肆
脱衣所の戸を開けると、忠松の姿があった。忠松は入浴を済ませたらしく、湯気の立つ体を拭いていた。
「やあ、あんたか」
先に声を掛けたのは忠松の方だった。二人を交互に見て、察して続けた。
「あれは体を洗い流さないといけないのが難点なんだな」
「じゃあ、そっちも洗いに?」
源太郎はつかさず聞き返す。忠松は照れることもなく頷いた。
「あれ、良かっただよ。甘くていい匂いで。お蘭の肌にのせると、もっと…」
「源太郎様!」
蘭丸は大きな声で遮る。いつの間にか身を隠すように背後にいた蘭丸は、顔を真っ赤にしていた。
「だが、感想を教えるのは約束だ」
蘭丸は言い返せず俯く。
「あの、練香も、とてもいい香りでした」
源太郎の背中に隠れたまま忠松に伝えると、蘭丸は浴衣を脱いだ。
「お蘭」
「先に体を流して参ります」
蘭丸は棚の裏側を通り、忠松に肌を見せないように浴場へ行ってしまった。
「お蘭、一人じゃ、それに腰巻きは…」
「大丈夫だ、今は誰もいない」
源太郎の心配を察した忠松が言った。
「腰巻き、着けなくてもいいだか?」
「あれは女性に対する配慮だからな。尤も、濡れると殆ど透けてたが」
「だが、いつまた誰か入ってくるか…」
「大丈夫だって。ここにいる客の殆どは旅をしている連中だ。ここに泊まるのは、体を休める為、今頃はもう休んでる」
自分らも一応旅人なのだが、と源太郎は思ったが、言い返さないでおいた。忠松は浴衣を着ると、身を乗り出す。
「で、他にはないかい?」
「ああ。あの練香も、普通に嗅ぐよりも、お蘭の肌にのせると、もっといい匂いがした」
「それはあの子の体臭と香りの相性が良いからだろうな」
「そうだか。あと、通和散。洗い流さなきゃならいのは面倒だが、あのべたべたは、おらは嫌いじゃない」
「そりゃ良かった」
「滑り具合も、油より重たくて好きだ」
「へえ…」
「してるのに、旨いものを食ってる感覚になってくる」
「分かった。なら、また、同じものを使いたいか?」
「たまになら。おら、お蘭自身の匂いが好きだから…」
「そうか。なら、早く行ってやらないとな」
「ああ、いけん」
「引き留めて悪かった」
「ああ。じゃあな」
忠松と別れ、源太郎は裸になり洗い場へ向かった。蘭丸の姿はなく、汚れを洗い流してから風呂へ行く。湯気の中に蘭丸がいた。源太郎はゆっくり足から入ると、蘭丸は振り返る。
「先に来てしまって、ごめんなさい」
「謝らなくていいだよ」
背後から蘭丸を抱き締めるようにして腕を回した。顎を掴んで振り向かせる。蘭丸は顔を真っ赤にした。のぼせている訳ではない。
「源太郎様…、こんなにくっついては、誰かが来たら…」
「平気だ。誰も来ないって忠松が言ってた。それに、知ってたからお蘭も一人で先に来ただろ?」
「…そうですけど」
「体、ちゃんと流しただか?少し、香りが残ってる」
源太郎は蘭丸の耳の後ろに顔をくっつけた。蘭丸はもぞもぞと腰を動かした。源太郎の中心は既に湯の中で硬くなり、密着した蘭丸に当たっている為、蘭丸が動く度に先端が擦れる。
「お蘭」
「したばかりなのに、こんなになられて…」
「うあっ」
蘭丸に後ろ手で握られた。
「…致しましょうか?」
「いいだよ。湯が汚れちまう」
「口でなら、大丈夫です」
「え?そ、それなら…」
源太郎は湯から上がって、縁の岩場に腰掛けた。眼前にして、蘭丸は一瞬だけ視線を外し、優しく手で包んだ。蘭丸は体を湯に浸けたまま、源太郎の膝の間に入り、先端を口に含む。
「苦しくなるから無理するな?」
蘭丸は頷き、口から出して、舌を出して舐め始めた。こそばゆいようで、繊細な動きはじわじわ快楽が引き出されてゆく。
「ん…」
源太郎は腕を下ろして上体を支えながら背を後ろに傾けた。視界が上になり、湯煙の間から数えきれない光りの粒が見える。
「綺麗だな…」
再び先端が温かい粘膜に包まれる。すると、蘭丸は喉奥まで源太郎を迎え入れた。蘭丸の眉間に皺が寄っている。
「お蘭っ」
源太郎は蘭丸の肩を押さえた。
「無理するなって言っただよ?」
「無理ではないです」
話す為に一旦口から出して、もう一度先端を含む。手を使いながら袋を揉みほぐし、幹を擦る。零れる水を啜り、袋の重さを確かめてから、扱き始めた。
「くっ…」
蘭丸は、源太郎を見上げた。熱っぽく、少しだけ嫉妬しているような目をしていた。
「空なんか見てないだよ。お蘭の方が綺麗だ」
「ふぇ?」
蘭丸が源太郎を浅く咥えたまま声を出すと、滑らかな舌が出口をなぞった。源太郎は下腹に力を込めて、そっと蘭丸の頭に手を添えてから、精を吐き出した。
「んっ…」
蘭丸は、大胆な音を立てながら啜り上げ、飲み込んだ。顔も湯も汚さずに出来て、安堵の顔を浮かべた。
「お蘭、おいで」
源太郎は蘭丸の脇に手を入れ、蘭丸の体を引きずり上げた。蘭丸の下半身も反応していて、たまらず笑みがこぼれてしまう。
「お蘭、おら、やっぱり、ここでしたい」
源太郎は蘭丸の尻に手を伸ばし、指を当てた。添えるとゆっくり入って行く。
「うっ…」
「駄目か?」
「ん…、駄目ではないですけれど…湯を汚しては駄目ですよ?」
「うん」
蘭丸は腰を上げて膝を広げ、源太郎の体を挟むようにして膝をつく。源太郎が孔を寛げるように両手指で蘭丸の尻肉を開くと、蘭丸は狙いを定めながら腰を落としていった。
「んん…」
「痛くないか?」
「平気です…」
やはり、蘭丸の中は熱く狭い。蘭丸は源太郎の肩に手を載せたまま、膝を支えにして上下に大きく体を揺すった。腰を上げる度に先端以外が空気に触れ、また熱く締め付けられる。
「お蘭、おらは気持ち良いが、膝が痛いだろ?脚、崩して、おらの上に座り込んでいいだよ」
「けれど、そうなりますと…」
「大丈夫、おらがこうして手ぇ握ってるから、湯に落としたりしないだ」
源太郎は指を交差させながら両手とも蘭丸と繋いだ。
「はい…」
蘭丸は赤くなった膝を立てて、源太郎に全体重を預けた。
「あっ!」
源太郎は、繋いだ両手を下にぐっと伸ばした。蘭丸の上体が後ろに傾く。
「どうだ?この体制だと、腹んとこの気持ち良い場所に当たるだろ?」
「あうっ」
源太郎は突くような動きで腰を弾いた。内側の振動が直に伝わる。
「あ、あんっ、あぁっ…!」
快楽に蘭丸の表情が蕩けてきた。指に力も入っておらず、源太郎は強く握りしめた。しかし、源太郎の方も繰り返される摩擦運動により余裕がなくなってくる。
「綺麗…」
蘭丸が譫言のように呟く。顔は上を向き、視界は星空で埋め尽くされているのだろう。源太郎は、手を離し、蘭丸の体が崩れそうになったところで腰を掴んで引き寄せる。口を吸い、小さな舌を絡め取る。
「んー…」
蘭丸からの反応は薄く、直ぐに唇を離す。源太郎が耳朶や首筋を甘く噛む度、蘭丸は体を痙攣させていた。その震えが弱くなる頃に、源太郎は蘭丸の腰を掴んだまま中へ放つ。
「あっ…!」
蘭丸は源太郎の頭をかき抱き、脚を腰に巻き付け、体を強く密着させながら受け止めた。
「先にしたのに、沢山出てます…」
「だって、久し振りだったし」
「このまま腰を上げては、湯に零れてしまいますね」
「ん…。このまま、おらにしがみついていられるか?」
「こう、ですか?」
「足にも力を入れるだ」
蘭丸が両手両足を強く巻き付け、密度が上がる。源太郎は、蘭丸の尻の位置を変えないように支えたまま立ち上がった。
「やぅ!」
一部の隙もなく繋がった状態のまま歩くと、進む度に蘭丸の体はびくりと揺れていた。弱点に体重が掛かっているせいで、今にも陥落しそうになっている。源太郎は洗い場まで辿り着くと、壁に蘭丸の背をくっつけた。蘭丸のゆるくなった腕をほどいて見つめ合う。目には涙がたまっていた。
「もう、蘭は…」
「ん、疲れちまっただな」
「でも、気持ち良くて…、どうにかなってしまいそうです…。源太郎様もそうなって欲しいです」
「有難う、お蘭」
源太郎は立ったまま腰を落とし、膝に角度をつけた。蘭丸の背が壁に付いているとは言え、この体制はきつい。しかし、熱が収まる訳ではなく、早く発散したくて重たい腰を打ち付けた。
「あっ、あっ!」
蘭丸の体が一瞬だけ浮き、源太郎を強く締め付けながら戻る。蘭丸はまた源太郎にしがみつく。密着した薄い胸から、鼓動が届いた。
「もう無理です…」
「ん?」
振り絞るようにして力尽きたのか、蘭丸の腕や脚がだらりと下がった。その時内部でじんわりと緩急が生まれ、源太郎はその刺激で放ってしまう。倒れる蘭丸を受け止めながら、その場でしゃがみ込む。
「ああ、まだ出てるだ」
蘭丸を腕に抱きながら、耳元で呟く。蘭丸の反応はない。
「お蘭?」
顔を覗き込む。蘭丸は意識を失っていた。本日二度目の出来事だった。
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