妄想、愉悦。


月とともに満ちる


   

 小姓時代の蘭丸と信長の話。



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 体がずしりと重い。蘭丸は寝苦しさに意識を取り戻した。瞼の向こうが眩しい。ゆっくり開くと、窓から大きな皿が見えた。

(今夜は満月か…)

 このまま寝入ってしまうのは勿体ない程、見事な夜空。視線を下ろすと、主が自分の薄べったい胸板を枕に寝入っていた。

(信長様…)

 信長は背が高く、体つきも逞しい。その上、素肌同士が密着した上半身は熱い。どおりで寝苦しい訳だが、安らかな寝顔を見ていると、そんなことはどうでも良くなった。
 この人は、普段は威厳に満ちた、険しい顔つきをしていた。けれど今は鋭い眼孔を塞ぎ、眉間の皺も刻まずに、真一文字に閉ざした唇を僅かに開いて静かな寝息を立てている。規則ただしく送られる生暖かい風と、短く生え揃えた髭が胸に直に当たって、少しだけくすぐったい。
 夜を共にすることはあれど、蘭丸が先に眠りに落ちてしまうことが多い。そして、体力の差なのか、自身の幼さ故か、目覚めるのも蘭丸が後のことが多く、寝顔を見れることが殆どないのだった。
 蘭丸は幸せな気持ちで形よい額を撫でた。すると、信長はゆっくり瞼を開いた。眠たげにとろんとした目つきで、蘭丸を見つめる。

「起こしてしまいましたか?」

 信長は返事はせず、一つ欠伸をして、上体を一旦起こし、隣にごろんと仰向けに寝そべった。

「ほう…、今宵は満月なのだな」

 信長は今気付いたとばかりに言った。

「ええ。とても綺麗で、見入ってしまいました」

「汝に気を取られておったわ」

「私も…」

 蘭丸は言葉の途中で顔を赤くした。月明かりに照らされながら、信長は妖艶に笑った。

「私も、たった今、目覚めるまで、気付きませんでした」

 今度はふっと短く、吐息混じりに笑う。優しい目の形。
 蘭丸の鼓動が早まる。もう、蘭丸の目には恐ろしく蠱惑的なこの主しか入らなかった。同様に、信長の目に映る自分以外の存在を消してしまいたいと思うようになった。

「……」

 浅ましい思惑を見抜かれたくなくて、蘭丸が視線を逸らすと、信長が蘭丸の肩に腕を滑り込ませ、引き寄せた。蘭丸の肩を抱きながら、空を見ている。

「見事だ。寝入ってしまっては勿体ないな」

「はい、私も、そう思います」

「本当か?」

 気持ちが伝わった。蘭丸は、もっと強く感じるように主の体に腕を伸ばした。

「本当です、先程までは…」

 蘭丸が腕を引くと、信長は起き上がり、蘭丸に顔を近付けた。信長の瞳に、自分の情けない表情が映し出される。

「今はもう…、信長様だけ…」

「信長を欲するか?」

 吐息がかかる程近く、けれどぎりぎり触れ合えないところに顔がある。

「はい…」

「先の汝の言葉、覚えているか?」

「先の?」

 蘭丸は眠りにつく前のことを思い出していた。記憶にあるのは二度目までで、三度目は役目を果たせたかも分からない。
 考えながら目線を泳がせていると、信長は「やはり覚えておらぬか」と言った。

「……」

 蘭丸は、自分が恐ろしく快楽に弱いことを知っている。夢中になって、何かとんでもなく失礼なことを口走ってしまったのだろうか。
 返す言葉も見つからず、蘭丸は信長から顔を背けた。視線の先の、盥の縁には用済みの濡れた手拭いが掛かっている。

「……」

 蘭丸は自分の肌を触って確かめる。少し汗ばんでいるが、激しいまぐわいの末に果てた痕跡は残っていない。
 蘭丸は、起き上がる為に信長の肩を少し押した。察した信長は避けて再び横へ体を倒す。

「あ」

 腰に力が入らない。蘭丸は体を捩らせ、手をつき、肩の力で起きあがる。二人して全裸のままだが、肌も布団も清潔だった。

「やはり、月見をしましょう」

 蘭丸は信長に布団を掛ける。体を重ねては、主にまた事後処置をさせてしまうことになりかねない。

「綺麗ですね」

 蘭丸は空を見上げた。信長も起き上がり、掛けられた布団をめくり上げ、蘭丸の肩を包み込むように後ろから抱き締めた。

「冷えるぞ」

 布団の中で、蘭丸の背と信長の胸部が密着した。蘭丸は肩を抱く手の上に、自分の掌を重ね、顔を上げて信長の唇の少し下の、ちょうど顎髭を真っ直ぐ生やした辺りに唇を寄せる。
 今度は、信長は口吸いをしてくれた。蘭丸は目を閉じた。しかし、信長の口吸いは優しく、そしていつになく淡白で、蘭丸は満ち足りずにいた。

「月見をするのであろう?前を見ておれ」

「はい…」

 素っ気ない言葉に、蘭丸は諦めて空を見上げた。しかし、背後の信長が気になってしまう。

「あっ…」

 信長の大きな手が動き、人差し指が蘭丸の口の中に突っ込まれた。舌を擦られ、唾液を強制的に分泌させられた。

「ん…」

 月を見ろと言うから見ているのに、させてくれない。自由に這う指に口内を蹂躙される。唾液が蘭丸の顎に落ちると、信長がもう片方の人差し指で掬い取る。そのまま唾液塗れの指先で、蘭丸の胸板にある二つの突起を擦った。

「ひゃあ!」

 先に眠る前に、散々舌や歯で嬲られ其処は敏感になっていた。少し触れただけで芯を持ち、起立し、左右とも摘まれてしまった。

「信長様…月を…」

「見ておる」

 信長の肩から布団がずり落ち、淫靡に弄くられる小さな粒が月明かりに晒された。
 摘みあげられ、桃色の輪がひきつられる。離して、乳首を押し潰された。其処をまた人差し指で擦られる。

「あ!」

 信長は指先に力を込めた。

「肌が熱くなったな」

 信長は楽しそうに笑いながら、なおも指先の球体を弄んでいた。蘭丸はただ恥ずかしくて、くすぐったくて、同じくらい気持ち良くて、其処の刺激に体中が支配され始めていた。

「はぁっ…」

 蘭丸は、無意識に腰をもじもじと揺すっていた。閉じた足を摺り合わせ、自身に刺激を与えている。信長は胸への責めを中断し、蘭丸の膝を開いた。晒され、むき出しになった股間を信長の手が覆う。

「あうっ」

 強く掴まれ、根元に輪を作って拘束された。もう片方の手で、小さな袋に入った玉をころころと弄ぶ。昂った蘭丸は信長の腕の中で首を反らし、体をくねらせる。

「あっ、あ…!」

「お蘭が手の中で大きくなっておる」

 先走りが流れ落ちると、信長は濡れた指先で後孔に挿した。ぐにぐにと狭い入り口を解して進行する。浅いところで素早い出し入れを繰り返した。

「やだ、信長様…!」

 蘭丸は頭を信長の肩に預けて信長を見上げた。信長は月を見ている。

(信長様…)

 感じているのに物足りない、じれったい。信長の、猛々しい雄が欲しい。
 すると、信長は指を深く挿し、腹側を圧迫した。

「いや、ああー!」

 性急に蘭丸は登りつめる。しかし、信長が先端を囲む輪の力を強めたせいで放つことが出来ない。そんな仕打ちをしながら、なおも後孔を弄り続けている。

「出したい、出したいです…!」

 蘭丸が懇願すると、信長は瞳に月の光を映したまま言った。

「美しきことよ」

 蘭丸はその言葉に、視線を月に戻した。その時、白い飛沫が月に被さった。まるで、海に飛び込んだ時のように弾け、一瞬一瞬の映像の美しさが目に焼き付く。

「は…あ…」

 それは、自分の発した体液だった。指での拘束を解かれ、飛沫は存分に跳ね上がって、白い雨となり、蘭丸の腹や、ただ添えているだけの信長の手に降り注ぐ。

「見事だ」

 あんなに自分の放つ精が美しく見えたことはない。信長は脱力した蘭丸を寝かせて、両手首を捕らえ、布団に押し付けたまま唇を重ねた。
 ずっと待っていた深い深い口吸いも、頭や体がぼうっとして上手く返せない。挿し込まれた舌に一方的に口内を蹂躙された。蘭丸は目を閉じた。
 自分から求めたのに、こんな調子では、信長に見放されてしまうかも知れない。それは嫌だけれど、瞼がどうしようもなく重い。

「あっ…!」

 意識が落ち掛けていた。いつの間にか接吻は終わっていて、信長に乳首を痛いくらいに噛まれた。
 蘭丸が目を開けると、信長は蘭丸の膝裏を掴んで高く上げる。

「…!」

 結合箇所が空に向かっている。蘭丸が呼吸をするたびに、重なった短い放線の中心が開閉し、信長はそこに肥えた逸物をあてがった。

「んうう…!」

 眠る前に繋がっていた為、挿入に難はない。しかし、蘭丸はどうしようもなく昂って、苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。

「ああ!」

 半ばまで埋め込むと、激しく腰を突き、出し入れを繰り返す。

「の、信長様…!」

 涙が滲んで、信長の肩の向こうにある月の輪郭が朧気に映った。限界まで満ちて、溢れてしまったみたいだ。まるで、今の自分のように。

「信長様…、信長様…!」

 蘭丸は視界から消えてしまった主の名を呼んだ。信長の汗の粒が蘭丸の顔にぽつぽつ落ちて、低く、呻くような声でお蘭と名を呼び返された。

「あ、あああ!」

 信長は、蘭丸の体内に放った。蘭丸は城内に響いてしまうくらいの嬌声を上げながら受け止める。熱く沢山注ぐと、信長は抜かずに蘭丸の体に被さった。ぐちゅっと体内で濃度のある水音がした。

「お蘭…」

 信長が汗ばんだ額に唇を落とした。中にまだ収まっているのに、頭部の優しい感触に感覚が虚ろになってくる。

「ひやああ!」

 電撃のような痺れが蘭丸の体を貫いた。

「汝の体は面白い。乳首に触れればすぐに反応を返す」

 信長は笑いながら指に挟んだ乳首を捻った。

「もう、そこは痛いです…」

 蘭丸は信長の手を避けて両手で胸を隠した。こんなに触れられては、翌日、痛みが残ってしまうかも知れない。

「もう痛くせぬ」

「んっ、ああっ!」

 信長が腰を押し付ける。中で主張し、内側から圧迫される。
 信長は蘭丸の腕を解き、被せて上体を密着させながら、腰を激しく突いてくる。蘭丸は逞しい背に腕を回した。

「あっ…!」

 蘭丸が体をびくびくと震わせると、信長がそっと唇を重ねた。蘭丸は優しく口付けられながら思い出した。先もこんな風に激しく優しく触れられて、気持ち良くて、眠たくて、昂って、色んな感覚が一遍に、この小さな体に襲ってきた。堪えられず壊れて、自分が死んでしまう気がした。

「…っ…」

 蘭丸が重ねられたままに、声を出すと、信長の唇が離れた。

「…何だ?」

 問いかけの言葉がとても穏やかに響いた。

「中に…」

 蘭丸が囁くと、信長は蘭丸の腰を掴んで勢い良く腰を揺すった。肌同士がぶつかり合う激しい音と蘭丸の掠れた喘ぎが同じ律動を刻む。ばあん、と一番大きく腰を穿たれ、内側で信長の雄が躍動した。

「あっ…、はっ…、あああ…!」

 信長の熱を受け止めたのは、今日で何度目か、それすら分からない。抜くと、腹に収めた白濁液が後孔から流れ落ちた。信長が手拭いを取り、蘭丸の腰の下に敷いて受け止める。

「んっ…」

 腹を僅かに押しながら、指を挿して体液の残骸を掻き出した。まだ熱のこもる内部をぐちゅぐちゅと穿くり返されて、蘭丸は悶えた。

「すぐに終わる」

 信長は蘭丸の体に纏わる体液を綺麗に拭き取ってくれた。手を拭いて自分も横になって天空を見上げていた。青白い光を受けながら、少しけだるそうに、四肢を投げ出している。

「の、信長様…」

 蘭丸がやっと呼吸が落ち着いた頃、起き上がって信長の手を取った。

「まだ、こんなに…」

 大きな掌を胸に当て、直に高鳴る鼓動を伝えた。

「蘭は、このまま胸が破裂して、死んでしまうかと思いました」

 信長は微笑みながら、蘭丸の赤く染まる頬を撫でた。

「思い出したか」

 蘭丸は頷いて、屈んで信長の唇を塞いだ。とくりと胸が一際大きく疼いた。

(死んでしまう)

 激しいまぐわいの末、夢中で叫んだ言葉。それなのに、こうして求めしまう。そして、また同じ様に死んでしまうと不安になるまで胸を高鳴らせている。
 蘭丸は信長の広い胸板を枕に寝そべった。信長の鼓動は普段と変わらないのが悔しい。

「風邪を引く」

 信長が抱き寄せてくれた。今、二人で体を寄せながら、同じ景色を眺めている。

「今宵の月、とても見事ですけど、蘭は、覚えていないかも知れません」

「そうか」

「はい、信長様のことだけ…」

 言葉途切れに、蘭丸は目を閉じた。遠退く意識の中、信長の心音がとても心地よく耳に響いていた。










-了-   


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