妄想、愉悦。


参拾


   


 良い匂いがして目が覚めた。しかし、体がだるくて思うように動けず、蘭丸は布団の中で寝返りをゆっくり打った。隣が空いて既に冷たくなっていることに気付いて蘭丸ははっと起き上がる。

「源太郎様…?」

「どうした?」

 声の方へ振り返ると、源太郎は全裸で体を拭いていた。体には水滴が残っている。

「何をなさっているのです?」

「目、覚めて体も軽かったから、風呂入っただよ。久々に頭洗えて気持ち良かっただ」

 源太郎は手拭いを腰に巻いて、土間へ上がった。

「お蘭も入ろう?湯、新しくしたから」

「わ、私は昨夜入ったばかりですし」

「昨日お蘭が寝た後腹の中は綺麗にしたが、肌はそのままんまだ。拭くよりも洗った方が早い」

「…分かりました」

 蘭丸は膝を立て、倒れないよう慎重にゆっくり立ち上がった。炉端を通ると囲炉裏に設置された鍋が煮えているのが見えた。匂いの正体はこれか。

「今日も、蘭の方が沢山寝てしまったのですね」

「頑張ったからな」

 昨夜の行いのことを指しているのだろうか。思い出してしまい、蘭丸は赤くなった顔を隠す為に俯きながら板間を降り、足を湯へ入れ腰を落とす。源太郎が背後から蘭丸の髪を集め、頭上で括ると、桶で蘭丸の肩に湯を掛けた。

「自分で出来ます故…」

「良いんだ。今、米を釜の中で蒸らしてっから」

 そう言うと、源太郎は蘭丸の肌を指の腹で撫でた。

「蘭も源太郎様のお背中を流したかったです」

「それは今晩してもらう」

 源太郎は身を乗り出し蘭丸の体を抱き締めると、頬へ唇を寄せた。今は蘭丸の方が熱い。源太郎はその体勢のまま手で湯を掬い、蘭丸の胸に掛けて濡らし撫でつける。

「ここ、汚れてるな」

 源太郎の掌が蘭丸の胸と腹を往復し、体液が湯に溶けてゆく。

「昨夜な、お蘭が寝てから、おらの精を掻き出してたら、やっぱり中が震えてただ。確かに眠ってるのに、感じてるみたいで」

 背中にくっついた源太郎の鼓動が早い。

「朝からいけませんよ」

「まだ外は暗い。時間ならまだある」

「やっ…」

 源太郎が指で乳首をなぞった。掠める程度なのに、じんと痺れて、蘭丸は湯の中で腿を締めた。

「熱く硬くなってる。痛くないか?」

「い、痛いですから、触らないで下さい」

 源太郎が蘭丸の耳の近くでくすっと控え目に笑い、顔を寄せて来た。振り返ると、そのまま口を吸われた。

「ん…」

 舌を絡ませながら源太郎の大きな手が蘭丸の肌を撫で、温められて行く。優しくも淫らな手付きに蘭丸は段々と脱力し、源太郎の肩へもたれ掛かった。

「綺麗になっただよ」

 源太郎は蘭丸の脇へ手を入れ、立たせた。

「ほら、出て」

 源太郎に支えられながら、浴槽から降りて草履を履く。

「…!」

 向き合うと、源太郎の猛りが蘭丸の脇腹にちょんと当たった。源太郎は顔を背け、板間に置いてあった下帯に手を伸ばす。表情はまでも見えないが、耳が真っ赤だ。蘭丸はその手を制した。

「こちらへ」

 蘭丸は座布団を引っ張って、板間の縁に置いた。

「だが…」

「まだ、時間があるのでしょう?」

「そうだが…」

 源太郎は腰を下ろし、膝を広げた。蘭丸は間に入って、熱を持ち上げて先端を口に含んだ。目の前に、引き締まった源太郎の腹筋が見える。蘭丸は源太郎の表情を確かめたくて、見上げた。

「くっ…」

「…!」

 源太郎と視線が合うと、口の中のものがまた膨らんだ。蘭丸は顔を伏せてしまった。何だか、裸で草履だけのこの姿が妙に恥ずかしくなってしまった。

「口、離して」

 源太郎は蘭丸の肩を押した。蘭丸は口から出すと、気に入らなかったのかと不安になり源太郎の顔を覗き込む。源太郎は真っ赤な顔をまた背けてしまった。

「いけん。お蘭が色っぽい顔すっから、おら、たまらなくなるだよ」

「ご、ごめんなさい…?」

「なして謝る?」

「い、色っぽい顔をして、ですかね?」

 源太郎が吹き出して、蘭丸も釣られて笑った。不安な気持ちが一瞬で消えてしまった。

「なあ、病み上がりに、朝からしたら怒るか?おら、ちゃんとしたい」

「ちゃんとって…」

 源太郎は体を捩って葛に手を伸ばし、中から小瓶を出した。元の位置へ腰を下ろし、小瓶の中身を掌へ垂らす。

「ほら、乗って」

 源太郎は濡れていない方の手で膝を叩いた。拒否権がある訳もない。蘭丸は向かい合って源太郎の腰を跨ぐような体制で膝を立てた。すぐに源太郎の両の手が蘭丸の尻を左右に広げ、滑る指が間に入ってくる。

「あっ」

「まだ柔らかい。これ、いらんかったかな」

 源太郎は二本の指を開いた。なぞって表面と内側に油の膜を張る。

「お蘭、震えてる。辛いだか?」

「はい…。体に力が…」

「ん、もう腰下ろしていいだよ」

 源太郎は指を抜き、両腕で蘭丸の腰を支えた。蘭丸は源太郎の肩に手を置いて、源太郎に促されながら体を後方へ傾ける。源太郎が片手をずらし、引くつく後孔に先端を宛がう。

「力抜いて、このままゆっくり座って」

「んん…」

 内側が拡げられる感覚。膝の位置が腰よりも高くなる。

「苦しいです」

「これでどうだ?」

 源太郎は蘭丸の体を強く抱き寄せた。蘭丸も源太郎の肩に腕を回し、密着したまま着地した。

「中が…ぎゅってなってる」

「やあっ」

 源太郎は蘭丸の耳たぶを口に含み、甘く噛んだ。蘭丸はくすぐったさに頭を振ると、今度は口を吸われた。唇が温かい。

「お蘭、口吸いは素直に受けるな」

「だって、幸せに感じるから」

「幸せ?」

「源太郎様の想いが伝わってくる気がします」

「唇だけか?耳を噛むのも、乳首を吸うのも、お蘭が好きだからだよ」

 恥ずかしくなってしまって、返す言葉が浮かばない。蘭丸は顔を見られないようにもう一度源太郎の体を抱き締めた。

「可愛い、昨夜あんなに抱いたのに、まだ足りない。何度だってしたい。ずっと、一日じゅう…」

 源太郎は飾り気のない真っ直ぐな言葉をくれる。けれど、蘭丸はたまらなくなって、同じように返すことが出来ない。

「今、また中がぎゅってなったよ」

「え?」

「な、そろそろ動きたい。おらにしっかりしがみついてな。足もだ」

「はい…」

 蘭丸は投げ出したままの脚を源太郎に巻き付けた。

「そんなに力入れんでも大丈夫だよ。おらがしっかり支えてるから、絶対落ちたりしない」

「はいっ…ん」

 源太郎が少しだけ前に屈み、腰を前後に突く。内部が擦れ、源太郎に巻き付く手足により力が入る。

「は、やっぱ、凄い…っ、お蘭の中は…柔らかかったに、きつくって…」

 源太郎の息がどんどん荒くなって行く。互いに身を清めたばかりなのに、密着した肌が汗ばんでいた。

「なあ、お蘭は…?」

「源太郎様も、蘭の中で…」

 また、中でびくんと源太郎が震えた。どんどん存在感を増している。

「へへ、だって、お蘭のが気持ち良いから」

 源太郎は蘭丸の耳に「口吸いして」と囁く。蘭丸は腕の力を緩め、源太郎の肩にのせていた顎を引き、源太郎の汗ばんだ瞼に唇を付けた。源太郎が驚いて目を瞑ると、その隙に唇を甘く噛んでから吸い付く。開いた歯に舌を入れて歯や上顎を舐めていると、源太郎が反応を返し始めた。ちゅ、ちゅっと音が狭い家の中に響く。体が芯まで火照って、再びこのまま溶け合ってしまいそうだと思ったその時だった。

「源太郎、いるか?」

 自分達以外の漏らす音が加わり、蘭丸の背筋はぞくりと冷えた。蘭丸は驚いて顔を引いてしまった。しかし、源太郎の顔はまだ火照り、目は蕩けている。

「お蘭、急に下がったら危ないだよ」

 源太郎の声は穏やかだったが、蘭丸の腰をしっかり支えてくれていた。

「で、でも」

「もう一度ぎゅってくっついて」

 そう言うと、源太郎は蘭丸の背と尻の下に手を移動させ、立ち上がった。

「あっ…!」

「いるだよー」

 蘭丸が脚に力を込めてしがみつくと、源太郎は戸の向こうの人物に返しながら歩き出した。

「な、何故!?」

「声、抑えて。聞かれちまう」

 源太郎は蘭丸の耳に唇をくっつけて囁く。源太郎が歩を進める度に体の重みで奥を突かれ、声を抑えるのが苦しい。源太郎は戸に蘭丸の背をくっつけた。

「今日はもう平気なのか?」

 薄い板一枚向こうの人物が語りかける。

「その声は寿一だな?ああ、もう平気だ。熱も下がったし、体力も戻った」

 源太郎は膝を伸ばして蘭丸を担ぎ直した。その強い突きで声が出そうになるのを、蘭丸は必死でこらえる。

「良かった。顔、見せてくれるか?」

「え?」

 背後の声でまた蘭丸の背中が冷えた。寄りかかった戸のせいだけではない。

「入りたいって」

 源太郎がぼそりと蘭丸に告げた。蘭丸は必死で首を横に振ると、源太郎は子供のように無邪気でありながら、それでいて意地悪な笑みを見せる。

「んっ」

 源太郎に口を吸われる。舌を押し込まれ、先で奥歯をなぞってきた。

「すまんな、今は、無理だ」

 合間に相手に告げ、また唇を吸う。

「本当に治ったのか?」

 相手の訝んだ返事。

「本当だよっ…んっ」

 唇の音が聞かれやしていないだろうか。不安で仕方がない。

「お蘭、集中して」

 息継ぎの合間に源太郎が囁く。

「だって…、んむっ」

 また強引に吸われ、体が揺れ戸が鳴った。

「なら、顔見せてくれたっていいだろ?お前は頑張りすぎるところがあるから、本当に回復したか確かめる」

 相手はこつんと戸を叩く。その振動が蘭丸の心臓に突き刺さるようだった。

「本当だって、だが今は駄目だ」

「どうしてだ?」

「連れが体を洗っててな、戸を開けたら部屋が冷えちまう」

「うむ…。なら、仕方ないな。分かった」

「寒いのに悪い。ちゃんと、時間通りに行くから」

「ひゃっ…ん」

 源太郎がまた腰を突いた。蘭丸の悲鳴は源太郎の唇によって塞がれ、揺さぶられ続ける。

「な、なあ…」

 戸の向こうの相手が新たな疑問を投げ掛けようとしている。源太郎は動きを止め、息をついて、極力何事もないような声音で「何だ?」と返した。

「…否、何でもない。遅れるなよ」

「ああ。また後でな」

 足音が始まり、遠退いて行くのを蘭丸は息を抑えながら聞いていた。

「…気付かれましたかね?」

「多分」

「えぇ!?」

「でも、寿一なら平気だよ。言い触らすような奴じゃないし、寿一もかみさんと仲良いから」

「でも…っ」

 源太郎は腰を突いた。

「ほら、もう声出していいだよ」

「あっ」

 源太郎が全身で体を揺さぶる度に、蘭丸の体は僅かに浮いて、急所が体の重みによってより強く挿さる。

「だ、駄目っ」

「何が駄目なんだ?」

 源太郎の熱い息が耳に掛かる。堪えていた分、一気に解放されてどうにかなってしまいそうだった。

「へへ…おらの方が、駄目そうだ…」

 源太郎はぐっと息を止めて、蘭丸の体を壁に押し付けて足先から慎重に下ろすと、もう片方の脚を抱えたまま腰を引いた。

「くうっ」

 まだ先端が埋まった状態でびくびくと震え、蘭丸の中を精が満たしていく。

「間に合わんかった…」

「え?」

「お蘭の中、ずっと居たかったけど、中に出したらまた辛くなると思って」

「源太郎様…」

 素直な言葉が嬉しくて、蘭丸は源太郎の肩に腕を回して抱き付いた。

「ん」

 源太郎は蘭丸がまだ硬いままでいることに気付き、向き合ったままの状態でまた抱き上げ、歩き出した。板間に蘭丸を下ろし、脚に伝う液を手拭いで拭き、出口に宛がう。

「布団に横になって」

「え?」

「床じゃ背中が痛いしな」

「は、はい」

 蘭丸は布団へ移動し、敷布が汚れないように尻の位置に手拭いを置いて仰向けになった。源太郎は蘭丸を優しい顔で見下ろして、蘭丸の膝を開いてその間に体を入れた。

「力抜いてな」

 源太郎の指が二本入り込んで、中をかき回し、蘭丸の息がまた乱れ始める。

「やっぱいっぱい出しちまってた。すまんな」

 淫らな音を立てながら、中で源太郎の指が曲がって、急所を掠める。

「んんっ」

「お蘭、気付いてたか?寿一が来た時な、お蘭の中、今みたいにぎゅうってなってただよ」

「そ、そんな…」

「やっぱり気付いてなかっただな。ほんとだよ?お蘭、気付かれるかもってびくびくしてる時に、ずっと締め付けてて…」

「やぁっ…」

「思い出して、また昂ってるだか?」

 源太郎の往復する指のもどかしさに、蘭丸は膝を擦り合わせた。

「お蘭、膝を…」

 源太郎は膝を掴んで開き、ごくりと固唾を飲んだ。蘭丸の淫らな様に驚いているのかも知れない。

「今入れたら、気持ちいいんだろうな」

「なら…、あっ」

 源太郎が体を屈めてきた。乳首をぱくりと口に入れて、舌先で転がし、唇で挟んで音を立てながら吸う。ただでさえ腫れていたのに、刺激で反応して痛み、柔らかな粘膜で温かく包まれる。

「んんっ」

 蘭丸が喘ぐと、源太郎は笑った。

「おらの指や舌ではいきたくないだか?」

 源太郎の問いに蘭丸は顔を隠して頷いた。

「ひ、一つになりたいです…」

「だが、おら、いったばっかで…」

「手でも口でも、致します」

 また源太郎がごくりと喉を鳴らした。

「その必要はないだ」

 指が抜かれ、代わりに密度の高いものが埋め込まれていく。

「ひあっあっ…、くっ」

 体液で汚れた手で顔を隠した手を退かされた。顔を背けようとしたら顎を掴まれて固定された。

「恥ずかしい顔、見せて」

「やだっ…」

「じゃあ、このままだ」

 源太郎はぴたりと腰を止めた。欲しい場所まで届いていない。

「酷いです…」

「そげん、泣きそうな顔してても、また、中がひくついてるだよ」

 源太郎の口元が歪んだ。理性の糸が切れそうになっているのが分かった。

「欲しがっているのは同じなのではありませんか?」

「え?」

「もう、隠したりしませんから、早く、来て下さい」

 蘭丸の返事に、源太郎はまた体を屈めて唇を重ねてくる。口付けは一瞬で、唇が離れた時に蘭丸の奥を突いた。

「あっ…!」

 勢い余って蘭丸は射精し、源太郎の腹と自分の腹を汚した。それなのに、まだ体の熱は収まっていない。源太郎が抜き挿しを始めて、内側の快楽源を何度も刺激される。源太郎の動きに合わせて、まだ持ち上がったままの蘭丸の性器が激しく揺れていた。

「あ、あっ…!」

「顔も声も、体も全部可愛い…」

 条件反射で顔を隠そうとした両手を捕らえられ、布団の上に押し付けられた。源太郎の勢いは止まず、蘭丸は抑えることが出来ない。

「だ、駄目ぇ…!」

「駄目になれ、おらが、連れ戻すから…!」

 源太郎の息の上がった声が遠退き、目の前の汗みずくの顔も見えなくなった。




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