妄想、愉悦。





  


 蘭丸は、一人布団の中にいた。体が懈く、頭はまだぼんやりする。布団の空白に手を伸ばすと、既に冷たくなっていた。

(お館様…)

 むくりと起き上がり、自分の体を眺めた。

「…!」

 蘭丸は体を抱いた。淫らな体。白い肌には所々淡い赤の痣が散りばめられていた。一際、左胸の頂きが色濃く、薄紫に色付いていた。
 蘭丸は布団を肩まで被った。体に刻まれた痛み、それを上回る強烈な悦。ざらついた舌、器用な指、低く通りの良い声、優しい形の目。

「……」

 左胸の乳首に手を伸ばした。熱を持ち、硬くなっていた。摘んでみるとじんと疼いた。

「蘭丸殿」

「はい…!」

 夜叉丸が障子の向こうから声を掛けてきた。蘭丸が返事をすると、静かに障子を引く。

「体はどうだ?」

「だ、大丈夫です」

 蘭丸は布団に手を突っ込み、寝間着がないか探った。

「痛みはないか?」

 寝間着を見つけるより前に、夜叉丸が背後に周り、剥き出しの肩に手を置いた。

「尻を出してごらん?」

「え…」

「傷を確かめる」

 蘭丸は、おずおずと布団を捲り、全裸のままうずくまって腰を上げる。視診とは言え、まだこの羞恥には慣れない。
 尻を両手で広げられ、指先が僅かに押し込まれる。

「…!」

 蘭丸の体が、びくりと揺れ、夜叉丸の指を吸い取るように、蕾が閉まる。

「やはり、したのか?」

「…した?」

「お館様と、契ったのか?」

「いえ、それが…、指だけで御座います…」

 蘭丸は体全体を赤く染めていた。夜叉丸は感心したように言った。

「流石、お館様だ。手当てをするから、動くでないよ」

「どういった、意味でしょう?」

 夜叉丸が背後でかちゃりと音を立てた。薬の入れ物を開けているのだろう。

「つまりは…」

「っ…」

 夜叉丸の指が冷たい軟膏を蕾に擦り込んだ。揉むように撫でられる。

「蘭丸殿は、もう目覚めたと言うことだ」

「…目覚めた?」

「もういいよ。まだ腫れてはいるけれど、大したことない。じきに治る」

 夜叉丸の指が離れると、蘭丸は布団で肌を隠した。

「有り難う御座います、あの、目覚めたって…」

 夜叉丸が手を伸ばし、背後から前に手を回す。

「夜叉丸殿…!」

「殿方を受け入れられるようになったことだ」

「お止め下さい…!」

 左の乳首を摘まれ、蘭丸は体を強ばらせた。しっかり反応していても、顔は拒否を示している。夜叉丸は手を離し、聞き取れない程の声で呟いた。

「…の二の舞は御免だ」

「え?」

「朝餉の時間だ。早く、着替えておいで」

 夜叉丸は蘭丸の肩に着物を掛けた。

「はい…」

 袖を通して立ち上がると、ふらりとよろけてしまった。

「大丈夫か?」

「はい…、腰が少し…」

 蘭丸が言うと、夜叉丸はくすりと綺麗な顔で笑った。






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