妄想、愉悦。


弐拾陸


  


「乱太郎さん、起きて」

「ん…」

 蘭丸は体をうねらせ、目を開けた。目の前に菊之助がいる。

「どうか、しましたか」

「もう、お寝坊さんだね。源太郎さんももう出掛けたよ」

 蘭丸が目を瞬かせていると、菊之助に上体を起こされる。

「ご飯、冷めちゃう。食べて」

 半ば強引に、温くなった粥を口に入れられた。

「…まだ食べたくない…」

「駄目だよ、早く治すんでしょ。食べたら体、拭いてあげる」

「え?」

「源太郎さんに頼まれたんだ。今日は暖かいから、髪も洗ってあげるよ」

 蘭丸は、昨日源太郎に入浴をせがんだことを思い出した。目的は体を清めることだけではないのに。

「ほら、早く食べないと」

 自分の世話を焼く菊之助は、何処か楽しそうだった。誰かに尽くす事に喜びを感じ、淋しさを紛らわせているのだろうか。

「…では、お願いします」

「うん、任せてよ」

 菊之助は得意気に笑った。蘭丸は知らなかった。その愛らしい笑顔に、酷く翻弄されることを。









 蘭丸は胴に巻かれた包帯を取り、上半身裸になって帷子の上を帯に垂らして、菊之助と縁台に並んだ。
 菊之助は洗髪用の粉や香料を水と混ぜ、こねて蘭丸の頭皮にのせて揉み込んだ。蘭丸は気持ち良さに目を閉じる。

「気持ちいい?」

「ええ。あんなに眠ったのにまた眠ってしまいそうです」

「食後の薬が効いてるからね、まだ眠いのかな」

 確かに、あの薬草は怖い程に効いている。眠り続け、目覚めた翌日だと言うのに不安定ながらも歩けるようになり、傷の疼きも気にならなくなった。そして、眠気が何時までも付き纏う。
 十分に頭皮を洗い出し、前屈みにさせて手桶で丁寧に洗料を流す。

「乱太郎さんは、髪も綺麗だね」

 髪を香油で梳かしながら、菊之助が言った。

「菊殿の髪も、お綺麗ですよ」

「うん。あの人も、異国情緒あふるる赤髪って誉めてくれた」

 蘭丸の言葉が止まる。あの人と言うのは嘗ての想い人だろう。

「さ、顔をあげて」

 菊之助は手拭いで蘭丸の髪の雫を取り、結紐で高く括りあげた。

「さっぱりした?」

「はい、お上手ですね」

「疲れたでしょ?体、解してあげる」

 菊之助は蘭丸の薄い肩に手を添えて、固い部分を揉みほぐした。蘭丸はうっとりと目を閉じる。

「腕の自由が効かないから、肩が凝ってるね」

 とんとん、と両側を叩き、十分に解すと、今度は鎖骨周りを指先で撫でる。

「其処、気持ちいいです」

 体の力が抜けた蘭丸は、背後の菊之助にもたれたかかる。菊之助は、蘭丸を包むように両腕を体に回した。

「えっ…?」

 菊之助の両手が蘭丸の平らな胸を包み込んだ。

「寒い?ここが起ってる」

「き、菊殿っ!」

 菊之助が蘭丸の敏感な部分を人差し指と親指で摘んだ。蘭丸ががくりと体を動かすと、菊之助は体を密着させ、自らの脚を蘭丸の崩した脚に巻き付けた。
 太い腿、しなやかな脹ら脛が蘭丸の脚の上で組まれ、体を拘束される。

「何を…?」

「おれが暖めてあげるよ。傷に障るから、動かないで」

「寒くなどない…!離して下さい!」

「なら、感じちゃってるんだね?」

 菊之助は摘んだ突起を指の腹で摩擦しだした。

「止めて下さい!」

 蘭丸が菊之助の腕の中でもがこうとするも、腕ごと制されて身動きがままならない。次第に、段々と込み上げてきた。

「力抜いて。おれなら、負担かけないように出してあげられる」

「何の、ことですか?」

 蘭丸は唇を噛みながら耐えていた。菊之助は小さな粒を今度は引っ張り、微量な痛みを与えながら刺激した。

「ああ!」

 蘭丸は恥ずかしい悲鳴を上げてしまった。菊之助は蘭丸の耳元に唇を寄せ、囁く。

「力、抜いてったら。我慢しないでよ、乱太郎さん」

 菊之助は指に挟んだ球体を指の腹で潰し、くりくり転がしだした。蘭丸は首を反らし、菊之助の顔を見上げた。

「離して…!」

 蘭丸は頬を赤く染め、瞳を潤ませながら菊之助に訴える。菊之助は赤い舌で扇情的に開かれた蘭丸の唇を舐めた。蘭丸が顔を背けると、むき出しになった細い首筋に舌を這わせる。

「ひっ…」

「乱太郎さん、源太郎さんのこと、気にしてるの?」

 今度は手をのせ、乳首を二本の指の間に挟み、傷に振れないように胸を揉みしだく。揉みしだくと言っても、蘭丸の体は脂肪も筋肉も少なく、瑞々しい肌の弾力を楽しませているだけのことなのだが、肉付きが薄いだけに芯に響きやすい。

「大丈夫だよ、源太郎さんは、乱太郎さんを気にかけてた。傷に障るから、気持ち良くさせてあげられなくて、悲しんでたよ」

 蘭丸は、昨日源太郎に口淫したことを思い出した。

「私は、源太郎様が良ければ…」

「それじゃあ駄目なんだよ、源太郎さんは優しいから、乱太郎さんにも気持ち良くなって欲しいと思ってる。おれに任せて?」

「源太郎様は、他の方に頼んだりなど…!」

「おれには分かる。今までも、ここを可愛がられていたでしょ?」

「あ…、あ…」

 菊之助は蘭丸の限界まで大きくなった乳首を再び指先で摘んで、小刻みに擦り込んだ。傷つかないように力は込めず、優しく、しかしそれでいて素早く。蘭丸の桜色の突起が、色濃くなった。菊之助は蘭丸の肩に顎をのせ、深い桃色を覗き込む。

「可愛いよ、乱太郎さん…、いや…」

 おらん。菊之助は殆ど吐息だけで囁き、己の声の高さを打ち消した。

「源太郎様…」

 蘭丸は声の方へ顔を傾ける。菊之助は微笑んで涙を舐め、再び吐息混じりでおらん、と漏らした。

「だ、だめ、その名を呼ぶのは、源太郎様だけ…」

「なら、おれが源太郎さんになってあげるよ。目を閉じて?」

 菊之助は顔を近付け、蘭丸の唇を塞いだ。

「ん!ん…」

 蘭丸が唇を離す前に、菊之助は片方の乳首の摩擦を止め、蘭丸の顎を引き寄せて再び奪う。がっつかずに唇を啄んで、何度も角度を変えては吐息ごと唇を塞ぐ。
 現実に与えられる快楽を久方振りに受けて力の抜けた蘭丸の体を抱き寄せ、菊之助はまたもや唇を愛でながら両の乳首を弄ぶ。
 菊之助の唇はふっくらと厚みがあって、おのことは思えない程柔らかい。密着された体も、指も。菊之助は蘭丸に柔らかい感触を刻み込むと、今度は舌を挿し入れじっくり歯列を舐めた。
 蘭丸が目を見開く。菊之助が、源太郎の口吸いを真似たのだ。菊之助は強めに吸引し、胸の赤い実をくいっと引っ張った。

「はっ、は…」

 唇を離すと、二人の唇は互いの唾液で濡れて光っていた。

「嫌なら、噛んでいい。唇も、舌もさ…」

 蘭丸は菊之助に顎を掴まれたまま、菊之助を見上げた。完全に、体の力が抜けてしまっている。

「でも、本当は、こんな風に強く口を吸われたかったんだよね?体も可愛がって欲しかったんだよね?」

「違う…」

「なら、何でおれの舌を噛まなかったの?出来たでしょう?」

 菊之助はくすりと笑った。妖艶な、狡くて愛らしい笑み。

「その魅力で、源太郎様も魅了したのですか…?」

「も…?乱太郎さんも、おれに魅せられたってこと?」

 摘まれた芽を柔らかい指の腹でぎゅっと挟まれると、蘭丸の体が菊之助の腕の中で張り詰めた。
 蘭丸の体に巻きついた菊之助の脹ら脛に、硬い物が触れる。気付いた菊之助は蘭丸の下半身を覆う帷子を開いた。華奢な体の股座から、先走りを光らせて聳え立っている。

「凄い…。乱太郎さん、きっと色んな人を幸せに出来るよ」

「何を…」

「源太郎さんだけだなんて、勿体ないよ。おれに頂戴?」

 蘭丸は顔を横に振った。

「源太郎様は、譲りません」

「もう、貰ったけど?」

 蘭丸の眼差しが鋭くなる。菊之助が付け足した。

「ごめん、そういう意味じゃないよ。おれが今欲しいのは、乱太郎さん」

 菊之助は菩薩のように優しく笑う。蘭丸の瞳に怒りは消え、怯えたように顔を伏せた。
 菊之助が裏を合わせ、土踏まずに蘭丸の下肢を挟んだ。

「あう!」

 菊之助は先走りを利用し、器用に足の裏同士の摩擦で蘭丸を扱いた。

「だ、駄目、それはっ」

 蘭丸は涙目になりながら菊之助を見詰めた。半開きの唇から覗く舌が誘っているようで、菊之助は再び奪おうとした。

「で、出て…」

「出していいよ。胸と、唇だけでこんなになっちゃって、可愛い人だね。溜まってたんでしょ?」

 菊之助は優しく微笑んだ。

「体はもっと触れて欲しいって言ってるよ。源太郎さんには言えないんだよね?貪欲だって思われたくないから」

「違う!」

「違わないよ。内緒にしておいてあげるから、出しちゃいなよ」

「駄目、源太郎様…!」

 通り道に込み上げそうになる。蘭丸は源太郎の名を呼び、菊之助の額に自らの額を勢い良くぶつけた。

「あだ!」

 蘭丸の力強い頭突きに、二人は濡れ縁から落ちる。菊之助は咄嗟に蘭丸を庇い抱き止め、背中を打った。

「いてて…、乱太郎さん、大丈夫?」

 蘭丸は意識を失っていた。菊之助の脚には出したであろう白濁が付着している。菊之助は指で掬って味わうように舐めた。




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