妄想、愉悦。


拾伍


 


「ん、んあぁ…」


 殺風景だが、広く清潔な部屋で、蘭丸は半裸で横たわり、全裸の源太郎に組み伏せられていた。湯殿で体を清めたばかりなのに、肌は既に汗ばんでいて、息遣いは荒い。呼吸を整えると源太郎に唇を優しく包まれ、下唇を甘噛み仕返した。
 舌を入れることが出来なくなった源太郎は、観念して顔を離した。

「綺麗だな」

 横たわったままの蘭丸を見下ろし、源太郎は一人ごち、まだ濡れたままの長い髪を撫でた。
 顔は年若いおなごのように愛らしく、体は発展途上の少年の、性別を越えた美しさ。その存在の、身も心も委ねられた至福の時間。源太郎は蘭丸の広げられた浴衣の裾を掴んで、裸身をじっくり眺めた。
 体を気遣い、交わりは避けた。代わりに白い肌に花弁を舞い落とすように、無数のしるしを刻んだ。輪郭、首筋、鎖骨、胸板、鳩尾、腰や太腿に及ぶまで。源太郎はその一つ一つに視線を送る。
 源太郎が視姦を続けていると、蘭丸は頬を染めた。

「まだ、終わらないだよ」

「もう二度も…」

「お蘭はまだ一回だけだ」

 源太郎は蘭丸の足の間に座り込み、萎びた中心を掴んだ。

「口取りしてやろうか?」

「そ、そのようなことは…」

「じゃあ、手でやってやるだ」

 小さな桃のような先端を、指先で嬲る。

「お蘭はここも綺麗だ。なのに立派で」

 ざらついた指で先端部分を撫で回し、両端の膨らみを突っつく。

「んっ、んん…!」

 さして時間も経っていないのに、蘭丸の体は強張り、殆ど敷かれただけの浴衣を強く握った。そんな蘭丸を見ていると、自分まで昂ぶってしまう。

「尻が駄目でも、一つになれるぞ、お蘭」

 源太郎は蘭丸と自身の中心を平行にくっつけて、両手で包み込んだ。
 中心だけに及ばず、袋や後孔までが密着し、無理な体制のまま、腹筋に力を入れて上下に素早く扱いた。

「お蘭、見てみろ、お前のが、おらのより大きいど」

 そう言っているうちに、臨界点の低い源太郎が直ぐに越えてしまった。源太郎は両手の素早い動きを疎かにせずに、薄目で蘭丸を見詰めた。されるがままの蘭丸は熱っぽい目で空を仰ぎ、顔を火照らせている。

「ふおぉぉぉっ…!」

 極まった源太郎の濃い粘液が、蘭丸の白い体にまき散らされた。

「いかん、またおらから出ちまった」

 放出した源太郎はまだ達しきっていない蘭丸の肩に被さった。毎度この調子で決まりが悪いが、蘭丸はそれどころではない。

「なあ、お蘭、どうして欲しい?」

「げ、源太郎様、して、下さい…!」

「ああっ」

 源太郎はすぐさま起き上がり、小さな果実をくわえ込んだ。

「あああ……!」

「ふぐっ」

 源太郎の咽喉を突き上げるように、蘭丸は放った。熱く濃いそれを源太郎は口内に受け止め、蘭丸の腹に吐き出した。

「ほら、おらとお前、一つになった」

 抉れた腹と臍の窪みに、白い水たまりが出来た。源太郎が指で掬う。

「本当だ」

 蘭丸が体液塗れの体で起き上がる。濃い粘液は、ゆっくりと流れ落ちた。源太郎に抱き付き、その身を密着させた。

「もっと、源太郎様」

 蘭丸が潤んだ目で見詰める。源太郎は、それだけで、自身がまた活性化しそうになる。

「もっと、何だ?」

「……一つに、なりたい」

 源太郎は口を塞ぐように唇を強く吸った。蘭丸の唾液を吸い出すと、体液と混ざり合った。

「でも、後ろは駄目だ。まだ腫れてる」

「いいです、滅茶苦茶に、壊されてもいいから…!」

 強く吸いすぎだせいか、蘭丸の唇が少し腫れていた。それがより一層、淫靡さを増す。源太郎はごくりと唾を飲んだ。

「いや、駄目だ、駄目だ。こんな可愛いお蘭を壊してはいかん」

 源太郎が理性を失わないように、見えないように自分の肩に蘭丸の顔を押し当てた。

「さっきまでは照れてたのに、どうしただ?」

「…蘭にも分かりません。何故か、急に寂しくなって」

「寂しい?なら、風呂に入って温めあうだ。もう一度さっぱりして、飯、食って、一つになって寝る。したら、平気だな?」

 源太郎は蘭丸の体に浴衣を引っ掛けて、体に付着した粘液を拭き取った。




 二度目の湯浴みを終えて部屋に戻ると、夕餉が部屋に運ばれていた。温かな食事など、どれくらい振りだろう。二人はつましいが優しい味付けの料理を、ゆっくり口に運ぶ。
 源太郎が茶碗の飯を平らげると、蘭丸が櫃の飯をよそい、源太郎に渡した。
 二杯目の飯をかっこむ源太郎に、蘭丸は優しい眼差しで見詰める。そして、また切なげに瞳を伏せた。

「また物思いに耽ってるだか?」

「え、あ、あの…。私は、迷っているのです」

「何を?」

「蘭が、源太郎様に優しくされればされる程、申し訳ないと思ってしまいます」

 食事を終えた蘭丸は茶を淹れて、源太郎に手渡す。源太郎は湯飲みを受け取りながら微笑んだ。

「お蘭が頑張って耐えてきた分、幸せになってもいいだよ」

「源太郎様、救える不幸があるならば、蘭は手を差し伸べても構いませんか?」

 蘭丸は荷物から鍵の束を取り出した。

「源太郎様、これを」

 源太郎には見覚えがあった。

「お前…、持ってただか?」

 源太郎の表情が強張る。この鍵に関する場所は、忌まわしい記憶しかない。

「源太郎様、あの城には、この鍵の数、捕らわれの少年達がいます。私は、助けたいのです」

 正義感の強い蘭丸らしい言い分だが、源太郎は即答した。

「駄目だ」

「大丈夫です、私は、誰にも見つからずに」

「幾らお蘭でも、大勢を守りながら逃げるのは無理だ」

 源太郎は小さな肩を両手で掴んだ。瞳は蘭丸を案じている。蘭丸は顔を伏せた。

「私は、耐えられなかった。閉じ込められ、尊厳を奪われ、辱めを受けるのが…」

 蘭丸の肩が震えだした。

「源太郎様に出会えなかったら、誇りを失って死んでいた。そんな思いを抱えて過ごすのが、どれ程辛いか私には痛い程…」

 蘭丸の言葉は嗚咽に近く、途切れ途切れだった。源太郎は掴んだ肩を抱き寄せる。

「お蘭は優しいだな。でも、駄目だ」

「何故です!?」

「危険だ。鬼河原の懐刀を殺して、逃げたんだ。見つかったら殺される」

「源太郎様、お願いします。必ず、無事帰りますから」

「お蘭…」

 濡れた瞳は、凛々しく力強い。源太郎は頭を掻いた。

「お蘭、お前は、家柄が良いからそう思うかも知れねえが、世の中には、誇りより大事なもんがある奴がいっぱいいる。金も食い物もなくても、生きるのに必死な奴が」

「そんな…」

「田子作は、確か、少年たちを買ったと言っていた。殆どのおのこは、生きる為に買われたんじゃねえか?助けたって、帰るとこなんてねえかも知んねえだよ」

「それでも、そのように生きるくらいなら、路頭に迷った方がましです!」

「お蘭!」

 源太郎は乱暴に肩を床に押し倒した。

「自分の物差しで言うな。必死で生きている奴に失礼だ」

「そ、そのようなつもりは…」

 掴まれた肩が痛い。

「生きる為に、春を売る奴は、そんなに惨めか?」

「惨めです、あんな苦しみを受け入れるくらいなら、蘭は命を捨てます」

 蘭丸の目尻から、涙の粒が伝い降りる。源太郎は肩から手を外して、涙を指で拭った。出逢ってから、初めての衝突だった。だが、源太郎は、自分には持てないこの高潔さを愛していた。

「辛くとも、お蘭が生きていたから、おらたちは出逢えた。あんなに辛い目に遭ったって、お蘭は気高くて、綺麗で…。春を売っている奴にも、誇りを持てない訳じゃねえ」

 蘭丸の体から離れて、背を向ける。

「肩、痛かっただな。ごめん」

「い、いえ…」

「偉そうなこと言ったけど、一番の理由は、お蘭を危険な目に遭わせたくないからなんだ」

「源太郎様…」

 こんなに諫められても、蘭丸はまだ迷っていた。非道な男たちの仕打ちは、蘭丸の心に未だ傷を残している。
 重い空気の中、片付けに来た志津が酒瓶を持ってやって来た。

「食事、済んだみたいね。煮付け、あたしが作ったのよ。どうだった?」

 源太郎は何も答えない。蘭丸が口を開いた。

「とっても美味しかったです」

「蘭ちゃんはいい子ね。これ、あたしからのお礼よ」

 志津は杯へ酒をたっぷり注いで二人へ差し出す。

「地酒なの。美味しいんだから、飲んで。源太郎も」

 志津が促すと、二人は静かに口に含んだ。

「美味しいです」

 蘭丸の杯が空になる。

「いける口なのね」

 志津は更に並々と注ぐ。

「ほら、源太郎も。もう、大人なんだから」

 源太郎の杯にも並々と注ぎ、志津は瓶を畳に置いた。

「ごゆっくり」

 そう告げて、膳を片付けて志津は部屋を出た。蘭丸は源太郎に目をやる。

「志津殿は、親切ですね」

 源太郎は顔が真っ赤だった。

「酔いが、廻ってしまったのですか?」

「ん…、おら、下戸で…」

 杯は空だった。

「横になって下さい。今、布団を…」

 蘭丸が立ち上がろうとすると、源太郎が細腰に抱き付いて止めた。

「お蘭、行っては駄目だ…」

「蘭は、何処にも行きません。わっ」

 源太郎が蘭丸の体に倒れ込む。そのまま眠りに落ちてしまった。

「源太郎様…」

 蘭丸は、源太郎の体を仰向けにし、邪気のない寝顔を見詰めた。

「不安にさせてしまって、申し訳ありません」

 蘭丸は源太郎の肩に顔を伏せ、被さるように抱き付いた。









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