楽しそうだなァお前ら。宝くじが当たるかどうかだったなァ。あー……と?」
カンペで結果を読み上げようと中身を確認すると不死川先生は女帝の言葉にふさわしくニヤリと笑った。
「宝くじが当たる確率を調べればあと何枚買えばいいか分かるかもな。数学の授業でやるかァ」
「占いじゃなくて完全にいたずらじゃん! やだー!」
占いの結果とも言えないことを言う不死川先生と友達を見ていたら伊黒先生が私の隣に立つ。
「次はお前だ。占いにするか?」
「占ってほしいのはあるけどお菓子にしようかな。私自身が決めることだし……」
「お前ら生徒を導くのが教師だ。決めるのはお前ら自身でも背中くらい押してやる」
「うーん、じゃあせっかくだし私も占いで。自分のなりたい職業のために一つ上の大学を目指すか、今届く範囲で無難なところにしたほうがいいのか」
「もう決めたと思っていたがこの時期にまだ悩んでいるのか。まあいい。どのカードか早く選べ」
「あー悩む。どれにしよ?」
「カードすらも悩むのか。直感でいけ」
「もう伊黒先生毒が強い! あっ、真ん中! 三番!」
伊黒先生の催促に文句を言っていたらパーティションの端っこからチラリと黒い布が見えた。まるで私に選べと言っているように見えたそれにすると、伊黒先生の手を借りずにパーティションが直ぐに裏返る。
「三番は俺だ!」
真っ黒なローブを着た煉獄先生が出てきて、いないと思っていたからテンションが上がるけど格好いいのか格好悪いのか正直微妙。
煉獄先生が着ている真っ黒なローブもレンタル衣装なのかと思ったけど違うな。絶対理科室の遮光カーテンだ。
煉獄先生が手に握っているのは冨岡先生がよく振り回している竹刀。そこに付いている大きな三角定規はもしかして死神の鎌ってこと?
不死川先生のフリル満点ドレスとクオリティの差がエグい。
それにしてもタロットカードにあまり詳しくない私は煉獄先生がなんなのか分からない。魔女? 黒魔道士?
「煉獄先生はなんのカードなの?」
「俺は死神だ!」
「死神!?」
それってあんまり良くないんじゃない? えー、って小さく声を漏らす私に伊黒先生が楽しげに笑っているのがマスクの上からでも分かる。
「ナマエの占いたいことは将来だな!」
なんか占いの結果も期待できないし聞かなくてもいいかなーなんて思う私にお構いなしでノリノリの煉獄先生は持っている鎌を振り上げた。
「まっ、なに?」
「君の中で本当は答えが決まっているんだろう! ならばっ!」
「え? ひぃ!?」
振り上げた鎌はぶん、と大きな音を出しながら私の目の前を掠めて、風圧で前髪がふわりと浮く。
「ナマエの心の迷いはたった今死神である俺が斬って死んだ! さあ、ナマエの頭にはどんな未来が浮かんでいる?」
「ぅわ!?」
ポン、と頭に乗せられたのは授業が騎馬戦になった時に使う新聞紙で作られた即席カブト。
毎日終わりが見えなくなりそうな勉強に追われて、忘れていた大切な出発点を思い出す。
なんでその職業になりたいんだっけって、本当に斬られたわけじゃないのに頭の中がクリアになった気がした。
「……うん。やっぱり私、自分のなりたいもののために一つ上の大学受けます!」
不死川先生は普段とてもスパルタなのに難しめの数学の小テストの点数が良かったらすごく褒めてくれる。伊黒先生は毒を吐いたりぶっきらぼうな言い方もするけどなんだかんだ最後までちゃんと悩みを聞いて助言をしてくれる。
圧倒的に言葉が足りない冨岡先生にいつも笑顔を絶やさない胡蝶先生。
自分で答えが導き出せるように、生徒に真摯に正面から受け止めてくれる煉獄先生を好きになって、ここにいる先生みたいになりたいって。先生になって個性が強いこの学校で働きたいって思ったんだ。
「煉獄先生! 伊黒先生! 不死川先生! あとは隠れて見えないけど……私絶対教師になる!」
不死川先生や伊黒先生が満足そうな顔して頷いてくれて、ガタガタと動いたパーティションカードの陰から後藤先生や胡蝶先生が見える。
「それで教師になって、憧れの先生がみんないるこのキメツ学園で働くから!」
「ナマエならできる! 待っているぞ!」
誰にも負けない満面の笑みの煉獄先生から励ましの言葉とお菓子を貰って教室を出る。
スマホのカメラロールの最新は教室を出る前にスマホで撮った自称死神の煉獄先生と隣で笑う私のツーショット。これを勉強のお守りにしよう。
「他の先生はどんな衣装なんだろうね」
「あとでまた来てみようよ」
数年後、今よりもっといい笑顔で煉獄先生と写真を撮れますように――。
あと半年くらいしか着ることのない制服のスカートを翻しながら友達と廊下を歩いた。
2023/12/10:Twitter初出
2024/01/04:サイト用に修正