弐拾漆
蘭丸は目を覚ました。室内で布団に横たわっていた。
そおっと身を起こす。濡れた布が額に添えられていた。布は体温で温まっている。
(そうだ、あの時、頭を突いて制した…)
思い出すと顔から火が出そうになる。洗髪の後、按摩と付け込んで菊之助に体を弄られ、唇まで奪われた。しかし、自分は下半身に手を出されるまで、制することが出来なかった。もっと早く全力で拒んでいれば、菊之助の指や唇の感触が刻まれることはなかったのに。
帷子を開いてみる。体は綺麗に拭かれて、菊之助に巻かれたであろう包帯が、乳首を避けて胸や胴回りを覆っている。乳首はまだ赤く腫れ、指で触れると甘い痺れが広がった。あんなにしつこく、其処だけを刺激されたのは初めてだ。
(菊殿…)
敏感な胸の頂を疼かせ、悶々としていると、廊下から足音がした。菊之助ともう一人、二人分の足音。
「入って。待ってたんだ、あんたみたいな人を」
襖一枚向こうで菊之助がもう一人の人物に語りかけている。
ばたん、と大きな音と、菊之助の悲鳴が同時に聞こえた。
「菊殿!?」
蘭丸は菊之助の危機に飛び上がり、襖を開けた。体の大きな男が菊之助の体に被さっている。
「狼藉者!菊殿から離れろ!」
蘭丸は男の体に馬乗りになり、右手に括られた板を押し付け、菊之助の体から剥がそうとした。
「ふむ…、こちらも可愛い」
男は蘭丸をじろじろ見詰めながら、尻を撫でた。
「貴様…!」
菊之助が背後から蘭丸を抑えた。
「違うんだ、乱太郎さん、おれが誘ったんだ」
「え?」
「おれ、淋しくて、耐えられなくって、この人に慰めて貰おうと…」
「へ?」
蘭丸は跨っている男の顔を見た。切れ長で冷たい目をした、整った顔立ちだった。
「そう言うことだ、退いてくれないか」
男が蘭丸を抱えながら起き上がる。
「それとも、お前も俺を楽しませてくれるのか?」
「し、失礼仕りました!」
蘭丸は顔を真っ赤にしながら男から体を離した。ふらりと倒れ込む蘭丸の体を、菊之助が受け止め、軽々と抱き上げた。
「運んであげる」
「離して下さい、すぐ隣…」
「そうやっておれ達の情事に聞き耳立てる気?」
隣に蘭丸がいることを知りながら、自らことに及んで、随分な言い草だ。しかし、蘭丸は大人しく黙った。
菊之助は蘭丸よりも背が低く、抱き上げられても目線が上になってしまう。蘭丸は、菊之助の赤く腫れた額を見詰めた。
「よいしょ」
菊之助は縁側に蘭丸を下ろした。
「ごめんね、すぐ、終わると思う」
「いえ、あの…、ごゆっくり」
頭上で菊之助が笑った気配がした。
(菊殿の言った通りだ…)
体が淋しがっている。源太郎を求めている。
蘭丸は、縁側で一人、身を抱く代わりにうずくまった。日は既に落ち始め、蘭丸を赤く染めている。
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