拾陸
志津がそっと部屋の扉を開けると、食べ残した食事と寝静まった二人が目に入る。布団も掛けず、蘭丸が源太郎に被さるように寝入っている。
「おーい」
小さすぎず、大きすぎないような声で呼んでみるが、反応はない。今度は二人の肩を軽く揺すってみるが、目覚める気配はなかった。
「すっごい、効くんだわ」
志津は空の杯に目をやり、にやりと笑った。
まず、志津は蘭丸を源太郎の体から剥がし、引き摺り出す。長身だが、見た目より軽く、肉付きも薄い。
「よいしょっと」
広い畳の端に、蘭丸を寝かす。志津は、寝顔を見詰めた。睫が長く、鼻筋が通っていて、血色が良く鮮やかな色の唇。
志津は蘭丸の浴衣の帯を解いて、手首を頭の上で交差させ、きつくならないように縛る。苦痛を与えず、複雑な形で結ぶと、はだけた胸元から、所々赤い跡が目についた。
(源太郎ったら、いつの間にかこんなこと、覚えたのね)
志津の視線は体へと移った。
背も高く、骨格もしっかりしている割りに、胸も尻も未発達で、抱き心地が悪そうだ。志津は自分の豊かな体に自信を持っている。
(こんな痩せぎす、何処がいいのかしら。奪って見せるわ。今晩だけでも。あたしには、この子にはないものがある)
志津は蘭丸の浴衣の合わせを左右開いた。
「…こ、この子…!」
平らな白い胸板には、点々と源太郎が残したしるしと、二つの小さな頂。無駄肉のない下腹部の下には、志津にはないものがついていた。
思いがけないことで、頭がついて行かない。
「嘘…」
志津は顔から爪先まで、視線を往復させる。
信じられない。昔の想い人の、今の想い人が男だなんて。
志津は、剥き出しになった白い肌に、そっと手を伸ばす。瑞々しい柔肌は、少女のようだ。
「……!」
志津の胸の先端が硬くなり、女の芯が疼き出しているのが分かった。
女として知りたい。この美しい少年の味を。ごくりと生唾を飲み込んで、髪飾りを取り、髪を解く。
自分の着物の帯を解き、前を大きく開けた。まるい乳房の尖った中心が顔を出した。
蘭丸の細い腰にそっと跨る。下腹部に、湿った中心が直にあたる。
志津は無防備な唇に口付けた。酒の匂いこそするが、艶やかな唇はどんな男よりも柔らかい。唇を塞ぎ、小さな舌に自身の舌を絡みつけ、唾液を吸う。蘭丸が無反応だった舌を突っ張らせ、息苦しくくぐもった叫びを上げる。
「ふっ、んん!」
志津が僅かに目を開けると、見開いた大きな瞳と視線がぶつかる。志津は唇を離し、妖しく微笑んだ。
「何を…」
目覚めた蘭丸は頭痛はするし、体は酷くだるい上、視界は霞み、状況が把握しきれないでいた。目の前のこの人は一体誰なのか。蘭丸は重たい瞼を瞬かせ、視界の焦点をあわそうとした。
「起こしてあげるわ」
志津は蘭丸の乳首を指でつまんで、爪を立てた。
「あうっ…」
蘭丸が、体をがくりと揺さぶらせた。何て愛らしい声で鳴くことか。志津は、もう片方を同じ様に爪を立てる。
「や、痛い!」
蘭丸は眉間に皺を寄せ、拒否を示す。だが、志津はより一層、昂りを抑えられない。
「ごめんなさい。あんまり可愛いものだから、苛めたくなっちゃうの。今度は優しくしてあげるから」
志津は指を離し、今度は舌で愛でる。先端を舌でつついて、周りを撫で唇でそっと包む。
「あっ、何をっ…」
手首を拘束された蘭丸が体を揺さぶると、志津は胸から顔を離した。
「志津殿…」
蘭丸は、ようやく視界が開けた瞳で志津を見詰めた。そして、すぐさま顔を背ける。視線の先に眠りこけた源太郎が横たわっている。
「源太郎様!何故、このようなことを…、まさか、先程の…?」
「ふふ…、たっぷり飲んだもんね?」
「私達をどうなさるおつもりです!?早く解いて下さい!」
「どうするって?」
志津は、肩に引っかかっただけの着物を脱ぎ、放り投げた。一糸纏わぬ、生まれたままの姿になる。蘭丸の頬を支え、こちらを向かせる。
「どう?あたしの体」
形よい乳房や、それを支える少し広めな肩幅、しなやかな腰の線、それを所々覆う長い髪。妖艶な女の、この上ない輝き。
「あ、あのっ…、綺麗ですから、早く、服を」
蘭丸は正直に答えて、視線を志津の顔に戻す。
女に興味がない訳ではないらしい。志津は屈んで蘭丸の手を握り、指を絡めた。
「有難う。でも、貴方も綺麗。本当に男の子?」
志津は、自分の剥き出しの胸に、交差されたまま縛られた手を持ち上げ、押し当てた。柔らかい掌が、更に柔軟な乳房に添えられる。
「お止め下さい、志津殿!」
「嫌なら、抵抗してみたら?」
志津は、蘭丸の手を離した。ぐったりと、腕が蘭丸の頭上に叩きつけられる。
志津は、蘭丸の体から降りた。蘭丸の下腹部に、自らが分泌した透明な体液が残っている。
「強い薬を飲ませたからね、自由が効かないでしょう?なのに、ここは」
「そこは…」
志津が、堅くなり始めた下肢に手を伸ばした。中心を掴み、足を開かせ、舐めるように見詰める。
「顔に似合わず、持ち物は立派ね。色も綺麗。わあ、ふぐりも全くくすんでないわ」
「ああっ」
志津が皺の少ない膨らみを口に含むと、蘭丸が喘ぎに近い悲鳴を上げる。志津は柔らかな皮膚を甘噛みし、中を舌で転がすように弄ぶ。
「駄目っ。志津殿…」
蘭丸の嬌声が途切れる。志津は口を離した。
「なあに?」
「女性なら、もっとご自分を大切になさって下さい」
一瞬、静まり返った後、志津は狂ったように笑い出した。
冷たい笑い声が部屋に響く。
「あんた、何言ってんの?あたしは娼婦よ?」
「え…?」
「それとも、娼婦は自分を大切にしていないとでも?」
蘭丸は返答に詰まる。志津は口角を上げたまま、表情のない瞳で告げた。
「あんたの尊厳を奪ってあげる」
志津は立ち上がり、部屋の天袋から桐の箱を取り出した。
「今の源太郎は、これくらいかしら?」
中から木彫りを取り出し、蘭丸に見せつけるように翳した。木彫りの模型の形は生々しく、黒光りしている。
蘭丸の心に恐怖が生まれる。
「良く出来ているでしょ?男根に見立てて使うのよ」
「そんな物を…、どうするつもりですか!?」
「教えてあげる」
志津は蘭丸の腰に二つ折りにした座布団を敷いて浮かせる。蘭丸の、源太郎に沢山愛された秘所が晒された。
「女はね、自ら潤滑油を造れるのよ」
とろりとした自分の体液を指に塗り、蘭丸の窄まりに埋め込む。
「い、いっ」
蘭丸は自由の効かない体をくねらせ、痛みを訴える。
「ちょっと傷ついてるわね。源太郎ったら、酷いことするわね」
「源太郎様は、そのようなことはしません!」
「ああ、そう。大事にされてるんだ?」
神経を逆撫でされた志津の瞳が冷たく光る。志津は指を強引に引き抜き、模型をあてがう。ならす作業を怠り、力を入れ、押し込んだ。
「ひっ、あああ!」
蘭丸は耐え難い痛みに涙を流した。中心もどんどん萎んで行く。
「いいの?声出したら、源太郎が起きちゃうわよ」
結合部が僅かに出血している。志津は、構わず埋め込む。
「うああああっ」
「まさか、処女じゃないよね?」
志津は、模型の角度を変え、男のつぼを刺激しようとしたが、中がきつくて動かす余裕がない。蘭丸は体を引きつらせて、がくがくと体を震わせる。
「ううっ」
「どう?気持ち良い?気持ち良い訳ないよね。あたしもさ、初めての時は痛かったよ」
「どうか、外して下さい……」
「そうだなあ。あたしを気持ち良くさせてくれたら…。あーあ、すっかり萎んじゃったね」
志津は、蘭丸の下肢に手を伸ばす。細い指で膨らみを摘まんで固い部分に適度な刺激を与え、もう片方の手で中心を掴む。舌先で先端をつついて、裏側を舐めあげる。
蘭丸は声を殺して、体を小刻みに震わせた。まだ残る痛みと、生まれそうな快楽で、壊れそうになる。戻れない、そんな気さえしてしまう程に。
(源太郎様、助けて…。蘭は、この人の手に堕ちてしまう…)
蘭丸が痛みと快楽に耐えながら、源太郎を見つめるが、源太郎は目覚める様子がない。
心とは裏腹に、蘭丸自身は志津の口の中でみるみると大きく、硬さを取り戻してゆく。志津は口に含んでからすぼめて、吸い込んだ。ずずーっと先走りを吸い込む音がする。
「すごい、こんなに起つんだ?やっぱ若いんだね」
志津は蘭丸を口から離すと、立派な姿にはしゃいだ。蘭丸は顔を真っ赤にし、大きくなってしまった愚息を見詰めた。寝転んだままだと言うのに容易に視界に入ってしまう程、起ち上がっている。
志津は優しく微笑んで、蘭丸の涙の雫を指で拭った。そのさりげなさが源太郎と似ていて、より、蘭丸の精神をかき乱せる。
志津は、処置を施した其処に跨り、ゆっくり腰を降ろす。
「いけません、それだけは!」
初めて見た女の秘所に、自身が埋め込まれて行く。じっとり濡れていて、とろけそうな程温かい。
「源太郎もここで果てたのよ」
志津は蘭丸の細い手首を持ち上げ、胸にあてがった。志津は腰を上下に振り、中で蘭丸を刺激する。
「源太郎様…」
蘭丸が熱を帯びた瞳を宙に浮かせ、主の名を呼んだ。体の自由が利かなくて、精神力で止めなければ、今にも放ってしまいそうになる。
志津は、強姦する男は、こんな気持ちなんだと思い知った。
「目覚めないように、気を付けなきゃ」
蘭丸は目に涙を浮かべ、苦痛と快楽を伴う表情を浮かべる。眉間に皺を寄せ、瞳を潤ませ、半開きの唇から舌を見せている。この上なく情けない表情だが、より淫靡で、志津を昂らせた。
「素敵…」
志津はもう一度、蘭丸に唇を重ねる。舌は押し込まず、優しく触れ合わせ、啄む。体内に収めた蘭丸が臨界点を迎えているのが分かった。陥落する前に、志津はそっと体を離した。中から、二人の混ざり合った体液が太ももを伝う。
志津は、もう一度、模型を挿した部分に目をやる。呼吸をしていて、やや、隙間が生まれた。手をかけ、反らしてつぼを刺激する。
「うっ、うぐうっ」
濃い体液が勢いよく放たれ、志津の顔を濡らした。
蘭丸は、放った後の疲労、充実感、そして、大きな絶望感が影を落とした、とてつもなく魅惑的な顔をした。
志津は、模型を抜いて、体液塗れの顔で蘭丸に頬擦りをする。
「沢山出たね」
志津は着物を羽織り、部屋を静かに出て行った。
「源太郎様…」
取り残された蘭丸の頬に、止めどない涙の粒が伝う。体に力が入らない。
「源太郎様、蘭は…」
蘭丸は力を振り絞って起きあがり、芋虫のように這いずりながら目覚めぬ源太郎に近寄る。
「ごめんなさい、源太郎様…。蘭は何と淫らで、醜い…」
無理強いなのに、体は志津からの快楽を受け止め、居心地の良さに精を放ってしまった。蘭丸は源太郎の肩に顔を擦り寄せた。
「起きないわよ、もともと酒が弱い上に、薬まで飲んでいるんだから」
盥を持って、志津が戻ってきた。湯気が立つ盥を置き、浸した手拭いを絞る。
「今度は、何を…」
蘭丸が志津を睨みつけると、志津は悪びれる様子もなく言った。
「体、拭いてあげる」
「触るな!」
「触るわよ。よいしょっと」
志津は力ない蘭丸の体を引き寄せ、仰向けに寝かせる。されるがままの蘭丸の目は真っ赤だった。
「泣き顔も可愛い。もっと、いじめたくなっちゃう」
「なっ…」
「冗談よ」
志津は手拭いを絞って、体液の付着した蘭丸の顔を優しく拭き上げる。
蘭丸は戸惑った。濡れた布の感触が気持ちよい。先程、自分を奈落に突き落とした女が、今度は付け入ろうとしている。
「貴方からの施しなど、受けるくらいなら…」
蘭丸がぐっと息を飲むと、志津がすぐさま口に指を入れた。
「舌を噛むの?源太郎を置いて命を絶つの?」
蘭丸の舌に、血の味が伝う。
「綺麗に生まれたばっかりに、嫌なことってあるよね。あたしにも分かる。でもさ、あんたが綺麗じゃなかったら、源太郎も愛さなかったと思うよ。あいつ、面食いだから。あんたは、持ち前の美貌で、あたしが失った優しさを手に入れた。だから、死んだりなんてしちゃ駄目」
蘭丸が顎の力を抜くと、志津の出血した指が見えた。
「あなたが分からない、いい人だと、思っていたのに、こんな…」
「酷い人よ?こんなにされて、まだ分からないの?」
志津は手拭いを絞って、今度は腹を拭き取る。自分が傷つけた蘭丸の後孔を、指を添えて布を当てると、蘭丸が鳥肌を立てる。
「今度は何をっ」
「綺麗にして、薬を塗るのよ。感じてるの?」
「感じてなど、いません」
出血した結合部と、触れて僅かに硬くなった乳首に軟膏を塗り込む。蘭丸は耳まで赤くして、顔を逸らした。初々しい反応が微笑ましい。
「さあ、暫く眠りなさい。結構量飲んだから、あと半日は寝ないと辛いわよ」
志津が浴衣の前を合わせ、蘭丸の瞼に手を置いた。
「この状況下で、眠れる訳が…」
「意地っ張りね。本当は喋るのも辛い癖に」
蘭丸は言い返せなかった。志津の柔らかい掌が、眠りを誘う。このぼんやりとした心地良さが、意識を曖昧にさせた。いっそ、夢ならいい。この絶望も、伴った快楽も、夢なら…。
蘭丸の唇が僅かに動いた。
「……ま…」
この惨状に気付かず、眠り続ける主の名を呼んでいるのだろう。志津は、湿り気を帯びた掌を退かして、蘭丸の目尻に唇を落とした。
蘭丸は、遠退く意識の中で、源太郎がこんな風に涙を拭ってくれたことを思い出していた。
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