妄想、愉悦。


弐拾参


   


 炭の倒れる音で目を開く。蘭丸は源太郎に抱き締められながら布団の中で眠っていた。

「ん?」

 源太郎の腕の拘束が強い。蘭丸は身動きが取れずに布団の中でどうにか抜け出せないかと身を捩った。

「駄目だ」

「起きていらしたのですか?」

「うん。何か、あんまり深く寝れんかった」

「この体制が寝苦しいのでは?」

「違う。お蘭が居なくなる不安でだ」

「あんなに泣いても、すっきりしませんか?」

「そうだな。お蘭、目が真っ赤だ」

「源太郎様もですよ」

 源太郎は笑いながら蘭丸の額に口付ける。源太郎は仕事着のままだった。
「蘭は、いつの間にか眠っていたのですね」

「うん。泣き疲れて子供みたいだった」

「すみません。布団まで運ばせてしまって」

「おらこそ着替えんで布団に入っちまった。臭くないか?」

「平気です。けれど、布団から出ても良いですか?」

「駄目だ、まだ朝じゃない」

「喉が渇いてしまって。水を飲んだら、また布団に入れて下さい」

「ならいいだよ」

 源太郎は蘭丸の体を挟んでいた腕と脚を上げた。蘭丸は布団から出て、土間へ下りて龜の水を柄杓で掬い茶碗に移して飲んだ。渇いた口内が潤っていく。あんなに泣いたのだから、きっと水分は沢山必要だ。

「飲みますか?」

「うん」

 蘭丸は茶碗に水を張ってそれを源太郎のもとまで運んだ。源太郎は枕に頭を預けたまま体を起こさない。

「飲ませて」

「え…」

 この体制で湯飲みを傾けては布団が濡れてしまう。蘭丸は水を口に含んで、源太郎の開いた唇を塞ぎ、流し込む。もう一度その行程を繰り返し、源太郎は飲み込むと口付けたまま蘭丸の体を布団の中へ引きずり込んだ。

「ん…」

 冷えた口内粘膜が舌で蹂躙され、すぐに熱を持つ。源太郎は唇を離すと、蘭丸の真っ赤な顔を見て微笑み、再び身をくっつけて長い腕で拘束した。

「水、美味しかったよ」

「それは良かったです」

「お蘭、心音速いな」

「だって、あんなになさるから」

「肌も熱い」

 源太郎は触れるだけで何もしてこない。あんなに熱い口付けをしておいて、このまま、もう一度眠ってしまうつもりだろうか。

「源太郎様は、心音も体温も正常ですね。こんなにどきどきして、体を火照らせてしまうのは蘭だけなのですね…」

「じゃあ、冷ましてやるだ」

 源太郎の頭の位置が変わり、冷たい唇が蘭丸の肌をなぞって行った。

「んっ」

「可笑しいな。おらの方が肌が冷たいのに、触る度にお蘭の肌は冷えるどころかどんどん熱くなってるだ」

 源太郎が蘭丸の耳を食みながら、浴衣の上から手を這わせた。

「やっ…」

「浴衣の上からでも乳首が硬くなってるのが分かるだよ。それから、ここは…」

 蘭丸の下腹部を掠め、確認してから帯を解いて浴衣を開いた。

「脱いじまおう。借り物だし汚したら不味いから」

「源太郎様は服、脱がないのですか?」

「うん。おらは、お蘭にしてやりたいから」

「そんなの嫌です」

 蘭丸は起き上がって、源太郎の下履きの腰紐を解いた。気になっていたことがある。普段、源太郎は分かりやすく下腹部を反応させる。それなのに、養生所の風呂場で蘭丸の体に汚れがないか確認し終えた後、蘭丸に触れても源太郎は全くの無反応だった。それだけ真剣だったからなのだろうが、蘭丸は不安になってしまっていた。
 服の上からは膨らんでいるように見えない。蘭丸は一気にずり下ろした。下帯の中はこんもりとしているが、これはもともとの質量のせいで、反応はなかった。

「……」

 あんなに密着して、胸を高鳴らせていたのは本当に自分だけだったことが、何だか悲しくなる。けれど、この気持ちをぶつけてはならない。今日の出来事は、それだけ源太郎の心を抉ってしまっているのだ。こうして体に表れてしまう程、深刻に。
 蘭丸は源太郎の下帯を取り、柔らかい中心のものを持ち上げた。

「お蘭、おら、風呂入ってないから汚いだよ」

「源太郎様だって蘭が身を清めてからと言ってもなさるでしょう?」

 蘭丸は手で扱きながら裏側や下の袋を舐めた。源太郎は頬を染めながら蘭丸を見下ろしている。

「お蘭のも舐めさして」

「今は駄目です。先に源太郎様に…」

「うん。お蘭の舐めたらもっと気持ちも昂って良くなると思う。な?」

「……」

 蘭丸は肩から浴衣を落とし、下帯を外して源太郎の顔を跨いだ。

「こ、これで宜しいですか?」

「うん。もっと腰落として」

「ひゃっ」

 源太郎は蘭丸の二つの袋を口に含み、吸い立てた。舌で転がしながら中心を握る。

「もうびしょ濡れだ。ふぐりもびくってして、ここもひくひくしてて可愛い」

「息、くすぐったいから喋らないで下さい」

「ん」

 源太郎は返事をしながら窄まりに舌を挿し入れた。蘭丸は短く悲鳴を上げ、振り返った。

「そんなとこ、舐めたら汚いです」

「体洗ったろ?ちゃんと濡らさねえとな」

「でしたら、油を…」

「足元にあって届かない」

 小瓶は蘭丸の目の前にある。蘭丸は小瓶を取り、中身を掌に垂らした。まだ芯を持っていない源太郎の中心とその下の大きな錘をぬるぬるの手で握り、滑らせながら刺激した。段々と硬く、膨張しているが、普段の源太郎とは比較にならない。

「あっ」

 蘭丸の体がびくりとまた揺れる。源太郎は軟らかくした孔に指を挿し入れた。蘭丸は体制を崩さないように膝に力を込めた。

「お蘭、今、力入れたら駄目だよ」

 源太郎はまだ余裕がある。楽しんでいるように見えるが、体の反応がなくて焦りはないのだろうか。

「くぅっ…ん」

 蘭丸は、先端を口に含みながら、源太郎の袋の下の孔をぬるついた指で触れた。

「っ…!」

 源太郎の腹筋が揺れた。蘭丸は表面を撫で、息づき始めたのを見計らって細い指を忍ばせた。

「お、お蘭、何して…!」

 目指した箇所を圧迫すると、口と手の中で源太郎の存在感が増していくのが分かった。蘭丸は膨張したものを口から出して振り返る。

「源太郎様、このまま、もっとお腹の中触りましょうか?」

「も、もういいだよ。こっちも平気だから」

 源太郎は蘭丸の中から指を抜いた。蘭丸も手を離すと、源太郎に起き上がって向き合うように促される。

「また尻に指入れられるとは思わんかった」

「お嫌でした?」

「嫌って言うよりかは…何か複雑な気分だ。気持ち良くなるなら、やっぱりこっちがいい」

 源太郎が蘭丸の腰を寄せ、察した蘭丸は源太郎の剛直が真上になるように足を開いて位置を定めた。

「あ、んんっ…」

 蘭丸は源太郎のものを呑み込んで、腰を落としていく途中で止めてしまった。まずい。これ以上刺激を与えたら、もう達してしまいそうだ。蘭丸は膝に力を込めて中断した。

「お蘭、力入ってるだよ。それじゃ、痛いだよ」

「だって…」

「ん?」

「もう、限界が…」

 源太郎は笑った。そして、蘭丸の両脇を抱えて、埋まっていた先端を蘭丸の体から外した。

「いきたくなったらいっていいだよ」

 源太郎は蘭丸の体を布団に寝かせ、蘭丸の両膝を抱えて一気に貫いた。内側から急速に弱点を攻められ、蘭丸は精を放ってしまった。胸や顔に温かい体液が降りてくる。

「可愛い顔。今、中がぎゅうってなった」

 蘭丸は息を上げながら源太郎の肩に腕を回した。

「ん…」

 源太郎は蘭丸の足の間に体を入れて、被さって蘭丸の口を吸う。顔を離すと、源太郎の顎に蘭丸の体液が付着していた。蘭丸が指で取ろうとすると、源太郎は先に蘭丸の頬や顎を舐め始めた。段々と下に降りて、首筋や鎖骨に舌が降りて来る。

「ん…もう良いですから…早く、源太郎様も気持ち良くなって下さい」

「口吸い誘ったのはお蘭からだよ?」

「もう、体は良いですから…早く源太郎も…」

 蘭丸は源太郎の腰を脚で巻き付け、引き寄せた。

「ああ…」

 源太郎は視線を泳がせた。そして密着していた胸を離すように腕を伸ばす。

「今は果てるより、お蘭の中にずっと居たい」

「やっ」

 源太郎は蘭丸の両の乳首を指で転がした。

「お蘭が感じてる時はおらだってそうだよ?震えながら、すげえ締め付けてるだ」

 内側の杭が常に急所を圧迫しながら、外の弱点を刺激され、再び蘭丸の快楽の波が上昇してきた。

「あっ…」

「肌が熱くなってるだな」

 源太郎は蘭丸の腿を押さえ、自ら腰を打ち付けた。激しさに、蘭丸は早々に追い込まれて果ててしまう。

「今度はこっち」

 源太郎は一旦引き抜いて、蘭丸の体を横向きに倒して片足を高く持ち上げた。

「もう二回もいったのに、まだおらが欲しいんだな」

 開いて引きつく孔に指で触れながら源太郎が呟く。すると、すぐに膨張したままのものを嵌め込んで、また激しく抜き挿しを始めた。もうずっと快楽が続いて、体が痙攣している気がする。しかし、源太郎の勢いは収まる気配がなく、蘭丸の意識を段々と遠退かせる。

「うっ…」

 源太郎が蘭丸のびしょ濡れの下肢を握る。源太郎に触れられて、びゅくびゅくと熱を吐き出していることに気付いた。

「また出たな。もう満足か?」

「やだ…」

「そげん、ぐったりしてるのに?」

「だって、まだ源太郎様が…」

「なら、まだ頑張るか?」

 蘭丸は頷く。

「源太郎様、また、抱きしめさせて下さい」

「やっぱ向かい合ってするのが好きなんだな」

「抱きしめたら、気持ちが伝わる気がして…。それに、お顔が見えますから」

「それに、口も吸える」

 蘭丸が仰向けになると、源太郎が体を被せてくる。そのまま口付けて唇の感触に没頭しそうになった。下腹部が熱く、じんじんする。蘭丸は手を伸ばして、脈打つ源太郎自身を握った。

「早く…」

「ん」

 源太郎がまた蘭丸の中に入って来た。蘭丸は腕を回して、もう一度口付けて舌を押し込んだ。擦り合わせてから顔が離れ、唇に垂れた唾液を舐め取りながら源太郎は呟いた。

「いつもこげん顔してんのかなあ」

「え…?」

「いつもはおらもいっぱいいっぱいで、こうやってじっくり見ていられんから」

 やはり、今の源太郎は蘭丸の顔をじっくり眺める余裕があると言うことだ。

「顔、隠さんでな」

 源太郎は自分の首にある蘭丸の手を取ると、頭上の布団の端を掴ませた。

「隠したら、手首結んじまうかんな?」

 この瞬間、源太郎を強く締め付けている自覚もなしに、蘭丸は頷いた。源太郎は潤んだ目を細めて顔を下げた。表情が分からなくなり、短い睫と鼻先と伸びた舌が見えた。その尖った舌が胸の膨らんだ突起をつつき、撫で回す。

「んっ」

「さっき沢山触ってやれんでごめんな?」

 ぞくぞくと再び込み上げて、涙が浮かんだ。源太郎は顔を上げ、可愛いと呟きながら唾液に濡れた赤い粒を両の親指で弾いた。

「あうっ」

「またぎゅうってなっただな」

 源太郎は再び抜き挿しを再開した。身体中が熱く、あっという間に源太郎が与える刺激に呑まれていってしまう。

「あーあーっ」

 蘭丸は叫びながら足を布団に擦り付けた。手を固定し、体は源太郎と繋がっていて、それ以外に放てるものがない。
「顔も声も全部可愛い」

「んうー…」

 叫んだ為に喉が枯れてしまった。けれど、もう数回達したせいで、吐精もせず未だに絶頂が続いていた。相変わらず太く逞しいもので内側から抉られて、あまりにも心地好くて段々と意識を手放してしまいそうになる。しかし、それを遮る音が蘭丸の意識を現実に戻した。
 誰かが戸を叩いている。蘭丸の血の気が一瞬で引く。

「今までずっと震えてたのに、またぎゅうってなっただ」

 源太郎は呑気に蘭丸の頬に口付けた。蘭丸は布団の端から手を離し、蘭丸の乳首を弄ぶ源太郎の手を握った。

「源太郎様…誰か、訪ねて来たみたいです」

「誰だろうな」

 また戸が鳴る。

「源太郎さん、起きてるでしょ?」

 若い女の声が続いた。

「おうめだ」

 蘭丸は息を飲んだ。こんな夜も明けきらぬ朝方に何用だろうか。

「…出なくて宜しいのですか?」

「いいよ、またくだらない話だろうから」

 源太郎は蘭丸の耳に口付けた。

「けれど、女性がこんな刻限に訪ねて来るなんて、ただ事では…」

 源太郎は親指を蘭丸の口の中に入れて、蘭丸の舌を撫でた。そのままえずく手前まで進め、蘭丸の言葉を封じた。

「黙って」

「源太郎さあん」

 彼女の声に遮られることなく、源太郎は体を被せて指を抜き、代わりに舌を捩じ込んだ。

「んっ…」

 源太郎は蘭丸の体の下に腕を入れて、体を引き寄せ、これ以上ないくらいに密着して、腰を打ち付けた。また中から込み上げて、呼吸を忘れてしまう。

「あっ…!」

 源太郎は唇を離し、蘭丸が声を上げると唇でまた塞いだ。そしてまた離して、激しい抜き挿しを続けて息を上げながら告げる。冷えた体が、一瞬で熱を取り戻す。

「お蘭、我慢し過ぎるな?そげんおっきな声出さなきゃ、聞かれんから」

「あっ、あー!」

 調整出来る程蘭丸に余裕は残っていなかった。

「いい、お蘭、中、すっげぇ…」

 源太郎が腰を止め、蘭丸の最奥に押し付けたまま精を放った。

「あっ…」

 源太郎の熱を受け止めながら、蘭丸は自分の中が震えているのが分かった。射精しながら源太郎は蘭丸のこめかみに口付け、蘭丸が目を開けるととろんとした視線が絡み合い、自然と唇同士が触れ合った。舌を絡ませながら、段々と昂りが収まってきた。

「源太郎さぁん!」

 源太郎の目が開いて、顔を上げた。

「あいつ、まだいただか…。ちっと待ってろー!」

 源太郎が初めてうめに向かって声を掛けながら起き上がると、蘭丸の中から抜けて白い液が溢れた。

「良かった…」

 蘭丸は無意識に呟いてしまった。

「何がだ?」

「え!?あ、あの…中々、反応もなくって、源太郎様が…」

「そげんことか」

 源太郎は笑いながら蘭丸に布団を掛けた。達することをせずとも、源太郎はそれはそれで楽しんでいたようではあったが、やはり今の源太郎の笑顔には達成感が窺えた。源太郎は下着は着けずにすぐに服を着て土間へ下り、かたかたと戸を開けた。

「随分呼んだんだよ。寝てたの?」

「ああ、何の用だ?」

 此処からでは二人の姿は見えないが、彼女の声は明るい。何度も何度も達して脱力した蘭丸は、二人の会話をぼんやりと聞いていた。

「渡したいものがあって。寒いから、入れてよ」

「今は駄目だ」

「じゃあ、もう少しだけ開けて。これ渡したいの」

 またかたかたと戸の開く音がする。

「おい」

 源太郎の慌てる声がすると、屋内へ入り込んだうめと目が合った。うめは横たわる蘭丸が視界に入ると、笑顔を曇らせた。

「な、何でこの子がいる訳?」

「そりゃ、お蘭の家でもあるしな」

「……」

 うめが蘭丸を睨んだ。手に持っていた風呂敷の包みを源太郎に押し付ける。

「何だ、これ?」

「その子の服、昨日道で見付けたの」

「道ってどこのだ?」

「知らない!」

 うめは吐き捨てると源太郎の横をすり抜けて外へ出ていった。
 源太郎は無言で包みを開いた。確かにその中には昨日奪われた蘭丸の服が入っていた。

「なして、おうめが…」

 源太郎は呆然と立ち尽くた。蘭丸の位置からは、源太郎の表情が見えなかった。






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