参拾壱
菊之助の瞳に映る自分の顔を見ながら、蘭丸は迷っていた。
まず何をすればいいのだろうか。今まで何度もされた。けれど、自分は受け取るばかりで与えることがあまりなかった。
蘭丸は迷いがちに菊之助の耳朶を口に含んだ。甘噛みして、首筋に唇を移動させる。
「乱太郎さん…」
蘭丸は愛する男にされたように、舌を菊之助の肌に這わす。柔らかく、肌理の細かい肌。おのこにしては大きめな乳首を静かに噛んだ。
「ん…!」
「痛いですか?」
「ううん。もっと、強く噛んで」
蘭丸は前歯で挟んで僅かに顎に力を入れた。呼応し、菊之助が求めるように蘭丸の首を抱き寄せた。
(…次は…早い…か?)
唇を離し、蘭丸は太腿に手を伸ばす。
菊之助はむっちりとした太腿で、中心を挿んでいた。蘭丸の唾液で濡れた胸は長い髪で隠れているせいで、女のようだった。蘭丸は太腿をそっと開き、おのこの証であるそれを掴み、持ち上げた。
「……乱太郎さん、して、くれるの?」
やはり、勝手を知っている訳でもない他人のものは勇気がいる。蘭丸は最愛の者とは全く違うそれを片手で弄ぶ。菊之助のものは、僅かに先端が顔を出しているだけで、衣で殆ど隠されていた。形も色合いも大きさも大人の男とは全く違い、無垢な佇まいを不思議な気持ちで見入っていた。
蘭丸は、掴んで衣を持ち上げるようにずらした。先端が埋まる。下にずらすと顔を出した。菊之助がしなやかな背を仰け反らせた。
「痛いですか?」
「少しね。でも、乱太郎さんの手、冷たくて気持ちいい」
「菊殿、あまり反応していませんよ」
「おれ、そこの感度が悪いんだ。まだ止めないで」
蘭丸は暫く上下運動を続けた。しかし、少し硬くなったまま、それ以上は変化がない。
「口でしてよ」
蘭丸の表情が固まる。
「嫌なら、いい」
「いえ…」
蘭丸は屈んで、顔を近付ける。菊之助は蘭丸の髪を支えながら、自分のものが口に含まれる様を見下ろした。
「体制、辛くない?」
菊之助は蘭丸の背中をさすりながら、後頭部を掴んで押し付けた。
菊之助の掌の体温が、背中の傷に僅かに伝わる。温もりは優しいのに、口の中のものは変わることがない。蘭丸の唾液が縫合部に溜まり始める。
「疲れたよね?もう、いいよ」
菊之助の言葉で、蘭丸は顔を上げた。唾液がぽたりと落ちる。
「ごめんね、源太郎さんを裏切るようなことをさせて」
友を救いたいと思う気持ちは、源太郎を裏切ることになるのだろうか。蘭丸は、分からなくなっていた。
「でも、我慢出来なかった。乱太郎さんが欲しかった」
菊之助は体を抱き締めた。
「私では、菊殿を満たすことは出来ません」
「出来る」
菊之助は蘭丸の帷子の裾に手を入れ、中心を弄った。
「菊殿…」
蘭丸が拒むように菊之助の肩を押さえた。
「くれないの?」
「きっと、お役には立てません」
「おれが、起たせてあげる」
「菊殿…!」
菊之助が身を屈めようとする。蘭丸は遮るように股を閉めた。
「先に用足ししたばかりですから、汚いです」
「構わないよ」
「まだ、その…、痛いんです」
「駄目なの?」
蘭丸は申し訳なく頷く。菊之助は手を離した。
「やっぱり怖いんだね、源太郎さんを裏切るのが」
「それは、分かりません」
この不貞行為に不思議と罪悪感がない。自分が、菊之助に対して性を感じなくなったせいかも知れない。しかし、それを口にしても良からぬ意味合いにしか受け取っては貰えないだろう。蘭丸は言葉を探した。
「いえ、やはり、違います」
蘭丸は言い繕うのを止めた。知ってもらいたいのだ、この気持ちを。
「私は、菊殿の為になるのなら致します」
「なら、何でくれないの?おれは、こんなに求めてるのに…!」
「私ではどうしても力不足です」
「そんなことない!おれは、乱太郎さんにして欲しい」
「菊殿、お気付きでしょう?愛する方は、ただ一人。他に、誰も変わることは出来ません」
「おれは、乱太郎さんのことが好きだ」
「友として、私も菊殿が大好きです」
「それでもいいから」
菊之助は泣き出した。
「菊殿、もうやめてください。ご自分が傷付くだけです。貴方の大事な方も悲しみます」
ばちん、と音がした。蘭丸は後ろに倒れ、菊之助は真一文字にした口を震わせ、右手を上げていた。蘭丸は頬を打たれたことに気付いた。
「おれの気持ちは、あんたに何か分からないよ!」
そう言って、菊之助は着物を羽織り、部屋へ戻ってしまった。
頬の痛みは、体に受けた傷に比べれば大したことはない。蘭丸は起き上がり、置き去りにされた盆を眺めた。
こうしていつも淋しさを紛らわせていたのだろうか。蘭丸は空になった酒瓶を置き直し、膝を抱えた。
(また傷つけてしまった…)
友愛と言うのは、難しい。主君を想う気持ち程深くもなければ形としての分かりやすさもない。
こんな時、友はどうあるべきだったのだろうか。本音でぶつかっても、傷付けるだけなら、偽りの愛技を与え続ければ良かったのだろうか。
みしり、と僅かに床が軋む。源太郎の足音だ。
「源太郎様」
寝間着姿の源太郎がやってきた。
「お蘭、風邪引くど。布団に戻るだ」
「菊殿に呼ばれたのですか?」
「そうだ」
「やはり…」
菊之助は優しい。自由の効かない蘭丸を案じて、源太郎を起こしたのだろう。
「どうか、したか?」
源太郎は蘭丸の隣にしゃがんだ。短い欠伸をして、月を見上げる。
「源太郎様、蘭は、源太郎様を裏切ってしまいました」
「裏切る?」
「菊殿に…」
源太郎が蘭丸の肩を強く掴んだ。
「何、されただ」
「されていません。自分でしました」
蘭丸は源太郎を真っ直ぐ見つめた。
「何、しただ」
「口吸いをしました。それから菊殿の、体を…」
「許さないだ」
「蘭を、嫌いになられましたか?」
「そんな訳ないだ。だから許せないだ」
「源太郎様…、蘭は、本当に、どうすれば良いのか分からないのです」
蘭丸は源太郎に寄り添う。怒っているのに、調子が狂う。源太郎は腰に腕を回した。
「何がだ?」
「蘭は、信長様にお仕えして、他の世界を知らずに生きて参りました。信長様と、家族や仲間だけ。友を持ったことがないのです」
「仲間は違うだか?」
「違います、全く」
信長の寵愛を一身に受けた蘭丸は、対等に渡り合える小姓仲間はいなかった。良くしてくれた先輩、敬ってくれた後輩はいた。しかし、それらの繋がりも、主君を通しての事務的な信頼関係を築いていただけに過ぎない。
「友と呼べる人がいなくても、辛くはありませんでした」
「今は辛いか?」
「ええ。蘭は、菊殿を放っては置けません。菊殿と蘭は、同じです。いいえ、菊殿の方が、ずっとお強い。けれど、温もりを求めるあまり、ご自分を傷付けて、責めているのが、お可哀相で…」
「泣くな、お蘭?」
「蘭は、源太郎様にお会い出来なかったら死んでおりました。けれど、菊殿は淋しさに堪えていらっしゃるんです」
「分かっただ。お蘭の気持ち、大事にしたから、だから、してやっただな?」
「でも、蘭では駄目なのです。蘭と菊殿は、同じだから」
「同じか、そうだな」
「はい…。菊殿は、求めました。蘭には、自信がありません」
「じゃあ、おらがその役を買うか?」
「……」
蘭丸は考えた。二人の絡み合う姿を思い出した。
「…嫌です」
「我儘だ」
源太郎は満足そうに笑った。蘭丸の着物の中に手を滑り込ませる。蘭丸は足を閉じ、体を強ばらせた。
「源太郎様…、あの、今、痛くて…」
「ふぐりか?」
「はい」
「いっぱい出したからな。揉んでやるだよ」
「今日は、いいです」
「お菊が気になるか?」
「はい。蘭ばかりが、こんな…」
「お蘭は優しいな。だが、こればっかはどうしようもねえ」
源太郎は蘭丸の背後に座り、背中を抱いた。蘭丸は源太郎の肩に凭れながら顔を見上げた。
「お蘭には、譲れないもの、あるか?」
「それは…」
蘭丸は源太郎の着物を掴んだ。気持ちが伝わったのか、源太郎が抱き寄せ、額に口付ける。
「あるだな?」
「はい」
「それは、揺るぎないものか?」
「はい」
源太郎は蘭丸の首をかき抱く。
「なら、いいだよ。だが、その気持ちは、自分で決着をつけるだ」
「よく、分かりません」
「それも自分で考えろ。おらはお蘭が大事だ。だが、何もかも独り占め出来るとは思ってないだ」
「源太郎様…!」
「信長と過ごした時間も、お菊を想う気持ちも、お蘭にとって大事なら、そうすればいいだ」
「私、源太郎様にお会い出来て、本当に幸せです」
「おらもだ。お蘭がいないことが、想像出来ない」
「源太郎様…、蘭を、好きになさって下さい」
「え?」
「蘭は、応えたい。源太郎様が、求めて下さるなら…。これは、蘭の今の気持ちです」
源太郎は蘭丸が痛がっていた箇所を弄り、二本の指で柔らかく掴んだ。蘭丸が内腿に力を入れる。
「痛いか?」
「はい…」
「今日な、唐八に怒られただ」
「申し訳ありません。蘭がお誘いしたばかりに…」
「いいだよ」
「んっ…」
源太郎が蘭丸の首を吸う。蘭丸は源太郎の腕の中で、体をしならせる。
「お蘭、これはどうだ?痛いか?」
源太郎は三本の指で二つの膨らみを挟んで僅かに閉じて、そのままの形で撫でる。
「や、やだ…!」
「どうしただ?」
中心が反応し始めているのに気付いているのに、源太郎は心配を装って蘭丸に訊ねる。
「あ、あの…、今日は、もう…」
「さっき、好きにしろって言っただよ?」
「あう!」
源太郎は膨らみを揉んだ。蘭丸は徐々に体を硬くしていった。源太郎は帷子を捲り上げ、蘭丸を月明かりに晒すと、肩から首を出して覗き込む。
「まだ足らないな」
「もう、充分です…」
源太郎は指を下にくぐり込ませて、蘭丸の蕾を探る。
「もう閉じてるな」
「か、堪忍を…!」
「嫌なら、しないだよ?」
「……」
蘭丸は口を噤んだ。源太郎は狡い。その言葉を言われると、蘭丸は拒むことも、言い返すことも出来なくなってしまう。分かって言っているのだ。
「どうした、お蘭?」
「源太郎様は、意地悪です」
蘭丸は子供のように頬を膨らませた。
「拗ねるな」
「拗ねてなどいません」
源太郎が顔を近付けると、横を向き、源太郎の手をのけて密着していた体を離す。
「お蘭」
機嫌を取るようにゆったりとした声になる。蘭丸は振り返って源太郎に抱き付いた。勢い良く、源太郎は後ろに倒れ込んだ。
「お蘭?」
「源太郎様、蘭がしてさしあげます。何がお望みですか?」
既に下帯を押し上げた源太郎の中心を膝で押す。ぐりぐりと刺激を送っていると、硬度が増し、角度も上昇してきた。
「な、何するだ!」
蘭丸はくすりと笑った。
「お嫌ですか?嫌ならば、しません」
蘭丸は膝を源太郎の会陰に密着させ、膨らみを刺激する。
「お蘭、おらの負けだ、許してくれ」
「分かりました」
蘭丸は満足そうに微笑んだ。起き上がりながら、乱れた服を整える。
「わあ!」
源太郎は蘭丸にされたように、抱き付き、押し倒した。痛めぬように背中の傷に手を添えながら。
「隙だらけだ」
「んっ…」
源太郎は組み敷いた蘭丸の唇を貪る。自らの舌を押し込み、蘭丸の舌を吸い尽くす。
「は…」
唇を離すと、銀の糸が蘭丸の口角に垂れた。
「撤回だ。おらの勝ちだ」
「源太郎様…」
月明かりで、蘭丸の顔が赤いのがよく分かる。蘭丸が足を開いていたせいで、二人の中心は密着していた。
「悔しいか?」
「少し…」
蘭丸は顔を逸らした。源太郎の硬さ、大きさで、これからの展開を予期してしまい、恥ずかしくなってしまったのだ。
「お蘭、何、考えてる?」
源太郎は腰を進め、互いを擦り合わせた。二人を隔てるのは、源太郎の下帯、薄い布一枚だけだった。
「源太郎様と、同じことを…」
「いいだな?」
「はい…」
源太郎は蘭丸の着物を開き、右胸を弄った。固い布の上を指の腹でくるくる回して押し付ける。
「乳首はこの辺か?」
「げ、源太郎様、唐八殿に…!」
「大丈夫だ、上手くやるだ」
源太郎は指を這わせていた其処を、次は舌先でなぞる。蘭丸は舌を受けながら、その様を見下ろしていた。湿った包帯が、何ともくすぐったい。
「あっ…」
唾液で濡れた布が、蘭丸の腫れたままの乳首を浮き上がらせた。源太郎が爪で弾くと、忽ち痺れが肩や首にまで広がる。
「お蘭は左の方が好きだと思ってたけど、右も十分弱いな」
左胸には傷があるから、敢えて触れなかった。
間近で見つめ合うと、蘭丸の大きな瞳がより目がちになる。源太郎は笑った。そして、密着させた体を僅かに浮かせ、自分の下帯を解いた。布を取ると、開放された一物の先端が、蘭丸の内腿に触れ、蘭丸の体温が上昇する。
「風邪か?熱っぽいだ」
「源太郎様が、そうさせています」
「可愛いことを言うだ」
源太郎は蘭丸の背の下に脱いだ着物を丸めて敷いて、両手を空ける。蘭丸の股下に顔を持っていき、つぼめた皺に、舌をねじ込む。
「あ!」
柔らかい舌が唾液を押し込みながら、蘭丸の蕾を広げた。ぴちゃ、ぴちゃと卑猥な音が響く。
「く、来る、源太郎様…」
「お蘭、じっとしてるだよ」
源太郎が膝の裏を抱えて左右に開くと、蘭丸の全てが露わになる。
「げ、源太郎様…」
「いい眺めだ、綺麗だよ、お蘭」
源太郎は唾液で湿った蕾に指を入れ、出し入れを繰り返す。
「ひ、あ、あ…!」
「痛くないな?」
源太郎は指を増やす。優しく解した蕾は、しっとりと源太郎を包み込んだ。
蘭丸が浮ついた視線で月を見上げた。
「…何時まで、こうしていられるでしょう」
「ずっとだ」
「ずっと?」
「ああ。おいで」
源太郎は蘭丸の背中に手を回して、抱き寄せながら繋がった。
滑りを帯びた内壁が、暖かく源太郎を迎え入れる。
「ん…」
蘭丸の喘ぎは、苦痛の色もなく、甘く、源太郎の耳に心地よかった。
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