弐拾壱
養生所の門の前で誰かが佇んでいる。康太郎が「おーい、康!」と叫んで、その人物が分かった。康は一目散に駆け寄って来た。
「兄さん、育郎さん!蘭ちゃんは…」
「康殿ー」
蘭丸の安否を確認しようとした康に、蘭丸は康太郎の背の上で手を振り声を掛けた。康はその場でへたりこんでしまった。
「大丈夫かい?」
育郎が慌てて駆け寄り、康を支えてやりながら立て直す。明かりに照らされた康の顔は、涙に濡れ目を泣き腫らせていた。
「康殿…」
「良かった、無事で…」
康は赤くなった眦にまた雫を溢しながら安堵の笑みを浮かべた。
「ご心配をお掛けしました」
蘭丸は康太郎の背の上で頭を下げる。康は歩み寄り、蘭丸の脚が剥き出しなことに気付き、眉間に皺を寄せた。妹の表情の変化に、康太郎は割って入った。
「康、風呂の仕度はしてあるな?」
「え?うん…」
「蘭丸、手当てする前に体を洗って来い」
「はい」
「康、着替えと手拭い持ってきてくれ」
「分かったわ」
康が母屋に戻ると、康太郎は蘭丸を離れの風呂場へ運んだ。戸を開け、脱衣所の床に体を下ろされる。
「立てるか?」
「大丈夫です。本当は歩けたのに、甘えてしまいました」
康太郎は曖昧に笑うと、先に浴室へ入り、濡れないよう高い位置にある台へ灯りを移した。
「源太郎は今中哉とお前を探しに出向いてる。一刻って決めたから、じきに戻って来ると思うが…」
「はい」
「寒いだろうが、風呂には浸かるなよ。傷が痛むから」
「はい」
康太郎が康から着替えと手拭いを受け取り、着替え籠に置いて離れを出た。康太郎が育郎に礼と別れの挨拶をしている声が二人の足音と共に離れて行く。
「はー…」
蘭丸のため息が大きく響く。源太郎はどれ程心配しているのだろうか。蘭丸が痛みを重ねる度に源太郎の傷も増えていくのだ。蘭丸は康太郎の羽織を脱げずにいる。体に残されているかも知れない他人の痕跡を確めるのが怖い。蘭丸は震える手で羽織を取り、籠に掛けた。
蘭丸ははっと顔を上げる。慌ただしい足音が近付いて来る。蘭丸は脱衣所の戸から外を覗き込む。
「お蘭ー!」
源太郎が仕事着のまま駆け寄って来る。蘭丸は戸を大きく開いた。
「お蘭!」
幾日も跨いで再会を果たした時のような強い抱擁。源太郎の胸に顔を埋め、蘭丸は目覚めてから初めて泣いた。
「源太郎様、蘭は…怖かったです」
「うん。もう、大丈夫だから。おらがいるから、怖くないだな?」
源太郎の腕の中で、蘭丸は顔を擦り付けながら頷いた。
「お蘭、先生から、見付かった時のこと聞いたから…」
「はい」
「おらが今、お蘭が本当に大丈夫か確かめてもいいか?」
「え?」
顔を上げると、迫力を持った源太郎の目に見詰められ、蘭丸は頷くことしか出来なかった。源太郎は蘭丸の肩からたった一枚の襦袢を取り、明るい浴室へ移動した。浴槽の蓋を半分開けて、部屋を立ち込めた湯気で温める。
「あの、確かめるって、一体…」
源太郎は蘭丸の肩を抱き唇を寄せた。一瞬の擦り合わせで終わり、頬へ唇が移って行く。そのまま耳を舐められ、蘭丸の肩が大きく揺れると、源太郎は今度は蘭丸の手首を掴み、腕を上げさせた。むき出しの脇の窪みを源太郎の唇が通過する。
「お蘭だけの味と匂いだ」
源太郎の言葉に蘭丸は赤面し、俯いてしまったが、源太郎の声は慎重だった。源太郎は鼻先や唇や舌で、他者の痕跡がないか確かめているのだ。
「これはおらがつけた痕だな」
鎖骨から下への痣を一つずつ確認し、また唇を這わせていく。胸板を通って、完全に硬くなった乳首もただ舌で通過していくだけでもどかしい。
臍を短く吸って、源太郎は浴槽の蓋に蘭丸を載せて座らせた。膝を開き下帯をほどく。反応しているものを、源太郎は舌でなぞって、蘭丸は堪えきれず甘い声を出してしまう。しかし、源太郎の唇も舌も留まることなく、小さな袋をくわえた後、とうとう下の窄まりに到達した。
「駄目、汚い…」
下の孔を舐められたこともあるが、何度されてもまだ慣れずに、蘭丸はついに体を突っ張らせて抵抗した。しかし、強い力で押さえ付けられてしまう。
「汚くないだよ。ここも閉じてるし、誰も触れてない」
「では…」
「ああ。大丈夫だ」
源太郎は蘭丸の腿に口付けた。
「んっ…、もう大丈夫なのでしょう?でしたら…」
「まだだ。この、綺麗な脚も、腕も、背中も指も全部確かめる」
「全部って…」
完全に持ち上がった蘭丸自身の向こう側に真剣な源太郎の顔が見えた。やはり、源太郎は蘭丸以上に心に深い傷を負っている。なのに、体を反応させてしまっている自分が浅ましくて嫌になった。蘭丸はせめて源太郎が確かめ易くなるように足を上げ、身を任せた。
全身を源太郎の鼻先や唇や舌が通り抜けて、声は我慢出来ても火照りを抑えることが出来ない。
「…っ」
快楽とは異なる刺激があった。
「膝、擦りむいてる。裏腿とすねもだ。足首には小さい切り傷がある」
源太郎が足首を取り、足袋を外され蘭丸の丸めた足指の間に舌を滑り込ませる。
「や、やだ!」
くすぐったさに蘭丸は反射的に足を押し出しそうになるのを強い力で制され、ゆっくり下ろされた。
「足袋は脱がされていません」
蘭丸の言葉が耳に入らないのか、源太郎は今度は蘭丸の両手首を取った。縄の形の擦り傷に舌を這わせてから、指先を口に含むと、源太郎は蘭丸の肩を抱き起こした。蘭丸がそっと源太郎の唇から指先を離すと、虚ろな目をした源太郎が蘭丸を見下ろしていた。
「源太郎様…」
蘭丸は恥じて自分の股間を隠した。源太郎がどんな気持ちで蘭丸が汚されていないか確かめていたのか分かっていたはずなのに。蘭丸は立ち上がり、源太郎に背を向けた。
「次は腕と背中ですよね?」
源太郎の唇が背に這って、段々下がって来る。反射的に揺れる体は隠しようもなく、蘭丸は両足にぐっと力を入れる。
(もう少し…あと、少しだから…)
唇が腰の辺りまで到達し、蘭丸は手を握った。
「ひゃんっ」
柔らかな尻の肉を甘く噛まれ、蘭丸は膝から崩れそうになった。源太郎は蘭丸の腿に腕を巻き付けて支える。
「今、噛みつきましたよね?」
「うん。可愛くて、美味しそうな尻だったから、つい」
「ついって…」
源太郎がにこりと微笑み、優しい拘束を腿から腰に移動させ、立ち位置を変えて浴槽の蓋へ腰を下ろした。膝を開き、間に蘭丸を座らせる為に引き寄せる。
「ごめんな、ここ、辛かっただな?」
「ひゃっ」
源太郎が中心に手を伸ばし、蘭丸の熱を掴んだ。既に脈打って濡れている。
「生殺しみたいにしてたのは分かってたけど、どうしても確かめたくて…」
「いえ、蘭の方こそ、源太郎様の気持ちを分かっているのに、こんなになってしまって…」
源太郎が耳に唇で触れてくる。
「感じやすいとこ、可愛い」
「んんっ…」
源太郎は蘭丸の肉茎を扱き始めた。
「な、足をもっと広げておらの膝に載っけて」
「こう、ですか?」
源太郎の言葉に従うと、源太郎はもう片方の手で袋を優しく揉みながら、息づき出した小さな孔にゆっくり一番長い中指を埋めて行く。
「きついだよ」
その事実が大切なことのように告げると、内側からゆっくり拡げながら進んでゆく。
「な、茎と尻の中、どっちがいい?」
「ど、どちらも…」
「んー。でも、お蘭の体、支えたいから、選んで欲しいだ」
「……」
「ん?」
「な、中がいいです」
源太郎は分かったと言いながら掴んでいた手を離すと、蘭丸の片膝を抱えて片方の尻を浮かせた。
「ひゃあっ」
「これでもっとやり易くなる。お蘭も、おらの腕に捕まっててな」
爪先に力が入らず、体制も不安定で蘭丸の膝は震えていた。蘭丸は腕を源太郎の腕に回して掴んだ。すると、源太郎は中の指を進めてかき回した。
「んっ」
声を出してはならない。いくら離れでも、叫んでしまったら聞かれる恐れがある。唇を噛んでいると、源太郎が頬に唇を当ててきた。蘭丸が顔を上げると、口を開いて塞いできた。
「ふっ…」
擦り合わせた舌にはざらりとした砂の粒があった。唾液と共に口から零れ落ちた。角度を変えてまた塞がれると、下はもう一本中へ埋め込まれ、根元まで侵入する。
「っ…」
弱点に何度も指を押し付け、源太郎は蘭丸を絶頂へと追い込んでゆく。源太郎は唇を離して、「息、忘れてる」と心配そうに囁いた。
「ううっ」
「唇は噛むなよ?」
言いながら、源太郎は内側での動きを止めない。叫んでも、息を止めても、唇を噛んでもならない。どうしたら、この快楽に耐えられるのだろうか。
「苦しいなら、早く出すといいだよ」
「あっ…んんっ!」
源太郎が中で小刻みに指を動かし、蘭丸は一気に達してしまった。放物線を描き、床が白く汚れた。源太郎は指を抜き、蘭丸の足を下ろした。
「上手に出来ただな」
源太郎は蘭丸のこめかみに口付けてから腰を支えながら立ち上がった。
「もっとしてやりたいけど、きりないから」
源太郎は桶を取り、浴槽の湯を掬った。
「あの…」
「ん?」
「体、自分で洗います…。源太郎様に触れられたら、体がまた熱くなりそうで…」
「そ、か…」
源太郎は視線を泳がせて、笑顔を作った。桶の湯で手と床を流し、浴室を出ていった。
本当はまだ冷めていない。早く火照りが収まるように、一心不乱に体を洗った。
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