妄想、愉悦。


参拾伍


  


「あ…!」

 菊之助は枕に額を押し付けている。白絹の肌には玉のような汗が浮いては流れ落ちた。後ろから伸びてきた無骨な手で、胸元を弄られ、ざらついた指先で乳首を摘まれた。

「ん!」

 菊之助の背がしなり、締め付けるように力が入った。中にある相手の一物が、刺激され猛々しさが増した。

「もっと、こすって、もっとだよ…!」

 荒い息遣いで叫ぶと、男は両手指で二つの頂を擦り、更に引っ張る。

「んう!」

 じんとした痺れが胸から下半身へ広がり、菊之助は膝を立てていられなくなった。がくりと膝が崩れると、男に引き寄せられ、背と腹が密着した。

「う、くう…!」

 流れ落ちた快楽の証が敷布を汚していた。

「洗わなきゃ…」

 静かな室内で、菊之助は男の広い胸に寄り添っていた。情事の後の気だるさを引きずり、男は襖の方をぼんやり眺めている。

「ねえ」

 菊之助は男の肩に腕を伸ばし、引き寄せた。

「まだするのか?」

「時間まだあるもの。いいでしょう?」

 男が微笑むと、菊之助はふっくらとした唇で相手の唇を塞ぐ。短い口付けをして、深い瞳で男の端正な顔を熱っぽく見詰めた。

「やっぱりあんたがいいよ。あんたの顔、好き」

「顔だけか?」

「声も好き。あと、ここ」

 菊之助は剥き出しの男の下半身を弄った。大きい袋を揉み立てていると、段々太い中心がそそり立ってくる。

「元気だね」

 菊之助は顔の向きを変えて、その大きな先端を口に含んだ。唾液を絡ませて上顎と舌で包み込んで、更にその奥まで迎え入れる。顔を前後に動かしながら出し入れを繰り返す。
 男が熱っぽい吐息で呻くと、菊之助は口から肥えた一物を解放した。先走りの液を含んだまま、男に口づける。ぴちゃぴちゃと音を立てて互いの欲情を煽る。

「おれのこと、好き…?」

 唇から透明な糸を引きながら、菊之助は言った。

「好きだ」

「どこが?」

「顔も、声も」

「嬉しい。あっ…」

 男は胸元の豆粒を指先で揉んだ。幾らか胸筋が発達し、僅かに盛り上がった菊之助の胸は、まるで発展途上の少女のようにも見える。男が柔らかい胸板に歯を立て音を立て吸うと、淫靡な飾りが唾液に塗れ、白い肌に歯形が残った。

「こっちも、して」

 もう片方の胸を差し出すように向かせると、男は既に硬くなった赤い実を口に含んだ。

「気持ちいいよ…」

 吸われる度、小鳥の囀りのような音が鳴る。菊之助は男に胸板を押し付けながら男の下半身を跨いだ。腰を支えられ、肉の楔を押さえながら嵌め込む。

「ああん!」

 菊之助が腰を下ろすよりも先に、男が腰を持ち上げ、勢い良く突いた。そのまま菊之助はしゃがみ込んでしまう。

「凄いよ…!もっとして」

 腰を激しく揺すられ、体重が合わさって中が痛い程に擦れる。菊之助は男にしがみついた。

「あ、ああ…!」

 先に達したのは菊之助だった。力が抜け、男の体に雪崩れ込んでしまう。男は菊之助の重みを支えきれず、一緒に倒れ込む。

「大きな声だな、隣にいるんじゃないのか?」

 男は閉じた襖をちらりと見て言った。

「大丈夫、簡単には起きないよ」

「また寝てるのか?」

 菊之助は男の顔をこちらに向ける。

「どうでもいいじゃない、そんなこと。次はおれの番だよ」

 菊之助は上半身を立て、中に収めたまま、腰をぐいっと押し付ける。

「どう?」

 体全体を上下に小刻みに揺すりながら、腹部に力を込めて、更に締め付け、擦り立てる。

「いいな」

 男の息が徐々に上がってきた。菊之助は目を細めて見下ろす。菊之助は自分の美しさを充分に分かっていた。こうして快楽の極限まで引き上げ、妖艶に笑えば、男は息を飲み、すぐさま白い爆発を起こす。
 しかし、男は菊之助を見ていなかった。視線は菊之助の向こうの何もない天井に向いている。

「あの子のこと、考えてるの?」

「あの子?」

「隣、気になるんでしょ?」

 菊之助は腰を揺するのを止めた。立ち上がって、男から身を離す。

「おい」

 男は菊之助の手首を掴んだ。急に行為を止めたせいで、まだ中心はいきり立ったままだった。

「あの子を抱きたいんでしょう?」

「興味はあるが…」

「見境ないね。あんた」

 菊之助は素肌のまま薄い着物を羽織った。

「お前だって、俺じゃなくとも抱かれるだろ」

「まあね」

 菊之助は寂しげだった面持ちを変え、冷たく言った。

「男なんて結局みんな一緒さ」

 菊之助は汚れた敷布を引っ張る。

「あの子を抱きたいなら、そうすればいいよ。でも、またおれのことも…」

 言葉の途中で、菊之助は男を残して、そのまま部屋を出た。
 廊下を走って縁側から外へ出た。井戸端にある洗濯桶に敷布を突っ込む。感情が乱れる。菊之助は唇を噛んで、空を見上げた。どんよりとくすんでいて、じきに雨が降りそうだ。

「お風呂、沸かさなきゃ…」

 菊之助はぽつりと一人ごちる。その言葉には、何の感情も籠もっていなかった。





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