妄想、愉悦。





   

 二人は、林の奥深く、傍に泉のある、貧相な小屋に辿り着いた。
 囲炉裏も照明もなく、床は冷たい。誰かが置き忘れた敷布のように薄い布団だけがあった。

「ここ、木こりの休憩場に使われてるだ。寒いし小汚いけど、外よりはましだ」

 暗い小屋の壁の上部に、小さな窓があった。其処から入り込んだ月明かりが、蘭丸の瞳に映し出される。源太郎は優しく笑った。

「今日が晴れていて良かっただ、暗くても、お蘭が見える」

 源太郎は蘭丸の背中に腕を回し、邪魔な甲冑を外して放り投げる。自分の甲冑も外し、上半身裸になった。蘭丸が脱ごうと服に手をかけると、源太郎は止めた。

「おらが脱がせてやるだ」

 蘭丸は従い、源太郎に預けた。源太郎は蘭丸の服を優しく剥がし、露わになった華奢な肩や鎖骨に舌を這わせた。蘭丸の体がうねると、乳首が立ち上がって反応する。

「寒いだか?」

 源太郎は薄い布団を肩にかけ、蘭丸に被さった。

「いえ…」

 照れたように蘭丸は瞳を逸らす。嬉しくなった源太郎は硬くなった乳首を舐めた。

「くっ…」

 蘭丸は早速肩で、声で応えた。

「お蘭、声出していいだよ」

「ん、ん…」

 源太郎は、心臓に近い淡い色の突起を口に含み、唾液を塗し、舌を動かした。

「あ、ああっ」

 蘭丸の大きくなってゆく中心が、源太郎の鳩尾に当たる。
 源太郎は乳首の愛撫を止めぬまま、腰を浮かせ、蘭丸の衣服を太ももまで下ろした。ぴんと張り、衣服を押し上げていたそれは解放されて直立になり、先端の先走りが妖しく光った。

「可憐なお蘭が、こんな立派なもの持ってるなんて、誰も想像出来ねえだろうなあ…」

 源太郎は愛撫を中断し、呟いた。

「源太郎様の方が、大きいじゃないですか…、ああっ」

 蘭丸自身を掴んで、余った指で両端の膨らみを擽る。

「力、抜くだ」

 余裕のない蘭丸はこくこくと頷いた。源太郎は手の上下運動を始め、また乳首を吸った。蘭丸は全身に鳥肌を立て、下肢に太い筋を這わせた。

「源太郎様…!あ、ああっ…!いっ、だめっ…」

 小さな室内に、蘭丸の淫らな声音が響く。その声で堪らなくなった源太郎は、上下運動を中断し、蘭丸の体を抱き起こして乳首に刺激を与えた。唾液でふやけ始め、壊れそうな程柔らかく、弾力もある。歯と唇で挟んで、ささやかな感触を楽しむ。

「んん、痛い…!」

 僅かな痛みは、大きな快楽を伴い、蘭丸は源太郎の頭を胸板に押しつけるように抱えた。
 僅かな箇所を集中的に、じっくり攻め続けると、蘭丸はぐったりと動かなくなった。
 下肢に目をやると、ゆっくりと体液を流していた。

「小便みてえだ」

 源太郎はまじまじと見詰め、呟いた。しかし、白く濁ったそれは、欲望を放出したしるしに違いない。
 蘭丸は火照った体に汗を浮かべ、源太郎を見上げる瞳は焦点が合っていない。
 源太郎は全裸になる。蘭丸の腰を浮かせた。

「お蘭、痛かったら、言ってくれ」

「はい…」

 源太郎は指を舐めて、静かに入れた。

「痛くないか?」

「平気です、源太郎様…、早く、源太郎様が、欲しいです…」

 蘭丸は手で顔を隠して、消えそうな声で求めた。窄まりは狭く、慣らした方が良い気もしたが、受け身の蘭丸が珍しく行為をせがんできたのが嬉しくて、源太郎はすぐにでも応えたかった。
 指をそっと抜いて、蘭丸の右足を肩に乗せ、左足首を掴んで、足を広げた。

「お蘭は体が柔らかいな」

 無防備で、尚且つ無理な体制。しかも、暗がりの月明かりの下で。白い陶器のような肌はまるで芸術品のような風情を漂わせているが、温もりも、心もある。源太郎に蘭丸の恥じらう気持ちが伝わっている。

「お蘭、恥ずかしいか?」

 源太郎は蘭丸の顔を覆った手を剥がす。蘭丸は眉間に深い皺を作り、視線をずらした。何度、体を重ねても、蘭丸の初々しさは褪せない。源太郎はそれが嬉しかったし、愛おしかった。

「早く、源太郎様…」

「ああ」

 源太郎は指で入り口を広げ、準備が整った自身をあてがった。押し込むと、蘭丸は苦しげな声を漏らし、手に力を込めて布団に深い皺を作った。

「お蘭…本当に、痛くないだか?」

「平気ですから、源太郎様…、もっと、深く」

 源太郎は腰をゆっくり突いた。

「お蘭の中、きついだ」

 蘭丸は顔をさらに反らし、投げ出した足先を突っ張らせる。

「お蘭、ほんとは痛いだな?」

「いいえ…」

「嘘、ついてるだ。おら、気持ち良くなって欲しいだよ」

 源太郎は放出してから萎んでいたままの蘭丸の根を掴んで、再び上下に動かした。

「起たねえかなあ」

 源太郎は左足首の手を離して、根元の両端の膨らみを揉んだ。

「んんっ」

「お蘭のここは気持ちいいな」

 源太郎は膨らみを摘んで、指先の感触を楽しむ。まるで子猫の皮膚のように柔らかい。源太郎が弄んでいると、次第に中心の硬さが甦ってきた。
 強ばっていた蘭丸が、甘い息を吐いて、体全身で呼吸を始めた。

「体、解れたか?」

「はい、源太郎様…、んんっ」

 源太郎は起ち上がった蘭丸を解放し、震える足に手を添え、腰を前後に動かす。次第に、装着部から粘り気を帯びた水の音が鳴る。

「源太郎様…!」

 蘭丸は瞳に涙を貯め、源太郎を見詰めた。一心不乱に腰を突き、快楽を放出させる表情。

「っ…」

 蘭丸の中に熱いものが流れる。

「んっ、源太郎様…」

 源太郎の熱を受け取った蘭丸は、泣いていた。

「痛いのか、お蘭…」

「いいえ、嬉しくて…」

 源太郎は自身をゆっくり蘭丸から引き抜いて、蘭丸の足を肩から下ろした。先走りの滴りごと、下肢を口に含んだ。

「はうっ」

 先端を甘噛み。それだけで、蘭丸は放ってしまった。量は先程より少なく、源太郎は容易く飲み込んでしまう。
 二度も放ち、源太郎の熱を受け入れた蘭丸の涙を指先で拭い、火照った体を抱き寄せた。

「体が熱い。冷やすぞ」

 ぐったりと、蘭丸は源太郎の肩にもたれた。源太郎は抱き上げて、小屋の扉を開けた

「目、覚ましてやるだよ」

 源太郎は小屋の扉を開け、外に出た。ひんやりとした夜の秋風が、火照った体を優しく撫でた。

「綺麗ですね…」
 泉に、月がくっきりと映し出されて、黄金色が水面に揺れる。蘭丸は源太郎の腕の中で、泉に描かれた満月を見つめた。
 源太郎は蘭丸を抱いたまま、泉に浸かる。

「冷たい」

 蘭丸は源太郎にしがみついた。

「お蘭、体、洗ってやるだ」

 源太郎は蘭丸の足を抱えていた手を離す。上から蘭丸の足の間を通り、手を入れた。水中で、蘭丸の蕾に指を入れる。

「水が気持ちいいだか?」

「変な感じがします…」

 源太郎は狭い孔の中で指を動かしてみた。

「んんっ、や、水が…」

「ちゃんと洗わないと、体に悪いだ」

 自分の体液の残骸を掻き出すように、源太郎は念入りに肉壁をなぞった。

「もう、大丈夫です」

 蘭丸は源太郎から体を離し、泉から上がろうと岸に手をかける。

「逃がさないだ」

 源太郎が蘭丸を抱き竦める。うなじを甘噛みし、手を腰に回してきた。

「源太郎様…、蘭は、持たないかもしれません」

「ん?」

「源太郎様にご奉仕しなければ…でも、蘭の方が、源太郎様より…」

「それは、ないだ。だっておら、ちっとも余裕なんてねえもん」

 源太郎は蘭丸を反転させ、向かい合った。強く抱き締める。大きく、堅いものが蘭丸の腹に当たった。

「おら、床上手じゃねえもん、分かってるだよ。でも、おらが触れる度、顔赤くして、声出して、反応してくれて…。返してくれるから、おら、それだけで嬉しい。お蘭の言う、直にしてくれるご奉仕とおんなじぐらい、おらは満たされる」

「本当に?」

「ああ。ま、直のご奉仕も大好きだけんど」

 源太郎は岸に上がって座り、足を開いた。ちょうど蘭丸の顔の高さになったものは、大きくなり、筋を立てている。
 蘭丸は手を伸ばした。

「源太郎様、どうぞ、寝そべって下さい」

「こうか?」

「腰をずらして、もう少しこちら側へ」

 蘭丸に促され、源太郎は上半身を岸へ、腰から下は泉に浮かせた状態になった。開いた脚の間には蘭丸がいる。蘭丸は手で足の付け根に触れた。そっとなぞり、膨らみの上で見とれてしまいそうな程しなやかな動きで、指を這わせる。源太郎の背筋に、快楽の波が通る。

「源太郎様、まだ、ですよ?」

 小さな口を広げ、先端を咥え込む。口内で舌が動くのが分かる。

「うっ」

 蘭丸に先走りの出口を舌で塞がれ、たまらずに声を漏らす。舌先で何度かつついてから、咥えていたのを離して、今度は側面を丁寧に舐めた。滑らかな舌の摩擦。源太郎は力を抜いた。だが、悪戯な指先が、縫い目を刺激する。

「お、お蘭っ」

 舌の動きを変えることなく、指は後ろの孔へと移動した。源太郎は焦って、体を浮かせた。

「駄目だ、それは…!」

 蘭丸は舌を離し、源太郎に告げる。

「大丈夫です」

 蘭丸の笑顔は愛らしく、源太郎を見つめる眼差しは慈愛に満ちていた。源太郎が黙ると、蘭丸は目線を手元に戻し、作業を再開した。真剣に、主君に快楽を与えようと直向きな表情。蘭丸は細い人差し指を、そっと挿し入れた。

「っ…」

 源太郎は体を大きく引きつかせた。

「少し痛いかも知れませんが、すぐに慣れますから」

 当然だが、こんなことをされるのは初めてだった。痛みはないが、異物感がある。

「お、お蘭はこんな気分だったん、うああっ」

 源太郎の呟きが叫びに変わった。蘭丸は指を埋め込み、中で折ったり、戻したりを繰り返した。

「お、お蘭、お、お、お蘭!」

 折る度に圧迫され、戻す度に解放される。その律動で、源太郎の熱は今にも溢れそうになっている。蘭丸は速度を速め、指を曲げたまま小刻みに動かした。

「っ……!」

 源太郎の声にならない叫びが、熱と共に散り、殆ど倒れ込むように寝そべった。
 源太郎は今までにない味を知り、放った後の余韻で視界が霞む。蘭丸は泉から体を上げ、源太郎の隣に寄り添う。広げた腕に頭を載せ、ぴったりと体をくっつける。
二人は真上の月を見上げた。

「…っきゅしゅっ…」

 蘭丸が嚔をした。意識を飛ばした源太郎が我に返り、蘭丸の肩を抱いた。

「冷えてるだな。中へ入ろう」

「いえ、もう少し…」

 蘭丸はまだ光りに心を奪われていた。

「壮観だな。月が、おらたちをずっと見ていただな」

「源太郎様…。もし、私たちのこの姿が誰かに見られていたら、どうなさいますか?」

「急に何を言うだ」

「あ、あの…」

 蘭丸は胸の内を源太郎に伝えるべきか、考えた。

「おらが外でやるから、そうゆう趣味だと思っただか?」

「いえ、そのような訳では…」

「じゃあ、何でだ?」

 内容が内容なだけに、言い辛い。蘭丸は言葉に詰まる。

「隠し事はなしだ。お蘭の荷物、半分背負うって決めただよ」

 源太郎の眼差しは、力強く、優しさを湛えている。蘭丸は源太郎に抱き付いた。

「お蘭、どうしただ?何だか、変だ」

「蘭は、源太郎様の、お側にいたいのです。もう、離れたくない…!」

 悲しげな声色。

「おらは、こうして傍にいるだよ」

「残っているんです。あの…田子作と言う男や、その仲間の男たちの残した痛みや、記憶が」

「お蘭、やっぱり痛かっただか…!無理するな」

「源太郎様と交わって、痛みは生まれ変わりました。もう、平気です」

「でも、記憶は消えないだ」

「はい。だからどうか、これからは源太郎様とご一緒にいたいのです。源太郎様しか見えない程、近くに。誰にも、触れられたくない…」

「おら意外、触れさせないだよ」

「ですが、また、私たちを引き裂く者が現れたら?あの男は、信長様の振りをして、蘭に近付いて来ました。また、あの男のように、二人しか知り得ない戯れを…」

「大丈夫だ。二人で逃げよう。誰も、おらたちを知らない場所へ。二人だけになれる場所へ」

「源太郎様…」

「これから寒くなるし、南がええな。だが、思い切って北国でもええな。なあ、お蘭、どっちがええか?」

「源太郎様となら、どこへでも」

 蘭丸は源太郎の胸板へ冷たい頬を押し付けた。

「月見もいいけど、風邪引いちまう。中へ戻ろう」

 源太郎は蘭丸を抱き上げ、小屋へ入る。
 体は殆ど乾いていて、髪の水滴だけ拭き取り合う。裸のまま寄り添い、布団にくるまって、互いの体温で暖めあいながら、眠りに就いた。



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