どうしましたか?
「…………」
「ぷ、、、お前まじか、それっ」
「もう…お気になさらずどうぞ」
「荷物、持ちましょうか?」
腕にしがみついたままのオニオンくんと目の前で面白いものを見る様に笑うキバナさん。そして、いくつかの書類が入ったポーチを持とうとしてくれているマサルくん。
面白くないです。いや、ホントにお気になさらずって言ったけど、内心なんでこんな状況になってるのか私が1番知りたい。
なんで腕にしがみついたまま何も言わないのか。何でキバナさんは楽しそうにしてるのか。
そもそも、私が何故ナックルシティに来たのか、と言うところからお話した方がいいですかね?
「今度、ナックルシティでエキシビションマッチするから出店出してくれよ」
キバナさんのこのような一言から始まったんです。
キバナさんと知り合ったのは、現チャンピオンのマサルくんが出店で出ていたうちのキノミジュースを買ってくれたのがきっかけ。
それ、うまそうだな。一口くれよ。何処の店だよ?から始まったらしいです。女子かな?
それから、写真映えしそうな商品作ってくれとか、試合がある時には連絡をしてくれたり…。
試合の時は儲かりますからね。断れませんよ。
で、今日はその試作品の差し入れと書類の手続きをしにきたわけですが…
「……なまえさん…!」
「おお、なまえきたか!」
「なまえさん!お久しぶりです!」
ジムの奥に通されて個室に入るとオニオンくんとキバナさんとマサルくん。
待って、どういう組み合わせだ?
キバナさんとマサルくんは試合の打ち合わせ?いや、じゃあ、オニオンは…?滅多に人前に出てこないと言われてる彼がここにいるって事は…
「ダメだ、わからないですね…」
「…?」
顎に手を置いて考えてみるふりをしたんですが、よくわからないですね。お辞儀をして挨拶をして3人に近寄る。
「書類の手続きだろ?」
「あ、はい」
「それと、試作品!」
「ふふ、試作品のがメインみたいですね」
「当たり前だろ!」
「………」
多めに持って来て良かった。ジュースにタルト、キッシュに…これならオニオンくんとマサルくんにも渡せますね。
キバナさんが昼に来てくれって言ってた時、昼ごはんの為にって言葉が続くんだろうなと思って色々作ってきたんですよ。
「キリが良ければどうぞ。テーブルの上に準備しておきますね」
「インテレオンたちも出していいですか?」
「ええ、一杯あるので大丈夫ですよ」
キバナさんのフライゴン、ヌメルゴンとか一杯食べるから量は多めにある。カレーもあるしマフィンも作ってきた。
「うまそうだな!」
「オニオンくんも食べませんか?」
「あ、えっと…はい……」
私の横にちょこっと座ったオニオンくんはいつもより静か。これが人前にいるオニオンくんですか。
何時もならこの料理は何のキノミを使ってるのかとか、この味が好きとか、ゆっくりだけれど色々と話をしながら食べてくれるんですけれど、、。
あ、仮面はつけたままで、ですね。器用に口元だけを出してキノミジュースを飲むんですよ。
オニオンくんがよく食べてくれていたクッキーをお皿に取り分けて前におく。ついでにモモンジュースも添えて。
「どうぞー」
「あ、ありがとう…ござい、ます…」
「オニオンくんとなまえさんって知り合いだったんですね!」
「同じ町に住んで、色々と縁がありまして」
「人前に出てこないにサイレントボーイにしては珍しいな」
「……え、っと…はい…」
ホントに静かだ。人見知りって感じで普段のオニオンくんを見てると、私には割と懐いてくれてるんだなとか思ったり…嬉しかったり…。
「そうだ、飲み物だけ無くなってしまったので買ってきます。他に何か欲しい方いますか?」
「なら、俺も行くわ」
「あ、あり…」
立ち上がろうと腰を浮かせると上着がやんわり引っ張られてお礼の言葉が止まってしまった。
上着を掴んでいる隣のオニオンくんを見ると顔を俯かせてしょんぼりしている感じで手を離そうとしない。
「…オニオンくん、一緒に行ってくれますか?」
私の言葉に顔を上げて頷いてくれる。キバナさんも「じゃあ、頼んだわ」とマサルくんと話始めたのでそんなに気にしていなさそうで良かったです。
部屋を出てなるべく人通りの少なそうな廊下を選んで自販機はどこだったかと考えていると少し後ろを歩いていたオニオンくんが口を開く。
「…キバナさん、たちと知り合い…だったんです、ね」
「ええ、ありがたい事に商品を気に入って頂けまして」
「………」
どうしたんでしょう。さっきよりはお話してくれますが、まだしょんぼりしているような…あ、
「突然、お邪魔をしてしまってすみません」
なぜオニオンくんがいるのかは、わかりませんがお邪魔をしてしまったのかもしれない。
「なまえさん、よく、ここに来るんですか?」
「いいえ、たまにですね。オニオンくんは今日はどうしたんですか?」
「…今度の、エキシビション、マッチで…キバナさんと戦うので、、」
なるほど、キバナさんの相手はオニオンくんだったんですね。
じゃあ、マサルくんが何でいるんだろうと思いましたが、あの子はどこに居てもなんだか不思議じゃない感じがするんですよね。
「なまえさん、試合の日、見にきて、くれますか…?」
「もちろんです!オニオンくんとゲンガー達の格好いい姿見せてくださいね」
「……か、勝てるか、わかりませんが……」
俯いて歩いていたオニオンくんは私の隣まで来ていてわたしの指を掴んでいた。
オニオンくんは何か私に対してお願い事や、質問がある時に手や指を掴んでくるっていうのに最近気がついたんですよ。特にお願い事の時なんかはぎゅっと握って勇気を振り絞って言ってきてくれるんです。今みたいに。
「試合の勝ち負けで格好いいが決まるわけではないと思います。ポケモンと一生懸命なのは誰だってかっこいいです」
「………なまえさんは、、」
「はい」
「…………何を、飲みますか?」
え、ちょっ、クサい話したかなって思ったけど、まるっとスルーされましたね。でも、手は繋がれたままなので嫌な思いはしてなさそうなので良かったです。
気がつけば自販機があったので私はお水を選んでスマホロトムを当てる。
「オニオンくんはどれにしますか?」
「……ぼくは、なまえさんの…ジュースがあるから」
これは嬉しい。頭を撫でたくなりましたが流石に心に抑えました。
念のためにお茶とスポーツドリンクも買って部屋へ向かう。2本はオニオンくんが持ちますと言ってくれたので任せる。
「あれ?席替えしたんですか?」
「まあな!花が隣にいる方が俺としては気分いいしな!」
「花ってなんですか…」
「…………」
マサルくんが私の席に座っていてその向かい側にキバナさんがいる。突然どうしたんですかね?
まあ、いいやと思い座ろうとすると肘の裾が引っ張られる。振り返ると腕にヒヤリとした手が絡みついて、オニオンくんのあたまがすぐそこにあった。
「ど、どうしました?具合でも……」
「おわっ!びっくりした!」
「あれ、オニオンくんのサニゴーンいつの間に…」
キバナさんの大きな声に視線を向けるとキバナさんの隣にはサニゴーンが座っていた。ついでにキバナさん、後ろにあるゲンガーもいますよ?
オニオンくんは変わらず私の腕にしがみついている。
「体調、良くないんですか?もし、良ければ一緒に帰りましょうか?」
「………」
「…ぷ、、」
「何、笑ってるんですか、キバナさん」
しがみついたままのオニオンくんに笑って…いや、あれはニヤけているキバナさん。
首を横に振っているので体調が悪いわけでは無さそう…だけど、こんな状態のままで置いておくわけにもいかない。
「…………」
「ぷ、、、お前まじか、それっ」
「もう…お気になさらずどうぞ」
「荷物、持ちましょうか?」
テーブルの上の物を片付けてから帰ろうと思っていたけれどオニオンくんの様子もおかしいのでマサルくんにお礼を言って、後の事を2人にお願いしてジムを出る。
ジムを出る頃には腕から離れて隣を歩くオニオンくん。あまりしないお出かけをして疲れてしまったのかもしれませんね。いや、あまりしないのかもわかりませんが…。
タクシーに乗り込んで隣に座るとピタリとくっついてきた体。ちょっと近い気が……。
「……なまえさん、ごめん、なさい…」
「…いいえ、気にしないで下さい」
目線は下を向けたまま、私の腕に頭を傾けてきてポツリと話し始める。
「…なまえさんに、あったら……気が、抜けて、、」
「そうでしたか、お疲れだったんですね」
「…………」
「お家まで送りますので、今日はゆっくり…」
「なまえさん、と…離れ、たく…なくて」
ピシッと体が固まってしまう。オニオンくんにはその気はないんでしょうが、凄い口説き文句ですよね。この歳からこんな事を言えるなんて、将来モテモテじゃないですか。
何も言わない私を不安に思ったのか、ぎゅっと手を繋いでくる。
「………」
「じゃあ、しょうがないですね」
「え…」
「私が甘えて下さいって言いましたから」
「………き…」
「?」
ちょっと声が小さくて聞こえなかったので、どうしました?と聞き直したけれど首を横に振られてしまいました。
大丈夫かな?と、横目でみているとまた口を開くオニオンくん。
「なまえさん」
「はい、何ですか?」
「……ボクのジムで、働きませんか?」
久々に聞いたこの質問には丁重にお断りさせて頂きました。