拾玖
結局、二人は夕刻まで眠りこけていた。
目覚めて、入浴を済ませ、間もなく夕餉が運ばれた。ほぼ一日、何も食べなかった二人は黙々と箸を進め、満たされたと同時に、どちらともなく寄り添った。
「源太郎様、何時頃、出発なさいますか?」
源太郎が横たわった蘭丸の襟を広げると、蘭丸は思い出したように言った。
「何時までもこちらでご厄介になる訳には…。真夜中か、若しくは夜明けに。人が行動する前に、出発した方が良いと思うのですが…」
「ん…、昼だ、明日の昼がいいだ。今日は昨日より頑張るだ。今日を逃したら、当分布団では出来ない」
源太郎は悟られまいと蘭丸の首筋を甘く噛んで、強く吸う。
「あまり、ご無理をされては、明日支障が…」
「気付いてただか?足腰が痛かっただ」
「ふふ。無理はなさらなくて良いのです。蘭は源太郎様とこうしているだけでも…」
「だがな、あれが気持ちいいのはお前だけではないだ」
「ん…」
薄い浴衣の中で、蘭丸は無意識に太腿を擦り合わせて自身に刺激を与えている。源太郎は太腿の間に手を入れて蘭丸自身を捉えた。両端の膨らみごと蘭丸を刺激する。
「源太郎様、其処よりも、後ろを…」
蘭丸は恥ずかしさで体を震わせていた。
「分かっただ。四つん這いになれ」
源太郎は上体を起こし、蘭丸の尻を高く上げ、後孔に指を当て、表面を僅かに揉んだ。皮膚を解し、両手指で広げ、舌を挿し入れる。
「つっ」
蘭丸の股座から滴る先走りが、源太郎の脚にぽつんと落ちる。構わず舌を動かし続けると、中からぬるりと粘液が出てきた。透明で、精よりも清らかな分泌物。
「お蘭、中からぬるぬるが出てきたど」
以前は唾液や精で湿らせて、慣らすのに時間を費やしていたのに、自ら分泌し出すとは。体が、男に愛される為の変化をきたしているのか。源太郎は指を二本埋め、つぼを刺激する。
「ああー!」
蘭丸は容易に射出し、指を埋め込んだままわなわなと震えた。きゅうきゅう締め付けられた指をすっぽり抜くと、源太郎は足の上に蘭丸を座らせ、向かい合った。濡れた指先で、蘭丸が放った精を掬い、淫らに開いた口内に入れ、指先で舌をなぞる。
「お蘭、分かるか、これが、お前の味だ」
指を抜いて、色んな液を含んだ唇を塞いだ。ぴちゃ、ぴちゃ、と水音が室内に響く。唇を離すと、細い透明な糸が垂れた。
「蘭の中に、源太郎様が…」
蘭丸は恍惚と遠くを見ていた。
「まだ、終わらないだ」
源太郎は蘭丸の腕を自分の肩に回させ、股座に腰を下ろさせた。粘液のせいで、装着はいつもより順調だが、放ったばかりの蘭丸の体に力が入っていない。
「む!」
源太郎は装着したまま、渾身の力で立ち上がる。蘭丸の体を壁に預けさせ、いくらか負担を減らした。そして腰を上下に動かす。
「ん、っん…んっ」
腰の律動と同じに、蘭丸は小さく喘いだ。もう、蘭丸には叫ぶ余裕もない。蘭丸は呟く。
「源太郎様、すごく、いい…」
「お蘭の中も、気持ちいいだ」
「嬉しい…」
蘭丸が源太郎の体に抱き付いた。涙が肩に落ちる。
「蘭は、もういいです。源太郎様を独占出来るのなら、蘭は女になります」
「何を言うだ、おらは、既にお蘭だけのものだ。お蘭はお蘭のままでええ。可愛いおのこのままで」
静かに腰を下ろし、大きいままの自身を抜いた。塊のような粘液を、蘭丸の下半身にぶちまける。
「ほら、こんなに濃い。これが、お前に対するおらの気持ちだ」
「嘘吐き」
蘭丸は源太郎の体に跨ったまま、源太郎の上体を倒した。
「おらは、嘘は言わない」
蘭丸は目を細めた。眼光が鋭くなる。
「お、お蘭…?」
怒っているのだろうか。蘭丸にこんなにも冷たい眼差しを向けられたことはない。源太郎は不覚にも出し終えたばかりの自身を大きくさせた。
「今度は、また蘭が気持ち良くさせてさしあげます」
尻に源太郎を感じながら、蘭丸は浴衣の帯を手に取り、鉢巻きのように結んで源太郎から視覚を奪った。
「これでは可愛いお蘭が見えないだ」
「ふふ。見えない分、より、他の部分で感じるのです」
蘭丸が艶めかしい声で言った。どんな技を披露されるのだろう。源太郎は鳥肌を立てた。下腹部に直接触れた、少し汗ばんだ蘭丸の会陰。たぷんたぷんと水の音がする。
「お、お蘭、こんな、狡いど。おら、心臓が破れ…、ふが」
鼻を摘まれた。口内に生温かい液体が口移しで注がれる。鼻を塞がれては飲み込むより他ない。
「く、かはっ何を…うっ」
そして、また口付けで流される。喉元に熱いものがこみ上げ、次第に体中が火照ってくる。
「さ、酒かあ?」
蘭丸は何も答えず、代わりに源太郎の胸板を突っついた。
「うへっ」
蘭丸は両方の乳首を指先でじらしながら擽る。源太郎は、両手首を掴んで制した。
「やめるだ」
「止めません」
蘭丸は今度は顔を伏せて舌で責めた。周囲に舌を這わせて、柔らかい唇で乳首を包む。
「ひっ」
蘭丸の尻が、源太郎の体液で濡れた。源太郎は蘭丸の手首を解放し、体をひくつかせた。
「やはり、弱い分、感じやすくなるのでしょうね」
蘭丸は源太郎の目隠しを外した。
「な、何のことだ」
「酒です。こっそり頼んだんです」
蘭丸は酒瓶を源太郎の眼前で揺らす。少量の液体が壷の中を自由に駆け回っている。
「今、それを飲ませただか?」
「はい」
「何をするだ、おら、眠っちまうど」
「眠って下さい、昼まで」
蘭丸が冷たい目で見下ろした。
「源太郎様、蘭は、聞いてしまったのです。明け方、志津殿と山へ行かれるのですね」
源太郎の体がびくりと動いた。
「源太郎様にとって、志津殿は掛け替えのない、大切な方なのですね。それならば、どうか蘭の心を乱すようなことは仰らないで下さい」
「お蘭、何を言ってるだ」
「蘭は小姓です。身の回りのお世話と、時折夜伽のお相手をさせていただけるだけで、十分でしたのに……!源太郎様が、蘭に優しくしてくださるから…」
「お蘭、それは誤解だ、おらは、本当にお前しかいらないだ」
「ならば、何故志津殿に尽くすのですか?」
「……情とか、義理だ」
蘭丸は源太郎の体から離れた。
「情で、女性を抱くのですか?源太郎様にとっては、体を重ねることなど、その程度のことなのですか?」
「違う…」
「蘭は、嫌です、源太郎様以外は。源太郎様も…」
私だけであって欲しい。
蘭丸は言葉の続きを呑み込んだ。源太郎に後ろから抱き寄せられる。硬い一物が腰に当たり、首を後ろに回され唇を強く吸われた。
「ふ、ぅん…」
源太郎の手が胸板の頂を摘んだ。
「お蘭、妬いてるだな?」
蘭丸は頬を赤く染めた。
「はい、本当は、悔しかった」
「いいだ、おらを独占したってええ。お前なら」
「ご、誤魔化さないで下さい」
「この気持ちは誤魔化せないだ。お蘭、言いたいことがあったら言え。全部」
「痛…!」
源太郎は頂の愛撫を止め、蘭丸の両手首を掴んで後ろに回した。帯で結んで、蘭丸を仰向けに横たえる。太腿を抑えて、昨夜知った弱い部分に手を移動させた。
「ん、そ、そこは…」
「さあ、言え、気持ちをぶつけるだ」
「くっ」
「まだ、言わないだか?」
源太郎は太腿を持ち上げ、おしめ替えのような体制にさせた。そして、酒瓶を逆さにして中心に掛けた。
「ひゃああ」
「小便漏らしたみたいになってるだ。おらが、拭いてやる」
源太郎は下腹部に顔を被せ、丁寧に舐めた。
酒を被った箇所が冷たい。其処に源太郎の温かい舌が這う。蘭丸は必死で声を殺した。
「お蘭、ここに黒子があるの知ってたか?」
「…やだ…」
源太郎が本人の知らない内腿の黒子に指を添え、すっと蕾へずらした。念入りに擦る。
「あ、嫌っ…」
そして、まだ閉じきっていない其処へ指先をねじ込んだ。源太郎の指が伝い、僅かに酒が入ってゆく。ひんやりとした感覚が、粘膜を刺激した。
「嫌か?嫌なら、言え。おらにぶつけろ」
源太郎は顔を離した。指先で蘭丸の小さな双丘を捉え、もう片方は深く指を挿入している。
「言わないなら…」
「はあぅ!」
源太郎は両方の指を小刻みに動かした。
「あ、あん!」
「そら、言え!」
「げ、源太郎様は、狡い!」
「何故だ?」
「蘭に、期待させるようなこと…ばかり言っ…て」
「させたか?」
「させ…た!蘭しかいらないって言ったのに、蘭だけを見て欲しい、他の人にはあああ!くうう」
蘭丸の後孔が源太郎の指を締め付けた。このままでは蘭丸が達してしまう。源太郎は指の動きを中断させた。
蘭丸は唾を飲んで、荒い息で言葉を紡いだ。
「優しくしないで、蘭だけを見ていて…。源太郎様が望むなら、蘭は女になる…。蘭の体は、豊かでも柔らかくもないけど、何だって…」
「そうか、不安になっちまう程、お志津の体は良かったか」
「そんな、意味では…。あっ」
「そうだな、ここを切り裂いて詰め物をしてやろうか?」
源太郎は蘭丸の脇の下を爪を立てて縦になぞった。そして乳首をぺろりと舐める。
「ここはおらがずっと吸って大きくしてやるか?」
手は蘭丸の下肢を捉えた。
「あっ…く」
「ここをもぎ取ってふた穴にしてやるか?」
むんずと強く掴んだ。
「んっ…。源太郎様が愛して下さるなら」
「おのこの証はいらねえか?尻だけじゃ足りねえか?」
「……いっぱい、欲しいです」
「我儘だな。折檻してやる」
源太郎は指を引き抜き、両手で蘭丸の脇に手を入れ、膝立ちにさせた。
「口を開けるだ」
源太郎は、蘭丸の小さな口に熱り立った自身を挿し込んだ。
「んぐっ」
蘭丸の小さな喉が震える。源太郎は腰を前後に突き動かした。
胴が柔らかい唇に擦り込まれ、先端の括れが歯に引っ掛かる。
「お蘭、いいぞ、そのままで」
源太郎は強めに顔を持ち上げた。
息を荒げ、殆ど蘭丸を使って自慰をしている。夢中になった源太郎は奥を突いた。
「う、うえっけほ、ごほっ」
奥まで侵入され、蘭丸がむせた。源太郎は構わずに蘭丸の後頭部を掴んで自身を押し込んだ。
「はぐっ…」
「お蘭、喉が痛いなら、これを飲んで潤すだ」
源太郎は精を流し込んだ。蘭丸の喉がごくごくと動く。
「飲んだか」
蘭丸はこくりと頷いて、口を開けた。白い残骸は残っていない。
「お蘭、嫌ではないのか。おらに、こんな風にされても」
「嫌ではありません。源太郎様が、蘭で満たして下さるなら…」
「次はおらが満たせてやる。さあ、どうして欲しい?」
「蘭だけを見ていて下さい…」
「違う、どこをどうして欲しいか言え。乳首か?ふぐりか?茎か?尻か?」
「もう、それは充分です」
「おらが当ててやる」
源太郎は蘭丸をうつ伏せに腰を高く上げ、迷わず尻に狙いを定めた。湿り気を帯びた窄まりに指をくわえさせ、ぐりぐりと回した。
「あ、ああうぅ…」
「やっぱりな」
源太郎の指が蘭丸の中で滑る。源太郎はもう一本、長い中指を埋め込み、小刻みに動かした。
「お蘭、中が濡れてるだ、聞こえるか?これで、おらたちはもっと気持ち良くなれるだ」
ぐちゅり、と音がする。
「蘭の体は、一体…」
源太郎は帯の拘束を解き、剥き出しの背中に被さり、指を抜いて穿つ。
「あうんっ…」
「お蘭、痛いか?痛くないだな?お蘭の体が、おらを受け入れているだ」
「あ、ああっ…」
「乳首が起ってる。ここもだ」
源太郎は腰を突きながら、蘭丸の下肢を扱いた。片方ばかりを攻めた突起は腫れたように大きくなった。
「んー…!」
源太郎は蘭丸の中で放つ。
「あ、ぁー、蘭の、中に、源太郎様の…」
蘭丸の体内を源太郎の精が駆け巡る。源太郎は放ち終わる前に自身を引き抜いて、蘭丸が果てる前に、源太郎が体を仰向けにさせた。蕾から白濁を穿りながら、蘭丸の先端を口内に忍ばせ、嫌らしく音を立てて摩擦した。
「はうっ……!」
蘭丸は果てた。源太郎は飲み込んで、脱力した蘭丸を抱え、布団に寝転んだ。
蘭丸の首の下に腕を敷き、指先で腫れた乳首を嬲る。もう片方の手は汗ばんだ下半身に這わせる。
「お蘭はどこもかしこも可愛いだな。女になんてなるな。この小さい乳首も、柔らかいふぐりも、綺麗な茎も、甘い精も、なくしては勿体無い」
「………ん…」
「不安にさせて、悪かったな」
「蘭も…疑ったりなど…」
蘭丸は源太郎の胸板に顔を押し付けた。源太郎は手を止めた。
「お蘭、言ってくれ。おら、何でも聞き入れるだ」
「蘭は、今まで、男性に愛でられ、体もそれに喜びを感じるようになっておりました。それなのに…」
「ああ…」
「でも、源太郎様に愛でられると、それすら忘れてしまって…。でも…」
蘭丸は悲しそうに瞳を伏せた。
「お二人が並んでる姿が、あまりにも自然で、男であることが、無性に寂しくなって…。源太郎様が、志津殿を気にかけていることが悔しくて…」
「可愛いことを言うだ」
源太郎は蘭丸をきつく抱き寄せた。
「可愛くなど…、こんなにも、自分が嫉妬深い何て…」
「嫉妬深いのはおらも同じだ。魘されて信長を呼ぶお蘭に、酷いことをした」
「あれは、蘭が悪かったんです」
「何故、そう思う?」
「源太郎様を主として迎えたのに、信長様を求めた私が…」
「今でも?」
「いいえ。信長様が大切なのは変わりません、ですが、源太郎様に仕え、共に生きる現実が、残された私の総てなのです」
「そうか」
源太郎は嬉しそうに蘭丸の唇を塞いだ。
「おらもだ。お蘭の温もりだけでいい。お志津は、そうだな。お蘭にとっての…、信長とは違うしな。おっかあや兄貴や、弟みたいなもんだ」
「家族…、でございますか?」
「ああ。だから、お志津が困ってたら、何だってしてやりたいだ」
蘭丸が円らな目で源太郎を見つめた。
「まあ、譲れないものも当然あっけどな」
蘭丸の頭にぽんと手を置く。
「源太郎様が他の誰かに触れたりなさるのを、私は我慢出来るでしょうか…」
「平気だ。志津は、おらにはもう興味がないみたいだ。それより…」
源太郎は蘭丸を見つめ返した。
「なして、お志津はお前にあんなことしたか分かるだか」
「私が、源太郎様のお側にいるからでしょう」
「それだけじゃねえ」
「え?」
源太郎はくく、と笑った。
「お蘭、誰かを好きになったことはあるか。恋慕って意味だ」
「分かりません。私は、十三で信長様に仕えて、それ以外の世界を殆ど知らずに生きて参りました。それだけで、十分幸せでした。女性が嫌いな訳ではありません。織田にも美しい女性はおりました。ですが…」
蘭丸の眼差しに熱が灯る。
「可愛くしたって駄目だ。言わないなら、また折檻するど」
「折檻されても、良い。源太郎様でしたら」
「堪忍だ、お蘭。だがな、お前はもう少し、自分を知った方がいいだ。控え目なのは、お蘭のいいとこだが、おら以外の誰かにつけ込まれるな」
「どういう意味でしょう」
「鈍いだ」
源太郎は蘭丸の頬を摘まんで引いた。そして笑った。
「まあいい。おらは、お前を離す気はない。お前が何と言おうと」
源太郎は蘭丸を抱き込み、剥き出しの胸板に頭を乗せた。
「くすぐったい」
源太郎の短髪が蘭丸の素肌を刺した。
「折檻されてもいいだな?我慢するだ。今日はお蘭の乳を枕にするど」
「蘭の体では固いでしょう?」
「いいや、いいぞ。お蘭の音が聞こえるだ」
「えっ」
とくり、と蘭丸の鼓動が高鳴ったのが確実に聞こえた。源太郎は酔いもあり、そのまま蘭丸の体の上で眠ってしまった。
蘭丸は眠る源太郎の頭を抱き寄せ、額に口付けた。
「源太郎様、愛しております。私も、源太郎様を他の方に譲る気などありませんから」
体を反転させ、源太郎を布団の上に仰向けにした。荷物の奥に隠していたもう一つの酒瓶を取り出し、中身を口に含む。
(覚悟なさって下さいね、源太郎様)
蘭丸は源太郎の口の中に、そっと流し込んだ。
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