― ねんねんころり ―

同棲/社会人

 ベッドに横になって早二時間。
 読書灯を点けて本を読んでいる杏寿郎の横で私は飽きることなくスマホをいじっている。別に見たいサイトがあるわけでもなく、ニュースのヘッドラインを流し読みしながら何度も寝返りをうっていたら本を閉じる音が聞こえた。

「眠れないのか?」
「あ、ごめん。落ち着かないよね」
「いや、大丈夫だ」
「夕食の後にちょっと寝ちゃったからねー」
「ソファで涎垂らしていたな」
「見られてた!?」
「ばっちりだ!」

 ふと起きて慌てて口端を拭いたときに彼は居なかったから見られていないと思っていたのに。

「起こしてくれて良かったのに」
「あまりに気持ちよさそうだったからな」

 すまんすまんと言いながら頭を撫でてくる杏寿郎にスマホの画面を閉じて体ごと彼に向き直す。

「眠れなくて困ってる」
「明日からナマエは会社だろう」
「そうだけどー」
「早く寝ないと辛いのは自分だぞ?」
「杏寿郎もでしょ」

 会社の夏休みが数日あってお互い休みの期間は合わせたけど、特に旅行も行くことなくずっと家にいた私は昼寝をする癖がついてしまった。明日から仕事が始まるから昼寝して夜眠れないなんて事がないように我慢したのに、夕食後の心地良い満腹感には勝てない。気付けばソファで涎を垂らして寝てしまい、寝なければいけない時間に眠れないという事態になってしまった。
 明日からまた仕事だと思うと眠りたくないっていうのも多少あると思う。

「しりとりでもするか?」
「え……何で?」
「頭を使えば眠くなるのだろうナマエは」

 ちょっとその言い方酷くない? とは思いつつもこのままでは眠れそうにないしやってみようかな。杏寿郎も明日仕事なのに付き合ってくれる優しさに甘える。
 杏寿郎も体ごと私に向けるとどちらからともなく手を繋げた。

「じゃあ始めるぞ。さつまいも」

――モアイ。イカ。カシミア。あんのういも。もりおか。地名はありか? あり。むぅ……かかし。しみ。みみ。みちしるべ。べにはるか。かー……かっぱ! パープルスイートロード。

「……ねえ」
「なんだ?」
「パープルスイートロードって何? 俺が考えた最強の技みたいだけど」
「む? さつまいもの品種だ。知らないか?」

 初耳だしスイートって付いてるけどさ……。

「さっきから何でちょいちょいさつまいもの品種が入るの?」
「もうすぐ季節だなと思ったらテンションが上がってきた!」

 これから寝るってときに興奮し始めた杏寿郎に今度は私が彼をあやす。

「来週はさつまいものご飯でも作ろっか」
「わっしょい!」

 まだ食べてもいないのに想像しただけで掛け声出ちゃったの? というか、逆効果で更にテンション上げさせちゃった感じ?

「他に何か食べたいのある?」
「食べたいというか、また目玉焼きを作りたい!」

 この夏休みで杏寿郎は初めて黄身を割らずに目玉焼きを作ることに成功した。焼くこと自体はできていたけどいつも最後に割れていたから、成功したあのときの二人のはしゃぎ振りは今思い出しても凄かったな。

「ふふ、じゃあ今度は二つの卵で作ろう」
「うむ!」

 そんなおうち時間を過ごした夏休みの思い出と杏寿郎の楽しそうな顔を見てたら気持ちが穏やかになって……眠くなってきた。

「眠れそうか?」
「……うん。ごめんね。付き合ってくれてありがとう」

 ギシっとベッドが軋む音がして近付く気配がするけど私の瞼はもう殆ど落ちかけている。

「もっとたくさん……楽しい思い出作ろうね」
「……また週末ゆっくり甘やかしてやる。おやすみ」

 目元に口付けを落としてくれる杏寿郎に「うん」と頷いて私は夢の中へ落ちていった。

初出:2021/08/16