妄想、愉悦。


参拾肆


  


 床の軋む音に目覚めた時、蘭丸はいつもと変わらずに布団に一人で横たわっていた。障子が開き、老医師と唐八が回診へやって来た。

「起きれるかい?今日は先生の診察だよ」

 唐八に背を支えられながら起き上がる。頭がぼんやりして、下半身にはまだ行為後特有の僅かな鈍痛が纏わりついている。
 どうやらもう朝で、源太郎は百姓仕事に出たようだった。

「服を取るよ」

 唐八が後ろから襟に手を掛け、帷子を肩から落とした。
 あ、と肌を隠そうと思った。しかし、もう遅い。日の差す明るい部屋で、源太郎の痕を所々に散りばめた素肌が晒されてしまった。
 蘭丸を見て先生は驚いたように、弛んだ瞼を持ち上げた。

「盛んなのは構わんが…、あまり無理をするな?」

「はい…」

 蘭丸が気まずさに俯くと、先生は蘭丸の胸を覆う包帯を唐八の手を借りながら解き始めた。
 先生は一旦視診を中断し、道具箱を開く。刃のついた小さな道具を取り出した。

「じっとしてろ」

 どうやら糸切り用の道具らしく、先生が細い刃を糸にあてがってぱちんと切り、するりと引いていく。くすぐったさに身じろきそうなのをどうにかこらえていると、抜糸は短時間で終わった。

「傷口が綺麗だ。あとちっとで治るだろう」

 先生は道具を片付けながら言った。

「あと、どれくらいでしょうか?」

「三、四日ぐらいかの。腕を見せてみなさい」

 左腕の包帯と板を取り、軽く捻られると、それだけで腕に鋭い痛みが走る。

「…っ…!」

「こっちはまだまだじゃな」

 先生は道具箱の蓋を閉じながら言った。

「ゆっくり養生すればいいよ」

 唐八が腕に包帯を巻ながらそう言うと、先生も同意するように笑った。

「朝食だよ」

 菊之助が盆を持って入ってきた。蘭丸は背中に冷たい汗が流れた気がした。知られていることであっても、菊之助にはこの肌を見せたくなかった。

「菊之助、胸の包帯を取り替えておいてくれ」

「はい」

 唐八は菊之助に告げると、部屋を出て行った。菊之助と二人きりになって、蘭丸はかける言葉を探した。
 昨夜、菊之助に口移しで薬を飲まされた。そして、また深い眠りに落ちた。蘭丸はちらりと盆を見た。茶碗に見慣れた濃い薬液が見慣れた量入っている。

「私、もう薬草は…」

「また駄々をこねる。困った人だね」

 言い終わる前に言葉を遮られる。

「嫌なんです。眠ってしまって、何が起きたかも分からずに時間が過ぎるのは」

「…そうだよね。分かった。じゃあ、おれからおじさんに相談してみるよ。だから、今回までは飲んで?勝手に止めたら、怒られちゃうよ」

「…分かりました」

 蘭丸の包帯を巻き直す菊之助の髪からは、甘い香りがした。

「ご飯食べたら髪、洗ってあげるね」

 菊之助は優しく笑った。





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