参
「じゃあ、明日、宿を出る前に感想を聞かせてね」
「ああ」
源太郎は少々興奮気味に商人夫婦の部屋を出た。早く、貰い受けた品を蘭丸に見せたい。そして、楽しみたい。しかし、色んな種類があって選ぶのに時間を食ってしまった。蘭丸も心配しているに違いない。源太郎は足早に蘭丸の待つ部屋へ向かった。
「あっ」
部屋の戸が開き、中から商人の夫が荷物を持って出てきた。見送る蘭丸は少し頬を赤らめている。
「お前、お蘭と部屋で何してただ」
源太郎の声に二人が振り向く。
「源太郎様」
「ああ。随分かかったなあ」
源太郎は夫ににじり寄る。
「なして、お前がここにいるだ」
「この子が部屋の前であんたを待っててさ。中で、おちかがお前さんにしてたことと同じことを」
ちかと言うのは、商人の妻の名前なのは知っている。それよりも、源太郎が気になったことを問いかける。
「お蘭、待っててくれただか?」
蘭丸は源太郎と目が合う前に俯いてしまった。源太郎は男の方に向き直る。
「すまね、念の為に聞くが、えーと、名前は…」
「忠松だ」
「おらは源太郎だ。忠松、お蘭に変なことしてないな?」
「指一本触れちゃいないよ。俺はこれでも一途だからね。お前さんのお連れさんは違うのかい?」
「違わなくないだよ!だが、お蘭は人が好すぎるせいで、勘違いしたり、付け入れようとしたりする奴もいる。おらは、それで心配してるだ」
「源太郎様…」
蘭丸は顔をあげ、瞳を潤ませる。忠松はわざとらしくため息をついた。
「俺は退散すっから、ゆっくり楽しんでくれ。また明日な」
すれ違い様、肩をぽんと叩かれた。
「あの、本当に有難う御座いました」
蘭丸は、忠松の後ろ姿に声をかけ、源太郎の手を引いて部屋へ入った。
部屋には、使用人が敷いたらしい一組の布団だけがあった。蘭丸は、布団の傍らにちょこんと座った。
「源太郎様」
「ん?」
「お話はあの方から聞きました。妬いたりして嫌な態度を取ってしまって、ごめんなさい」
「いいだよ、謝んなくて」
源太郎も蘭丸の向かい側に座り、蘭丸の手を握る。
「蘭も同じです。源太郎様が誠実なのを知っているのに…。蘭が勝手に源太郎様から離れた癖に、変な男に絡まれてる時、源太郎様は綺麗な方と楽しく過ごしていたんだと思ったら、腹が立ってしまって」
「それは誤解だ」
「はい、忠松殿から聞きました。お二人から声を掛けたのに誤解させるようなことをしてしまったって。一方的に怒ってしまって恥ずかしいです」
「恥ずかしがることないだ。お蘭が妬いてくれて、嬉しい。それに、お蘭が恥ずかしがりなの知ってたのに、手を出したおらが悪い」
源太郎は蘭丸の額に口付けた。ふわりと微かに甘く香った。
「今は我慢しないだよ?」
「ひゃっ」
源太郎は蘭丸の首筋に鼻先を付け、くんくんと匂いを嗅いだ。
「お蘭、良い匂いがする」
「はい、私は、この練香を」
蘭丸は手の中から小さな貝殻を出した。
「ねりこう?」
「肌に直接塗って、体に香りを纏えるものです」
「へえ」
貝の中には香る軟膏のようなものが入っていた。やはり、好ましい匂いだが、蘭丸が身に付けることによって、より引き立っている。源太郎は壊さないように貝を隅に置いた。蘭丸は源太郎の行動を見て、改まって体勢を整えた。
「源太郎様…、また、蘭が抑えられなくて、はしたない声を上げてしまったら、この口を塞いで下さい」
「え?」
蘭丸が抱き付いて、源太郎の胸に寄りかかりながら、返事を待っている。
「お、おらも同しくらい夢中になるだよ。だから、約束出来ないだ」
「それは困りました」
「ああ、困った。お蘭のはしたない声、沢山聞きたい。我慢して欲しくないって思ってる」
「我慢は…致しません」
蘭丸は、源太郎から体を離すと、帯を取り、肩から浴衣を滑り落とした。肌はまだほんのりと薄紅を保っている。
「蘭だけでは恥ずかしいので、源太郎様も一緒に…」
「ん…」
気にする様子もなく入浴していたのに、今は裸が恥ずかしいと言う。戸惑いを悟られないように下を向きながら源太郎は服を脱ぐ。顔を上げると、蘭丸はうっとりと源太郎の体を見つめていた。風呂場ではそんな顔を見せなかったのに。
「源太郎様…」
「ん?」
「昼は…蘭が我儘を言ってしまったので、今は源太郎様が蘭にして欲しいことを仰って下さい」
「我儘?言ったか?」
「言いました」
「何て?」
蘭丸は赤面のまま、口を閉じてしまった。源太郎は思い出す。もしかすると、蘭丸の言う我儘とは。
「あれか?途中、口取りし出したこととか、離したら駄目とか、そんなんか?」
「そうです。わざわざ仰らないでください」
「そんなん、全然我儘じゃない」
源太郎は蘭丸を抱きしめた。源太郎の腕の中で、蘭丸は顔を上げた。源太郎の口に吸い付いて、舌を押し込んでくる。ちゅる、と唾液を啜り、また食むような口付けを繰り返す。段々と息遣いが荒くなってくる。
「は…。源太郎様は、蘭にして欲しいこと、ないのですか?」
「そうだな…。じゃあ、布団の中で仰向けになって、目をつぶってるだ」
「はい」
蘭丸は大人しく従い、目を閉じて源太郎の動向を待った。
源太郎は脱いだ浴衣から小瓶を出した。栓を開けて中の粉を口に含み、唾液を混ぜて溶かす。掌に甘く粘った液体を吐き出して、布団を剥がし、蘭丸の腿に片手を置いた。
「お蘭、尻の孔が見えるように、脚上げて膝を開いてくれるか?」
羞恥で蘭丸の肌が赤くなる。蘭丸は目を閉じたまま源太郎の言葉に従った。
「ひっ」
源太郎は粘液を蘭丸の胸から垂らし、ゆっくり臍や股に掛けて、濡れた指を後孔に埋めた。閉じていた搾みはすんなり受け入れ、きゅうっと締め付ける。
「くうっ」
源太郎は迷わず内部の落とし処を擦り、蘭丸を煽った。汗が吹き出て、より甘く香り立った。
「あっ、うっ…!」
蘭丸はまだ声を堪えている。源太郎は顔を近付けて、蘭丸の口を吸った。
「ん…」
舌をころころと擦り立て、口内で舐め合う。しかし、蘭丸の反応はすぐに鈍くなり、源太郎の指の締め付けは強くなった。源太郎は神経を指先へ集中させる。
「ん、っ…」
蘭丸の体が震え、体液が源太郎の腕と蘭丸の体に掛かった。源太郎は指を抜き、唇を離した。蘭丸は少しだけ苦しそうに息を吐き出した。目を薄く開き、濡れた視線を送る。
「…甘いです」
「ああ。おらが選んだのはこれだ。つう…何とかって言ってた」
「通和散ですか?」
「そうだ。普通は味も匂いもしないが、花弁や蜜で付けてるって言ってただ」
「んっ」
源太郎は蘭丸の胸に落とした粘液を馴染ませるように肌を撫でた。
「他にもな、種類があったが、お蘭にはこれが一番似合うと思った。甘くて美味しい」
「蘭は、菓子ではありません。あうっ」
「乳首、昼間弄ったきりなのにまだ腫れてる。痛くないか?」
突起は一際熱く、指の腹で擦ると芯を持った。
「ん…。痛くないです。けれど、まだ、熱を持っていて、じんじんします」
「さっき、胸触られたって言ってたけど、ここも触られたか?」
蘭丸は達したばかりなのに、乳首の刺激で下肢を反応させていた。膝や爪先をもじもじと擦り合わせている。
「いえ、膨んでいるか確かめる為に、少し撫でられただけで…」
「おら、心配になっただよ。こんなに可愛いもの、他の奴に見せる何て」
「温泉だから仕方な…あっ!?」
突起に柔く噛み付き、舌を押し当てる。甘い。蘭丸の肌にのせることで、より芳醇に引き立っている。まるで、蘭丸自身の分泌物のようだ。源太郎は、舌を移動させ、順々になぞっていると、蘭丸の精の味が重なった。
「こっちも腫れてるが…」
片手を下腹部に移動させた。太腿の間に滑り込ませて、堅くなったそれには触れず、その下にある小さな二袋を柔らかく握った。
「お蘭のふぐり、気持ちいいな」
手の中で弄ぶと、次第にその上の幹が角度をあげていくのが面白い。湿った吐息の切れ目に、何か呟いていた。赤く染まった唇に顔を近付ける。
「どうした?」
「触れるだけでは、嫌です…」
蘭丸は手を伸ばして源太郎の分身に触れた。源太郎は弄んだ双球の下に指をずらす。変わらず息づいていて、開いた瞬間に指をうずめた。相変わらずぎゅっと締め付けて、蘭丸はぶるぶると顔を左右に振った。
「指よりも、源太郎様の…」
源太郎は指を抜いて、上半身を起こした。蘭丸は、自ら片足を上げ、両手指で、小さな窄まりを開いて見せた。閉じようと肉襞がひくついている。源太郎が蘭丸の媚態に釘付けになっていると、蘭丸は泣きそうな表情と声で言った。
「早く、下さい」
「う、うん」
源太郎は蘭丸の足を支えたまま、そっと挿し入れていく。きついのに、滑りのせいで容易く侵入出来た。
「は…。凄いだ」
根元まで繋がると、蘭丸の手が源太郎の腰に回った。
「抱きしめて…」
「うん。重くないか?」
「はい」
粘液を挟みながら体を重ね合わせ、間近で見つめ合う。潤んだ瞳に吸い込まれそうになって、甘い唇を寄せ合った。始めは優しく、段々欲求が表立って、舌を押し込んで貪っていく。唾液が溢れて、啜り、顔を上げると、蘭丸は深く息を吐いた。源太郎は頬や耳や首筋を唇で撫でて、時折歯を立て吸って、白い肌に赤い染みを残していく。肩や鎖骨に到達した頃、蘭丸の中の圧が強くなってきていた。じわじわと昇っている。
「んっ…もう胸は…」
乳輪を吸い、口から離すとぷっくり腫れ、頂きを指先で転がし、押し潰す。蘭丸の肌が跳ね、中が波打って、源太郎を締め付けた。
「やっぱ、乳首が感じるだな?」
「そんな…!ううっ…」
蘭丸が唇を噛みながら堪えている。顔が真っ赤で、辛そうに見えた。
「お蘭、我慢しないでいいだ。口、切れちまう」
源太郎は蘭丸の唇に指を添えた。下唇に前歯の痕が残っている。
「でも、聞かれてしまったら…」
「いいだよ、聞かせちまえば」
源太郎は蘭丸の唇を撫で肌をなぞりながら上体を上げ、細い腰を掴んだ。
「いいだな…?」
蘭丸は頷く。源太郎は腰を前後に往復させ、激しい抜き挿しを始めた。
「んあっ、あー!」
蘭丸が快楽に身を任せて叫び、源太郎を締め付ける。滑らかな肌に玉の汗が浮き、練香や通和散の芳香が、蘭丸の汗でまた新しく生まれ変わった。それは、どんな花も果実も、勝ることは出来ない至高のものだ。
「お蘭…!」
香りに包まれ源太郎が蘭丸の中で果てると同時に、蘭丸の内側がうねった。
「もう駄目、蘭は…!」
蘭丸の熱い精が、源太郎の胸板目掛けて放たれる。
暫し呆然としてしまった。蘭丸の荒い息遣いが小部屋に響く。また、結合部が呼吸に合わせて収縮し、中に収めた源太郎を絶えず刺激し続けた。
「っ…、お蘭、まだ平気か?」
蘭丸はこくこくと頷く。堪らなく可愛く見えて、源太郎は体を被せ、口を吸い、何度も何度も弾くような腰使いで蘭丸を貫いた。
声を封じられた蘭丸の手指の爪が源太郎の背に食い込む。しかし、源太郎は気付く余裕もなく、蘭丸から与えられる快楽を貪り続けた。
「あっ、お蘭…!」
蘭丸の体に被さるようにして、二度目の吐精を終えた。蘭丸の呼吸が整うのを待ってから、引き抜く。体液を中に残したままになっている。このまま溜めていたら負担になるだろう。源太郎は其処に指を埋めた。
「んっ」
中を掻き出すように指を動かすと、蘭丸は目を開けた。切なげに光る瞳を向ける。
「すまね、抜かないで二回しちまって…」
「いいえ…蘭の方こそ……、んひゅっ」
下腹を押すと、更に中から白いものが溢れてくる。蘭丸はこの作業も耐え難いようで、顔と口を塞ぎながら堪えている。これ以上快楽を煽るのは、互いにしんどいだろう。源太郎は指を抜き、今度は手拭いで胸や腹の汚れを取る。
「ああ、べたべたして肌に布がくっついちまう」
蘭丸はべたつく自分の肌に触れた。指がくっついて、剥がすとぴりっと音を立てて、肌が赤くなっている。
「蜜のせいでしょうね。濡らして参ります」
「駄目だよ、外に出たら」
「けれど、このままでは気持ち悪いですし…、洗い流しに行きましょう」
「もう一度、風呂に行くだか?」
源太郎は考えた。
「何か問題が?」
「お蘭の裸、誰にも見せたくないだ。また変な輩に絡まれるかも知れん」
「源太郎様が隣にいて下されば、平気だと思います」
「でも、ただ見られるだけでも嫌だ」
色白な蘭丸の肌には行為の名残がある。鬱血は遠慮なく付けてしまったし、乳首は存在感が増している。その姿は他の誰が目にしても淫らに映るだろう。
「夜も遅いですし、きっと他に人もいませんよ」
「そうだろうか」
「はい。それに…」
蘭丸は源太郎に密着し、胸の中に収まる体勢になり、見上げる。
「もし、他に人がいたら、源太郎様が隠して下さい」
蘭丸はより自分を可愛く見せる手段を知っているのではないだろうかと、時折思ってしまう。源太郎は了承するしかなかく、蘭丸に密着されたまま頷いた。
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