拾壱
最初に潰れたのは康太郎だった。さして広くもない部屋で体を大の字にし、片方の腕に健吾が頭をのせて仲良く眠っている。
「兄さんたら、飲み過ぎ」
康も顔が真っ赤なのだが、足元はふらつきもなく、動作もてきぱきとしていて、蘭丸と一緒に片付けをしていた。
「布団、此処でいいだか?」
「有難う。このまま寝かせておいても良いんだけど、雑魚寝だと風邪引いちゃうからね」
中哉は片付けを終え、丁度部屋に戻ってきた。源太郎は運んだ布団を康太郎の足元に敷いた。
「さ、健ちゃんは僕と康ちゃんと一緒にねんねしようね」
中哉は康太郎の腕から浚うように健吾の体を抱きあげる。
「良く寝てるだな」
源太郎は目線の高さにある健吾の額を撫でた。不意に、見知らぬ男に頭を撫でられ微笑む蘭丸を思い出す。
「ふふ。本当に可愛いよね」
「ああ」
中哉は隣の部屋の布団へ健吾の体を横たえた。台所で片付けを終えた蘭丸と康が戻って来る。
「やだー。うちの男共は揃って眠っちゃった訳?」
いつの間にか中哉も布団も掛けずに寝ていた。
「本当によく眠っていますね」
蘭丸が隣へ移動して、並んでいる健吾と中哉の肩に布団を掛けた。
「兄さんと寝てたのにね、中ちゃんたら健ちゃんを独り占めしちゃうの」
「中哉はお康と健吾と三人でって言ってただよ」
「じゃあ二人占めか」
康は無邪気に笑い、二人を見守りながら優しく目を細めた。幸せそうなのにその横顔は何処かに憂いを漂わせていた。
「中ちゃんは健ちゃんのことを自分の子供以上に可愛がってくれて、感謝してる」
「……」
健吾が中哉の実子でなかったことを知り、源太郎は驚いて息を飲んだ。こんなに自然に口にしたのだから、恐らく記憶を失う前は知っていたのだろう。
「先生を布団に寝かせますね」
蘭丸は健吾の頭を撫でると、康太郎の隣へ移動した。
「有難う。兄さん、一度眠ったら起きないから」
「おらも手伝うだよ」
「では、足の方を持って下さい」
「こっちのが軽いだよ?」
「大丈夫ですよ」
蘭丸は自分より大柄な康太郎のの上半身を抱えた。同時に持ち上げて、布団まで移動してゆっくり下ろす。康太郎の体に布団を掛けて、蘭丸は康に向かって会釈をした。
「では、私たちはこれで」
見送りに康は玄関までついてきた。
「寒いですから、ここまでで良いですよ」
「有難う。今日は楽しかった」
「私もです」
「明日は午前は休診だからゆっくりで良いからね」
「はい」
玄関口で手を振る康に手を振り返し、二人で養生所を後にした。
「言いそびれていましたが」
敷地を離れ、蘭丸が口を開く。さっきのあの男のことかと、源太郎はどきりとした。
「健吾殿は、先生と康殿の亡くなった妹君の子です」
予想とは違ったが、源太郎はその内容に驚いた。だから、康はあんなことを言ったのか。康太郎が甥だと言っていたから、てっきり康と中哉の子供だと思い込んでいた。
「康の下にも妹がいただか?」
「はい。早産の上に難産で、健吾殿を産むと妹君は息を引き取ってしまわれたと。まだ十四の齢で」
「十四か、おりんより早くに…。そいで、健吾の父親は?」
聞いていないようで、蘭丸は首を左右に振る。優しく明るい康太郎らの生い立ちも、決して順調なばかりではなかったのだ。
「健吾殿の声が小さいのは、生まれつき、声を発する器官が未発達だからと先生は言っておりました」
蘭丸は悲しい顔をして俯いた。
「だが、健吾は恵まれてるな」
「え?」
「声も体も小さいけど、性格も頭も良い。そいで、先生や康や中哉に可愛がられてて」
「そうですね」
蘭丸はにこりと微笑んだ。そんなことを話していたら、養生所から程近い我が家に着いてしまった。
「お蘭、他におらが知らない、話したいことはないだか?」
「いえ、特にないですが」
蘭丸の返事は早かった。蘭丸が源太郎の見知らぬ男と会っていたことは、源太郎に話すことではないのだ。
「そうだか」
源太郎は動揺が表に出ないように短く答えた。しかし、内では黒い渦が拡がって源太郎の心を蝕んでいく。
鍵を開け、中へ入ると、蘭丸は提灯の火を囲炉裏に移した。
「源太郎様、湯浴みは…」
源太郎は後ろから蘭丸の体を引き寄せ、羽交い締めにした。
「源太郎様?」
蘭丸は抵抗しない。腕を緩め、襟の中へ手を入れる。酒のせいで蘭丸の肌が熱く、源太郎はうなじへ唇を寄せた。
「ひゃうっ」
うなじに噛んで吸い付くと、蘭丸の肌が震えた。
「痕を着けては駄目です、くっ…」
蘭丸が暴れないように、源太郎は袴の上から股間を握った。
「お蘭はおらのものだろ?おらのものだって知られて、困る相手でもいるだか?」
「え?」
源太郎は襟を開き、蘭丸の露出させた肩に噛みつき乳首を捻った。
「痛…っ」
腰紐を緩め、袴をずり下ろし、下帯の中をまさぐる。少しだけ硬くなっていた。
「んっ」
しかし後孔は閉じていて、指さえも抵抗した。源太郎はゆっくり押し込んで中をかき回す。
「い、痛い」
蘭丸は源太郎の中で体を捩った。源太郎は二本目の指を挿入し、中で指を拡げた。縁がゆっくり伸びて、吐息に合わせて僅かに収縮している。源太郎は自分の下履きを下ろし、下帯から一物を取り出して、蘭丸の中に押し入れた。
「あっ!くうっ…」
蘭丸が逃げないように腰に腕を回して引き寄せ、強く抑えつけて抜き挿しを始める。不思議だ。あんなに感動を覚えた蘭丸の体も、痛い程の締め付けも、今は何も心が動かない。体とは裏腹に、心がどんどん黒く冷たくなってくる。けれども、欲望の証はすぐに溢れ、蘭丸の中に注がれていった。
ずるりと用済みのものが抜け落ち、蘭丸の体を解放すると、蘭丸は膝を付いた。
「……!」
源太郎は息を飲む。半裸姿で倒れ込む蘭丸の姿、見覚えがある。何時だったか分からないのに、この姿を目にした時の感情は、確かに知っている。悲しみ、苦しみ、怒り、やりきれない嫌悪感。
「くっ…」
治りかけた傷が痛み出し、源太郎は頭を抱えた。嫌悪感は痛みだけではなく、腹の中からせりあがってきた。
「うっ」
源太郎はその場で蹲った。
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