妄想、愉悦。





  


 脱衣所の戸を開けると、忠松の姿があった。忠松は入浴を済ませたらしく、湯気の立つ体を拭いていた。

「やあ、あんたか」

 先に声を掛けたのは忠松の方だった。二人を交互に見て、察して続けた。

「あれは体を洗い流さないといけないのが難点なんだな」

「じゃあ、そっちも洗いに?」

 源太郎はつかさず聞き返す。忠松は照れることもなく頷いた。

「あれ、良かっただよ。甘くていい匂いで。お蘭の肌にのせると、もっと…」

「源太郎様!」

 蘭丸は大きな声で遮る。いつの間にか身を隠すように背後にいた蘭丸は、顔を真っ赤にしていた。

「だが、感想を教えるのは約束だ」

 蘭丸は言い返せず俯く。

「あの、練香も、とてもいい香りでした」

 源太郎の背中に隠れたまま忠松に伝えると、蘭丸は浴衣を脱いだ。

「お蘭」

「先に体を流して参ります」

 蘭丸は棚の裏側を通り、忠松に肌を見せないように浴場へ行ってしまった。

「お蘭、一人じゃ、それに腰巻きは…」

「大丈夫だ、今は誰もいない」

 源太郎の心配を察した忠松が言った。

「腰巻き、着けなくてもいいだか?」

「あれは女性に対する配慮だからな。尤も、濡れると殆ど透けてたが」

「だが、いつまた誰か入ってくるか…」

「大丈夫だって。ここにいる客の殆どは旅をしている連中だ。ここに泊まるのは、体を休める為、今頃はもう休んでる」

 自分らも一応旅人なのだが、と源太郎は思ったが、言い返さないでおいた。忠松は浴衣を着ると、身を乗り出す。

「で、他にはないかい?」

「ああ。あの練香も、普通に嗅ぐよりも、お蘭の肌にのせると、もっといい匂いがした」

「それはあの子の体臭と香りの相性が良いからだろうな」

「そうだか。あと、通和散。洗い流さなきゃならいのは面倒だが、あのべたべたは、おらは嫌いじゃない」

「そりゃ良かった」

「滑り具合も、油より重たくて好きだ」

「へえ…」

「してるのに、旨いものを食ってる感覚になってくる」

「分かった。なら、また、同じものを使いたいか?」

「たまになら。おら、お蘭自身の匂いが好きだから…」

「そうか。なら、早く行ってやらないとな」

「ああ、いけん」

「引き留めて悪かった」

「ああ。じゃあな」

 忠松と別れ、源太郎は裸になり洗い場へ向かった。蘭丸の姿はなく、汚れを洗い流してから風呂へ行く。湯気の中に蘭丸がいた。源太郎はゆっくり足から入ると、蘭丸は振り返る。

「先に来てしまって、ごめんなさい」

「謝らなくていいだよ」

 背後から蘭丸を抱き締めるようにして腕を回した。顎を掴んで振り向かせる。蘭丸は顔を真っ赤にした。のぼせている訳ではない。

「源太郎様…、こんなにくっついては、誰かが来たら…」

「平気だ。誰も来ないって忠松が言ってた。それに、知ってたからお蘭も一人で先に来ただろ?」

「…そうですけど」

「体、ちゃんと流しただか?少し、香りが残ってる」

 源太郎は蘭丸の耳の後ろに顔をくっつけた。蘭丸はもぞもぞと腰を動かした。源太郎の中心は既に湯の中で硬くなり、密着した蘭丸に当たっている為、蘭丸が動く度に先端が擦れる。

「お蘭」

「したばかりなのに、こんなになられて…」

「うあっ」

 蘭丸に後ろ手で握られた。

「…致しましょうか?」

「いいだよ。湯が汚れちまう」

「口でなら、大丈夫です」

「え?そ、それなら…」

 源太郎は湯から上がって、縁の岩場に腰掛けた。眼前にして、蘭丸は一瞬だけ視線を外し、優しく手で包んだ。蘭丸は体を湯に浸けたまま、源太郎の膝の間に入り、先端を口に含む。

「苦しくなるから無理するな?」

 蘭丸は頷き、口から出して、舌を出して舐め始めた。こそばゆいようで、繊細な動きはじわじわ快楽が引き出されてゆく。

「ん…」

 源太郎は腕を下ろして上体を支えながら背を後ろに傾けた。視界が上になり、湯煙の間から数えきれない光りの粒が見える。

「綺麗だな…」

 再び先端が温かい粘膜に包まれる。すると、蘭丸は喉奥まで源太郎を迎え入れた。蘭丸の眉間に皺が寄っている。

「お蘭っ」

 源太郎は蘭丸の肩を押さえた。

「無理するなって言っただよ?」

「無理ではないです」

 話す為に一旦口から出して、もう一度先端を含む。手を使いながら袋を揉みほぐし、幹を擦る。零れる水を啜り、袋の重さを確かめてから、扱き始めた。

「くっ…」

 蘭丸は、源太郎を見上げた。熱っぽく、少しだけ嫉妬しているような目をしていた。

「空なんか見てないだよ。お蘭の方が綺麗だ」

「ふぇ?」

 蘭丸が源太郎を浅く咥えたまま声を出すと、滑らかな舌が出口をなぞった。源太郎は下腹に力を込めて、そっと蘭丸の頭に手を添えてから、精を吐き出した。

「んっ…」

 蘭丸は、大胆な音を立てながら啜り上げ、飲み込んだ。顔も湯も汚さずに出来て、安堵の顔を浮かべた。

「お蘭、おいで」

 源太郎は蘭丸の脇に手を入れ、蘭丸の体を引きずり上げた。蘭丸の下半身も反応していて、たまらず笑みがこぼれてしまう。

「お蘭、おら、やっぱり、ここでしたい」

 源太郎は蘭丸の尻に手を伸ばし、指を当てた。添えるとゆっくり入って行く。

「うっ…」

「駄目か?」

「ん…、駄目ではないですけれど…湯を汚しては駄目ですよ?」

「うん」

 蘭丸は腰を上げて膝を広げ、源太郎の体を挟むようにして膝をつく。源太郎が孔を寛げるように両手指で蘭丸の尻肉を開くと、蘭丸は狙いを定めながら腰を落としていった。

「んん…」

「痛くないか?」

「平気です…」

 やはり、蘭丸の中は熱く狭い。蘭丸は源太郎の肩に手を載せたまま、膝を支えにして上下に大きく体を揺すった。腰を上げる度に先端以外が空気に触れ、また熱く締め付けられる。

「お蘭、おらは気持ち良いが、膝が痛いだろ?脚、崩して、おらの上に座り込んでいいだよ」

「けれど、そうなりますと…」

「大丈夫、おらがこうして手ぇ握ってるから、湯に落としたりしないだ」

 源太郎は指を交差させながら両手とも蘭丸と繋いだ。

「はい…」

 蘭丸は赤くなった膝を立てて、源太郎に全体重を預けた。

「あっ!」

 源太郎は、繋いだ両手を下にぐっと伸ばした。蘭丸の上体が後ろに傾く。

「どうだ?この体制だと、腹んとこの気持ち良い場所に当たるだろ?」

「あうっ」

 源太郎は突くような動きで腰を弾いた。内側の振動が直に伝わる。

「あ、あんっ、あぁっ…!」

 快楽に蘭丸の表情が蕩けてきた。指に力も入っておらず、源太郎は強く握りしめた。しかし、源太郎の方も繰り返される摩擦運動により余裕がなくなってくる。

「綺麗…」

 蘭丸が譫言のように呟く。顔は上を向き、視界は星空で埋め尽くされているのだろう。源太郎は、手を離し、蘭丸の体が崩れそうになったところで腰を掴んで引き寄せる。口を吸い、小さな舌を絡め取る。

「んー…」

 蘭丸からの反応は薄く、直ぐに唇を離す。源太郎が耳朶や首筋を甘く噛む度、蘭丸は体を痙攣させていた。その震えが弱くなる頃に、源太郎は蘭丸の腰を掴んだまま中へ放つ。

「あっ…!」

 蘭丸は源太郎の頭をかき抱き、脚を腰に巻き付け、体を強く密着させながら受け止めた。

「先にしたのに、沢山出てます…」

「だって、久し振りだったし」

「このまま腰を上げては、湯に零れてしまいますね」

「ん…。このまま、おらにしがみついていられるか?」

「こう、ですか?」

「足にも力を入れるだ」

 蘭丸が両手両足を強く巻き付け、密度が上がる。源太郎は、蘭丸の尻の位置を変えないように支えたまま立ち上がった。

「やぅ!」

 一部の隙もなく繋がった状態のまま歩くと、進む度に蘭丸の体はびくりと揺れていた。弱点に体重が掛かっているせいで、今にも陥落しそうになっている。源太郎は洗い場まで辿り着くと、壁に蘭丸の背をくっつけた。蘭丸のゆるくなった腕をほどいて見つめ合う。目には涙がたまっていた。

「もう、蘭は…」

「ん、疲れちまっただな」

「でも、気持ち良くて…、どうにかなってしまいそうです…。源太郎様もそうなって欲しいです」

「有難う、お蘭」

 源太郎は立ったまま腰を落とし、膝に角度をつけた。蘭丸の背が壁に付いているとは言え、この体制はきつい。しかし、熱が収まる訳ではなく、早く発散したくて重たい腰を打ち付けた。

「あっ、あっ!」

 蘭丸の体が一瞬だけ浮き、源太郎を強く締め付けながら戻る。蘭丸はまた源太郎にしがみつく。密着した薄い胸から、鼓動が届いた。

「もう無理です…」

「ん?」

 振り絞るようにして力尽きたのか、蘭丸の腕や脚がだらりと下がった。その時内部でじんわりと緩急が生まれ、源太郎はその刺激で放ってしまう。倒れる蘭丸を受け止めながら、その場でしゃがみ込む。

「ああ、まだ出てるだ」

 蘭丸を腕に抱きながら、耳元で呟く。蘭丸の反応はない。

「お蘭?」

 顔を覗き込む。蘭丸は意識を失っていた。本日二度目の出来事だった。






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