拾肆
夜叉丸が居なくなっても、蘭丸の生活はさほど変わらなかった。
夜叉丸の代わりなる者は、有能な小姓衆には何人もいる。ただ、特定の者が長く就くわけでもなく、日により別の者が信長を世話した。蘭丸も、そのうちの一人に過ぎない。
今までは、殆ど夜叉丸が信長に付き添っていた。夜叉丸は信長にとっては特別だったのだと居なくなってまた思い知らされる。
そして、夜叉丸がいなくなってから、褥に呼ばれる頻度が増えた。
「どうした?」
月夜の天主にて、蘭丸は水面を眺めていた。後ろから信長に抱き寄せられる。
「夜叉丸殿を、思い出しておりました」
「夜叉丸か。明日、此処に参るぞ」
「本当ですか?」
「ああ。正式に一国一城の主となってな、挨拶まわりだ。明日は宴、楽しもうぞ」
あの艶やかな前髪を落としてしまったのだろうか。何だか切なくなった。夜叉丸は上手くやっているだろうか。
「だから皆様慌ただしかったのですね。今日、鮪が運ばれるのを見ました。初めて見たので、大きくて驚きました」
「琵琶湖にはおらぬからな」
すっ、と信長の手が蘭丸の寝間着の襟の中に滑り落ちた。
「……!」
信長は服の中でもぞもぞと弄り、敏感な箇所を探り当てた。
「信長様、お願いがあります。厚かましいのは、百も承知です」
「何だ?」
「本日は、その…、蘭におまかせを…」
「良い、見せてみろ」
「では…失礼致します」
信長の肩に手を掛け、白い寝間着を開き、脱がせた。
蘭丸は信長に口付けを施す。何度も音が鳴るように重ねて、口をやや開いて包み込む。口内粘膜を短い髭が刺した。一回離して、ふう、と息を吐き、再び唇を重ねた。しかし、信長の唇は反応がない。蘭丸は段々不安になって、目を開けた。
(……!)
信長は目を開き、蘭丸を凝視していた。蘭丸は再度顔を離す。
「信長様、何故目を開けておられるのですか?」
「お蘭を見るためだ」
殺し文句だろうか。信長は眼孔が鋭いせいか、少し怖かった。
「…けれど、唇は開いて下さらない…」
「それは汝の力量不足だ。汝は、自ら開くであろう?」
「それもそうですね」
蘭丸はしゅんと肩を落とした。まだ快楽に導く力が自分にはない。信長は笑った。
「お蘭」
「はい?」
見上げると、首根っこを掴まれ、素早く唇を奪われる。舌を口内に押し込まれ、上顎や歯列をなぞられる。
「んー、んん!」
息が苦しい。蘭丸は信長の肩を向こうへ押しやるが、適うはずもない。呻いていると、舌を絡め取られ、角度を変えてまた塞がれる。唾液がぽたりと顎を伝い落ちた。段々、信長の口付けは激しさを失い、慈しむように唇を包み込む。
「ふ…!」
信長が唇を離した。蘭丸は潤んだ瞳で信長を睨みながら、唾液を手の甲で拭う。
「狡いです」
「何がだ」
信長の余裕のある笑み。顔を赤らめているのは、蘭丸一人だけだった。
「…蘭に任せて下さると仰いました」
「口を開いて欲しかったのではないか?」
「もう…」
蘭丸が口をへの字に曲げているのを、信長が柔らかな眼差しで見守る。蘭丸は、窓辺に寄りかかっている信長に、すがりつくように抱き付いた。
信長は背がとても高い。座っていても、膝立ちしないとその背を越えられない。信長を跨ぐようにしてやっと床に届いた膝は、安定せずに震えてしまう。もっと背が伸びたら、自然な形で抱き合えるのに。
「わ!」
信長が蘭丸をのせたまま座り直す。いつものように、向かい合っての膝乗りになる。信長は蘭丸の背を、両腕で包み込んだ。
「この方が楽であろう?」
「はい…」
「随分大人しくなってしまったな」
「…信長様には適わないのですね」
「悔しいか?」
蘭丸は首を横に振る。悔しさ以上に愛おしさが込み上げる。
(夜叉丸殿…、蘭も、自信がありません)
伽は勤めの一つ。体で繋がり、信頼関係を築き上げ、絆がより確かなものになる。しかし、別の感情が絡み付いて、深く根を張る。体が成長し、大人になればこの気持ちは消えてゆくのだろうか。
「信長様、お慕い申しております」
蘭丸の力強い眼差しに、信長は一瞬だけ、表情を変えた。そして、また笑みが戻る。蘭丸の口を塞ぐ。蘭丸は口を開き、信長の舌を迎え入れた。
(信長様…)
蘭丸の気持ちを受け入れてくれたのだろうか。蘭丸は目を開く。相変わらず、口吸いの最中の信長の目は力強かった。蘭丸は信長の肩をとんとん押した。信長は唇を解放した。
「きょ、今日は、蘭が…」
「強情だな」
信長は蘭丸をのせたまま、ごろんと寝転がった。
「好きにせい」
「有り難う御座います、信長様!」
蘭丸は満面の笑みで礼を言う。蘭丸の無邪気さに、信長は吹き出し、肩を震わせている。
そんな信長に気付かず、蘭丸はごそごそと尻の下を探り、信長の雄を確認する。敷いていた時は固く感じたのに、それほど反応はしていなかった。蘭丸は膝から降りて、信長の寝間着を捲る。
「失礼致します」
蘭丸は正座をして目礼し、信長自身を掴み、口を精一杯広げて含む。信長の先端はとても太い。顎が外れてしまいそうなまで開いても、歯が掠ってしまう。蘭丸は少しだけ口を引っ込めて、先端をちろちろと舌でなぞる。少し、硬度が増したような気がする。しかし、まだまだいつもの猛りには届いていない。蘭丸は一回口を離す。
「何をしておる?」
蘭丸は懐から紙の包みを取り出し、開いた。粒の荒い白い粉が入っている。
「通和散です。初めて作りました」
「信長に抱かれる為か?」
「信長様に、気持ち良くなって頂きたく…」
「では、信長の体で試すが良い」
「…失礼致します」
また目礼。蘭丸は粉を口に含んで、唾液を分泌させて粘り気のある液を信長の中心に塗した。そのまま信長を促すように、ぬるぬると掌でさする。濃すぎるかも知れないと思ったが、体温で少し柔らかくなった。掴んで持ち上げ、根元の大きな袋を揉んでみる。ここがあの大量の熱を精製する場所なのだ。そう思うと、胸が高鳴った。暫くすると、中心が徐々に反応しだした。蘭丸は先端を口に含んで筋の浮いた茎を上下に扱く。
ぴちゃ、ぴちゃと、蘭丸の口内と掌から瑞々しい音が響く。蘭丸が通り道を舌先を尖らせてつつくと、軽水が押し寄せた。
(もう少しだ)
蘭丸は飲み込んで、上下運動を加速した。飲みきれなかった先走りが混ざり、適度な濃さになって順調に進めていると、びくんと揺れ、蘭丸の喉を勢い良く突いた。
「ん…っ」
どくどくと口に注がれ、蘭丸は咽せそうになった。信長の吐精は長い。すぐに口の中を隙間なく埋めつくしてしまう。吐き出す訳にはいかず、蘭丸は口を離して飲み込んだ。残りの液が絶え間なく放出して、再び口に収めようとした時、止まった。
「あ!」
信長が蘭丸の肩を掴み、上体を起こしながら抱き寄せた。
「信長様、全て、飲み込めませんでした」
信長は、自分の体液が付着した蘭丸の前髪を撫でる。
信長は包み紙に付着した粉を指に取り、一舐めする。
「濃いな。濾しが足りぬ」
「信長様の……、が、これくらいの濃度ですので」
蘭丸は、子種という言葉が何とも気恥ずかしく、殆ど発音しなかった。信長はにっと笑った。
「信長を思いながら作ったか?」
「はい…。殆ど信長様は、油よりも、……をお使いになられますから。蘭のは、どれくらいなのか覚えていなくて…」
「では、これにてお蘭を愛でよう」
蘭丸を膝にのせ、寝間着を脱がせる。蘭丸の茎は信長に与えた責めによる興奮で既に上を向いて、小さな先端が顔を出していた。滑った指で閉じた蕾を開かせると、今にも小さな通り道から涙を流してしまいそうだった。
「……んん…」
蘭丸は唇を噛んで堪える。入れる前に出してしまっては、これから先が持たない。
「お蘭、どうしたのだ?」
蘭丸の唇に指を入れ、下唇を捲って白い歯列をなぞる。
「も…、欲しいです、信長様を…、んん!」
信長下に指をニ本埋めた。
「まだこれでは足りぬ」
「あ、ああー!」
指をくるくる回した。内側を擦られ、蘭丸は丹田に力を込める。
「お蘭、力を抜け。信長の指が千切れてしまうぞ」
「力、抜いたら…、出ちゃ…あっ痛!」
信長はきつく窄めた孔に無理矢理指を侵入させ、例の箇所を圧迫させる。蘭丸は信長の腹にかけてしまった。
「ああ…」
出してしまったことにより、蘭丸の体から力が抜けた。蘭丸は自分の吐き出した染みを見ながら、この後の展開を予想し、ひとつ溜め息を漏らした。
「どうした」
「今宵も、蘭は寝かせては貰えませぬか?」
「当然だ」
信長は即答した。
今日こそは、事後処理を果たしたいと思ったのに。信長の体を拭いて、その寝顔を見守りながら眠りにつきたかった。悔しい。きっとまた、自分が先に陥落し、三回目頃からの記憶を失うのだ。
なのに、それ以上に期待していた。今日はどんな形で与えてれるのだろうか。蘭丸は、主が待っているであろう言葉を口にのせた。
「下さいませ、信長様」
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