妄想、愉悦。


参拾捌


   


 夜半。養生所からそう遠くない歓楽街を、菊之助は歩いていた。酒場や宿屋が溢れるこの通りは、まだ賑わいもある。

「姉ちゃん、綺麗だなあ」

 酒場の客が声を掛けてきた。今日はこれで三人目。この男はどうだろう。客の男は物欲しそうな視線を菊之助に送ってくる。白い首筋や腰の線や、しなやかな脹ら脛から引き締まった足首を眺めては卑しく笑った。
 今夜はこの男にしよう。菊之助は、にこっと微笑んだ。

「あんた、本当に美人だな」

「有難う。おじさんも素敵だよ」

「おじさんはないよ。おらあ、こう見えて三十二だ」

「おれの倍の歳だ」

「へえ」

 十六か、と呟きながら、もう一度男はねっとりとした目つきで菊之助を眺めた。

「なあに?」

 菊之助は覗き込むように男に顔を近付ける。

「どうだ、一杯」

「いいね、でも、ここじゃ嫌だ」

「安酒は好かねえか?」

「ううん。酒は何でもいい。あんたの部屋、連れてってよ」

「俺の部屋か?」

「うん」

 菊之助は男の手を握り、細い指を絡ませた。




 月が雲に覆われ始めた。今夜は眠れるだろうか。菊之助は買って貰った安酒をちびりちびり飲みながら、男の肩にもたれ掛かった。
 男は、家には家族がいるからと、宿を取ってくれた。男は部屋に入るなりいそいそ布団を敷いて、事に及ぼうとしながらもまだ菊之助に触れようとしない。

「姉ちゃん、名は?」

 きっかけを探しているのか、今更名前を訊いてきた。

「菊。菊の花の菊だよ」

「菊か、いい名前だ」

「有難う」

 秋風が吹き抜け、髪が舞う。菊之助は窓を閉めた。月明かりが消えて、室内が一段暗くなる。

「少し寒いね」

「冷たい髪だな」

「湯浴みしたばかりだから。ほら、まだ少し湿ってるの」

「風邪引いたら大変だ」

 男が肩を抱き、顔を近付けてきた。菊之助は瞼を閉じる。酒の匂いのする息が鼻にかかった。男は小刻みに、丁寧に唇を啄む。優しい動きはもの足りなくて、菊之助は腰に手を巻き付けて自ら押し当て、吸う。

「ん…」

 抱きしめあったまま体を倒された。男は急に真顔になる。

「これは夢か?おめえみたいな美人が俺なんかと、こんな安宿で…」

「どうして?」

「金でも取る気か?」

「そんなことしない。寂しかったんだ、ずっと一人で眠れなくて、温もりが欲しかったんだ」

「なら、何で俺なんだ。おめえなら、他にもいるだろ」

「あなたが、欲望に忠実だから」

 菊之助の返答に、男は訝しんでいた。

「どういう意味だ?」

「声をかけてくる人には下心がある。でも、欲求よりも、優しさが勝る人じゃ駄目なの」

「俺が優しくねえってことか」

「そんなことない。優しいよ。でもね、少しだけ欲求の方が強い。目を見て分かった。おれは、あなたみたいな人がいい」

「何でだ」

「おれも同じだから。我慢したくない」

 菊之助は男の襟に手をかけた。開くと、鎖骨の下に古傷が見えた。

「これ…」

「昔、戦でな」

 菊之助は顔を上げて舌を傷跡になぞらせた。その上に吸い付いて、赤い痣を作る。

「おい」

 男が焦って体を離した。見下ろしても、自分で確認出来る位置ではない。

「大丈夫、見えないよ」

 慌て振りが面白くて、菊之助は笑ってしまった。

「ねえ」

 引き寄せてもう一度口付け合うと、男は菊之助の着物の襟を開いた。肌を撫でられ、予想外にささやかな質量に男の手が一瞬止まる。更に広げて胸をさらけ出す。

「可愛い乳だな」

 菊之助は胸筋が発達している為、少しだけ胸が盛り上がっていた。薄く脂肪を纏った柔らかい肌を、男は両の掌で撫で回す。

「やっ…」

 柔らかい胸の堅い部分を指を掠めると、菊之助は短く息を吐いた。ぴくりと肌が動いたのは見逃さず、指でつまみ上げられた。

「ここか」

 丸く起った乳首を指の腹で転がされると、菊之助は頷いた。

「んっー」

 首を逸らすと、乳首を転がされたまま首筋に唇を付けられた。

「駄目、吸っちゃ」

「駄目なのか?」

「おれは色が白いから目立っちゃうの。見えないとこにしてよ」

 こうか、と問いながら、肩を甘噛みされた。

「そう。でも、もっと下がいい」

 鎖骨は避けて、その一寸程下の胸に口付けられ、吸われ、徐々に唇が下に下がる。そして、もう片方の手で太腿を撫で回した。舌先で小さな紅色の輪をつつかれると肌が跳ね、がっしり抑えられてしまう。

「ああっ」

 この男はそれなりに場数を踏んでいるらしい。菊之助の快楽の上昇を見据えながら、ねちこく刺激を与えてくる。指と舌で乳首を転がされる度、肌が火照って鼓動は早くなってしまう。男の片手が尻に到達すると、一旦手を止めた。

「何も付けてないのか」

「うん。下着で締め付けられるの嫌なの」

「そうか」

 手を着物に滑り込ませ、尻を撫でる。内側に指を進めて、割れ目の奥に潜む孔に触れると、指が進んで、一旦手を止める。男は笑いをかみ殺しながら囁いた。

「随分遊んでるんだな、尻の穴まで使って」

 菊之助は、いつものように妖艶に笑い返したかったけれど、与えられた刺激がもどかしくて、ままならない。

「あんっ、あっ…!」

 一気に指を三本に増やされ、奥に埋められ、内側を撫でられると水音を立てた。

「もういいから、ちょうだい」

 菊之助は起き上がって、男を押し倒した。体制が逆転する。服を捲り、下帯の中に手を入れ、弄びながらもう片方の手で解いて取り払う。

「熱い、大きい…」

 うっとり呟くと、男がまた戸惑った顔をしていた。菊之助は男の腰を跨ぐ。

「お尻に、いい…?」

 返事より先に菊之助は後ろ手で膨張した下肢を掴んで、ゆっくり腰を落としていく。

「くうっ」

 体が繋がる。男は、菊之助の締め付けにたまらずに声を漏らした。菊之助は屈んで開いた口に吸い付く。舌をなぞり、その舌を口に収めて吸い、一旦離れてまた押し当てた。何度か口付けを施しているうちに、男が反応し、吸い返してくる。

「んっ…」

 しばし口付けに没頭し、菊之助は顔を上げた。妖艶に見下ろす。すると男は、負けるかと、くびれと柔らかさのある腰を掴んだまま腰を突き上げた。

「んっ」

 菊之助の余裕が薄れ、顔を歪める。男は笑いながら腰を激しく揺すった。

「んんっ、あっ、あっ…!」

 菊之助が顔を反らす。汗の雨が降り、髪が素肌に貼りついた。

「だめ、あ、あっ」

 きゅうっと菊之助が、埋め込まれた芯を搾り取る。

「駄目、いっちゃう…!」

「くおっ」

「あああ!」

 一瞬遅れて、男が菊之助の内部に放った。温かい液が中に溢れ、菊之助はふらりと前へ倒れた。

「おっ…と」

 抱き止められ、菊之助は胸に頬を当てる。視線が合うと、微笑んで見せる。吸い寄せ合うように唇を重ねる。

「気持ちいい?」

「ああ」

「おれはその倍、良かった。ねえ、もう一回、してくれる?」

 菊之助は返事を待たず、腰を上げた。体液が零れ、太腿に滴る。菊之助は手で柔らかくなっているものを握りながら、屈んで口付け合う。
 唇の隙間から、男の弱った吐息が時折漏れる。吐息ごと、ふっくらとした唇で包み込んで、啄み、少しだけ歯を立てた。

「はっ…」

 唇を離すと、とろけた視線で見上げられた。頬も紅潮しているし、何より手の中のものが堅くなっている。

「ねえ、くれる?」

 菊之助がもう一度男の腰に跨ごうとすると、起き上がった男に肩を掴まれて寝かされた。

「おまえさんにもやってやらあ」

「ま、待って」

 乱れた着物の裾を一気に捲られ、下半身が晒される。それを見て、男は後ろに倒れ、尻餅をついた。驚愕し、呆けた顔で菊之助の顔と下半身を交互に見つめていた。

「おま、おと、おとー…」

「そうだよ、男だよ」

「てことは、おらあ、男を…」

 あからさまに動揺している。 菊之助は、帯を解いて着物を落とした。

「そうだね。あなたは、おれを抱いたね。初めてだったの?」

「あたりめえだ、何だって男なんかと…!」

「当たり前?今まで、おれを可愛がってくれた男の人は沢山いたよ?」

「俺は違…」

「違わない」

 菊之助は、足を広げたままの相手の股間に手を伸ばした。菊之助が男だと知り、明らかに焦っていても、ここはまだ反応したままだった。細い指先で先端を撫でると、ぴくんとまた一段と張り詰める。

「こんなじゃない」

 男は顔を背けた。欲しい癖に、悪あがきで意地張って馬鹿みたいだ。けれど、菊之助には自信があった。

「ねえ、あなた、おれを綺麗だって言ってくれたよね。おれが男だったら、もう醜く見えちゃうの?」

「そんなことは…」

「本当?嬉しい」

「うわっ?」

 菊之助は男に抱き付いて、口付けた。唇の感触を刻むように押し当て、離す。

「ねえ、今の嫌だった?」

 男は頬を赤らめたまま、気まずそうに俯いている。

「嫌だったの?」

「いいや…」

「なら、口でしてあげる」

「いや、汚れてるからよ…」

 そんなことは気にしないのに。けれど、男の目はまだ欲している。気を使っているというより、別の欲求があるのだろう。菊之助は少し身を引いた。男が僅かに手を伸ばした。読みは当たった。菊之助は笑いそうな口元を隠した。

「だって、そんな大きくなってるのに。出さないと。それとも…」

 菊之助は男に背を向け、振り返る。腰を上げて足を広げ、豊かな尻肉の片方を持ち上げた。男は血走った目で見ている。ごくっと固唾を飲み込んで、喉仏が動いた。

「こっちがいい…?」

 広げた孔から、白い液が一筋垂れた。男が手を伸ばし、腰を上げる。

「ちょっと、痛いよ」

 男が菊之助の背中を押して、四つ足の獣のような体制にさせた。

「ああ!」

 一気に入り込んで、男の大きな袋が菊之助の小さな袋に当たった。衝撃で、腰に力が入り、男をぎゅうっとしめつけた。男は負けじと強い締まりに対抗するように、腰の前後運動を始めた。

「あっ、あっあっ」

 肌と肌がぶつかりあう乾いた音と、粘着質な水音、菊之助のよがり声が同じ律動を刻む。

「や、そんなにしたら、いっ…!」

 達してしまわないように下腹部に力を込めると、内側がより強く擦れ、弱点に圧力がかかる。

「だ、駄目、いっちゃうぅ」

 菊之助の体は強ばり、震え、一瞬にして力が抜けた。男が手を前に伸ばし、菊之助の胸に手を当て体に引き寄せる。抜けかけた杭がまた押し込まれる。

「おい、さっきみたいに孔を閉めろ。おらあまだ満足しちゃあいねえ」

 密着し、肩に顔を載せながら男が菊之助の顔を覗き込む。

「だっておれ…。もう、もう……うあっ」

 ぎゅっと指で乳首を強く挟まれた。

「そんなの駄目っ」

「駄目なもんか、中締まってるぞ」

 指で潰されながら、引っ張られる。

「そんなにしたら、また…」

 男が腰を押し付けて、体を打ち付けた。内側がめくれてしまいそうな程、激しい。

「ひっ、ああああっ」

 また絶頂が訪れ、菊之助は叫んだ。ぎゅうっと締め付けて、抜けなくなって、男は菊之助に収めたまま何とか崩れかけた膝を立てた。どさりと菊之助の体が布団に倒れると、真っ白な肌に白濁液を撒いた。




 薄暗い部屋で、静かな口取りの音が響く。快楽を煽る訳ではなく、凝りを解すように滑らかな舌が這っていった。

「すげえな、こんな技まで持ってるのか」

「沢山貰ったからね。ゆっくり休める為のご褒美」

 菊之助はまるで男根に語り掛けるように返して、清めるように舐め取って、手拭いで丁寧に拭き取った。

「綺麗になった」

 男の体に布団を掛け、今度は自分の体を拭き始めた。

「拭いてやるよ」

「平気」

「いいから」

 男は布団から起き上がって、後ろから抱え込むようにしながら手拭いを奪った。話す度に動く柔らかな頬の輪郭を背後から見詰めている。

「有難う、おじさん、優しいんだね」

「よせや、照れちまう」

「ふふ」

 手を下に潜らせ、体液を拭かれていると、肌が強張ってしまう。悩ましげな、大きな溜め息を漏らした。男は白いうなじに唇を当てた。

「お前が男だって、未だに信じらんねえ」

「どうして?」

「お前みてえな綺麗な男は見たことねぇ。いや、女でだって、お前程の器量を持った奴は…」

「いるよ」

「いるのか?」

「うん。おれより綺麗な男」

「そりゃあ、たまげた」

 ちゅ、と音を立ててうなじに淡い吸い跡を残される。

「見たい?」

「ああ」

「抱きたい?」

「いいや」

 男は腕を回して、菊之助の肌を撫でた。

「お前だけで十分だ」

「嘘。おじさんだって、蘭を見たら抱きたくなるに決まってる」

「らん?」

「そう。蘭はね、とても綺麗な花なんだ。おれも一度だけ見たことある。繊細で、可憐で、艶やかな花。菊よりも…」

「菊も綺麗だけどなあ」

「でも、蘭を見たらおじさんだって、菊よりも蘭の方を好きになる」

「何で花の話にすり替わってんだ?」

 言いながら、男は乳首を指先で潰した。菊之助の言葉が途切れる。

「蘭は…、花そのものだから」

 菊之助が話し続けていると、顎を捉え、首を巡らせて唇を吸って遮られた。そのまま乳首を刺激され、腕の中で菊之助は悶えてしまう。男はもう片方の手を下にずらす。小さな男の証は上を向き、更にその下は息づいて、大きく収縮している。
 男は唇を離し、立ち上がって、菊之助の眼前に萎びたものを突き出す。菊之助は指で持ち上げ、その下にある片方を口に含んだ。毛束の上から、滑らかな感触が這い回る。指で支えていたものが少しずつ持ち上がり、堅くなると、柔らかな指で輪を作りながら磨き始めた。
 もう二度も出したのに、男のものは容易く持ち上がってしまった。菊之助は口から出して、仰向けに寝そべる。膝を立て、足を開いた。

「抱きしめながら、して欲しい」

「ああ」

 足の間に割り込んで、体を押し込めた。埋まってゆく度に滑りに包まれるているような、そんな感覚。腰を動かすと、水面で摩擦する派手な音を立てた。菊之助は背に腕を回し、抱きつきながら、感触に浸っていた。

「蘭はね…」

「花のことなんか、どうだっていい」

「蘭は、もの凄く淫らなんだ」

「へえ、お前よりか?」

「うん。可憐な顔をして、いつも欲しがってる。可愛がってあげるとね、嬉しそうに喘ぐ」

「お前と同じだな」

 菊之助は、くすりと妖艶に笑った。

「おれとは違う。蘭は、自分が欲張りなのを認めないんだ」

「へえ」

「だから、たまに意地悪しちゃう。自分の淫乱さを知らしめる為に。蘭は傷付く振りをして泣くけどね」

「意地悪?どんな風に?」

「性器ごと縄で縛って体の自由を奪ってね。口取りさせたり、ずっと接吻したり、お尻をほじって、でも絶対にいかせてあげなかったり…」

「とんだ変態だな、おめえ」

「おれが?違うよ。蘭が喜ぶから、してあげるの」

「そう…か」

 男は前後運動の継続で、返事がままならない。息が切れ始めた。菊之助は構わず続けた。

「蘭は嫌がる素振りを見せるけど、形だけなんだ」

 濡れた唇が言葉を紡ぐ度に動く。

「だって、苛められて気持ちよくなった後、とても幸せそうにしてるから。でも、蘭はそれでも認めようとしないの」

 男は、一旦腰の動きを止め、中から自身を抜いた。そして膝を立て、見下ろす。菊之助は体を起こしてすがりついた。

「急に止めないでよ、酷いよ」

「おめえが黙らねえからな。萎えた」

「嘘。だって相変わらず…」

 下半身に視線を落として微笑む。その表情が気に障ったのか、男は菊之助の肩を突き飛ばした。さほど痛くもないが、菊之助は少々大袈裟に布団に倒れて見せる。

「急に、何するの」

「黙れよ」

 くびれた腰を掴んで強引に押し入った。豊かな尻をひっぱたくと、孔がぎゅっと締まる。それほど強くなくても、白い肌は容易く桃色に染まった。

「痛っ、痛いったら」

 衝撃で生まれる振動が心地よいのか、何度も繰り返し叩いてくる。

「お前が黙らないからだ」

「嘘、自分が気持ちいい癖に」

「そりゃあ、お前だろ?」

 きゅうっと締め付けると、男は中に吐き出した。大きく息を吐いて、布団に仰向けで横たわる。菊之助は、その隣にうつ伏せになって横目で見詰めた。男が先に口を開く。

「久し振りだ」

「何が?」

「三度もしたのが」

「へえ…」

「あ、お前、尻は痛くねえか?」

 男は菊之助の豊かな桃尻を撫でた。

「平気。白いから赤みが目立ってるけど、そんなに痛くないよ」

「冷やさないで平気か?」

「うん。おじさん、優しいんだね」

 菊之助は男に抱き付いた。腕枕をしてもらいながら、隣に寝そべる。

「でも、少し優しすぎるかな」

「変な奴だな。乱暴されるのが好きなのか?」

「好きじゃないけど、優しくされるより荒っぽく扱われることに慣れてるから。こないだなんか、汚らしい山賊紛いの男六人を河川敷で相手にした。気分は良くないけど、自分も発散出来るから」

「お前、何だってそんな…」

 男は呆れより心配が先立った顔をしている。

「優しい人は避けてる。だから、人間の屑みたいな男の相手もよくする羽目になるんだ」

「馬鹿、そんなことしたら、下手した命取られるぞ」

「平気。おれ、強いから。それに、死んだって構わない」

「そんなこと、言うなよ」

 男は菊之助の肩を抱いて、顔を近付けた。行きずりで交わった相手に説教でもする気だろうか。しかし、男はすぐに顔を背けた。菊之助は男の戦傷にそっと触れる。

「ね、また、してくれる?」

「え?四回は流石に…」

「違うよ。また、会ってくれる?」

「ああ。お前がいいなら」

「有難う」

 菊之助は起き上がって、男に接吻する。立ち上がって服を着る。

「今日は帰るよ」

「え?」

「ねえ、住まいはこの辺?夜、この辺にいたらまた会える?」

「ああ、多分…」

「良かった」

 菊之助は帯を結んだ。服の中に入った毛先を優美な仕草でかきあげる。

「待て、送る」

「いいの」

 起き上がろうとする男の胸に手を当て、抑えた。

「三回もして疲れてるでしょ?おれは平気だから、休んでいきなよ」

 菊之助は男の額に口付けて、立ち上がった。

「じゃあね」

 戸の前で手を振る。

「必ずすぐ、会いに来るから」

 そう言って、菊之助は部屋を出て行った。

 夜の歓楽街も、帰り際は幾分静かになっていた。
 今夜は眠れそうにない。

「あ」

 酒を、宿に置いて来てしまった。

「まあいいか」

 どちらにしろ、今日は眠らないのだから。菊之助は寂れた帰り道を、月明かりに照らされながら進んでいった。







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