妄想、愉悦。


拾弐



 体を清め、髪を拭いて、二人は装備服に着替える。
 蘭丸は手拭いで床の体液を拭き取り、洗ってから、敷布と共に窓辺へ干した。

「今日が晴れで良かった」

 蘭丸が眩しそうに目を細める。

「そうだな。なあ、お蘭、腹、減らねえか?おらたち、昨日から何も食ってないだ」

「そうですね。では、街に参りましょう」

 蘭丸は源太郎に笠を被せ、顎で紐を結ぶ。

「でも、おら、金持ってないだ」

 蘭丸は懐から、簪を出した。派手な飾りがきらきらと光る。

「これをお金に変えましょう」

「お前、持ってただか?」

「はい。隠し武器になると思ったので。ですが、これほどの品です、きっと、高く売れます」

「じゃ、いくべか」

 源太郎は蘭丸の手を取り、歩き出した。

 二人は、一刻程歩いて街に出た。

 簪や甲冑を売り払った金で、服を買い、二人は河原の橋の下で着替える。

「思ったより金になっただな」

 源太郎は金の入った袋をじゃらじゃら振る。

「ええ。これで当面の生活は補えるでしょう」

「でも、甲冑や刀、売っちまって良かったんか?」

「もしもの時、家紋で身元が知られてしまっては色々面倒ですし、これからの旅に必要ありませんから。護身用に一振りだけあれば充分です。食事の後、調達しに参りましょう」

 蘭丸は足袋と草鞋だけ残して全裸になった。買ったばかりの白い布を取り出す。

「違いねえ。今日は旅立ちの祝いに、どっか宿でも取るか?」

「いいですね」

 蘭丸はくすりと笑った。

「ですが、あまり贅沢をしてしまうと…」

 源太郎は視線を戻し、華奢な腰に巻き付けた布に手をやる。

「お蘭、これじゃあ、緩すぎる」

「そうでしょうか?」

「おらが巻いてやるだ」

「えっ」

 返事を聞く前に、しゃがんだ源太郎は布に手をかけ、ほどく。眼前に無防備な股間が晒され、蘭丸は顔を赤くした。

「源太郎様、早く、してください…」

「ああ」

 源太郎は中心を一舐めした。

「違っ…それを…」

 蘭丸は布を指し、源太郎は我に返る。

「いや、早くしてって言われたもんだから、つい…。これくらいでいいだな?」

 源太郎が余りの部分を確認して、脚の下をくぐり、締めてやる。

「痛くないか?」

「はい」

「お蘭は痩せてるから、布が余るだな」

 上手にねじり、腰の後ろで結ぶ。

「出来ただ」

「本当に、お上手ですね。私よりも」

「お蘭は解くのは上手いのにな」

 源太郎は蘭丸から離れ、背を向けて着替え始めた。不覚にも、蘭丸の下帯姿に欲情しそうになる。

「さっき出したばかりだ、いかんいかん!」

 源太郎は脱いだ胴衣を投げつける。解せない行動に、蘭丸が問い掛ける。

「どうかなさいましたか?」

「何でもないだ。早く着替えて、飯にしよう」

 下衣を脱いで買ったばかりの服を広げる。蘭丸が選んだ、抹茶色の着物と、藍の羽織りを手こずりながらも着付けた。

「どうだ、似合うか?」

「お似合いです、とっても」

 蘭丸は既に着替え終えていた。青紫の小袖に、裾の広がった袴。防寒用の頭巾は装着しているが、頭から外している。

「襟はこう折った方が」

 蘭丸が襟に手をかける。源太郎は蘭丸を見詰めた。

「どうかなさいましたか?」

「いや、お蘭が可愛くて…。似合うだな」

「源太郎様、それは、男への誉め言葉ではないです」

 蘭丸が顔を綻ばせる。

「源太郎様、食事は買って、こちらで頂きましょう。こんなに、天気がいいのだから」

「ここなら、二人きりになれるしな」

 そう言ってから、源太郎は荷物を纏め、蘭丸の手を取った。

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