見てくれませんか?

なんで、なまえさんがいるんだろう。


エキシビションマッチの打ち合わせにナックルシティのキバナさんのところへ来たのに、まず出会ったのはマサルさん。

タクシーから降りてジムに入ったところでバッタリ。なんでいたんだろう。少し話をしてるとキバナさんがやってきて一緒に、3人で奥の部屋に進んで、始まるバトル。やっぱり強いなぁ。

そう思っているとドアをノックする音が聞こえて、キバナさんがニッと笑顔を浮かべた。


「やっと来たか」
「……?」
「誰か来る予定だったんですか?」
「まあな!最近のお気に入りがな」

お気に入り…?


「失礼しまーす」


え、この、声って……


「なまえさん…!」
「おお、なまえきたか!」
「なまえさん!お久しぶりです!」

「あれ、先客がいらっしゃいましたか」


どうも、こんにちは、と笑って挨拶をするのはどこからどうみてもなまえさんで会えたのが嬉しいのと、同時にキバナさんの言葉が頭を過る。

お気に入り……。

どういう事だろう。なまえさんはよくキバナさんと会ってた?お気に入りってどういうこと?何だか、キバナさんと、なまえさんは楽しそうに話してるし…
考えているうちに3人はテーブルに見覚えのあるなまえさんの料理、お菓子を並べていく。なまえさんが呼んでくれて、隣に座るとボクにも取り分けたクッキーを渡してくれるなまえさん。


「これ、好きでしたよね?」
「……ありがとう、ございます…」

ボクが好きなものを覚えてくれてたのが嬉しかったけど、キバナさん達がいて、緊張しているせいか、上手く言葉が続かなかった。
キバナさん達の会話にもちゃんと答えられない。
隣で楽しそうに話すなまえさん。やっぱり、なまえさんは、ちゃんと話せて明るい人の方が好きなのかな…。きっと、こんなボクは、、置いて行かれてしまう…。



「…オニオンくん」
「っ…、」

無意識になまえさんの上着を掴んでしまっていて、急になまえさんに呼ばれて、いま、すごく肩がビクッてしてたと思う。情けないなぁ…。

なまえさんも情けないって思った、かな…?


「一緒に行ってくれませんか?」
「…………」


ボクが、思っていたいたものとは違って、なまえさんは優しく微笑んでいた。

よくわからないけど、頷くと手を差し伸べてボクの手を握って立たせてくれた。
なまえさん、ボクがもっと大人で、自由だったら…何処だって、ボクは着いていきたいんです。

人気の少ない廊下、ふと、キバナさんが言っていた言葉を思い出す。ここでならキバナさんがお気に入りと言っていた理由が聞けるかも。



「キバナさん、たちと知り合い…だったん、ですね」
「ええ、ありがたいことに商品を気に入って頂けまして」


気に入って…なまえさんの、料理の事…だったんだ……張っていた気が緩んで肩の力が抜ける。


「突然、お邪魔をしてしまってすみません」

なんで、なまえさん謝ってるんだろう。小さく首をふるとまた笑ってくれたけど…話題を、変えよう。



「なまえさん、よく、ここに来るんですか?」
「いいえ、たまにですね。オニオンくんは今日はどうしたんですか?」


たまに…初めてじゃないんだ。


「…今度の、エキシビション、マッチで…キバナさんと戦うので、、」


ボクと知り合う前から来てたのかな…。
ダメだ。嫌な感じになってきた。もやもやして、前が見えないような……


「あ…なまえ、さん」
「ん?」
「試合の日、見にきて、くれます、か…?」

なまえさん


「もちろんです!オニオンくんとゲンガー達の格好いい姿見せてくださいね」
「……か、勝てるか、わかりませんが……」


なまえさん、、


「試合の勝ち負けで格好いいが決まるわけではないと思います。ポケモンと一生懸命なのは誰だってかっこいいです」


なまえさん、好きです。ボクは、貴女だけを見て……


「なまえさんは……」

誰を、

「はい」
「…………何を、飲みますか?」


思わず、出てしまいそうになった。
なまえさんは誰を見ているんですか…?
そんな事を聞いてしまえば、逆に、どういう事って質問されてしまう。
こんな、もやもやした黒い気持ちは見せたくない。

なまえさんが買ったボトルを持って2人がいる部屋に戻ると、何故かキバナさんとマサルさんが向かい合って座っていた。



「あれ?席替えしたんですか?」
「まあな!花が隣にいる方が俺としては気分いいしな!」
「花ってなんですか…」
「…………」


商品を、気に入った…?ちがう、あの人はなまえさんを…。

顔を向けるとキバナさんと目が合って、僅かに細められる瞳と口角が上がった口は明らかに挑発されているのがわかる。
座ろうとするなまえさんの腕をひいてボクの方へ寄せる。ボクが動くのと同時にサニゴーンとゲンガーがあの人の側へいく。やりすぎはダメだよ。控えめにこっそり、脅かすように…。


「ど、どうしましたか?具合でも…」
「…………」


今の顔を、なまえさんに見せたくない。
驚くキバナさんの声に顔を向けたけれど、すぐにまたボクの方へ向き直るなまえさん、ボクの体調を気にしてくれていたのでに首をふる。

キバナさんがなまえさんを挑発するように何か話しているけれど、それですら、楽しそうに聞こえてしまう。ボクとの会話でなまえさんがこんなに声を張って話すことはないから。


結局、ボクのわがままによりなまえさんはボクとラテラルタウンに戻ってくれる事になった。マサルさんは心配そうにボクを見て、キバナさんはやっぱり何かをわかっているようにボクを見ていた。2人にお辞儀をして、タクシーに乗り込む。



「……なまえさん、ごめん、なさい…」

まだボクは、子供で、こんな事しかできない。なまえさんを取られたくなくて、わがままを言って、困らせて…


「…いいえ、気にしないで下さい」

優しいなまえさん。心の中で何度も呼んでしまうくらい好きなのに、、。

なまえさんはなまえさんの名前を呟いただけで、ボクを暖かい気持ちにも苦しい気持ちにもさせる。ボクは、何も出来ない…。ただ、ただ……


「なまえさん、と…離れ、たく…なくて……」
「…………」


溢れてしまった言葉になまえさんは、黙ってしまって。やっぱり、こんなわがまま、嫌、だよね…。なまえさん、お願いです。それでも、側に、いたい…。

口を開かないなまえさん。隣にある手を掴むとぎゅっと握り返してくれて


「じゃあ、しょうがないですね」
「え…」

なまえさん、しょうがないって、言ってるけど、表情が凄く優しくて


「私が甘えて下さいって言いましたから」


優しい声で出てくるなまえさんの言葉は、また、ボクを暖かくしてくれて、モヤモヤした気持ちも全部包み込んでくれる。



「………き………」


です…。


「あ、すみません。どうしましたか?」
「い、え………」


く、口に、出てた……あ、どうしよう。なまえさん、こっちみて……。何か、


「なまえさん」
「はい、何ですか?」
「ボクのジムで働きませんか?」

「いえ、家のお仕事があるので」


断られたのはちょっとショックだけど、今回は、誤魔化せて助かった……。

ずっと、このままでいたい。だけど、今のままだと、一緒にいられない。


はやく、大人になりたいな。