肆拾
雨足が強い。こんな日は、養生所に患者が訪れることは殆どなく、唐八は菊之助を連れて往診へ行ってしまった。
源太郎は先生の道具の手入れを手伝っていたが、それも午前中に終わってしまった。
「何か、他に手伝うことはねえだか?」
「いいや」
先生は無愛想な訳ではないのだが、口数が少なく、必要以上に喋らない人だ。短く答えて、もう何も言わない。
昼食の準備をするのも早すぎる。源太郎は仕事を探す為に辺りを見渡す。先生は診察台に寝転んだ。
「いいから、お前さんも休んでろ」
先生は弛んだ瞼を閉じた。お互い休みなく働いているのだから気を使ってくれているのだろう。源太郎は寝室へ向かう。体重をかけると、包帯を巻いた足が痛んだ。
蘭丸はまだ布団の中にいた。しかし、何やら様子が可笑しい。寝苦しそうに顔を歪め、譫言を呟いていた。魘されている。
「お蘭」
源太郎は蘭丸の手を取り名を呼んだ。
「お蘭」
「……ま」
「どうしただ、お蘭」
「源太郎様…」
眠りながら、蘭丸は源太郎の名を呼んだ。前魘されていた時には信長を何度も呼んでいたのに。
「お蘭、ここにいるだ」
強めに体を揺すると、蘭丸は目を開けた。瞳が濡れている。蘭丸はくすんだ天井を見上げて、夢か、と呟いて安堵の溜め息を漏らした。
「お蘭。大丈夫か、魘されてただよ」
「怖い夢を…」
「おらの名前、呼んでくれた」
源太郎は手を汗ばんだ蘭丸の頬に当てた。
「前、魘されてた時はずっと信長の名前呼んでたから、お蘭が苦しそうだったのに、おら、嬉しくて…」
「源太郎様…」
蘭丸は心配そうに源太郎を見上げていた。源太郎は蘭丸の体を抱えて胸に抱いて、唇を吸った。離して、角度を変えてまた塞ぐ。今度は蘭丸が源太郎の頬に手を当てた。
「蘭には、源太郎様が嬉しいようには見えません」
「うん…」
源太郎は返事をした後、何も言えず、言葉を詰まらせた。
「蘭は、源太郎様が嬉しいと思うことをしたいです。今の蘭に出来ることはありますか?」
「お蘭が元気になること」
「怪我はしていますが、元気ですよ」
「怪我が治って、早く二人だけの世界に行きたい」
それは、昨夜泣きながら蘭丸が訴えた言葉だった。蘭丸が目を見開くと、源太郎は蘭丸の頬を撫で、口付けて、蘭丸が目を閉じるより先に離した。
「抱いていいか?」
蘭丸は戸惑っていたようだが、ほっとしたような顔をして穏やかに笑った。
「良いですよ」
「今日は優しくする」
「昨日もお優しかったですよ。それに、強くしても良いです」
「ああ」
蘭丸は源太郎の胸に凭れ、服の隙間から源太郎の素肌に触れた。筋肉で隆起した胸板を舌でなぞり、乳首を甘く噛んだ。源太郎は蘭丸を見下ろしていた。長い睫毛、通った鼻筋、乳首を擦る可憐な舌先から目から離せずにいると、不意に蘭丸が見上げ、目が合う。蘭丸は顔を赤らめ、微笑んだ。
「今、蘭の方が源太郎様を欲しがっています」
蘭丸は源太郎の体から降りて、屈んで源太郎の下腹部を弄り、下帯を緩めた。布から一物を取り出し、ためらいなく頬張る。源太郎自身が温かく柔らかい粘膜に包まれ、膨張していく。口いっぱいになったものを出して、蘭丸は丁寧に舐め始めた。筋の浮いた異形を、綺麗な顔で愛撫している光景は、何とも形容しがたい高揚感に煽られる。蘭丸は源太郎の気持ちを知っているかのように、舌だけで敏感な箇所に微量の刺激を与え続けていた。
「お蘭、もういいだよ。乗ってくれ」
蘭丸は源太郎に促されながら跨り、体に収める前にしゃがんだ。反応した剛直が浅い尻の割れ目に沿って前へ倒れた。
「源太郎様…」
蘭丸は源太郎の手を掴んだまま、腰を前後に動かしながら源太郎自身をこすりつけた。
「あっ」
与えられた刺激に源太郎は悶えかけ、蘭丸は構わず続けた。触れた蘭丸の小さな二つの袋が脈打つ。広がった裾の袂からはいきりだった桃色の先端を、腰を動かす度にちらりちらりと覗かせ、雫を光らせていた。
「熱い…」
「源太郎様も…」
源太郎は両手で蘭丸の尻たぶを掴んで浅い谷間に自身を挟み込む。密着しあい、びくびくと源太郎が蠢いた。
「くっ…」
仰向けのまま飛沫を上げると、白い粘液は源太郎の腹を汚した。蘭丸は恍惚と白い水溜まりを眺める。
源太郎は起き上がって、蘭丸の両腕を持ち上げて自分の肩にのせ、細い体を抱きしめる。密着した二人の腹部に、上を向いた蘭丸の芯が挟まれた。
「…ひっ」
源太郎は滴る体液を指で掬うと、蘭丸の尻に手を移動させ、息づく小さな空洞に指をうずめる。広げるように指をまわすと、蘭丸が腕の力を強めて、抱きしめてきた。
「あ、…んっ」
蘭丸が熱い吐息の合間に殺しきれなかった甘い悲鳴を漏らす。蘭丸から漏れる呼吸や喘ぎ、更に粘着質な音が加わり、静かな室内で響いていた。
源太郎は蘭丸の体内で指をくちゅ、と鳴らしながら、優しくかき回す。
「ううっ」
指をきゅっと締め付ける。昨夜繋がったばかりなのにこんなに狭い。なのに、源太郎が指をもう一本埋めると、するりと呑み込んで、更に締め付けられた。
「そちらでは…」
もう待てないと訴えるように、蘭丸は後ろ手で源太郎の熱を直接掴んで持ち上げた。
「お蘭っ」
性急に触れられて溢れそうになる。源太郎は指を抜き、蘭丸を制し、諌める。
「慌てるな、今、やるだよ」
蘭丸は源太郎にしがみつきながら腰を上げた。
「っ…」
息づきながら、蘭丸は源太郎を体に納めてゆく。狭い肉壁の小刻みな収縮運動を繰り返す接続部の刺激だけで、達してしまいそうになる。
「源太郎様、少しだけ、このまま…」
根元まで咥えると、蘭丸は恥じらいながら囁く。
「いいだよ」
返事の終わりと同時に、蘭丸は腕に力を込める。顔が見たいのに蘭丸は俯いたままだった。
「お蘭、やっぱり、口吸いしたい」
「まだ、こうしていたいです」
「駄目か」
源太郎がため息混じりに呟くと、蘭丸が笑った。そして、自ら唇を寄せてくる。
「ふ…、んっ…」
啄んでくる。息が荒く、苦しそうで、蘭丸は短い口吸いを止めてしまった。蘭丸は腰をもじもじ揺する。その仕草で、内部が一層締まる。
「も…、出ちまいそうだ…」
「源太郎様、蘭の中で脈打ってます」
蘭丸が首の向きをかえようとすると、源太郎は顎を掴んで強引に向き合わせる。
「痛いです」
「お蘭のこと見てたいだ。いくの我慢するのも、いった時も可愛い」
蘭丸は羞恥で耐えられずに、視線を泳がせていた。源太郎は体を蘭丸に収めたまま、ゆっくり上体を後ろへ倒す。布団に背中が届くと、蘭丸の髪をかきあげ、頬を撫でた。うなじに手を滑らせて、固定する。
「見せてくれ」
「くうっ…!」
片手で蘭丸の腰を支え、自ら腰を突き上げる。蘭丸の細い体が弾み、押し出すように中が締まる。小刻みに何度も打ち上げると、蘭丸は首を固定されてもどかしそうに唇を噛んでいた。指を口に入れると、白い歯がかたかた震えていた。
「我慢しなくていいだよ」
「ううっ!」
一際強く締め付けられると、腹に温かいものが降り注ぐ。源太郎もほぼ同時に蘭丸の中に吐き出していた。指を口から抜くと、蘭丸は息を荒げていた。
「横になるだ」
今度は蘭丸を仰向けに寝かせる。源太郎が抜けると、白い液が敷布に染み込んだ。
「汚れて…」
「平気だ。すぐ取り替えっから」
源太郎は敷布を広げて、蘭丸の体を包み込み、立ち上がった。源太郎の足を視界に収めると、蘭丸はとろけていた目を見開いて、起き上がった。
「その足、お怪我を!?」
「たいしたことないだ。ちっと、火傷しちまって。すぐ手当てして貰ったから」
「蘭が敷布を取りに行きます」
蘭丸は立ち上がろうと膝を立てた。しかし、そのまま前のめりによろける。
「大丈夫か!?」
源太郎が咄嗟にしゃがんで蘭丸の体を支える。
「すみません、腰が…」
「寝起きでしたばっかだかんな。急に立つと、頭に血が回らないだよ」
「……」
蘭丸は、源太郎の腕の中で強いまばたきを繰り返していた。徐に、包帯の足に手を置いて、撫でるような仕草をした。
「眠いだな?」
「だ、大丈夫です」
「ごめんな、起こしちまって」
蘭丸は首を横に振った。
「いいえ。先は、怖い夢を見て…」
源太郎は、昨夜の蘭丸の涙を思い出した。此処にいる限り、蘭丸は闇から抜け出せないのかも知れない。
「なので、こうして源太郎様と…、熱を分け合うのがとても嬉しいです」
「熱?」
「はい。源太郎様は、心も体も温かい」
蘭丸の瞳を直視することが出来ず、源太郎はそっと瞼に手を置く。
「源太郎様?」
「なら、このまま眠ってていいだよ。また怖い夢見たら、起こしてやる」
「けれど、源太郎様がいるなら、起きていたいです」
「もう少し眠ってから、起きればいいだよ。まだ昼前だ。時間はまだある」
「……」
指の腹にまばたきの度にこすれた長い睫が動かなくなった。納得したのか、それよりも先に落ちてしまったのか。源太郎は蘭丸の体を横たえた。蘭丸を包み込んだこの状態では、敷布を洗うことが出来ない。
源太郎は蘭丸の寝顔を眺め、手を握った。蘭丸の指が握り返すように曲がった。目覚めて、蘭丸の瞳が輝いた時に、向き合うことが出来るだろうか。
あたたかくなんかない。少なくとも、この心は。
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