弐拾参
源太郎が寝る前の湯浴みを終えた頃には、昼の雨は止み、大きな月がぽっかり浮いて、庭の草花の雫を照らしていた。
蘭丸は、源太郎と夜並んで月を眺めるのが好きだった。また、蘭丸と月を見れるだろうか。蘭丸の横顔や、月を映した大きな瞳を思い描く。
源太郎の湯上がりの肌が夜の冷気で温度が下がってゆく。部屋に戻ろうと進んで行くと、菊之助が縁台で月を見上げていた。
源太郎が歩み寄ると、振り向いて菊之助が明るく笑った。
「月見酒してたんだ」
顔が幾らか赤いようだった。
「そうか。飲み過ぎるなよ」
源太郎が通り過ぎようとすると、浴衣の裾を掴まれた。
「付き合ってよ」
「おら、下戸だ。唐八に付き合って貰え」
「唐八さん、とっくに寝ちゃったよ。少しだけ、良いでしょ?」
「じゃあ、一杯だけ」
「やった」
源太郎が菊之助の隣に腰を下ろすと、菊之助は声を弾ませた。杯は二つ並んでいた。
「秋だからね、月が綺麗だ」
菊之助が酒を注いで、源太郎に渡した。
源太郎は一口飲んで、顔を上げる。
「旨い?」
「不味い」
菊之助も杯の中身を飲み干した。小さな杯を両手で口元に運ぶ。
「こんなに美味しいのに」
菊之助は笑った。そして、静かに微笑む源太郎を見上げる。菊之助の瞳の端に月が映る。源太郎は視線を月に戻した。
「げんさん、あの子、ずっと寝たままなんだってね。山賊に襲われたって聞いたけど」
「ああ」
「でも、きっと元気になる」
「ああ、おらも信じてるだ」
「おれ、ずっと隣でげんさんの話、聞いてたよ。お百姓さん仲間の話も、収穫した野菜の話も、土ねずみの親子の話も。乱太郎さんは幸せだなって思った」
「幸せ?あんな怪我をして、眠っているのにか?」
「うん。げんさんみたいな人に想われて」
「……おめえ、何言ってるだ。弟を心配するのは当たり前だ」
「おめえじゃない。菊之助って名前がある」
菊之助は源太郎を見詰めながらむくれたように唇を尖らせた。整った顔立ちが急に幼く見えた。
「菊之助、か。綺麗な名だな」
「うん、自分でも気に入ってる」
「ああ。おめえにぴったりだ」
「またおめえって言った」
菊之助は頬を膨らませた。表情が豊かな幼い仕草は、源太郎の心を和ませた。
「げんさん、笑った」
「おめえ、面白いだ」
「もう…」
二人の間に、優しい時間が流れた。
源太郎がくつくつ笑うと、菊之助が大人びた優しい表情で微笑んだ。自分の杯に酒を注ぎ、飲み込んで、色っぽく溜め息を漏らす。感慨深い面持ちで視線を流しながら、源太郎を見詰めた。
「げんさん、おれたちって似てる」
「何がだ?おらは、お前みたいに綺麗じゃないだ」
「そうじゃないよ。怒らないでね。おれ、見ちゃったんだ、げんさん、乱太郎さんに…」
「そうか」
志津とああも騒いだら、気付かれぬ訳もない。源太郎は、あっさり認めた。
「兄弟ってのは、嘘だったの?」
「嘘だ」
「いいんだ、人には事情がある」
「お前にも、か?」
菊之助は赤い唇をぎゅっと噛んだ。俯いた瞳が潤み始めて、震わせながら言葉を繋ぐ。
「おれも、おんなしだ。大切な、大切な人がいた。でも…」
菊之助はくいっと杯の中身を一気に飲み干した。
「馬鹿、無茶するな」
菊之助はがばと源太郎に抱き付いた。菊之助が口を開くと、源太郎の胸板に湿った吐息が当たる。
「その人、死んじゃったんだ、おれを残して…」
「そうだったのか」
源太郎は菊之助を抱き締めて、子供をあやすように頭を撫でた。
「お前は偉いだ。おらより、ずっとつれぇのに、そげん顔見せたりしないだ。今は、泣いていい」
菊之助が嗚咽を漏らしながら泣くと、源太郎は菊之助の広めの額を濡れた前髪ごと撫でた。何度も零れる雫は拭っても拭っても目尻から流れて、源太郎の衣服を濡らした。源太郎は、泣き顔があまりにも綺麗な菊之助を、不思議な気持ちで見守っていた。
「有難う、げんさん」
一頻り泣くと、菊之助は顔を上げた。目尻の赤さが暗くても分かる。
「もう、平気か」
「うん」
「なら寝るど。おら、明日は早い」
源太郎は酔いでふらつく菊之助の体を支え、部屋に連れて行った。
たった襖一枚向こうなだけなのに、菊之助の部屋に入るのは初めてだった。部屋には一組の布団が乱れなく敷いてあり、菊之助の着替えが枕元に畳まれていた。そして、殺風景な部屋の角には菊之助の荷物が風呂敷に一纏めにされている。
菊之助の体を布団に下ろすと、菊之助が上目で見詰めた。
「ねえ、お願いだよ、げんさん、おれを…」
菊之助が源太郎に抱き付く。源太郎は体に巻かれた腕を剥がす。
「出来ないだ、おらの大事なお蘭は、生きてるだ」
「お願い、寂しくて、死んじゃう!」
菊之助は源太郎の唇を塞いだ。
「うっ…、やめ…」
何日振りかの、温かい舌の動き。源太郎の頭に血が昇った。
(お蘭、すまない)
源太郎は菊之助の唇を吸い返し、体を押し倒した。耳朶や、柔らかい首筋に唇を移した。菊之助が腕や脚を源太郎に巻きつける。
「げんさん、げんさん!」
菊之助の甲高い嬌声は蘭丸と似ていた。
「して、ねえ…」
菊之助が潤んだ瞳で見つめ、源太郎は再び口付ける。啄みながら、菊之助の浴衣を左右に広げる。
源太郎は筋肉と脂肪で適度に盛り上がった柔らかい胸板を両手で撫でた。更に、二つの突起はおのこにしては大きく、今までたっぷりと愛されたことを雄弁に語っていた。源太郎は、それを口に含んで音を立てて吸った。
「あん、あ、いい、いいよー」
蘭丸を彷彿とさせる喘ぎに、昂った源太郎は下肢に手を伸ばす。下帯は着けておらず、剥き出しの控え目でささやかなそれを掴もうとすると、菊之助が制した。
「げんさん、おれは、お尻がいいよ、早く、げんさん…!」
菊之助が自らうつ伏せになり、尻を高く上げた。源太郎が浴衣をめくりあげると、立派な桃尻が物欲しそうにこちらを向いている。
「今、やるだ」
源太郎は唾液を指に付けて、肉厚な尻肉を広げ、湿った蕾を揉んだ。
「あ、あっ…」
菊之助は体を震わせた。ぬるりとした体液が源太郎の指先に纏わりついた。
「はっ…あっ…あ…ん…」
「お、おお…。ぬるぬるが出とる」
水飴のような粘液が、蝋燭の炎に光る。指を挿し入れると、暖かい粘膜に包まれる。ゆっくり動かすと、ぐちゅりと淫らな水音を立てた。
「あ、は、早く…」
「ああ」
指を抜くと、蕾から透明な糸を引いていた。
源太郎は本人の分泌液だけで潤い、柔らかくなった蕾に自身を挿した。順調に菊之助は源太郎を受け入れた。
菊之助の中は、程よく温かく優しく源太郎を包んだ。熱く力強い蘭丸とは違った魅力がある。男に愛される、おのこの熟れ故か。
「ど、どうだ?」
「いい、奥まで来てる」
菊之助は腰を前後に振った。快楽のつぼを自ら導き、源太郎共々刺激した。二人の呼吸は荒くなる。
「なして、こんなに違うだ…」
淫靡な水音が大きくなった。源太郎の先走りより他に、中が菊之助の体液で溢れた。多量の粘液はじゅぶじゅぶと律動を刻み、源太郎を擦り立てた。
「いかん、出てまう、抜くど」
「中で、出して」
「うっ……」
「あ!」
源太郎は吐き出して、用済みの自身を抜いた。大量の粘液に驚く。
「げんさん、おれ、まだ…」
菊之助は自身を固くさせていたが、まだ放ってはいない。
「どうして、欲しい?」
菊之助は源太郎を座らせ、膝に乗り、唇を重ねた。音を立てながら啄み、源太郎の大きな掌を自分の胸板に添えた。源太郎は豆粒のような球を指先で摘んでゆっくりと揉む。
「あ、あっ」
菊之助は喘ぎで口吸いを中断し、首を反らす。源太郎の頭を抱きかかえた。源太郎は、鮮やかな赤色に舌をなぞらせた。じらすように周りをつついてから、静かに噛る。蘭丸より大きな突起の感触を、じっくり味わった。
「あん、あっ…」
菊之助は更に頭を抱え込んで、源太郎の短い髪に指を埋めた。太腿の裏に固くなった源太郎が密着する。
「げんさん、もう一度…」
菊之助の乳首は更に色濃く、源太郎の唾液で光っていた。菊之助が結紐を解くと、はらりと長い髪が落ちてその箇所を隠した。
「今度はおれの番だね?」
菊之助は源太郎の体から降りて、向かいあって正座をした。
「やっぱり、大きいんだね」
菊之助が前屈みになり、艶やかな唇で源太郎を呑み込んだ。
「あ、い、いけん」
源太郎は口淫の経験は蘭丸以外はない。菊之助の厚みのある唇は、蘭丸以上に温かい。
菊之助は先端に狙いを定めて、舌で通り道を広げた。先走りが口の中に広がる。菊之助は音を立てて吸った。
「だ、だめだ、おら…」
「ふぐりが堅いや。もう、出そうなの?」
源太郎は顔を赤くした。
「じゃあ…」
菊之助が口淫を中断し、源太郎の体に跨り、蕾に埋め込んだ。
「あ、ん…!げんさん、素敵だよ」
「でも、まだ出てないだ」
「いいよ、おれは、出すより、出される方が…」
源太郎は、菊之助を埋め込んだまま前のめりに倒れ、体を重ねた。
「あふ…、深く、入ってきてるよ…」
「言ってくれ、どうして欲しいか」
「名前、呼んで…」
「お菊…」
菊之助の目が潤んだ。想い人を巡らせているのか、その瞳は清らかで、悲しげで、艶やかだった。源太郎は目尻に唇を落とす。
「げんさん、おれを、あの子だと思っていいよ」
菊之助が源太郎の首に手を回した。
「そ、それはいけないだ」
「呼んでよ、おらん、て」
「お、お蘭…」
「げん…」
「違う、おらの名前は、源太郎だ…。おらは、お前の御主人様だ」
「源太郎…様?」
「そうだ、お蘭」
源太郎は目を閉じ、瞼に蘭丸を描いた。蘭丸は頬を染めながら喘ぎ、可愛らしい唇から小さな舌を覗かせている。源太郎は目を閉じたまま菊之助の唇を探し、吸った。ねっとりと舌を絡ませられる。
「……!」
源太郎は、唇を離し、真顔で菊之助を見詰めた。
「どうしたの?」
「お前は、お蘭じゃない、お菊だ」
「……」
「そして、おらはお前の想い人じゃないだ」
源太郎は、菊之助から自身を引き抜いた。淫液が滴り、もう硬さを失い始めていた。
「え!?やだよ、おれ、まだ足りない…!」
「すまないだ」
「狡いよ、自分だけ…」
「寂しいなら、おらが傍にいてやるだ、でも、もう抱けない」
「酷いよ」
菊之助は泣き出した。その姿は、まるで小さな子供のようだ。源太郎は、脱げた浴衣を着せ、菊之助を抱き寄せた。
「う、うああぁぁ…」
「本当に、悪かっただ」
菊之助は源太郎にしがみついて、逞しい胸板を涙で濡らした。
「な、何でおれじゃ、駄目なんだよう」
「お前は悪くないだ、おらが、悪い」
お蘭でなければ駄目なんだ。一時の慰みで苦しみから逃れでも、その後は悔悟の念に駆られるだけだ。
源太郎は、可哀相な子供が泣き疲れて眠るまで、その身を抱き寄せていた。
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