― 溺れる ―
kmtwebオンリー【うたかたにて4】参加お題
鬼殺任務が休まることなんてない中で、よく炎柱である煉獄さんと同じ任務にあたる。任務地に向かう道中、休憩中に稽古をつけてもらうのも恒例となっていた。
何度も任務を、寝食をともにして、いつからか心に積もり始めたのはただの憧れや尊敬にとどまらない小さな欠片。気付けばあふれそうになっていた想いは自分でも制御不能になりかけている。それは剣筋にも現れていたみたいで、稽古の手を止めてどうしたと言われてしまった。
「目の下が黒いな。あまり眠れていないのか? 寝不足は判断を鈍らせるぞ」
「最近よく溺れる夢を見るんです」
「溺れるとはなかなか凶夢だな」
「そうですね。でも私が溺れるのは水じゃないんです」
「どういうことだ?」
「降り積もった想いがあふれて、そこに溺れるんです」
「なるほど。想いに溺れる、か」
「その人への想いが夢に出るほど強くなってしまったみたいで……」
「ふむ、そこまで想われるならばその人物は男冥利に尽きるな」
「あふれて気持ちが全て流れてしまえばいっそ楽になれるんですけどね」
想いだけにとどまらず言葉もこぼれてしまったのに気付いて慌てて口をつぐむ。
「こんな話をすみません! 煩悩退散! 稽古の続きをお願いします!」
自分の頬を目一杯叩いて律してから刀を構えたのに、煉獄さんは刀を鞘に収めたまま私の目の前に立った。
「溺れるのもいいが俺は炎の呼吸の使い手だ。どうせならば焼き焦がしたい」
「え?」
「もちろん燃やし尽くさない程度にだ!」
煉獄さんの手が私の頭にぽんと置かれて、そこから顔や体が沸騰しそうなほど熱くなる。
「これだけともに過ごしたんだ。俺自身に向けられた気持ちに気付かないほど鈍感ではない」
「え。それって……?」
「さあ、休憩は終わりだ! 他の場所で休憩している隊士にも声をかけて移動しよう!」
大きく笑ったあと羽織を大きく翻し私に背を向けて歩く煉獄さんを見ながら、触られた自分の頭を真似をするように自分で撫でた。
私はきっと今日も夢を見る。溺れるのは想いか、それとも炎の海か――。
2024/05/19:Twitter初出
2024/05/24:サイト用に修正