妄想、愉悦。


拾肆


  


「暑…」

 蒸すよう暑さで眠気を遮られる。蘭丸は、寝返って冷たい床に着地した。
 床も次第に自分の体温で温まってしまい、眠気に身を任せることが出来なかった。

「んん…」

 蘭丸はゆっくりと体を起こす。炉端には源太郎が用意した朝餉と梨が置いてある。
 この熱気は昼近い頃だろうか。寝過ごすことはよくあるが、いくら何でも眠りすぎだ。まだ頭が少しぼんやりして、なかなか体に力が入らない。風邪でも引いたのだろうか。蘭丸はしゃがんだまま俯いた。

「あー!」

 全裸だった。むき出しの下半身についていた。三日間失っていたものが。しかも、寝起き特有の生理現象で上を向いていた。見慣れていたはずなのにとても新鮮で、蘭丸は恐る恐る自分のものに触れてみる。良かった、ちゃんと、自分のものだ。三日振りに触れられたものだから、とても敏感になっていて、胸が疼くような感覚が直接伝わってくる。
 掌を見つめる。大きさが戻っている。その手で胸や腰や腿に触れた。余分な肉がなくなっている。
 蘭丸は立ち上がった。目線が、元の高さに戻っていた。

「良かった」

 源太郎の言った通り、何時の間にか戻っていた。しかし。
 蘭丸は下腹をさすった。沢山注がれた体液の重みも、愛おしささえ感じていた疼痛も消えていた。女の喜びを知り、本当に女になった途端、戻ってしまった。源太郎はがっかりしてしまうかも知れない。
 蘭丸は一瞬、何も残っていない下腹のせいで、とてつもない虚無感に襲われた。長い夢を見ていたのかも知れない。女になったのも、絵描きの姉弟に出会ったのも、源太郎に純潔を捧げたのも。また少し、頭がずきんと痛んだ。

「あっ」

 布団に戻ると、敷布に赤い染みがあった。

「夢じゃなかったのか…」

 昨夜の至福の一時を思い出す。それだけで、鼓動が早まった。
 蘭丸は顔を洗おうと干した寝間着を着て、井戸へ向かう。

「ん?」

 戸が開かない。源太郎が外から鍵を掛けたようだ。これでは出られない。

「参ったな」

 外に出られなければ洗濯どころか用足しすら出来ない。何故、源太郎は今日に限って施錠を行ったのだろうか。

「まあ、いいか」

 外へは窓から出入りすればいい。敷布を洗って布団を干そう。蘭丸はまた板間に戻る。見覚えのある柄が丸めて置いてある。
 一つは、昨日まで着ていた星空の着物だった。

「あっ」

 もう一つは、昨夜源太郎が着ていた着流しだった。広げてみると、どちらもしわくちゃになっている。すぐに洗って干さなければ。
 蘭丸は窓を開けた。外は抜けるような空で、太陽が眩しい。この炎天下で働いている源太郎へ、今夜は何を作ろうか。





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