妄想、愉悦。


舌の抱擁


   


 小姓時代の蘭丸と信長の話。



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 信長と親交の深い宣教師が、沢山の土産を持って国外からやって来た。こんな日の信長はとても機嫌が良く、いつも以上に勝手気ままで、蘭丸をはらはらさせる。
 もう月も高くのぼっているのに、風呂上がりに体も拭かず、そのまま南蛮の浴衣を着て、並べた土産物の数々を眺めながら、葡萄酒を飲み、悦に入っている。

「信長様、そろそろその浴衣をお脱ぎになって下さい。幾ら南蛮のものを頂いたと言っても、気候が異なるのに習慣まで倣ってはお体に障ります」

「お蘭は怒ってばかりだな」

「信長様が聞いて下さらないからです」

「聞こえておる。耳に蛸が出来そうだ」

 信長は羽織を脱いで蘭丸に放った。湯上がりにそのまま羽織ったものだから、生地が湿っている。蘭丸は浴衣を置いて、すぐさま襦袢を肩に掛けた。

「それから、そちらのお酒も飲みすぎです。ああ、お菓子も平らげてしまったのですか?お体に毒です。もう、宴の日はなるべく飲食を控えるようにと…」

 蘭丸が些かくどい説教をし始めると、信長は聞く耳を持たず、「菓子ならまだある」と言いながら新しい箱を開けていた。そして、得体の知れない塊をむしゃむしゃ食べ始めている。

「お菓子はもう駄目です!」

「汝も食べたいか」

「そうじゃありませんて」

 信長は蘭丸の口に切れ端をぽんと入れた。綿のようにふわりとした舌触りと、優しい甘さ。噛む前に口の中でほろほろと崩れてしまう。

「旨いか?」

 信長の問いに蘭丸はこくりと頷いた。

「で、あろう?卵と小麦の焼き菓子だ」

 信長は子供みたいな表情で得意気に言った。そして、半分にして蘭丸の口に押し付ける。受け入れるしかなく、食いちぎる。柔らかい。ふわふわして、虜になってしまいそうな幸せな味。蘭丸はうっとりと目を閉じる。

「溶けてしまいました」

 蘭丸が呟くと、信長は切れ端を差し出した。並んで二人で焼き菓子を食べた。
 小さい頃、皆が寝静まってから、弟たちと隠していた土産物の甘味をこっそり食べたのを思い出した。見つかると、兄や乳母に歯を悪くするからと叱られたことも。
 口の中の水分が菓子に奪われて、渇きが気になった頃、信長は蘭丸に杯を差し出した。その中に輝く赤い液体が注がれる。

「飲め」

 鼻をつけると酒独特の腐臭と、酸っぱさに果実の甘さが加わった不思議な匂いがした。杯を傾けて流し込む。酸味と苦味が強いが、それ以上に甘さが引き立っていて、信長が好みそうな味だった。

「どうだ?」

「美味しいです、が少し強いです」

 言葉の途中ですぐに熱がこみ上げて、体中の血が温かくなった。

「汝は子供故、仕方あるまいな」

 信長は自分の杯に注いで飲んでいる。一刻前に酒宴を終えたばかりだと言うのに。
 潤った口内にまた菓子を入れて咀嚼する。酒の味と混ざって、甘さと風味が色を変えた。

「これは、お酒と合うのですね」

 信長がもう一杯赤い酒を差し出すので、蘭丸は自分に負けて受け取ってしまう。
 酔ってしまわないようにゆっくり酒と交互に菓子を食べきると、信長は蘭丸の肩に凭れた。

「見事であろう?」

 改めて、土産を敷き詰めた部屋を見渡す。どれも見たことがないものばかりで、好奇心を刺激した。

「はい。不思議なものばかりですね」

「気になるものはあるか?」

「どれも気になりますが…これは何ですか?」

 美しい模様が彫られた筒を指した。信長は躊躇わずに蘭丸に手渡す。蘭丸は手を拭ってから受け取った。

「月に向かってこの穴を覗いてみろ」

「こうですか?」

 蘭丸は言われた通りに上を向きながら、小さな穴を覗いた。筒の中できらきら光った美しい花が幾つも咲いている。

「綺麗です、花がいっぱい、輝いています」

 信長は筒に手を添えてゆっくりと回した。その度に、しゃらんと鳴って花は形を変え、色を変える。

「素晴らしいです、信長様。紫の花から黄色に、今度は橙になりました」

「気に入ったようだな」

「はい!」

「ならばやる」

 信長は蘭丸を抱き寄せた。

「嬉しいか?」

「嬉しいですが…このように高価なものは」

「大したことはない」

 装飾一つにしても凝っていて、とても安物には見えない。しかし、こう言った場で信長は引くことがない。

「有難う御座います。大切に致します」

 蘭丸はもう一度穴を覗く。地上にはない花が咲いている。蘭丸が夢中になっていると、ふいに信長が頬に唇を寄せた。髭の感触に反射的に背筋が伸びて、目を筒から離してしまう。欲しいか?と、信長の目が問いかけていた。

「の、信長様は、どちらを気に入っておられるのですか?」

 蘭丸は話題を逸らしてしまった。信長は蘭丸の口角を指先でなぞる。菓子の欠片が指に付着し、それをぺろりと舐めた。

「これだな。汝と似ておる」

「菓子が?私と?」

「甘く、柔らかく、汝の肌にそっくりだ」

「わ」

 床に倒される。信長の手が襟に伸びて、左右に広げられた。

「もう起っておる」

 信長の目線の先を見ると、触れてもいないのに乳首は尖っていて、存在を主張していた。ここが敏感であることはお互い知り尽くしていたが、言葉にされると恥ずかしい。

「それは…寒いからです」

「こんなに熱を持っておるぞ」

「ひゃあんっ」

 信長が指で挟むと、体が甘く痺れて、恥ずかしい悲鳴を漏らしてしまった。蘭丸は両手で口を抑える。信長が指先の方向を変えると、指の隙間から熱い息と殺しきれなかった声が零れる。

「窒息する気か?」

 信長が蘭丸の手を顔から剥がす。蘭丸の顔はりんごのように真っ赤になっていて、深呼吸を繰り返していた。

「お酒のせいでしょうか、声を抑えられなくて…」

「普段と変わらぬ。大きく聞こえるのは、酔うておるからだ」

 言われてみれば、耳はじんじんして、洞窟に居るみたいに声が響いている。

「鳴くが良い」

 信長は蘭丸に被さって耳元で囁く。そよ風にのった湿った声がくすぐったい。信長はゆっくり耳朶から首筋へ舌を走らせた。
 唾液の曲線を残しながら鎖骨を過ぎて胸板へ到達すると、蘭丸が、吐息と共に短い喘ぎを漏らした。信長が目線だけで見上げ目が合うと、蘭丸は捨てきれない恥じらい故に唇を噛んで瞼を閉じてしまう。

「あっ」

 信長は乳首に歯を立てた。根元に甘噛みを繰り返してから、先端をつつくように舐め始める。

「ううっ、ん」

 片方を指先で強く摘まれる。そして指の腹でなぞられる。左右とも強弱をつけながら刺激している。そのせいで、蘭丸の声にも変化と波があった。段々と昂り、快楽が恥じらいの感情を覆し始めた。

「信長様…っ」

 優しく舌と指で転がされていると、蘭丸は物足りなくなって、無意識に上体を浮かせて胸板を信長に押し付けた。信長は応え、かり、と噛んで、淡く色付いた小さな輪ごと包んで吸った。

「ああっ、信長様あー!」

 蘭丸は信長の頭を抱えながら叫ぶ。両足を信長の腰に巻き付け、下半身を擦り当てていた。

「駄目、弱くしないで下さい、もっと、沢山…、ああ!」

 信長が力を込め、適度な刺激を送ると、蘭丸は体を小刻みにかくかく揺らした。緊張が解け、体の力が一気に抜ける。

「射精したか」

「…汚してしまいました」

 蘭丸が困った顔で見上げる。目が潤んでいるせいで、今にも泣き出しそうな表情だった。信長は楽しそうにくつくつ笑った。
 腰紐を解いただけで、まだ脱いでいなかった袴を引き下ろされた。下帯はすっかり濡れていて、水気を含んで貼り付いている。それを解かれ、信長は余りの乾いた部分で肌を拭いてくれた。
 やはり、酔っているのだ。いつも以上に放熱後の倦怠感がのしかかって、体が言うことを聞かない。

「今、湯をお持ちしますね」

 のっそり立ち上がると、ふらりと後ろに倒れ、信長に体を支えられる。

「もうよい」

「けれど…」

 信長は蘭丸を抱き上げて布団の上に移動した。布団の上に布が敷いてある。美しい光沢で、子猫の肌触りと似ていた。

「これも、献上されたものですか?」

「別珍だ」

「べっちん?」

「信長は別珍を好む。汝に似ている」

「これもですか?」

 蘭丸は指で生地の短い毛足を撫でた。極上の肌触りなのだが、人間の皮膚や頭髪とは全く異なる。

「何処が似ているのでしょうか?」

「舌だ」

「舌?」

「寝そべってみろ。お蘭の舌に包まれているみたいだ」

 信長は別珍の敷布に体を倒した。蘭丸は指で自分の舌に触れてみる。

「似ていません」

「似ておる」

 そう言って信長は蘭丸を自分の隣へ導いた。そして、酔いもあって目を閉じたかと思ったら、ぱたりと眠ってしまった。
 寝心地が良いのだが、まだしなければいけないことがある。

「信長様、まだ歯を磨いておりません」

 信長は静かな寝息を立てて眠っている。穏やかな寝顔はつい起こすのを躊躇ってしまう。

「信長様、信長様」

 信長の肩を揺するが、その手を払って寝返りを打ち、本格的に寝てしまった。
 ここで、蘭丸に悪戯心が芽生えた。剥き出しの下腹部に手を伸ばし、柔らかい中心を持ち上げて舌を裏側に這わせる。普段ならば、信長の眠りを邪魔することは決してしない。きっと、これも酔っているせいだと酒のせいにした。
 幹を舐め続けていると段々堅くなっていった。ちらりと信長の顔を確認してみるが、相変わらず寝ている。眠っている時の方がずっと素直に反応してくれる。

(蘭の舌は、どうですか?)

 心の中で問いかけると、また一段と大きくなって、先端から雫が垂れた。蘭丸は先を咥え込んで、大きな袋の中にある重りを握る。ぴくっと反応が返って、嬉しくなった蘭丸は頭を前後に、出し入れを繰り返しながら舌で信長自身を撫でた。

「んっ」

 水が溢れる。この下の別珍の敷布を汚す訳にはいかず、続く濃い水流をえずきそうになりながら受け止めた。
 零さないようこくりと飲み込み、残精を舌で掬い取っていると、信長が蘭丸の頭を撫でた。

「目、覚まされて…」

「汝が起こしたのではないか」

「…その通りです」

「そんなに信長が欲しいか?」

「先に歯を…、あっ」

 本来の目的を告げる前に、信長が蘭丸の急所をきゅっと掴んだ。既に一度達していたが、信長に与えた奉仕によって興奮して再び起ち上がっていた。

「こんなにしおって」

 信長は蘭丸の腰を押さえ引き寄せる。その拍子に蘭丸の体が倒れて、別珍の布が背に当たった。信長が両の腿を開いて中心の下にある小さな窄みを覗き込む。

「息づいておる」

 その言葉に、蘭丸の頬がかっと赤くなる。唇を噛んで羞恥に耐えた。
 信長は内側を確かめるように両の親指を添えながら、空洞を開いた。怯えているように震えながら、肉襞は元に戻ろうと抗う。

「そんなことをされては…汚いです」

 信長の舌が撫で上げている。縁に唾液を塗りつけ、何度も表面を往復している。そして、とうとう軟体の侵入者がやってきた。

「あ、ああっ!」

 くちゅり、と唾液の淫靡な音が響く。信長は舌の出し入れをしながら、内側を擦りあげた。蘭丸は優しくも鋭い刺激に体をしならせ、足指を突っ張らせた。

「欲しいです…」

 信長は顔を離して、蘭丸に問い掛ける。

「何か言ったか?」

「信長様の…、共に、いきたいです」

「来よ」

 信長は蘭丸の腕を掴み、敷布に体を倒しながら引き寄せた。
 蘭丸は仰向けの信長の上に跨って、信長に支えながら大きな肉柱を体に埋め込む。
 太くて熱いものが内側から圧迫して、それだけで達しそうになって、どうにか堪える。同時に、その刺激で信長自身は更に堅く大きくなった。
 蘭丸は腰を上下に揺すった。すぐに登りつめないように少ない刺激を送る。
 ちらりと信長を見てみると、信長は深い目で見上げていた。信長の眼力はあまりにも強く、直視出来なくて俯く。自分の幼い茎がこの上下運動と共に揺れて、先走りの雫を、髪から降り落ちる汗と共に信長の腹を点々と濡らしていた。見られてる。この欲深さ故の雨も、羞恥に歪む顔も、貧相で素直すぎる自分自身も…。

「お蘭、何を考えておる?」

「信長様に見られて、とても……疼いてしまって…」

 言葉の途中で信長はくく、と短く笑った。律動を刻むのも忘れ、続きが繋げず、黙ったままでいると、信長が蘭丸の胸を撫でた。堅い突起の感触を楽しむように指先を滑らせて遊んでいる。

「腫れているな。痛むか?」

「痛くはありません、今は、ひゃっ」

 今度は強めに指先で摘む。

「知っておるか?お蘭は乳首に触れる度、よう信長を締め付ける」

 蘭丸は体を震わせ始めた。

「の、信長様も、蘭に触れる度、中で、蘭を…」

 信長が乳首を引っぱった。同時に、蘭丸は信長の腹に精を撒き散らした。その直後、信長の熱い濁流が蘭丸の中に送り込まれる。
 吐精が終わり、蘭丸一人だけが荒い息遣いで体中で呼吸して、信長の腰を押さえながら体を支える。信長は起き上がって向かい合いながら蘭丸を抱き寄せてくれた。
 蘭丸は信長の口を吸った。己の欲を含めた愛おしさが抑えられない。満たされて、また信長の背に腕を回し、抱き締めた。そして腕の中で少し冷静になって、自分の大胆さに恥ずかしくなってしまう。信長を見上げて表情を確認すると、ただ優しい目で腕の中の蘭丸を見下ろしていた。
 さっきは耐えられずに逸らしてしまった。恥じらう気持ちは同じなのに、今は何時までもこうして信長の目を見つめていたいと思うようになっていた。







「ん…」

 もぞりと寝返りを打つと、手に堅いものが当たった。こつん、と何かが倒れ、目を開ける。

「ん?」

 目の前には見慣れない裸の女がこちらを見ていた。蘭丸は驚いて飛び起きる。

「あ、何だ…」

 立てかけておいた裸婦の画が横向に倒れていただけだった。蘭丸は絵を元に戻して布を掛ける。

「気に入らぬか?」

 後ろから声がして、振り返る。信長は既に起きて、寝間着の襦袢を羽織って水を飲んでいた。蘭丸の一連の行動を見てか、口元は笑っている。

「この絵ですか?特には…」

「そうか」

 信長は蘭丸の隣に来て、水の入った茶碗を手渡した。布を取り女を眺める。

「信長様は、お好きなのですね」

「うむ」

 信長は満足そうに笑った。水を飲みながら改めて絵を眺める。確かに絵の女は美しい。金糸のような巻き毛と深海のような瞳に、肉付きの良い肢体。

「汝に似ている」

「これも、この女性がですか?」

「うむ。これを見て、すぐに汝を思い出した」

「どこでしょう?」

「色だ」

 信長は女の頬を指した。やや赤味の強い桃色をしていて、肩や関節も同様に赤く塗られている。

「色…」

「昨夜の汝は愛らしかった」

 信長が蘭丸を抱きすくめた。肌が熱く、吐息は酒の残り香がした。

「酒に酔ってこの娘のように肌を赤く染めていた」

「酔えば、どなたでも赤くなりますよ…」

 蘭丸は酒の勢いでの昨夜の自らの行動を思い出してしまった。

「また色付いてきたな。まだ酔うておるか?」

「いいえ」

 蘭丸は信長の腕の中で首を横に振る。これからどうなるのだろうか。起き抜けにまた抱き合うのか、体を密着させその気にさせておきながらはぐらかしてしまうのか。
 蘭丸は肩に巻き付いた信長の腕に手を置いた。振り返って唇を重ねようとするが、位置を外して口髭に刺さってしまう。蘭丸が顔を引くと、信長は微笑んで蘭丸を優しく押し倒した。

「美しい紅よの…」

 信長が蘭丸の頬に、唇に指をなぞらせた。その指の感触にぞくりと背筋がおののいて、手元の別珍の敷布を握り締めた。表面が乾いてざりざりとしている。これはまさか。

「信長様、大事なべっちんが汚れています」

 恐らく行為の最中に。

「汝が汚したものだ、汝が洗え。後でな」

「後で宜しいのですか?」

「どうせまたすぐに汚すであろう?」

 言いながら、信長は蘭丸の紅潮させた額に唇を押し当てた。





-了-   



- 5 -

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