参拾漆
今日の蘭丸の目は、発熱した時のように潤み、睫を伏しがちに、窺うようにちらりちらりと源太郎に向けられていた。言いたいことがあるのに伝えられない、煌めく瞳が訴えているように見えて、意識せずにはいられない。
夕餉を済まし、片付けを終え、唐八は部屋へ戻り、菊之助は風呂場へ向かって源太郎は蘭丸と二人きりになった。源太郎は徐に爪きりを出して、自分の爪を切り始める。
「源太郎様、夜に爪を切っては危ないですよ」
「だって、伸びすぎて不便だよ」
ぱちっと爪が敷いてある紙の上にとんだ。
「ならば明朝、明るい場所で切って下さい。深爪してしまいます」
「いちいち煩いだ」
蘭丸が切り途中の源太郎の手を取った。
「それ程長くはないと思います」
源太郎は無言で手を戻して、爪きりを再開する。その上に、蘭丸は自分の白い手を翳した。
「源太郎様、蘭の爪も切って下さい」
「明日な」
「今切って下さい。長くてとても不便です」
「そんなに長くないだよ」
「源太郎様と同じくらいです」
「寝てるだけなら、爪長くったって平気だ」
「源太郎様だって、今日はもう寝るだけなのに切っているじゃないですか。蘭の爪も切って下さい」
「駄目だ、深爪したら…」
「なら、源太郎もお止め下さい」
蘭丸は源太郎に寄り添い、切り途中の手の上に自分の掌を重ねた。
「思い上がりでしたらごめんなさい。今、爪を切っているのは、蘭の為ですか?」
「違う」
「違うのですか?」
「いや…」
「蘭は、源太郎様が刻んで下さるならば、痛くありません、爪痕も…」
蘭丸が潤んだままの瞳でじいっと見上げてきた。手を取り、爪を切ったばかりの指先を柔らかい唇に当てる。
「だけど、おら、お前を傷つけるの嫌だ」
「傷?」
「爪痕、つけたくない。優しく、気持ち良くしてやりたい」
「嬉しいです」
「んんっ?」
蘭丸が源太郎の口を塞いで、舌を挿し入れた。源太郎の口の中で小さな舌が蠢いて、舌をさすられ、縺れ合う。分泌された唾液が溢れると、ちゅる、と啜られて、唇が離れた。
「お蘭…」
こくりと唾液を飲み込み、喉が動いた。そして、あの目をして見上げてくる。美しい目に吸い込まれそうになって、 顔を近付けると、蘭丸は目を閉じた。唇が唾液で濡れている。抱き寄せて吸い合った。
暫く濃厚な口付けに没頭していると、蘭丸が下腹部を弄ってきて、そちらに気を取られる。下肢はいつの間にか反応して蘭丸の技巧によって下帯を濡らしていた。
「お、お蘭」
顔を離す。蘭丸は既に源太郎の下半身を見つめていた。先走りの液が付着した指を一舐めし、源太郎の顔を見上げた。変わらず熱を帯びて欲しがっているのだが、幾らか脅えているようにも見えた。
「お嫌ですか?」
「嫌な訳ないだよ」
だが、何時になく情熱的に迫ってくるものだから圧倒された。
「良かった」
蘭丸は源太郎の戸惑いも意に介することなく、下帯から出して、屈んで膨張した一物を口に迎え入れる。優しい舌の摩擦で快楽を促され、硬度が限界まで達したところで、口から離した。
「こちらに、下さりませ」
蘭丸は後ろを向いて、腰を突き出した。傷の回復によって自由になった左腕を後ろにまわして割れ目を開くように尻肉を持ち上げた。
淫らな姿に源太郎は臨界点を越えないよう丹田に力を込めた。手を伸ばして、蕾に指先で触れると、緊張したようにきゅっと縮んだ。
「堅いな。寒いか?怖いか?」
「いいえ…」
入り口に挿し込むように押してみるが、開かず、指先が埋まらない。
「今日は止めるか」
「止めないで下さい」
「でも、無理したら痛いだよ」
「痛くても平気です。どうか…」
「痛くはさせないだよ」
「あっ…」
源太郎は蘭丸の腰を引き寄せて足の間にある小さな袋を手に包み、指の腹でぐにぐにと押した。もう片方の手は指先に自らの唾液を塗し、表面を撫でる。
「う、う…」
反射的に逃げようとする体をぐっと押さえ込んで蘭丸の快楽を促す。
「起ってきただよ」
垂れ下がっていたものが堅く持ち上がってきて、源太郎はそれに手を伸ばした。後孔はまだ指を受け入れず、解すために撫で続ける。
「ふぐりが今はねただ。可愛いな」
「わざわざ仰らないで下さい」
蘭丸は羞恥で布団に顔を押し付けていた。耳まで赤くなっている。源太郎が顔を緩ませて笑うと、蘭丸の尻がびくっと揺れた。
「どうした?」
「息がくすぐったいです、わあっ」
閉じきった入り口を舌で撫でると、蘭丸は全身を震わせ始めた。腰を掴んで続けていると、蘭丸の吐き出した甘い溜め息と同時に緊張していた肉襞が解れ始め、静かに舌先を埋める。
「あ、やだ」
源太郎の舌をきゅっとしめて、押し出してしまった。
「嫌なのか?」
「い、いえ…嫌では…」
「舐めていいか?」
「き、汚いです」
「綺麗だよ」
「あ…」
ぺろりと一舐めすると、蘭丸は体から力を抜けて腰をずるりと落としてしまった。源太郎は蘭丸の体を仰向けにし、閉じかけた足を膝を掴んで開いた。足の間のそそり立つ欲求の証が、先端から雫を垂らしている。その真下の蕾は息づいて、咲きそうに開閉を繰り返している。
どくりと源太郎の中心が疼いて、昂りをどうにかこらえて、再び尻の割れ目を開いた。両手指を使って寛げて、舐めてから人差し指を埋め込む。傷つけないように、指の腹でゆっくり内側をなぞりながら。
「…っ!」
中にある弱点に触れると蘭丸の肌が跳ねて、先走りが零れ落ちた。源太郎は根元を掴んで吐精を止めながら粘膜を撫で続ける。
蘭丸の小刻みな喘ぎの間に、くちゅり、と卑猥な水音が立った。
「お蘭の中、濡れてきてるだよ」
ぬめりを纏った指を抜き、蘭丸の目の前に持って行く。蘭丸は恥ずかしげに眉間に皺を寄せ目を見開いてから、睫を伏せた。
「まだ出るかな?」
指を挿し込み、ぬちゅ、と音を立てた。中を広げるように撫でていると、蘭丸が熱い視線を向けながら、何か呟いている。
「どうした?」
「…い」
「ん?」
「…きたい」
「いきたい、か?」
蘭丸は小さく頷く。目尻から一雫、涙が流れた。
源太郎は捕らえたままの根元の拘束を弱め、濡らした先端を口に含んだ。握ったままの手を上下に数往復すると、蘭丸は熱を吐き出し、口から離すと、柔らかくなった。
「蘭も、致します」
蘭丸が起きあがろうとすると肩を押さえて、そして、達して力の抜けた蘭丸の膝裏を掴み、持ち上げた。
「あ…」
蘭丸は恥ずかしさに顔を背けた。先より大きく開閉する後孔が上を向き、間近で見られている。
源太郎は先のように両の親指で孔を広げ、口の中のものを流し込んだ。体内に温かいものが流れてゆく度、蘭丸は体をひくつかせる。
「貰うだよ?」
源太郎は蘭丸の脚を開いて、限界まで肥えた自身を挿した。やはり締まりが強く、源太郎は耐えきれずに、奥までたどり着いたのと同じ頃合いに達してしまった。
「あ、あうっ」
「お蘭…!」
「源太郎様…」
蘭丸は源太郎の肩に殆ど引っかかっているだけの浴衣を掴んだ。源太郎の熱を受け取って、浴衣を引き寄せる。
「ごめん、またおら、すぐ出しちまって…」
「これでお終いなのですか?」
「まさか」
「嬉しいです」
蘭丸は瞳を濡らしたまま穏やかに微笑んだ。源太郎は可愛い、と口にしながら汗ばんだ額を撫で、頬を撫で、唇をなぞっていく。指先が白い歯に触れ、間から舌先に触れてみる。
すっと蘭丸の腕が源太郎の肩を抱き、引き寄せた。唇を合わせながら、二人は互いの体を強く抱きしめ合う。源太郎は布団と蘭丸の腰の間に手を入れ、抱き寄せた。
「わあっ」
ごろんと半回転する。源太郎の体の上で、蘭丸は目を大きくして見下ろしていた。
「お蘭を潰しちまっただ。背中、痛くなかったか?」
「あ…、夢中で、気がつきませんでした」
「そっか」
蘭丸は源太郎の胸板に頬を付けて寝そべる。源太郎の大きな手が髪を撫でている。
「もう、疲れちまったか?」
「いいえ。源太郎様の優しさが、嬉しくて…」
「なら、もう暫くこうしてていいだよ」
「はい」
蘭丸は目を閉じてゆっくり呼吸している。熱い息が胸に掛かってくすぐったい。すると、胸元に温かい雫が流れ落ちた。
「お蘭…?」
蘭丸ははらはらと涙を零していた。
「どうしただ?」
「い、いえ…」
源太郎は蘭丸の体を支えながら起き上がった。腕の中に収まりながら、蘭丸は泣き続けていた。源太郎は子供をあやすように背中を撫でる。
「源太郎様、ずっと、こうしていて下さい。蘭を離さないで下さい…!」
「分かった」
「蘭は源太郎様から離れたくない、源太郎様と二人だけがいい…!」
蘭丸は源太郎に縋り付いた。
「お蘭…」
「お願いします、源太郎様…!」
「なら、そうしよう」
「源太郎様…」
「二人だけでずっと一緒にいような」
「本当に?」
「ああ」
「嬉しい…」
蘭丸の涙がやっと止まって、源太郎は顔に貼り付いた髪を指でよけて、目尻に口付ける。強張っていた体の力が抜けて、布団に寝かせた。
「もっと、触れて下さい」
「こうか?」
頬に手を当ててみる。蘭丸は恥ずかしそうに胸の包帯に手をかけて、少しだけ下にずらした。
「もっとです…」
包帯を巻かれた白い体にぽつんとある桃色が、この上なく淫らに見える。触れてみると、堅く熱を持っていて、ただ触っただけなのに蘭丸の体はぴくりと反応していた。
「あ…」
源太郎は舌先で左右のそれを交互に転がした。赤味を増した桃色の突起が唾液で光る。蘭丸が快楽に浸っている最中、源太郎は顔を離した。
「もっと触って欲しいか?」
「はい…」
「なら、お前の中に、入りたい」
蘭丸は閉じていた膝を自ら開いた。源太郎は腰を持ち上げ、畳んだ足の上に蘭丸の太腿を載せ、濡らした後孔に先端をあてがった。
「力、抜けるか?」
「はい…」
侵入し、狭い空洞を進んで行くと、途切れ途切れに喘ぐ蘭丸の中はより狭く、源太郎を締め付けた。ゆっくり広げるように腰を前に突き出して、根元まで埋め込んだ。
源太郎は蘭丸の両脇に手を置いて、体を固定させると、自身を出し入れさせた。
「あ、あっ…!」
腰の前後運動と一緒に、蘭丸の起ち上がった茎がぷらぷらと揺れていた。先端の割れ目が濡れている。これは先に出したものか、また新たに出てるのか…。源太郎は親指を胸板に移動させ、体を押さえたまま小さな豆粒を押し潰した。
蘭丸が短く叫んで源太郎を締め付ける。源太郎は指で弾きながら腰の前後運動を加速させた。互いに圧力を与えながら上り詰めていく。
「駄目…」
蘭丸は体を震わせながら、源太郎の腹に勢い良く飛ばした。源太郎は内壁の感触に気を取られ、蘭丸の中に沢山注いだ。
「夢みたい」
蘭丸は恍惚とした眼差しを送りながら呟いた。
「夢じゃない」
「…時折、夢か現実か分からなくなることがあります。最近、特に」
「お蘭…」
「怖い夢も現実みたいに、現実に幸せであっても夢のように、だのに、怖い現実は、より…」
源太郎は蘭丸の体を抱き締めた。
「怖いなら、こうして眠ろう。夢でも会えるように」
「会うだけでは駄目です」
蘭丸は悲しげに俯く。
「なら、夢でもお蘭を抱けるように」
少し沈黙があって見下ろすと、蘭丸は既に瞼を閉じていた。唇の隙間から静かな寝息が聞こえる。
蘭丸が一人でいる時、どんな不安を抱えているのだろうか。そして、何に怯えているのだろうか。思い当たることがありすぎるせいで、却って見当がつかない。けれど、自分が取り除くことが出来るならば、叶えてやりたい。
蘭丸の寝息が規則正しく、眠りが深くなった頃、源太郎はそっと布団を抜け出し部屋を出た。
廊下に出て、濡れ縁の草履を履いた。井戸水を汲んで手拭いを濡らして絞る。
「あれ」
風呂場の灯りが消えている。菊之助はもう出たのだろうか。いつも過ごす縁側にはいないし、部屋に戻った形跡もない。
「何処か行ったんだろか…」
夜の秋風が源太郎の肌を撫でた。ぶるりと寒気が走る。源太郎は濡れた布を持って急いで部屋へ戻った。
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