妄想、愉悦。





  

 これは夢なのだろうか。
 現実的な、惨い夢。縛られた手首、叩かれた頬、攻められた後孔が痛い。そして、立ち込める熱気がより居心地を悪くさせた。
 いや、夢なんかではない。冷静にならなければ。蘭丸は辺りを見回した。どうやら昼らしく、閉め切られた戸の隙間から日差しが漏れている。 立ち上がり、そちら側に歩くと、片方の足首が柱にくくりつけられていることに気付く。

「…!」

 手首も、足首も固く縛られている。昨夜暴れたせいで縄が食い込んでいた。猿轡はあまり痛くない。蘭丸は舌で布を押し、動かそうとした。

「くっ…」

 僅かに口にのり、唇を歪めると布が下にずれた。

「はあ…、はぁっ」

 口が自由になった。蘭丸は深く息を吸う。呼吸を整えて耳を研ぎ澄ます。時折風の通る音や、鳥の囀りが聞こえた。人の気配がない。随分と静かだが、此処は何処なのだろうか。部屋は板張りの床に、板の引き戸。戸の隙間の光を頼りに見渡すと、部屋の隅に衝立がある。何か隠してあるのか、被せてある布がはみ出していた。精一杯足を伸ばした所で、届く距離でもない。
 今自分に出来ることは、助けを求めることだ。人が来るまで、待つことにした。

「暑い…」

 梅雨の合間の晴れた日、閉じ込められた部屋は蒸し風呂状態だった。殆ど裸でも、この暑さは耐え難い。
 喉が渇き、汗で髪が頬や額に貼り付く。逃げ出したら、真っ先に水を浴びて、汗や血や汚れを洗い落としたい。清らかな水を、腹が膨れる程飲み干したい。蘭丸は、再び横たわった。
 




 暑い盛りの時間が終わり、日が傾きだした頃、蘭丸は起き上がった。
 誰かいる。動物とは違う、明らかに人の足音が聞こえた。

「あのー!」

 蘭丸は声を張り上げ、床を足で叩いた。老朽した床は派手な音を立てる。

「何方か、助けて下さい!」

 床を叩きつけながら、蘭丸は叫び続ける。足音が近付いて来た。

「此処です、閉じこめられているんです!」

 蘭丸が叩き付けていると、勢いよく床が抜け、割れた木材が足に刺さった。

「あうっ」

 足音は戸板の前で止まった。がちゃがちゃと音がする。
 助けが来た!
 蘭丸は、出血する足の痛みも忘れ、やっと見えた希望に胸を震わせた。

「助けて下さい!」

 蘭丸が声を絞り出すと、扉が開く。瞬間、蘭丸の表情が一変した。

「残念だっただな」

「…!」

「こげんとこ、誰も来ないだよ」

 現れたのは、田子作と言う男だった。蘭丸は、恐怖に体を震わせた。

「おめえ、怪我してるだな、見せて見るだ」

 田子作は荷物を置き、蘭丸に近付いた。

「ひでえ傷だ、手当てしてやるから、待ってろ」

 田子作は、部屋の角にある衝立の向こうから、酒の瓶を持ってきた。

「ちっと染みるけんど、我慢するだよ?」

「あっ!」

 酒が傷口にかけられると、強い刺激が体に広がった。

「我慢するだ」

 田子作が蘭丸の足首を掴み制する。傷と血を洗い流すと、田子作は服の布を破り、止血の為にきつめに巻いた。

「おめえ、つええな」

 田子作が優しい目で蘭丸を見た。蘭丸は、目を逸らした。

「汗かいただろ、体、拭いてやるだ」

「触るな…!」

 田子作の笑みに優しさは消え、瞳が冷たく光る。

「おめえ、まだ自分の立場、分かってねえみてえだな」

「……」

「今日は何もしないだよ」

「あ!」

 田子作が蘭丸の髪の結び目を掴む。

「おめえが大人しくしてるなら、だ」

「……」

 今抵抗しても、また辱めを受けるだろう。蘭丸は黙った。

「お利口だな。これをやる」

 田子作は紙に包まれた粉を取り出し、蘭丸に見せた。

「化膿止めだ。尻、痛いだろう?足の怪我にも効く」

「治ったら、また辱めるのか?」

「治さねえと信長にも抱いて貰えなくなるだ」

「信長様は、生きているのか!?答えろ!」

「先に飲め。それからだ」

 蘭丸は口を開けた。白い歯と、綺麗な舌が覗く。田子作は、自分の欲望をこの口に押し込めたい衝動をこらえ、粉を入れて竹筒の水を流した。喉が渇いていたのだろう、小さな喉がごくごくと動き、竹筒の水を飲み干した。

「体、拭いてやる」

 田子作は濡れた手拭いを蘭丸の肌に載せた。きめ細かい肌は触り心地が良く、布の水気すら弾いてしまう。

 信長の名前を出した途端、素直になった。
 顔を拭くと、蘭丸は大人しく目を閉じた。口吸いしてやろうか迷ったが、噛まれては適わない。田子作は欲望を抑えて汚した蕾や、急所、形よい足を拭いていった。

「綺麗になっただ」

 襦袢の前を併せ、整えてやる。蘭丸は、田子作の優しい態度に戸惑っているようだった。

「なあ…」

 蘭丸が田子作を見上げる。

「おめえ、おらのものにならねえか?」

 田子作は本気だった。しかし、蘭丸は田子作に蔑みの視線を送っていた。
 気付くと、田子作は蘭丸を殴っていた。怒りが収まらない。

「気が変わった」

 田子作が蘭丸の胸ぐらを掴み、馬乗りになる。

「今日も痛くしてやる」

「……」

「大人しいな」

「私は誰のものにはならない。痛めつけたいなら、気が済むまでやればいい」

 蘭丸は顔を背けた。
 気が済むまで?男の肉欲に、終わりはないのは分かっているはずだ。
 田子作は蘭丸の足を持ち上げ、開いた。猛った剛直の先端で無反応な蘭丸を押しのけ、射し込む。
 粘膜の傷もまだ癒えていない。しかし、蘭丸は唇を噛み、目を閉じて堪えていた。長い睫や赤い唇が震えていた。綺麗だ。裸にして、同じ器官を持っているのを確認した。それでも、自分と同じ男には見えなかった。
 田子作は蘭丸の中に吐き出した。しかし、体は満たされても、気持ちは虚しくなるばかりだった。蘭丸は窄まりから自分が放った白濁液を垂らしている。田子作は濡れた手拭いで丁寧に拭き取った。

「お前は信長のものじゃないのか?」

「…信長様は、人の心は所有出来ないと仰られていた」

 信長は自分を持てと言った。信長を心から敬愛している蘭丸には、信長に付き従うことこそが真の望みだったが、それは蘭丸自身の意思だ。

「おら、心まではいらねえ。お前が傍にいてくれるなら、大切にするだ」

 田子作の言葉は、まるで愛の告白のようだった。

「私は帰る」

 蘭丸は短く返した。

「安土に、帰る」

「帰さねえ!絶対に」

 田子作は蘭丸の細い首を両手で掴んだ。

「殺せばいい」

「殺すさ」

 田子作は手に力を込める。蘭丸は目を見開いた。大きな黒目に、自分の惨めな顔が映る。田子作の手は震えだした。

「けほっ…」

 蘭丸が咽せた。集中的に攻めるのでなく、じわりじわりと締め続けているから、重々しく息苦しいのだろう。蘭丸が苦しさで生理的な涙を浮かべた頃、別の者に抑えられた。

「田子作、止めれ!」

「死んじまう!」

 二人の男が、荷物を放り出し、田子作の体を蘭丸から離した。共に蘭丸を犯した二人が、いつの間にか帰ってきていた。

「げほ、ごほ!」

 蘭丸は咳き込んだ。首には鬱血した指の跡が残っている。

「どうしただ、田子作?」

「あいつ、おらに逆らっただ」

「そげんこと、気にするな。あいつはおらたちの手の中だ、なあ?」

「ああ」

 片割れが蘭丸の片足を掴み上げ、まず目で楽しんだ。蘭丸は中性的な印象を抱かせる体つきをしているが、取り分け脚の形が美しい。帆を張るように持ち上げられた脚の奥には、紛れもなく男の証がある。

「田子作、ちっとも逆らわないど」

 男は首だけで田子作の方を向きながら言った。そして直ぐに蘭丸の方へ顔を戻す。

「いい子だから、優しくしてやる」

 既に硬くなった一物を出し、犯されたばかりの秘孔にずぶりと埋め込んだ。蘭丸が痛みで背を仰け反る。

「いっ…」

「痛いか?我慢するだ」

「おい、その淫乱の、乳首を捻ってやれ。喜ぶど」

 田子作は残忍な笑みを浮かべている。男は帷子を開き、両手指で小さな小さな薄紅の豆粒を押し潰し、つまみ上げた。

「んっ…」

 蘭丸は吐息混じりに声を漏らす。こみ上げてくる快楽を抑えているのだろう。田子作は声を上げて笑った。そして、再び欲情した。

(信長様…)

 信長も、よくこんな風に強張った蘭丸の体を快楽へと導いてくれた。しかし、この相手は信長ではない。一方的に、自分の悦楽の為だけに、尊厳を奪おうとしている。

「いやっ…」

「随分と色っぽい声だな」

「やだ、こんなのは…」

 田子作ともう一人の男が、嘲笑いながら蘭丸を囲った。

「おい。お前は腰を振ってろ。乳首はお前が弄ってやれ」

 男は蘭丸の腰を掴んで腰を前後に揺すった。傍観していたもう一人が蘭丸の乳首を指先で擦り、引っ張った。もう片方は淡い色の輪ごと口に含み、その頂を吸った。手と口で完起ちした乳首を嬲る。
 二人に指示を出した田子作は、蘭丸のまだ柔らかさを保った下肢を掴んだ。慣れた手付きで扱く。十分に熟れていない蘭丸が弱い箇所を同時に幾つも攻められ、悶え始めた。田子作が続けていると、次第に先走りで濡れ始めて、上下運動が素早く、規則正しくなる。

「聞こえるか、お嬢ちゃん」

 蘭丸は瞳から涙を滲ませる。精神的なものによるものだと見て取れる。

「本能寺はな、焼け落ちた。お前が放った火でだ」

 田子作はこの可愛い顔が苦痛に歪んでいくのが楽しかった。

「生き残った奴はいねえ。信長も、おめえの仲間も、焼け死んだだ」

「信じるものか…!」

 激しい息遣いをしながら、蘭丸は叫んだ。

「勝手にしろ。おめえには関係ねえことだ」

「う!」

 蘭丸の体が震えた始めた。田子作は、手の中のものをぎゅっと握る。先端から、蘭丸の生命力が飛び散り、田子作の手に絡みついた。

「信長が生きていようが、関係ねえだ。お前は、此処に居るんだからな」

 田子作は蘭丸の体液を舐めた。やはり、美しくても男か。しかし、生々しい味の中に不思議と甘さが残った。

「うまいな」

 蘭丸は何も言わなかった。主の死を受け入れたのだろうか。ぼんやりとした瞳は何も映さず、大粒な涙を流していた。









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